35歳という若さでこの世を去った、今は亡き天才作家・鷺沢萠。彼女の洗練された美しい文体は多くの人を虜にし、その作品の数々は、今もなおたくさんの小説ファンから愛され続けています。ここでは、そんな鷺沢萠のおすすめ小説をご紹介していきます。
1968年、4人姉妹の末っ子として生まれた鷺沢萠は、1987年に『川べりの道』で文學界新人賞を受賞しデビューします。当時まだ大学生で、作品は高校生の時に執筆されたものであるにもかかわらず、その豊かな表現力と繊細な文章で描かれた、作品の完成度の高さが世間に衝撃を与えました。
1992年には、『駆ける少年』で泉鏡花文学賞を受賞し、若き天才作家として注目を集めていました。ですが2004年、鷺沢萠は自ら命を絶ち、数々の傑作小説を遺してこの世を去ってしまいます。
文學界新人賞を受賞した「川べりの道」を含む、4編の物語が収録された短編集です。芥川賞候補作となったこの作品で、鷺沢萠は女子大生作家としての華々しいデビューを飾りました。
「川べりの道」では、15歳の主人公・吾郎が、父から生活費を受け取るため、今日も川べりの道を歩きます。吾郎の父親が他の女性と暮らすため、家族を捨てて家を出た直後、母親が事故で亡くなりました。吾郎は姉の時子と暮らしていますが、時子は身勝手な父親を憎み、小さな復讐として吾郎を愛人と暮らす父親の元に通わせているのです。
少年のぶつけどころのない怒りが繊細なタッチで描かれ、とても10代の女の子が書いたとは思えない鷺沢萠の傑作短編です。
- 著者
- 鷺沢 萠
- 出版日
その他、帰りたいのに帰れる場所のない登場人物たちの描写が切ない、表題作の「帰れぬ人びと」など、家族の大切さを痛感する4つのストーリーが綴られた、魅力ある短編集になっています。
それぞれの日常を、懸命に生きようとする人々の姿が描かれた、20編のストーリーが収録される鷺沢萠の短編集です。1話1話がとても短く、本が得意ではない方でも読みやすい作品になっています。この短編集に収録されている「指」・「ほおずきの花束」は、高校の国語の教科書にも使用されました。
海に投げ入れられてしまった鳥のように、空に放たれてしまった魚のように、生きにくさを感じながらも、日々をどうにか過ごしている人々が、希望を感じる一瞬に出会う。この短編集では、そんな物語が綴られています。
- 著者
- 鷺沢 萠
- 出版日
短いページ数のなかに、それぞれの主人公の複雑な心理を巧みに描き、哀しさや切なさの中にも、ほのかな明るさを感じることができます。誰だって普通に生きていく難しさを感じながらも、必死に努力し普通を手に入れるのです。
どうということのない日常のなか、思うようにいかないことも多いですが、不器用なりに、これからも前を向いて生きていこうという登場人物たちの姿が印象的で、どこか温かさを感じる鷺沢萠の短編集になっています。
夜の博多を歩く1人の男が、青春時代の思い出を回想するノスタルジックな鷺沢萠の中編小説です。70年代の雰囲気を魅力的に表現し、主人公やその周りを取り巻く登場人物たちの半生を描きます。
主人公の脇田篤志は、九州から単身東京へと上京してきました。人並み外れた大きな体がコンプレックスの篤志は、温厚でおとなしく気が弱いので、職場で苛められてしまいます。そんな篤志に、職場の先輩である波多江勇はプロレスを進め、このことをきっかけに篤志はチャンスを掴み、プロレスの世界で大成功することになります。
- 著者
- 鷺沢 萠
- 出版日
一方で、篤志の成功に一役買った勇には不運がつきまとい、何をやっても上手くいきません。対照的な道を歩む2人の青年の間には、ユキという1人の女性の存在がありました。
篤志は博多の夜の街を歩きながら、当時の出来事をセンチメンタルに思い出していきます。切なく哀しい記憶ですが、この3人それぞれに、優しさが漂う鷺沢萠の作品になっています。
生きること、死ぬことを描き、辛く悲しい中にも希望の光を感じる、美しい文体が魅力の3つのストーリーが収録された作品です。
表題作である「さいはての二人」では、美しいハーフの女性・未亜を主人公に、歳の離れた男性との出会いから別れまでを描きます。未亜が働く飲み屋に度々訪れる男性・朴さん。次第に未亜は“この男はあたしだ……”と思えるほど、自分と同じだと感じ惹かれていきます。2人の関係が美しく描かれ、切なくて胸にしみる鷺沢萠の作品です。
- 著者
- 鷺沢 萠
- 出版日
- 2005-04-23
「約束」では、わがままに地方で暮らしてきた主人公の行雄が、妊娠した彼女を捨て東京に飛び出してきてしまいます。古いアパートに住み始める行雄でしたが、ある日アパートで、小さな少女と出会います。「遮断機」は、辛い出来事があり喪失感を感じる主人公の笑子が、子供のころ家族同然の交流があった、「おじい」と再開する物語です。
3編とも切なくて思わず涙ぐんでしまう物語ですが、登場人物たちの人生が繊細に描かれ、やはりどこかに人と人との温かいつながりを感じる鷺沢萠の作品になっています。
一般的にいう普通の家族とはそれぞれ少し違う、2つの家族の物語が収録された鷺沢萠の作品です。血の繋がりはなくても、とても楽しそうに毎日を送る、素敵な家族を描いています。とても読みやすい作品なので、まだ読んだことのない方にぜひおすすめしたいです。
1話目の物語は「渡辺毅のウェルカム・ホーム」。適当に生きてきてしまったが為に路頭に迷う主人公の毅と、真面目にやってきたにもかかわらずシングルファーザーとなってしまった英弘。2人は大学時代からの親友同士です。困った2人は、毅が家事を担当し、英弘が稼ぐという役割分担で、英弘の息子・憲弘とともに3人で暮らし始めることになりました。
- 著者
- 鷺沢 萠
- 出版日
- 2006-08-29
2話目の物語は「児島律子のウェルカム・ホーム」。律子は、仕事は順調にやってきたけど、その他のことがどうもうまくいかないバツ2の女性で、2度目の結婚相手の連れ子だった娘・聖奈と家族になっていく素敵なストーリーが綴られます。
両家族とも、一見複雑な家庭環境に見えますが、当の本人たちはいたって明るく、楽しい家庭を築きあげているのが嬉しくなります。読んだあと前向きな気持ちになれる、鷺沢萠のおすすめ作品です。
鷺沢萠のおすすめ小説をご紹介しました。人同士のいろいろな関わり合いを描いた、胸を打つ作品ばかりになっています。気になる作品があれば、ぜひ1度読んでみてくださいね。