科学文明滅亡の世界に現れた不死者・アンダー。枯れた心を生き返らせ、彼が向かう先には何があるのか……?今回は、独特な世界観に魅せられる『堕天作戦』の見どころを徹底的に紹介します。
人間が滅び、魔人と人間の戦いが続く荒廃した世界に現れた「不死者」アンダー。『堕天作戦』は、彼を中心に物語が進んでいくダークファンタジーです。
ただのファンタジーとして捉えることは難しいほどのぶっ飛んだストーリー設定で、その謎めいた世界観に惹かれる読者が多く、人気を博しています。
- 著者
- 山本 章一
- 出版日
- 2015-12-11
今回は、『堕天作戦』に散りばめられた謎を考察しつつ、魅力をあますところなくお伝えしていきます。ネタバレも含んでいるのでご注意ください。
時は人間が滅びた後の世界。魔人と人間は長きにわたって戦い続け、文明は衰退の一途をたどっていました。
ある時、魔人に捕えられた人間軍の男が処刑されたのに復活した、という奇妙な出来事が起こります。後に、彼は死なない体を持った奇妙な存在「不死者」であることが判明しました。
魔人によって処刑の玩具にされているにもかかわらず、無感情で、心が乾いているようにみえた不死者のアンダー。しかし、あることがきっかけで彼の心は動きはじめ……。
不死者とは一体何者なのか、どのように生きていくことが正しいのか……?その問いを携え、死ぬことができない孤高の存在は、星の正体を探るために「生き返った」のでした。
- 著者
- 山本 章一
- 出版日
- 2016-10-19
進みすぎた科学文明が生んだ、人類をはるかに超える存在の「超人機械」。それに対抗するため、人間が企てた作戦が「堕天作戦」です。作戦のひとつには、人知を超えた人工物である超人機械に、機械ではなく「人間として生きる素晴らしさ」を知ってほしい、というものがありました。
人類との戦争で、超人機械は分身を放ちます。それが生涯死ねない体をもつ「不死者」の正体でした。すなわち不死者とは、「半ばで朽ちた志の残り火」だといわれています。
不死者に関してもうひとつ分かっていることは、「人として生きたとき不死者は死ぬ」ということ。そうなると結局、不死者とは、超人機械が「人間として生きる素晴らしさを知る」という目的のためだけに生まれてきた存在であるということになります。
しかしそれにしては、あまりにも人間として生きづらい体を与えられてしまっているのが、なんともやるせなく切ない状況です。現にアンダーが心を失ったのも、人間たちによる卑劣きわまりない残虐行為が原因でした。
シバとアンダーが戦うシーンにも描かれているように、「人間として生きるとは」というテーマが物語の根幹です。哲学的な問題が扱われているため、ただストーリーを楽しむだけでなく、脳に強い刺激を促してくれるでしょう。
また、人間や魔人と対立する組織・載天党の将軍が、不死者について「もう一度友として出会いたい」と発言しています。これが、彼らが不死者を求める理由のひとつかもしれません。載天党の目的、不死者との関係も含め、物語の展開に深く関わってくることが推測されます。
アンダーはレコベルとともに落下していく最中、上空に浮かぶ巨大な五芒星を目撃します。アンダーを捉えた魔人のピロ司令に問い詰めますが、その実体は分からず……。
また、さまざまな研究をおこなっていたレコベルが、空を見あげてこう呟いています。
「竜じゃないだろうし……何だろなぁ。望遠鏡調達しよ。」(『堕天作戦』1巻より引用)
このセリフが星に対するものだと仮定すれば、研究者である彼女さえも正体を知らなかったと考えられるでしょう。
その後、アンダーは同じ不死者であるゾフィアにも星の正体を尋ねますが、「超人機械の被造物では?」という推測以上のことは判明しませんでした。
しかしここで気になってくるのが、載天党のシバが殺した第2の不死者のセリフです。
「俺の本体はここにはない」
「地獄だ!天にいながら、天にいたから、地獄を喰らう羽目になった!」(『堕天作戦』2巻より引用)
このコマでは天上高く輝く3つの星が描写されています。このことから星と不死者、そして超人機械に何かしらの関係があると考えられるのです。
アンダーには、星を探すこと自体にも意味を見出しているような言動も見られます。今後、星と不死者の関係性が明らかになることで、彼にどのような影響があるのか必見です。
- 著者
- 山本 章一
- 出版日
- 2015-12-11
作中で国名として登場するハイデラバードとメイミョーは、インド、ミャンマーの地名です。そのため、地球あるいはそれと何か繋がりのある星がモチーフなのではないか、と予想されます。
本作の舞台となるのは、科学が発展しすぎた時代です。人知を超えた人工生命「超人機械」が誕生し、世界は征服されます。彼らは居場所も姿も認知されていませんでしたが、どこにでも現れ、どんな姿にもなることができたようです。魔人や魔竜など、不思議な生き物を作り出したのも超人機械でした。
しかし、それに一部の国家や組織を中心として人々は抵抗します。 そして、神のような存在である「超人機械」を地に落とすことを目論みました。
その頃、地球規模の環境変化に乗じて魔人が蜂起、腐鉄菌がばら撒かれ科学文明が終わってしまいます。魔人と人間に力を求められていた超人機械でしたが、ある日突然消えてしまったようです。
現実世界の延長というような、少し現実味を孕んだ設定である点が最大の魅力。その設定により、遠い世界の話ではなく、人類が近い将来たどることになるのでは……という恐怖さえ感じられるのです。
これからさらに細かく世界構造が描写されていくでしょう。より物語に複雑さと厚みが増していくことが期待できます。
長きにわたる人間と魔人の戦いで、魔人軍に捕まってしまった人間は、皆残らず処刑される運命にありました。
そんななか、何度処刑されても死なずに復活する、という謎の男の存在が知れ渡ります。その後、彼の正体は「不死者」であると判明しました。
手足をもがれようと灰にされようと再生をくり返す、不死身の男・アンダー。彼の謎めいた生態に興味を持った魔人たちは、玩具のように、日々残虐の限りを尽くします。しかし、一向に彼が死ぬ気配はありません。眼差しは常にどす黒く曇り、いわば感情が欠けている状態に陥っています。
ある日、業火卿が気球を使ったアンダーの処刑を企てました。その時、魔人の秘書官レコベルも一緒に処刑されてしまうことに。レコベルは、不死者の処刑を観察し、検証していた魔人の女性です。
気球に繋がれて、気圧の低い上空に昇っていくなか、不死者とレコベルは初めてまともな会話を交わします。彼女が語る言葉をきっかけに、アンダーの心はわずかに動き出すのでした。
- 著者
- 山本 章一
- 出版日
- 2015-12-11
「生きていれば辛いこともいっぱいだけど、
悲しいことも 嬉しいことも
感じる心はひとつです。
鈍くしてたら、
大事なものまで見逃しちゃいますよ。」(『堕天作戦』1巻より引用)
レコベルの言葉は真っ直ぐで、この世界に「生きること」への愛が感じられます。
彼女の言葉によって無感情だったアンダーは心を動かされ、その後さまざまな出会いをとおして、変化していく姿が見どころのひとつです。
本作はファンタジーの世界を描いた作品ではありますが、登場人物の会話はいたってリアリティを感じられるもの。「戦争とは」「生きるとは」など、答えが難しいテーマの核心をつくような言葉が随所でみられます。いつの間にか、作品が描く生々しさに引き込まれてしまうでしょう。
後半では、人間軍と魔人軍どちらにも属さない戴天党という存在が登場。アンダーの心情に大きな影響を及ぼすであろう驚くべき事実も判明します。
今後、組織間の関係性がより複雑に絡みあっていく展開に期待がもたれます。
戴天党には、不死者を打ち滅ぼすことができる「シバ」と呼ばれる人物が存在します。彼はアンダーのもとへやってきました。
一方のアンダーは、第3の不死者であるゾフィアと出会い、この世の成り立ちと不死者の正体の真実を目の当たりにします。その後、ゾフィアの姿をとおして自らの行くすえを意識していくことになるのです。
- 著者
- 山本 章一
- 出版日
- 2016-10-19
不死者という存在の切なさが細かく描かれており、アンダーを取り巻く環境がしだいに輪郭を帯びてきたような印象です。
シバの正体が徐々に明かされ、ますます「人間らしさとは」というテーマが浮き彫りになっていきます。
竜を扱っていたルビーの生い立ちも描かれ、さまざまな立場の人間が抱える闇が入り混じって、単純な「人間VS魔人」という二項対立の物語ではないということがハッキリしてきました。
複雑な人間関係や、それに伴ってぶつかる人々の心情の変化に注目です。
3巻では主人公以外のキャラの背景も丁寧に描かれるという本作の良さがさらに感じられる内容でした。新たな重要人物になりそうな雷撃将のボルカという幼体成熟の過去が描かれます。
幼体成熟とは、身体的にも精神的にも繁殖能力が発達しないまま歳を重ねる魔人のこと。異性と性行為することもなく、ひたすらに魔力の強さにおいて完成した生物なのでした。
そんなボルカには幼い頃から仲良くしているナルコという存在がいました。恋愛感情というものがない彼らは友人とも恋人ともつかない関係であるものの、深い絆がありました。
- 著者
- 山本 章一
- 出版日
- 2017-12-19
しかしある日、ナルコは戦死してしまいます。
今まで抜けたところのあるナルコのために立ち回っていたボルカ。彼女が亡くなって墓を作ってしまうと、彼女のためにできることがもうないな、と呟きます。
そしてナルコがいないこの世界で、もう二度とあのような日々を味わうことができないなら、自分は何のために戦っているのだろうか、と疑問に思い……。
自分の分身のようだったナルコを失い、生きる道を見失いそうになったボルカ。しかし彼はナルコに言われたある言葉を思い出し、前向きにその存在と別れる方向へ進んでいきます。
その様子は切ないものの、希望を感じさせるもの。ボルカの新しい道の行く末を見届けたいです。
この他にも徐々に明らかになる星の謎に、1巻で死んだと思われていたある人物の再登場なども見どころ。ぜひ詳しい内容を作品でご覧ください。
- 著者
- 山本 章一
- 出版日
- 2015-12-11
現代からはるか未来、科学技術が発達しすぎて文明が滅びた世界が舞台となっている本作。人間vs魔人という戦いのさなか、突然現れた謎の不死の男が主人公です。
自分がなぜ死ねないのか、また何のために自分が存在しているのか。それが分からず空虚な心をかかえて過ごしてきた彼は、さまざまな人物との関わりによって、新たに何か感じとることはできるのでしょうか。
現実世界でも、機械が発達し、AIなどの技術が進歩していくなか、人間らしさについて改めて思い起こされる時は多くなったでしょう。本作の物語は、「人間として生きるとは」という深いメッセージが感じられるものになっています。
謎めいた設定が多いからこそ、より深く考えさせられ、ダークなファンタジー世界を楽しめるだけでなく、違った視点からも作品を堪能することができます。
本作は、スマートフォンのアプリ「マンガワン」で配信されています。一味違ったファンタジーを楽しみたい方は、ぜひ一度試し読みしてみてくださいね。
いかがでしたか?王道ファンタジー漫画に飽きてしまったという方に、ぜひ読んでいただきたい作品です。