ライトノベル業界で注目を浴びている作品『わたしの幸せな結婚』。家族に虐げられてきた娘が、嫁ぎ先で本当の幸せを知っていく和風シンデレラファンタジーです。この記事では、小説と漫画それぞれの見所や、本作の重要ポイント「異能」について紹介していきます。
『わたしの幸せな結婚』は、顎木(あぎとぎ)あくみによる和風シンデレラファンタジー小説。2018年には「ガンガンONLINE」で、高坂りと作画によるコミカライズの連載が始まりました。
シリーズの累計発行部数は200万部を突破。「全国書店員が選んだおすすめコミック2021」で第1位、「電子書籍で読みたいマンガ大賞」では大賞を受賞、さらに2021年夏には朗読劇化も発表された、今注目の作品です。
家族に虐げられていた娘が冷酷無慈悲と噂される軍人に嫁ぎ、幸せになっていく和風シンデレラストーリー。さまざまな逆境を乗り越えて、少しずつ愛を育んでいく姿や、物語の鍵となる「異能」を巡った複雑な争いシーンが見所です。
スマホで誰とでもすぐに繋がれる現代とは違う奥ゆかしい恋愛模様に、ピュアで心が温まると女性を中心に支持を集めています。
物語の舞台は明治、大正時代。代々、異能を持つ歴史ある名家・斎森家の長女として生まれながらも、能力を引き継がなかった美世。幼い頃に母親を病で亡くした彼女は、父の再婚相手の継母と異母妹から使用人のような扱いを受けていました。
実の父親は助けてくれず知らないふりで、唯一の味方であった幼なじみも異母妹と結婚することに。必要とされなくなった美世は、嫁入りを命じられます。その相手は冷酷無慈悲と噂されている、久堂家の若き当主で軍人の久堂清霞(くどうきよか)。
早速清霞は初対面の美世に対し、
「ここでは私の言うことに絶対従え 私が出ていけと言ったら出ていけ 死ねと言ったら死ね」
(漫画『わたしの幸せな結婚』1巻より)
と宣言。美世が作った料理も「毒でも盛ったのだろう」と疑い、食べませんでした。
しかし、それが誤解であったことを知ると、美世に対する言動を改めるようになります。美世も、清霞がただ冷たいだけの人ではないと思い始めてきて……。時間をともに過ごすようになった2人は、少しずつ心を通わせていきます。
- 著者
- ["顎木 あくみ", "月岡 月穂"]
- 出版日
異能を受け継ぐ斎森家の出身でありながら、異能の才を持たずに生まれます。実母を亡くしてからは継母と異母妹に使用人のように扱われ、毎日虐げられてきました。そのため、「自分には価値がない」と思い込んでいます。清霞と生活するうちに、少しずつ心に変化が見えてくるように……。
異能を受け継ぐ名家・久堂家の当主。若くして帝国陸軍の対異特務小隊・隊長を務める少佐で、異能の実力者。女性にも劣らない美貌の持ち主。
女性に対してあまりよい印象を持っていないようで、態度がそっけない。それが原因で、これまでにあった縁談もすべて破談に。周囲からは冷酷無慈悲な男と噂されています。美世に対しても、初めは冷たい態度をとっていましたが、他の女性とは何か違うと感じ心を開いていくようになります。
久堂家の使用人。清霞が幼い頃から親代わりに世話をしていました。優しい性格で、清霞と美世のことを静かに見守っています。
美世の実母。異能の家系のなかでも、異質と言われている薄刃家の出身。美世の父親とは政略結婚で、病によって亡くなってしまいます。異能の才を持たない美世を最後まで心配していました。
斎森家の当主で美世の父親。かつて交際していた恋人がいましたが、家の決定には逆らえず別れて澄美と結婚します。彼女が亡くなると、すぐに元恋人の香乃子と再婚。美世は実の娘ですが、異能の才を持っていないため、香乃子と香耶が虐めていても見向きもしませんでした。
美世の継母。真一と恋人関係でしたが、彼の家が決めた結婚により別れることに。再婚してからは、当時の怨みを晴らす目的で美世を虐げていました。異能の才を持つ娘の香耶には、常に厳しく接していた様子。
美世の異母妹。異能の才を受け継いでおり、父親からも大切に育てられます。母親からは「美世よりも上にいなければならない」と厳しく育てられ、常に美世を見下していました。
美世の幼なじみで、異能の家系・辰石家の次男。斎森家で使用人のような扱いをされている美世にとって、唯一の味方でした。美世に好意を抱いていましたが、家の決定により、妹の香耶の婚約者となってしまいます。心優しく臆病者な青年。
清霞の部下。お調子者なところがありますが、異能者としての実力は清霞のお墨付き。清霞の女性関係を密かに心配して、美世の本性を探ろうとしていたことも。
『わたしの幸せな結婚』において重要な鍵となるのが「異能」です。ここでは異能の能力や、それを受け継ぐ家系について説明していきます。
異能者を持つ家系は、遥か昔から帝に仕えてきました。彼らは普通の人には見えない異形を討伐するためには、必要不可欠な存在だった
のです。異能には念じるだけで物を動かしたり、火を起こしたり、水や風を操ったり、瞬間移動したり、透視したりとさまざまな種類があります。
鬼や霊といった異形を見ることができる能力のこと。幼少期にこの能力を発現できなければ、能力なしと言われています。
異能を受け継ぐ家系で美世の実家。美世の母親の実家・薄刃家とは、異能の血を濃くする目的で政略結婚をします。近年は異能の能力も低く、落ちかけているそう。
異能を受け継ぐ家系で、斎森家とは古くから親交があります。こちらも斎森家同様に、近年は名家としては落ちぶれているそう。辰石家の当主は、密かに薄刃家の血を引き継いでいる美世を狙っています。
異能を受け継ぐ家系のなかでもトップクラスの名家。能力はもちろんのこと、爵位も有し、財産も多く持っています。
異能の家系では異質で危険と言われている名家です。その能力は、人の心に干渉したり、記憶を操作したり、夢に入り込んだり、思考を読んだり。さらに危険なのは、相手の自我を消して操ったり、幻覚を見せて錯乱させるというもの。薄刃家の人間はその危険性を理解しており、ほとんど表舞台に立つことはありません。久堂家の力を使っても、情報を手に入れることは難しいらしい。美世の実母・澄美が斎森家に嫁いだのは異例でした。
『わたしの幸せな結婚』は2021年2月現在、小説が4巻、漫画が2巻まで発売されており、どちらを先に読んだらいいのか悩んでいる人も多いのではないでしょうか。そこでこのセクションでは、小説と漫画のおすすめポイントを解説します。
1巻では斎森家の確執、2巻では美世の隠されていた異能の秘密と薄刃家の関係、3巻では清霞の母親・芙由との嫁姑問題と危険人物の登場、4巻ではその危険人物に狙われる美世と、続きが気になる展開になっています。
- 著者
- ["顎木 あくみ", "月岡 月穂"]
- 出版日
少しずつ清霞に心を開いていく美世の表情や、2人が心を通わせていく仲睦まじい様子を繊細なタッチで描いています。特に好評なのが漫画の表紙です。原作の世界観や雰囲気が忠実に再現された優しい色合いに、思わずジャケ買いしたという人も多いとのこと。コミカライズによって省略された説明文やモノローグもありますが、その分読みやすく漫画ならではの肉付けも楽しめます。
- 著者
- ["顎木 あくみ", "高坂 りと", "月岡月穂"]
- 出版日
ここからは漫画の見所ポイントを2つ紹介していきます。
1つめの見所は、少しずつお互いを意識し心を通わせていく美世と清霞の関係性です。
家の決定により、実家を追い出される形で久堂家に嫁いだ美世。冷酷無慈悲と噂されている清霞から、早々に捨てられてしまうだろうと考えていました。一方、清霞も落ちぶれかけている斎森家の娘であるということと、感情が読み取りにくい美世を警戒します。本当に婚約者なのか?と思ってしまうほど、2人の間には冷たい空気が漂っていました。
しかし、日を追うごとにそれは誤解であったと気づき始め、2人は少しずつ心を通わせていくようになるのです。
一度は警戒して美世の料理を食べなかった清霞も、ゆり江の助言により反省。素直に「美味い」と褒めたり、古着を着る美世を思って内緒で着物を見繕ったり、櫛を贈ったりと、今までの婚約者候補たちにはなかった、特別な感情を抱くようになります。
美世も清霞がただ冷たいだけの人間ではなく、遠慮している自分を気遣う優しい一面を持っていると知り、少しでも長く彼の傍に居たい思うようになるのです。
1つ1つ確認するように、ゆっくりと時間をかけて少しずつ愛を育んでいく微笑ましい2人の姿に、心が温かくなります。
2つ目の見所は、久堂家に嫁いでから変化していく美世の表情です。
継母と異母妹から使用人のように扱われ、実父からは能力なしを理由に見放され、屋敷の使用人たちも助けてくれないという現状で育った美世。令嬢とは思えない酷い仕打ちを受けた彼女は、いつしか感情を殺すようになり、自分は価値のない人間なのだと思い込むようになっていました。
しかし、久堂家に嫁いだことで、彼女の人生が少しずつ変わっていきます。
清霞のぶっきらぼうだけれど密かに気にかけてくれる優しさに触れた美世は、彼に釣り合うような人間になりたいと思うように。すぐに謝る癖を直そうとしたり、自身が思っていることを言うようになります。
何より印象的だったのは彼女の表情でした。嫁いできた当初は無表情で感情が読み取れなかった美世でしたが、清霞と心を通わせていくうちに少しずつ感情が現れるようになります。清霞から櫛を贈られた際には、初めて嬉しそうに微笑みました。
不幸に慣れていた美世が、久堂家に嫁いで幸せを知っていく姿。どうかこのままずっと、彼女には幸せが続いてほしいと願ってしまいます。
異能を持っていないとされていた美世。本当に彼女は持っていないのでしょうか。小説2巻で、彼女にも異能があったことが判明しました。
美世の異能は「夢見の力」。人の夢に入り込んで精神を操ったり、その人物の過去や未来を見ることができる能力です。この能力は、薄刃家の女性にのみ発現される特殊なものでした。美世の母・澄美は斎森家との政略結婚と自身の生い立ちから、彼女の身を案じて封印していたのです。
美世が見鬼の才を発現しなかったのにも理由がありました。薄刃家の異能は人の心に干渉するもので、対象となるのが「人」だから。そのため、薄刃家の人間でも見鬼の才を持たない場合があるのです。
しかし最近になってその封印が解けてしまい、能力を持っていることを知らない美世はコントロールできず悪夢を見るように。そこへ、今まで隠れていた薄刃家の人間が絡んできて、美世はようやく自身の持つ異能を知ることになるのです。
- 著者
- ["顎木 あくみ", "月岡 月穂"]
- 出版日
小説3巻で登場した甘水直(うすいなおし)という男。異能心教の祖師として、異形の一部を人間に取り込ませ、人工的に異能者を作り出していている危険人物です。清霞の実家・久堂家がある村で騒ぎを起こし、その調査を依頼された清霞と対面しました。
甘水直の実家・甘水家は薄刃家の分家出身で、彼は美世の母・澄美の婚約者候補だったのです。澄美が斎森家に嫁ぐと知った彼は、その後、実家を離れて行方不明に。
甘水には人の知覚を歪ませる能力があり、薄刃家にとっても帝都にとっても非常に危険な人物です。そんな彼が夢見の力を受け継ぐ美世を狙っているとわかり、物語は大きく動き出します。
さらに気になるのは、甘水が美世に接触した際に言った「わが娘よ」というセリフ。甘水はただの婚約者候補ではなく、本当は澄美と想い合っていたのでしょうか。どちらにせよ美世は今後、甘水とどこかで対峙して真相を知る必要がありそうです。
- 著者
- ["顎木 あくみ", "月岡 月穂"]
- 出版日
家族に虐げられていた美世が、嫁ぎ先で本当の幸せを知っていく和風シンデレラストーリー。そして、異能に関わるいくつもの壁を乗り越えて、愛を育んでいく美世と清霞の純粋な姿に、あらためて「幸せとは何か?」と考えさせられます。美世の力を巡って新たな敵も現れ、今後の展開がどうなっていくのか気になります。ぜひ、小説と漫画あわせてお手に取ってみてください。