曽野綾子のおすすめ書籍15選!今、人生に悩んでいるあなたに届けたい。

更新:2021.11.11

生きる上で誰もが直面する問題に対して、その揺るぎない考えを提示し、様々なことを気づかせてくれる作家、曽野綾子。ここでは、そんな曽野の作品の中から、悩みを抱えた時にぜひ読んでみていただきたい、おすすめの作品をご紹介していきましょう。

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強い信念を持つ作家・曽野綾子

曽野綾子は1931年東京都に生まれ、厳格な両親の元、一人娘として育てられました。幼稚園から大学まで聖心女子学院に通い、文学が好きな母親の影響もあって、幼い頃から文章を書くのが得意だったようです。

1951年、曽野が執筆した『裾野』が、同人誌『ラマンチャ』に掲載されたことをきっかけに、文芸雑誌『新思潮』へと参加。22歳で作家の三浦朱門と結婚した後、1954年に執筆された『遠来の客たち』が芥川賞候補となり文壇デビューを飾ります。

その後も数多くの書籍を発表し、これまでに様々な文化賞を受賞している曽野綾子は、カトリック信徒として、ローマ法王庁よりヴァチカン有功十字勲章も受賞しました。2003年には文化功労者にも選ばれ、日本財団会長を務めた経験もあり、作家以外の活動でも多大な功績をあげている人物なのです。

生き方についてのストレートな言葉が胸に響く一冊

本書では、これまでの人生の中で様々な経験を重ねてきた曾野綾子が、自身の経験談を綴りながら、想定外の事ばかりが起こる人世の生きかたについてアドバイスしてくれています。

人生とは、予想できないことの連続だと語る著者。失敗や災難など、自分の望まないことが起こったとしても、その試練に何らかの意味を見つけ出し、乗り越えることによって、人は強くなっていくのだと綴っています。

著者
曽野 綾子
出版日
2013-03-08

人の好意に期待ばかりしているのは不幸のもとだとし、困難な状況にも対処していけるよう、自分を鍛え続けなければいけないという言葉に、思わずハッとさせられてしまいます。

この作品に、優しい励ましの言葉や綺麗ごとは書かれていません。世の中の現実を突き付け、それに対処していく術を、読みやすく丁寧に教えてくれています。曾野綾子のこれまでの人生経験を知ることもでき、説得力があり心に響く言葉があちこちに散りばめられています。

人間関係、仕事、将来への不安など、思い通りにいかないことばかりで悲観しているという方は、一度読んでみてはいかがでしょうか。たくさんのことに気づくことができ、これから自分がやらなければいけないことも見えてくるかもしれません。

聖書を知らない人でも楽しめる!パウロ書簡について曽野綾子が解説

『心に迫るパウロの言葉』は、カトリック教徒として知られる曾野綾子が、新約聖書の著者の一人であるパウロの言葉を、自身の見解も交えながら紹介していくエッセイとなっています。

かつて、キリスト教徒たちを迫害していたというパウロは、キリストの声を聞き回心してからは、熱心な布教活動に生涯を捧げたと伝えられている人物です。聖書に記された「パウロ書簡」は、全て手紙の形式をとっており、本作では、曽野綾子によってその内容が分かりやすく解説されています。

著者
曽野 綾子
出版日
1989-04-07

人間は苦しみの中からでしか、本当の自分を見つけることはできないのだと綴られています。日々出会うものに対し、「あふれるばかりに感謝し、そして快く分け与える」という教えには、現代の人々も様々なことを考えさせられるのではないでしょうか。

聖書はとても有名な書物のひとつですが、どんなことが書かれているのか知らない方も多いことでしょう。本書に書かれた曽野綾子の解説はとても読みやすく、聖書に馴染みのある方はもちろん、そうでない方も、有益な言葉をたくさん見つけることができる作品です。

生きた時代も国も違うパウロという人物の考えを、とても身近に感じることができますから、興味のある方はぜひ読んでみてくださいね。

日本人に足りないものをストレートに説いた傑作エッセイ集

曽野綾子によるエッセイ集『言い残された言葉』では、これまで貧困に苦しむたくさんの国を見てきた著者が、現代の日本人に圧倒的に足りないものを、通快なほど的確な言葉で次々と指摘していきます。

雪の降る日でもミニスカートを履いて歩く女の子たち。甘やかされることに慣れた老人たち。善悪を知り尽くして大人になる機会を失い、幼児化する日本人。本書では、日本の食卓の変化から高齢化問題、教育問題など、様々な題材を取り上げながら、これまで誰もが異議を唱えることを避けてきた事柄について、曽野綾子独特の厳しい見解を披露してくれています。

著者
曽野 綾子
出版日
2010-11-11

確固とした信念を持ち、自分の考えをはっきりと語る姿勢には脱帽するばかり。時にその物言いが批判の的となることもあった曽野綾子ですが、深くしっかりと読み取っていけば、至極正論な言葉ばかりだということに気付くことができるでしょう。

類稀な洞察力と、豊富な経験に基づいて発せられる見解には説得力があり、深く納得させられてしまいます。テンポが良く勢いのある文章もとても読みやすく、気づけばページをめくる手が止まらなくなっているのではないでしょうか。漠然と感じつつも、目を背けてきたことが明確に指摘されており、背筋が伸びる思いのする作品となっています。

鋭い考察に舌を巻く作品

新潮社から発行されている月刊誌『新潮45』に、長期にわたって連載されていた曽野綾子のエッセイ『夜明けの新聞の匂い 』は、これまでに作品をまとめたエッセイ集がたびたび刊行されてきました。

『戦争を知っていてよかった―夜明けの新聞の匂い 』はその中のひとつで、相変わらずの、切れ味の鋭い考察の数々を楽しむことができるエッセイ集です。

著者
曽野 綾子
出版日
2008-11-27

世界のあちこちで起こっている戦争。例えば本書では、宗教の概念なども踏まえながら、アラブなどで見られる部族社会について紹介しています。辺境の地で部族社会を築き上げてきた彼らに、民主主義を振りかざしたところでうまく行くはずがないと主張し、アラブの人々が、いかにたくましく強かに生きているのかが綴られています。

考え方は人それぞれあるものの、世界の現実をこれでもかと示し、様々な問題を投げ掛けてくる本書は、読者に自分の考えを巡らすきっかけを与えてくれることでしょう。世界情勢について詳しくない方にもわかりやすく説明されているので、大変勉強になります。

時に手厳しい口調で、論理的かつ軽快に展開されていくこのエッセイは、共感したり自分なりの意見を構築したりしながら楽しむことができ、有意義な読書時間を過ごせる一冊となるでしょう。

世界の貧困を綴る胸に響くエッセイ集

こちらは、『夜明けの新聞の匂い』に連載されていた、曽野綾子のレポート・エッセイ。日本財団会長を9年間務めた経験のある著者が、現地で目の当たりにした、世界の貧困地域の現実について伝えてくれています。

著者
曽野 綾子
出版日
2011-10-28

曽野は、マダガスカル、インド、カンボジアなどの途上国へ寄付をした際、そのお金が本当に正しく使われているのかを確かめるべく、自ら現地に足を運んだのだそうです。

電気も水道もないそれらの地域は、まともな医療設備もなく、お金のないものに助かる道はありません。今一番したいことは何か?と問いかければ、「お腹いっぱい食べたい」という返答が返ってきます。

想像を絶するような僻地の様子が綴られており、初めて知る方は驚くのではないでしょうか。どんな田舎町へ行っても、電気や水道があり、買い物に困ることもない日本という国が、どれだけ恵まれている国なのかを痛感させられてしまいます。

その他の話題でも、曽野の芯の強さを感じられる文章が頻繁に登場し、新しい価値観、道徳観を教えてもらうことができる、魅力的なエッセイになっています。

夫婦の素敵な愛のかたちが胸を打つ

この作品では、曽野綾子が亡くなった夫の介護生活を通して感じたことや、夫がいなくなってからの自身の生活についてなどが、とても清々しい文章によって綴られています。

曽野の夫、三浦朱門は、2017年2月に91歳でこの世を去りました。夫にはできれば、死ぬまで自宅で普通の暮らしをしてもらいたいと、曽野自らが介護人となり、亡くなる直前まで在宅介護をしていたのです。

延命治療はせず、とても穏やかな最期を迎えたという三浦朱門は、生前から様々なことへの「後始末」をしっかりと考えていたのだそうで、数々のエピソードから、その素敵な人柄を伺い知ることができます。

著者
曽野 綾子
出版日
2017-10-03

あらゆるものは必ず死ぬのだから、死ぬその日まで満ち足りた暮らしができれば、それが最良の人生だ、という考え方に、深い感銘を受ける方も多いことでしょう。

苦労の多い介護生活の中でも、決して愚痴や弱音を口にしない曽野綾子の強さに、尊敬の念を抱かずにはいられません。家族を看取るということや、歳をとり老いていく中で、日々どのように過ごしていけば良いのかを教えてくれており、終活に向けてのアドバイスとして読むこともできる作品です。同じような介護にお悩みの方には、最良の一冊となるのではないでしょうか。

老年の生活を楽しむコツが満載の一冊

2017年で86歳を迎えた曽野綾子が、人は老いてこそ毎日を充実させることができると語り、その秘訣を力強い文章で教えてくれています。

歳をとって体が老いていくことに、漠然とした悲しみや不安を感じる方は少なくないでしょう。ですが曽野綾子は本書の中で、体力が落ちるにつれて心の動きは活発になり、体が衰えて初めて分かることが沢山あるのだと綴っています。

著者
曽野 綾子
出版日
2017-09-28

全部で34項目から構成されており、「肩書のない年月こそ、人は自分の本領を発揮出来る。」「悲しみさえ薄いより濃い方がいい。」などなど、老年になってから人生を謳歌するコツが多数紹介され、盛りだくさんの内容になっています。

歳はとりたくないと思っている方でも、また違った考え方を知ることができるのではないでしょうか。「老いのうまみ」というものが、とても魅力的なもののように感じられ、読んでいて元気を貰うことができます。

老年の真っ只中、あるいは老年に差し掛かっているという方はもちろん、まだまだ若い方にも、ぜひ読んでみていただきたい作品です。老いを恐れることなど何も無いのだということが分かり、これからの生活に彩りを与えてくれる一冊となるでしょう。

思春期の少年とその家族の姿を魅力的に描いた青春小説

これまでに数えきれないほどのエッセイを執筆してきた曽野綾子は、味わい深く心に響く、多くの素晴らしい小説も発表してきました。

『太郎物語』は、タイトルにもあるように、太郎という少年を主人公に描く青春ストーリーです。「高校編」と「大学編」に分かれており、本書では知的で感性鋭く、日々たくさんのことを考えながら成長していく太郎少年の高校生活が、ユーモアたっぷりの文体で綴られています。

著者
曽野 綾子
出版日
1985-01-01

主人公の山田太郎は高校2年生。大学教授の父と、翻訳家の母を持ち、一人息子として育てられてきました。陸上部に所属し、短距離選手として好成績を上げる一方、ひとつ年上の五月という女の子に密かに想いを寄せています。高校生らしく、進路や人間関係にも悩みながら、様々なことに考えを巡らせる毎日です。

なんと言っても、ひとつひとつの問題に正面から誠実に向き合っていく太郎のキャラクターと、それを程よい距離感で見守る、両親の姿が非常に魅力的です。幼い頃から、ジャンル問わず様々な本を与えられてきたという太郎は、賢くて芯が強く、自分の意見をしっかりと口にしていきます。

太郎が世の中に対して感じている反発心や怒りに、共感を覚える方も多いのではないでしょうか。作品内には常に明るさが漂い、読後には晴れやかな爽快感を感じることができる物語です。同じ年頃の方や、思春期のお子さんを抱える親御さんは、ぜひ一度読んでみてはいかがでしょう。

展開から目が離せない!曽野綾子が描く犯罪小説

『天空の青』は、曽野綾子の作品の中では、唯一の犯罪小説となります。

田舎町に住む波多雪子は、ある夏の朝、庭先から一人の男に声をかけられました。朝顔を見て「綺麗だなあ」と言うその男は、朝顔の種を分けて欲しいと話し、またここへ訪ねてくる約束を交わします。

男の名前は宇野富士男。妻と離婚し、八百屋を営んでいる実家に舞い戻った富士男は、店の手伝いもせずに、女性に声をかけては言葉巧みに身体の関係を持つ、といった毎日を送っていました。ところが、あることをきっかけに女子高生を手に掛けてしまった富士男は、そのことを機に、次々と女性を襲っては殺害していくようになってしまうのです。

著者
曽野 綾子
出版日
1993-09-29

作品内では、富士男が犯罪を繰り返していく様子と、その一方で雪子との交流を深めていく様子が描かれます。実際に起こった事件が下敷きとなっており、思慮深く純粋なクリスチャンの雪子と、些細な理由で殺人を繰り返していく富士男とのやりとりが、大変印象深く綴られています。

二人の関係はどうなっていくのか。事件はどのように終結していくのか。緊張感の漂う展開から目が離せなくなってしまいます。カトリックである著者自身の考えが反映されているような場面も多く、人間や、人間の犯す罪について様々なことを考えさせられるでしょう。

曽野綾子の名言を一冊にまとめたアフォリズム集

これまで曽野綾子が数々の作品に残してきた人生についての名言が、断章形式で収録されています。

「人生に失敗ということはない」「"私"は人々の中で生かされる」「苦しみが人間をふくよかにする」などなど、528におよぶ様々な言葉が抜粋されており、心に残る一言に出会うことができるでしょう。

著者
曽野 綾子
出版日
1991-06-28

突き付けられる真実には厳しさを感じることもありますが、自らの人生を振り返るための、良いきっかけを与えてくれるのではないでしょうか。ページをめくるたびに感銘を受けることができ、曽野の言葉をじっくりと味わいという方には、うってつけの一冊となっています。

まだ曽野綾子作品を読んだことがない、という方が読めば、著者がどのような考えを持っているのかを詳しく知ることができます。断章になっているため、どこからでも読むことができ、忙しくて時間のない方にもおすすめできる作品です。

他の書籍にも興味が湧いてくるかもしれませんから、気になった方はぜひ読んでみてくださいね。

賛否両論が激しいベストセラー

2013年の年間売上7位にランクインするベストセラー。ただ不思議なくらい、高評価と低評価が分かれる本ですね。上から目線だとか、著者は日本の現状をわかっていないとか、主観的過ぎて老人の説教と愚痴と自慢話に感じられるとか、評価の低い方々はそうレビューしています。

一方で高評価をつける方々は、共感部分が多くあり、なぜそのような低評価が多いのかわからないという声も多いです。賛否両論が出るというのは、人によって共感度が異なるという事の表れでもあるのでしょう。

著者
曽野 綾子
出版日
2013-07-28

批判的な感想を持つ読者の気持ちもわからなくもないのです。この本は言ってみれば、母親と心中させられそうになり、戦争を生き抜き、失明の危機にさらされ続け、アフリカの貧困地にかかわって80歳まで生きてきた女性からのメッセージ。若い人が読めば、ご老人の説教くさく感じるのもやむを得ないでしょう。

自分の置かれた環境の中でなんとか頑張って生きている思春期から青年期のうちは、そんなこと言ったって……と反論したくなる内容も多いかと思います。むしろ反発心を抱いてそれを原動力にするくらいの方がいいかもしれません。そして壮年を迎えたときに徐々に、曽野綾子の言葉に共感できるようになっていくのではないでしょうか。

子育てに悩んだときに読みたい

『親の計らい』は曽野綾子の著書の中から、子育てに関する部分を抜粋して集めた格言集のようなものです。ですからどこから読み始めても、興味のあるところだけ読んでも構わないし、ふとしたときにパラっとめくってみるのもいいでしょう。

子育てに正解はありません。だから世の親たちは、何が子供にとっていいのか、今していることは親のエゴではないのか、子供の将来の為に何をしてあげられるのか、日々悩み葛藤を繰り返しています。

曽野綾子は今の子育て世代とは生きた時代がだいぶ違いますから、昔は良かった、というような現代批判のような部分もあるので、反発を覚える人もいるかもしれません。家庭にテレビを置くことやインターネットを批判する文章もありますからね。

著者
曽野 綾子
出版日
2016-06-02

ここに書かれていることを全て実践しろ、というのではなく、これが正解だと思えと言うのでもないと思います。ただ曽野の文章の特徴上、そのように感じられてしまう部分もあるのですが、だからこそチクッと刺さって心に残るのです。

子育てに迷い悩み、どう考えていいのかわからなくなった時、曽野綾子のブレのない思想にふれ、共感するなり反発するなりすることで、自分の中の軸になる考え方を育てていけるのではないでしょうか。

日本の常識では考えられない無慈悲な世界

曽野綾子は短編をいくつも執筆していますが、新潮文庫から出版された短編集の表題にもなった「二月三十日」は、一読の価値があります。物語はアフリカ調査団である「私」が、修道院の図書室で神父に勧められて読んだ昔の宣教師団の日記が中心となっています。

「二月三十日」とは存在しない日付です。何故その数字が出てきたのでしょうか。日記は1855年の12月10日から始まっています。あるはずのないその日に至るまでの約80日間で、7人の宣教師団はなんと全滅してしまうのです。日記の最後の日付「2月30日」は、死を目前とした最後の神父が、朦朧とした意識の中で書き残したものでした。

現代日本の感覚では想像もつかない、救いのない日常がそこには描かれていました。悲惨、という言葉では言い尽くせないほどの、無慈悲な環境。神はどこにあるのか?と問いたくなります。小説ではありますが、このリアリティからするとこのような史料が残っているのでしょう。

著者
曽野 綾子
出版日
2011-01-28

この短編集に一緒に収録されている短編の中に「手紙を切る」という作品があるのですが、これと「二月三十日」を併せて読むと、より深く心を動かされます。アフリカの極貧地に自らの意志で2年間ボランティアに行った女主人公の物語です。

主人公はアフリカで献身的に働いているとき、商社のアフリカ課に配属されたという初恋相手から思いがけず手紙を貰い、心を躍らせます。帰国後その彼と再会するのですが、現地の実情を全く知らない相手との間に埋められない深淵を見たのでした。

今日も明日も生きていくこと、ただそれだけを目標に過ごす人々がいるのです。その人々の前では、日本の常識で言うような善悪は簡単に語れるものではないのでしょう。読んだ後、今のこの現実世界をどう捉えてよいのか、ふとわからなくなりました。

一見幸福な家庭の裏側とその崩壊を描く

貧しく社会的地位も低いながら、当人たちはそれなりに幸福に感じている家庭もあれば、理想的に見えるのに実は脆く、ひとたびほころび始めるとあっと言う間に崩れ落ちてしまうような家庭もあるのは、昔も今も一緒です。1976年に出版された曽野綾子の小説『虚構の家』は、一見幸福そうな2つの家庭が、次第に崩壊していく様が描かれています。

登場する家庭の一つ呉家では、大学教授の夫と東大受験生の長男に、妻は家政婦のような扱いを受けていました。外向きには社会的地位が高く、裕福で世間から羨ましがられるような家庭といえます。しかしその内側は人間味も温かみも全くない、空虚で冷徹な空気に満ちていました。そんな中17歳の長女だけは、その独特の雰囲気に染まらずにいます。

著者
曽野 綾子
出版日
1976-09-25

もう一方の家庭である日和崎家は、ホテルの経営者である夫は性格も穏やかで、妻は夫を支え子供に愛情を注ぎ良き妻であり母であろうと日々努力していました。しかしそのソツなさゆえか、中学生である長男はかなりナイーブで潔癖な性格に育ってしまい、学校にも馴染めず引きこもる日々です。

呉家の長女は、両親や兄への反発心もあり、通学路で偶然出会った建設作業員と付き合い始め、やがて家出、妊娠もしてしまいます。世間的に見ればこの長女の行動が最も非難されそうなものなのですが、小説の中で彼女だけが唯一まともな人間として描かれているのです。

二つの対照的な家庭、そして外見は理想的でも幸福とはとても言えない人々と、無鉄砲で不真面目に見えるけれど自身の幸せを素直に追った呉家の長女とが、はっきりと対照的に描かれていて印象的です。単純に小説として、かなり面白い作品だと思います。

いのちとは何か、中絶とはどういうことかを問う

1980年に出版され、女流文学賞に選ばれるも辞退したという作品『神の汚れた手』。曽野綾子の代表作のひとつともいえます。辞退の理由は、曽野自身が作家として生きる上で賞をもらうことに抵抗を感じたからのようです。

舞台は海辺の小さな診療所。主人公は産婦人科医で、辺鄙な場所ながら訪れてくる患者を日々診療しています。気さくな土地言葉で話し、患者に厳しいことを言わない主人公は、決して聖人君子でもなく、情熱家でもなく、人間臭い面もある普通の人。いかにも実際に居そうな医者であり、そして実際に居たら、優しくていい先生だなあと感じるでしょう。

産婦人科には日々様々な患者が訪れます。新しい命を大切に育てていこうとするシングルマザーもいれば、人工中絶を望む患者も日々絶えません。ある一定の確率で奇形児も産まれてきます。主人公は医者ですから患者にどっぷり感情移入するわけではないのですが、それでも日常的に生と死を目の当たりにする生活の中、生命という存在について何かしら思わずにはいられないのです。

著者
曽野 綾子
出版日
1986-08-25

曽野綾子はクリスチャンでしかもカトリック教徒ですから、人工中絶には反対の立場をとっているはずです。しかしこの小説の中ではやみくもに否定はしていません。中絶を望む妊婦とその周囲には其々の事情、きれい事だけでは済まされない現実をはっきりと描き出しています。

キリスト教色の強い作品ではありませんが、主人公の友人であるクリスチャンが登場し、それが一つの救いの道を示しています。それにはキリスト教徒でなくとも、はっとさせられるものがありました。

いのちについて考えたい方、医療系小説の好きな方、生命倫理に興味のある方におすすめの小説です。生きること、生かすこと、救うこと、生きていくために捨てることという、かなり難しいテーマを扱っていますが、小説になっていることでより深く考えさせられる一冊です。


曽野綾子によって執筆された、おすすめ作品をご紹介しました。人生に迷った時、ふと開いてみたくなるような素敵な作品ばかりです。カトリックでの教えが基盤になっているようですが、その言葉は宗教問わず、どの年代の方にも響くことでしょう。

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