壮大なファンタジーとホラーの世界に巻き込まれていく、12歳の少年の旅を描いた本作。少し怖くて、読み進めるとワクワクして、少年たちの友情にうるっとくる贅沢な作品。スティーヴン・スピルバーグが映像化の権利を得て、いよいよ映画化が本格始動。期待が高まる作品です。 この記事では、そんな本作の魅力をご紹介します。ネタバレを含みますので、これから読む方はご注意ください。
12歳の少年ジャック・ソーヤーが、病身の母親とアメリカ東海岸の避暑地にやって来るところから物語は始まります。彼はそこで、「タリスマン」があれば母の命を救えることを知りました。そしてそれを求め、ひとり西海岸へと旅立つことに……。
旅をすることで直面する、さまざまな困難に立ち向かいながら成長していく少年の物語です。母親の病気を治すことはできるのでしょうか。タリスマンとは、一体?
- 著者
- ["スティーヴン キング", "ピーター ストラウブ"]
- 出版日
- 1987-07-29
大長編といわれる本作ですが、主人公に降りかかる試練の数々や、大がかりな仕掛けもあって、長さを感じさせません。
また、個性的なキャラクターも次々に登場し、作品を盛り上げます。ジャックに旅に出るよう告げる年老いた黒人のミュージシャン・スピーディーや、ジャックと道中をともにする幼馴染のリチャード、人狼ウルフ、悪の象徴・モーガンなど……彼らとの関わり方、どのようにお互いに影響を受けるのか。そちらもぜひご注目ください。
そして、本作は映画化に向けて動き始めました。映像化の権利を得たスティーヴン・スピルバーグは、30年以上も映像化を熱望していたようです。キングの原作をスピルバーグが手掛けるのは初めてで、監督にはマイク・バーカーを抜擢したと発表されています。2019年5月現在、公開日は定かではありませんが、期待が高まります。
スティーヴン・キングによるダーク・ファンタジー巨編『タリスマン』。作者は、知る人ぞ知る世界的なベストセラー作家です。社会性のある恐怖を描くモダンホラー界の巨匠として、多くの作品が映画・ドラマ化もされています。
本作は、ピーター・ストラウヴの著者。ストラウブは、『ゴーストストーリー』や「ブルーローズ」三部作などで知られています。その年に出版された最も優れたホラー小説などに贈られるブラム・ストーカー賞(アメリカ・ホラー作家協会主催)の常連受賞者でもあります。
- 著者
- ["スティーヴン キング", "ピーター ストラウブ"]
- 出版日
- 2004-01-28
売れっ子作家の共著ということで『タリスマン』は発売前から空前の盛り上がりをみせ、大ベストセラーに。すぐに世界各国で翻訳版も出版されました。
この成功を受け、その後ふたりは『ブラック・ハウス』で再びタッグを組み、主人公ジャックの20年後の姿を描いています。
本作はひとつの枠に収まらない、さまざまな要素が盛り込まれているのも見どころ。ダーク・ファンタジーといわれるように、ファンタジー要素や、ホラー要素が入り混じります。
ジャックがまだ7歳の時、人の姿をしていながら瞳は黄色で人とは思えない鈎状の爪と皮膚を持つ化け物が出てきて拐われそうになったり……。このような不気味な空気が本作の全編に漂っています。
また、彼が旅を続ける中で出会う、本来なら信頼できるはずの警官や牧師なども怪しく理不尽な存在で、現代社会の暗い闇を感じさせる、モダンホラーの要素も。一筋縄ではいかない展開に、読者の予想を超えるストーリーがくり広げられます。
ただ、「ホラーは苦手……」という方もご安心ください。本作はファンタジー要素もたっぷり描き込まれています。
ジャックは現実社会を旅しながら、異世界の「テリトリー」と行き来することに。現実社会と対の世界。中世を思わせる雰囲気に、魔法を使う人々、ふたつの世界を行き来するためのアイテムや、登場する人狼一族など、ワクワクしながら読むことができるでしょう。
さらにジャックとともに西へ向かう、テリトリーの人狼・ウルフや、幼馴染のリチャードの存在は、友情ドラマそのもの。ウルフは粗暴でがさつだけれど、ジャックにだけ見せる優しが本作の見所でもあります。一方のリチャードは愚痴っぽくて臆病で、時にジャックのやる気を萎えさせます。
友達に苦労させられたり、助けられたり、心も身体も鍛えられる成長物語としての面白さもあるのです。飽きることなく、最後まで読むことができます。
「タリスマン」という言葉には「お守り」や「魔除け」という意味があります。しかし、本作ではどうやらただのお守りではない別の意味がありそうです。
「タリスマン」は手に取れる水晶玉のようなものだと、ジャックは教わります。母の病気を治す力を持つと同時に、テリトリーにも救いをもたらす重要なアイテムです。本作での「タリスマン」は、とても強い力を秘めている重要な道具でもあり、希望の象徴ともいえそうです。
ジャックは「タリスマン」を求め旅をしますが、やはり簡単には手に入りません。邪魔者が登場します。
それは、恐怖と闇を感じさせる男・モーガン。現実世界ではジャック親子の身近にいる人物であり、テリトリーを支配する反逆者という2つの顔を持ちます。この男が、ふたつの世界を行き来しながらジャックの行く手を阻みます。
光と闇のコントラストをつけた表現はキングの作品らしいところで、本作でも見どころのひとつでしょう。実際のタリスマンはどのようなものなのか、モーガンの真の目的は何か、謎解きの要素もいっぱいです。
ジャックは旅に出る前、テリトリーを体験し、旅に出ることを決意します。そんなテリトリーは、本作で重要な役割をはたします。
テリトリーにはジャックの行く手を阻む奴らや、危険がいっぱい。しかし、現実世界に戻っても安心できません。児童施設や学校、酒場など、テリトリーに負けない試練と恐怖を彼に与えます。
テリトリーでも現実世界でもトラブルに巻き込まれていくのが、読者を飽きさせない理由でしょう。
本作でストーリーのカギを握るのが、年老いた黒人ミュージシャンのスピーディーです。
ジャックは彼と、東海岸のさびれた遊園地で出会いました。避暑地でみじめな気分でいるところを救われ、彼を昔からの知り合いのように慕います。
スピーディーは、タリスマンの存在、テリトリーのこと、テリトリーへの移動手段など、さまざまなことをジャックに教え、西海岸に向かうように告げます。そしてモーガンとも浅からぬ因縁があることを明かすのです。
彼の存在感や、ふたりの関係について丁寧に描かれているからこそ、作品全体に説得力が生まれるのでしょう。彼は終盤の重要な場面でも登場します。本作に欠かせない、魅力的な人物といえそうです。
テリトリーのはずれ「辺外境(アウトポスト)」にたどり着き、ジャックの旅も急展開を迎えます。ジャックは、タリスマンがある場所に目星をつけました。モーガンの手下と思わしき老人が乗り込む「悪魔の機械」と呼ぶ汽車にリチャードとともに乗り込みます。
辺外境から西には「焦土(ブラステッド・ランド)」が広がり、恐ろしい怪物たちが次から次に襲ってきました。大きな力を身に付けつつ、先を急ぎます。
- 著者
- ["スティーヴン キング", "ピーター ストラウブ"]
- 出版日
- 1987-07-29
現実世界とは思えないほど不気味な町ポイント・ヴィナティに入り、ジャックはひとり黒い館の中へ。恐ろしい守護騎士や醜悪な虫に勇気を試されながら、タリスマンの呼ぶ声に導かれるように進みます。
終盤にはタリスマンを巡って、モーガンと息もつかせぬ攻防が続きます。モーガンは、女王を救うタリスマンを持ち出させるわけにはいきません。一歩も引かない両者。しかし、最後に勝負を分けたのは……意外なものでした。
12歳の少年には酷ともいえる体験の連続。黒い館に向かう前にも、瀕死のスピーディーが貴重なヒントをくれます。しかし、謎を解き、問題を解決するのはジャック自身でなければなりません。苦難を乗り越え成長する姿は、なんともいえぬ面白さがあります。
ジャックはなぜこの旅に選ばれたのか。母親の病は治癒するのか。旅先で出会った、さまざまな人たちのその後とは……?伏線の回収も鮮やかで、読み終えたあとはパズルのピースがはまるようなすっきり感を味わえるでしょう。