1人の少女の狂気的な愛情と、それに立ち向かう主人公たちを描いた『サエイズム』。この記事では、冴と、本編の魅力をご紹介します。
- 著者
- 内水 融
- 出版日
- 2015-04-20
本作のタイトルにある「サエ」とは、最重要登場人物となる「真木冴」のこと。彼女による、友情の域を超えた恐ろしいまでの執着、支配、狂気的な愛情を描いた物語です。
冴に気に入られ、その支配欲をもって身が危険にさらされるほど「愛されてしまった」主人公の美沙緒は、絶望的な状況から仲間たちの協力を得て、絶対的存在である冴の支配から逃れようと奮闘します。
今回は『サエイズム』の魅力を、各巻の見どころとともにご紹介していきます。ネタバレも含みますので、まだ読んだことがない方はご注意ください。
主人公の国木美沙緒は引っ込み思案な高校2年生です。転校早々いじめの標的になってしまっていた彼女は、部屋にこもって膝を抱えて涙を流すような辛い毎日を送っていましたが、彼女の前に真木冴が現れたことで学校生活は一変します。
才色兼備の権化ともいえる冴は学校中の人気者。彼女がいじめの現場に立ち会ったことで、その後美沙緒に嫌がらせをする生徒は誰1人としていなくなりました。 美人で人気者な同級生が自分を気にかけ、仲良くなってくれたことで、美沙緒は有頂天です。
ある朝も「友達と寄り道をする」と嬉しそうな顔で母親に告げてから家を出てきたところでした。友達とは無論冴のこと。しかしその朝、美沙緒は下駄箱に自分宛のメモが入っているのを見つけてしまいます。
「真木冴と縁を切れ 後悔したくなければ」(『サエイズム』1巻から引用)
突然の警告に不安になりつつも冴のそばを離れずにいた美沙緒でしたが、徐々に冴の狂気的な性格を知ることとなるのでした。
- 著者
- 内水融
- 出版日
- 2015-11-20
本作を読むうえで、イヤでも注目せずにいられないのが、冴の存在。眉目秀麗・文武両道・おまけに家柄までよいという非の打ち所のない彼女は、ある歪な性癖の持ち主でもありました。
彼女は完璧な人間という建前の裏で、自身の価値観をもって「ドレイ」に愛を示し、破滅に追いやってしまうという異常者だったのです。
まず、登下校を含む学校生活では常に一緒。連絡は確認してから3分以内に必ず返すこと。トイレも勝手に行ってはいけない。髪型も変えてはならない。一緒にいる時は笑顔。など、冴が相手に迫る「約束」は、人間としての普通の生活を侵害しかねないもの。さらに自分の意に反する行動が目につきしだい、体のどこかに仕込んだスタンガンで気絶するほどの電流を浴びせます。
また特筆すべきは、自分の愛を貫こうとする執念です。邪魔者は徹底的に排除し、当たり前のように暴力を振るいます。必要ならば殺人すら厭いません。 かつて、美沙緒と出会う前の冴には2人のドレイがいましたが、1人は自殺し、もう1人は家族(家一件)ごと消されています。
今回冴に見初められ、すでに支配の被害にあっている美沙緒も、かつてのドレイたちと同じ末路を辿るのでしょうか……⁉
いじめから救ってくれた冴ですが、彼女からの歪んだ愛情で美沙緒の精神は徐々おかしくなっていきます。
美沙緒に救いはないのだろうか……という状況で登場するのが、新聞部の部長で3年生の大門蘭。彼女は学内のあらゆるスクープをつかみたい、と取材欲に燃えていました。あるきっかけで、冴の本性が垣間見えるニュースを得たときに、冴の一番近しい友人である美沙緒に目をつけます。それ以降、美沙緒に協力しながら、冴の正体を暴くために行動していきます。
正気の人間なら、冴と直接関わることを避け、どうにか裏から正体に迫ろうと画策するでしょう。しかし、蘭は積極的に冴と真正面から関係を持つよう図ります。
例えば、美沙緒と蘭が初めて出会ったシーン。冴からのメッセージを返信していなかった美沙緒の携帯を借りて、「今カラオケにいるから来てね!」と送信してしまいます。そして、「こんなの送っちゃった!」と茶目っ気たっぷりで言うほどのツワモノっぷりを発揮するのです。
その後、彼女はどのような方法で冴の狂気に立ち向かっていくのでしょうか?
転校してきて1ヶ月。高校2年生の美沙緒はクラスに馴染むどころか、いじめにあっていました。机にゴミを撒かれたり、授業中にはものを投げつけられたり……。そんな堪え難い学校生活を送っていた中、冴は現れます。
男女問わず夢中にさせる魅力を持つ彼女は、意地悪な女子生徒たちに囲まれていた美沙緒を助けます。以前いた学校でも似たような状況だった美沙緒は、助けてもらえたことにいたく感激し、冴を慕うようになりました。
しかし、その後続いた冴から自分への執着の加減に違和感を覚えはじめます。一緒の下校を強いられ、寄り道にも同行。美沙緒に予定があっても断固として自分を優先させます。異常でしかない冴の本性を目の当たりにした美沙緒ですが、自分ではどうしたらこの状況を打開できるのかわかりません。
そんな彼女に、救いの手は伸ばされました。
「キミを真木冴から救ってやる…」(『サエイズム』1巻から引用)
- 著者
- 内水 融
- 出版日
- 2015-04-20
窮地の美沙緒に声をかけたのは、同じ学校に通う男子生徒の古海渡でした。彼は自分を「あの学校で唯一真木冴の正体を知る人物」だといいます。味方の存在を知れたのはこの上ない希望ですが、逆に言えば古海以外は誰のことも頼れないということで、状況は明るくなりきりません。
謎の存在である彼の指示のもと、冴に嫌われる行動をわざと取る「脱真木大作戦」と、冴本人を暴走族に襲わせる「滅真木大作戦」を決行しますが、どちらもあえなく失敗に終わりました。
古海が進んで美沙緒に協力し、冴を退けようとする訳は、過去に彼女のドレイだった人物との関係にあります。ドレイ生活の末に自殺した少女の高梨江奈は、彼の幼馴染だったのです。
幼い頃は毎日一緒に遊び、中学で再会してからもよい話し相手であった江奈が、冴と関係を持ってから元気を無くしていったことに気づいていた古海は、それでいて何もしてあげられず、彼女の自殺を食い止められなかったことを後悔していました。
彼にとって、冴にまつわる問題を解決することは、いわば亡き友人の仇うちです。美沙緒にこれらの話をした時、彼が握った拳からは、今も残る後悔と決意がにじみ出ています。
しかし、そんな古海はたびたび謎の変装姿で現れます。ファーストフード店で美沙緒と接触した時のファンキーな格好や、冴を尾行する時の某有名キャラクターへの扮装を見ると、いつかの固い決意を語ったカッコいい彼の姿が台無しです。
はたして美沙緒は貴重な助っ人の援護をうけ、冴の呪縛から離れることができるのでしょうか?手に汗握る展開が続きます。
美沙緒の家では、冴とのお泊まり会が開かれていました。冴の外面のよさに美沙緒の両親は感心しきっていますが、美沙緒だけは気が気じゃありません。2人きりになったとたんに何をされるかわからない……。そんな恐怖に怯えながら様子を伺いますが、意外にも眠気に弱い冴は12時を過ぎた途端に深く眠り込んでしまいました。
美沙緒の家にたどり着くまでに「滅真木大作戦」をかいくぐってきた冴。美沙緒は先ほど、冴が返り討ちにした暴走族の惨殺死体画像を見せられていました。
ここで美沙緒が勇気を持って行動に出ます。冴が完全に眠っていることを確認し、彼女の携帯を手に取ると、メールにその画像を添付して自分の携帯に送りつけたのです。 後日この画像を証拠として古海に送った彼女は、彼とともに次なる作戦に出たのでした。
- 著者
- 内水融
- 出版日
- 2015-11-20
「美沙緒を裏で操っている黒幕がいる」ということにまで冴が気づいているため、それが古海だと断定されるのも時間の問題です。次の作戦はせくようにしておこなわれました。
場所は全校生徒が集まる体育館。朝礼が開始すると、古海が準備しておいた仕掛けが作動し、体育館中に暴走族の死体の様子と、殺人を犯す瞬間の冴を激写した写真がばら撒かれたのです。
絶大な効果が期待できるこの作戦ですが、暴走族が冴を襲った出来事について知っているのは黒幕と美沙緒だけだと冴も知っています。そのため、賭けともいえるこの作戦が成功しないと、美沙緒が冴に復讐される可能性があるのです。
そのことについては事前に古海から確認されていましたが、すべてを承知のうえで美沙緒は首を縦に振ったのでした。危険を顧みない彼女の姿からは、転校当初の弱々しさが感じられません。皮肉ではありますが、美沙緒を追い詰めた冴の存在こそが、彼女の成長のもっとも大きな要因になっていたのです。
この後の物語を大きく動かすきっかけともなったこの作戦の結末と、冴がとった驚きの行動に度肝を抜かれること間違いなしの第2巻です。
美沙緒と古海の努力も虚しく、これまでの作戦は一枚も二枚も上手な冴の前に水の泡となってしまいました。これだけのことをして、失ったものの方が多いことにショックを受けていた美沙緒は、失意のまま学校へと向かいます。
しかし突然、そんな彼女の手を取る人物が現れました。縁のメガネが特徴的で、活発で聡明に見えるその女性は、美沙緒と同じ制服を着ています。
「今日一日アタシに付き合ってもらえるかな?」(『サエイズム』3巻から引用)
これから学校だというのに付き合えもなにもないのですが、謎の女子生徒は「あなたの親のフリして学校に休みの連絡をした」といって、強引に美沙緒を連れ出します。引っ張られながらたどり着いたのは、カラオケボックス。
大門蘭と名乗った彼女は新聞部の部長で、知りたいことで頭をいっぱいにしたい!という知的好奇心が服を着て歩いているような人物でした。新聞部として常にホットな話題を追っている彼女は、学内の事情は大体知っているといいます。そんな彼女が、なぜ美沙緒に会いにきたのか。
それは「真木冴の正体を知るため」だというのでした。
- 著者
- 内水融
- 出版日
- 2016-04-20
あれだけの騒ぎになったのに、一瞬で「作り話」になってしまった全体朝礼での一件に違和感を感じた蘭は、その時撒かれた写真を持ち帰り、独自に本物かどうかを調査したのだと言います。もちろん、写真は本物でした。
「だとしたらアツいじゃん? あんな優等生の完璧美少女がどえらい裏の顔持ってるなんてさ‼」(『サエイズム』3巻から引用)
好奇心のままに冴の秘密に首を突っ込もうとする蘭を危険に思い、「このことは忘れたほうがいい」と勧める美沙緒でしたが、冴に関する美沙緒の過敏な反応を見ただけで、蘭は彼女が「冴から過敏に愛されている」と言い当てたのでした。
古海を失った今、この新聞部部長の蘭の存在は非常に頼りになるものといえます。しかし古海と違って蘭は「知りたい」という欲求だけで行動する、トラブルメーカーのような存在です。自分が接触したいがために美沙緒を利用し、冴との仲をかき回す彼女の行動は、美沙緒だけでなく読者の胃もキリキリと痛めつけるでしょう。
彼女の洞察力と知識欲が吉と出るか凶と出るか、固唾を飲んで見守るしかありません。
古海が残した手紙を頼り、彼の家に訪れていた美沙緒。古海は彼女に「高梨江奈のノート」を託すため、メッセージを残していたのでした。訪れた古海宅に蘭と2人で入り、目的のノートを探します。
そこで2人は不思議なベーシスト少年に出会います。どうやら古海の友人らしい彼は斯波光策、通称「シバコー」という、蘭の幼馴染だったのです。「手を握ることで、その人の置かれている環境をイメージできる」という超能力的な力を持つシバコーは、美沙緒の手を握ることで彼女の置かれたとんでもない環境を感じ取り、同時に「古海が無事」だという可能性を掴んだのでした。
冴から逃れたい美沙緒と、冴の秘密を知りたい蘭、そして古海を助けたいシバコーは手を組んで冴に立ち向かいます。
シバコーによると、これまで冴に仕掛けた作戦の中で最も有効だったのは「脱真木大作戦」。美沙緒による冴への反発、命令違反をもって冴に直接的なダメージを与えるため、一向は最後の決戦の舞台となる遊園地へと赴くのでした。
- 著者
- 内水融
- 出版日
- 2016-09-20
待ち合わせ場所につくやいなや美沙緒に抱きつき、初めて誘ってもらえたと大喜びする冴でしたが、遊園地内での美沙緒の行動に眉をひそめます。冴の希望をいっさいきかず、美沙緒は自分が行きたいとおり、自分が楽しみたいとおりに遊園地を満喫しだしたのでした。
冴に1人で立ち向かう勇気を持てるようになったのかと思いきや、内心は縮み上がっている美沙緒。自分の意見を通すたびに目は泳ぎ、手が震え、歯もガタガタと鳴ります。冴の圧力に屈しそうになるたびに「ノウドウ……ノウドウ……(「能動的」の意味)」と唱えてその場を乗り切っていく彼女の姿は実に痛々しいですが、かつての気弱で言い成りだった彼女の姿を思えば、大変な進歩です。
「私を… 自由にして… 冴ちゃん…」(『サエイズム』4巻から引用)
このまま冴に打ち勝ち、美沙緒は冴のドレイでなく、一人のトモダチとしての立場を取り戻すことができるのでしょうか?
最終巻ではこれまで謎だったことと、驚愕の事実が次々に明らかにされます。真木家の権力の秘密、「真木冴」という人物の秘密、そして真木家を裏から崩壊させようとしている存在……。
狂気の少女・冴の正体が、一つの秘密も残さず明かされる大注目の4巻、ぜひ手に取ってみてください!
- 著者
- 内水 融
- 出版日
- 2015-04-20
美少女の裏の顔が恐ろしすぎるというサイコホラー漫画の本作。このジャンルは最初は面白かったのに徐々に失速したり、結末に納得がいかなかったりと、上手く終わらせることが難しくもあります。
しかし本作は全4巻という短い巻数にも関わらず見所が多く詰め込まれ、最後までスピード感を保ったまま走り抜けます。そしてその結末も今までの登場人物たちがするすると繋がり、明らかになった事実に収束していく見応えのあるものです。
ぜひ冴の正体、美沙緒の成長した様子を作品本編で最後まで見届けてみてください。救われない結末にも思えるかもしれませんが、ある種の安心感があることは確か。あなたはどんな感想を抱くでしょうか?
また、サエイズム Second Seasonとして続編も刊行しています。死んだはずの冴の登場、成長した美沙緒と仲間たちは再び登場する冴にどのように抗っていくのでしょうか。こちらも見ものですね!
学校中の人気者で、街を歩けば誰もが振り返る美少女の裏に隠された、危険と狂気に溢れた顔。冴がもつ歪な愛情は相手を追い込み、死に追いやったこともありますが、彼女の愛をうけて美沙緒が成長できたのも確かです。怖くて、ショッキングで、ちょっと切ない『サエイズム』を、ぜひ読んでみてください。
『サエイズム』のように人間の狂気を描いた作品に惹かれるあなたにおすすめなのがこちらの記事です。気になる方はぜひご覧ください。
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