史実を織り混ぜたもの、架空戦記もの、SFファンタジー色が強いものなど実に多彩な顔を見せてくれるミリタリー小説。軍や兵器、戦術など見どころもたくさんあります。この記事では日本と海外の作品のなかから、読んでおきたいおすすめの小説を紹介していきます。
明治時代の日本をモデルにした架空の島国「皇国」は、人と龍が共存し、小国ながら貿易で栄えています。ところが海の彼方にある「帝国」の軍隊が、皇国最北端の島に侵攻してきて、撤退戦に追いやられてしまいました。
若き陸軍中尉の新城直衛は、敵情視察を命じられ、皇国に生息するサーベルタイガーに似た動物、剣牙虎(けんきこ)とともに最前線へ向かいます。
- 著者
- 佐藤 大輔
- 出版日
- 2013-05-23
1998年に1巻が刊行された、佐藤大輔のミリタリー小説です。2005年に9巻が刊行されてから執筆が中断され、作者逝去のため未完になりました。2004年には漫画化もされています。
徹底して作り込まれた世界観が魅力的。意思疎通できる龍や剣牙虎、皇国軍を救出するために捨て駒にされた主人公の奮戦ぶりが見物です。
一方で戦いの描写はいたって現実的な戦記もの。あふれる軍事用語、戦術や戦略の緻密さ、敵との駆け引き、そして真に迫る激しい攻防に惹きこまれる一冊です。
新潟市内に北朝鮮の特殊部隊30数人が潜入し、偶発的な戦争に。当初は警察が応戦していましたが、多数の死傷者が出て、ようやく自衛隊を中心に戦うことになります。
しかし隊員たちは、初めての戦場で次々と落命。防衛庁対遊撃検討専任班の桂川が対応に追われるのですが……。
- 著者
- 黒崎 視音
- 出版日
2005年に刊行された黒崎視音のミリタリー小説です。タイトルの交戦規則(ROE)とは、軍が敵と戦う際の、武力行使の条件や限度などを定めた規則のこと。ROEがあることが自衛隊員の手足を縛り、厳しい行動制限のもとで死闘を余儀なくされるのです。
物語は、情報を得るために北朝鮮と繋がっているかのように見せかける桂川と、北朝鮮の女兵士である潤花を中心に進んでいきます。彼らのやりとりもさることながら、初実戦のなかで覚醒していく自衛隊員たちの姿にも注目。
軍事関係の豊富な知識と取材に裏付けされたストーリー展開に加え、平和ボケしていた国民や決断できない政治家、勝手な行動をとるマスコミなど、それぞれの立場の登場人物たちがどんな動きをするかも見どころです。本当に有事が起きた時に、日本はどうするのか。リアリティをもって考えさせてくれるミリタリー小説になっています。
1943年に戦死した山本五十六連合艦隊司令長官。前作『紺碧の艦隊』では、山本が1905年に転生して若き海軍少尉候補生の高野五十六となり、転生仲間とともに秘匿潜水艦隊「紺碧艦隊」を生み出し、日本の歴史を塗り替えました。
続編となる本作は、アメリカに代わって台頭したヒトラー率いるドイツ帝国の野望を打ち破り、世界を救うために艦隊が出撃します。
- 著者
- 荒巻 義雄
- 出版日
1997年に刊行された荒巻義雄のミリタリー小説。1990年から発表した大ベストセラ―「紺碧の艦隊」シリーズの続編です。
紺碧艦隊はドイツ軍が建造した原爆工場の破壊作戦を実行。潜水艦の須佐之男号は、制海権をめぐり地中海艦隊と熾烈な攻防戦を展開します。
ジョン・F・ケネディが転生したアメリカの新大統領エイブラハム・ケネディなど、史実とフィクションを絡めた斬新なストーリーが魅力的。歴史好きも楽しめる一冊です。
湾岸戦争前夜、イラクのロケット兵器開発に協力していたジェラルド・ブル博士が、ブリュッセルで暗殺される事件が起こりました。
イラクに侵攻されたクウェートを解放しようと、アメリカとイギリスを中心とする多国籍軍はサウジアラビアに集結しています。
そんななか、イラクの大統領サダム・フセインが、「神の拳」なる大量破壊兵器を間もなく手にするという情報がもたらされ……。
- 著者
- ["フレデリック フォーサイス", "Forsyth,Frederick", "慎, 篠原"]
- 出版日
1994年に刊行された、イギリスの作家フレデリック・フォーサイスの作品。空軍パイロットやロイター通信の特派員を経験したフォーサイスは、軍や国際情勢に詳しく、数々のミリタリー小説を発表しています。
各国の主要幹部が実名で描かれていて、虚と実の境界線が見えなくなる緻密な構成はお見事。発表されたのは1994年なので「イラク戦争」前に執筆されたものだというのも驚きでしょう。
スケールは壮大ですが、戦いのシーンは微に入り細を穿つもので、桁違いの臨場感と緊迫感を味わえるミリタリー小説になっています。
東西冷戦中のアメリカ。CIAの情報担当副長官になったジャック・ライアンは、ファウラー大統領の密命を受け、中東和平の実現のために世界を飛び回っています。
そんななか、反イスラエル派のアラブ系テロリストが、砂漠で20年前の不発核弾頭を入手。アメリカ最大のスポーツイベントNFL「スーパーボウル」の会場で、核テロを実行してしまうのです。
- 著者
- ["トム クランシー", "Clancy,Tom", "清, 井坂"]
- 出版日
1991年に刊行された、アメリカの作家トム・クランシーの作品。2002年には映画化もされました。
史上類を見ないテロ攻撃を受けたアメリカ。懐疑の目をまずはソ連に向けます。ソ連も対抗し、大国間で猜疑心の連鎖が起こってしまいました。世界大戦勃発寸前というところまで、緊張感が高まります。
軍事や科学技術、核爆弾の製造過程などは専門用語も多用されていますが、非常に細かく説明してくれているので、イメージを膨らませながら読むことができるでしょう。ミリタリー小説好きにはたまらないはずです。
核による抑止力のもとに成り立っていた平和の均衡が崩れ、冷静な判断ができなくなった時、各国はどんな行動をとるのでしょうか。
物語の舞台は、東西冷戦。イスラム教徒の襲撃で、シベリア西部にある油田と、石油精製施設が破壊されました。石油を確保したいソ連は、ペルシャ湾沿岸に目をつけます。
これをきっかけに、西のNATO軍と、東のワルシャワ条約機構軍が衝突。ハイテク兵器を駆使した第三次世界大戦が勃発しました。
- 著者
- ["トム クランシー", "清, 井坂"]
- 出版日
1986年に刊行された作品。ひとつ前に紹介した『恐怖の総和』など「ジャック・ライアン」シリーズで知られるトム・クランシーが、技術脅威を扱ったテクノスリラーのエースと絶賛するラリー・ボンドとタッグを組んだミリタリー小説です。本作で「ハイテク軍事スリラー」という新たなジャンルが確立され、日本でも人気を誇っています。
陸海空軍をフル活用した戦術と、戦車や潜水艦、戦闘機などのハイテク兵器を描く緻密さと正確さに脱帽。また兵士や軍人たちの人間性やプライドもしっかりと描かれていて、人間ドラマとしても秀逸です。