1847年、約170年以上前に発表された本作。当時は評価されないどころか酷評までされたというこの物語は、その後時代が進むにつれ徐々に評判を受けることとなります。そして「世界三大悲劇」の名作の1つとして、世界中で読み継がれることとなったのです。 映画、コミックなどさまざまな分野にも進出して影響を与えた本作の魅力を、徹底解明したいと思います。
本作の舞台はイギリスの北部、ヨークシャー近郊にある、ハワースという村。ここの荒野にあるトップウィゼンズという廃墟が物語のモデルとなっています。
2世代にわたる登場人物たちの長い物語なのですが、簡単にストーリーを追っていきましょう。
都会から離れて田舎町に移り住んできた青年、ロックウッドは、隣人である嵐が丘の屋敷に挨拶に行きます。そこでヒースクリフ、キャシー、ヘアトンという、一見どういう関係かわからない奇妙な3人の住民に会うのです。ロックウッドは女中のネリーから、彼らの不思議な物語を聞くこととなります。
嵐が丘の元の主人は、身寄りのない子供であるヒースクリフを拾い、自分の子供のように可愛がり育てました。しかし、その主人が亡くなり息子のヒンドリーが主になると、ヒースクリフを下働きにしてしまうのです。
そんな目に合ってしまったヒースクリフの心の支えは、ヒンドリーの妹であるキャサリンの存在。彼らはお互いに、恋心を持つようになっていたのです。
しかし、彼女は優雅な生活に憧れて、エドガーと結婚してしまいます。打ちひしがれたヒースクリフは失踪。 そして数年後、彼は成功した紳士として帰ってくるのです。悲劇はここから始まります。
彼が戻ってきたのは、自分を追いつめて傷つけた人物たちに復讐をするためでした。そこから世代を超えた復讐劇がくり広げられていくのです。
- 著者
- エミリー・ブロンテ
- 出版日
本作は登場人物がとても多く、嘘や聞き語りなどが絡んでいるため、当時からわかりにくい内容ともいわれていました。それでも多くの国で翻訳される名作です。日本でも数々の翻訳がされており、今までに新潮社などから発行されています。
文字で読むのに挫折しそうな人は、映画やドラマで見るのもいいかと思います。映画は何本もありますが、ドラマは2009年トム・ハーディ主演のものがおすすめ。また、堀北真希が2015年の舞台でキャサリンを好演し、高い評価を得ました。
- 著者
- C・ブロンテ
- 出版日
- 1953-02-27
彼女は1818年、イギリスのヨークシャーに牧師の娘として生まれます。その後家族でハワースに移住。姉のシャーロットはエミリーよりも先に、小説『ジェーン・エア』を発表し評価を受けましたが、後に出版された『嵐が丘』は世間から受け入れられず、酷評を受けました。
当時、女性が小説を書くという事に対して批判的な目を向けられる風潮があったため、彼女は男女の判別がつかないペンネームを使います。そのこともあり、彼女が本作の作者であることは、世間には知られていませんでした。
しかし、出版の翌年にわずか30歳で病没。シャーロットが本作の作者が妹であると公表して作品の評価が上がり始めたのは、エミリーが亡くなってからのことでした。
本作の登場人物たちは、それぞれが極端すぎるくらい個性的です。主要な人物たちを見てみましょう。ちなみに主人公ですが、これが実はわかりにくい。語り手や目線が変わっていくので、絶対的な主人公と呼べる存在は、いないといってよいでしょう。
紹介した彼らは、これでも登場人物のほんの一部!物語のなかは、もっと複雑怪奇な人たちや出来事で溢れています。
本作が酷評を受けた原因の1つに、ヒースクリフの性格の恐ろしさがあります。復讐にだけ固執する激情そのものも怖いのですが、感情だけで突っ走っているのではなく、計算しつくされた計画の元に実行していく妙な冷静さが特に怖いのです。それは、まさに異常とも呼べるほど。
その復讐は道徳的にも大きな問題があり、当時の人々の意識では相当の驚きであったことは事実でしょう。
しかし、復讐すべき相手の筆頭にあげてもいいキャサリンには、何もしていないのです。間接的に苦しめてはいますが、彼女に直接手をくだしているわけではありません。それは、彼女への愛情ゆえでしょうか。それを考えると、彼の愛憎はますます複雑で怪奇なものと思えてしまいます。
原作が難しすぎて読めない、そもそも小説が苦手、という方には漫画版がおすすめです。
- 著者
- エミリー・ジェーン・ブロンテ
- 出版日
- 2009-10-30
有名な「マンガで完読」シリーズからも、本作が読めます。原作は聞き語りがあったりしてなかなか読みにくいことも多いのですが、漫画だったらその心配もありません。原作よりも簡単にストーリーを把握することができます。絵の美しさにも注目です。
しかし原作を読んだ人のなかには、文章力や構成力が魅力という意見もあるので、まずは漫画で内容を把握してから原作も読むのがおすすめ。本作の内容や魅力が、より理解できるでしょう。
本作の名言を、いくつか挙げてみましょう。
ヒンドリーに下働きとして虐待され、いつか必ず復習してやる、とヒースクリフが言う場面で、キャサリンが彼に言います。
「悪い人たちを罰するのは神様の役目だよ。
私たち人間は許すことを覚えなくちゃ」
(『嵐が丘』より引用)
無邪気でかわいい彼女の姿が見えるようです。こんなところが、ヒースクリフは好きだったのでしょうか。
人気がある名言は、お金持ちのエドガーと一緒になることを決意したキャサリンの言葉。ネリーの前で、自分の気持ちを打ち明けます。
「私のエドガーへの愛は森の枝の葉のようにうつろうものですが、
ヒースクリフへの愛は地底の巌のように永遠なんです」
(『嵐が丘』より引用)
純愛物語を思わせるような、ドラマチックな言葉です。しかし同時に、この場面で彼女は、夢が覚めてしまうような現実的な言葉も発しています。
「私とヒースクリフがいっしょになれば乞食になるしかないのです。」
(『嵐が丘』より引用)
最後には夢ではなく、現実に目を向けた彼女。それが、あんな悲劇を生むことになるとは……。
- 著者
- エミリー・ブロンテ
- 出版日
物語の冒頭で、ロックウッドが嵐が丘を訪ねた時、屋敷にいたのは3人でした。一見ヒースクリフの復讐は終わったように見えますが、彼の野望は、まだこの時点で続いていたのです。
ロックウッドその後、再び嵐が丘へと訪れます。すると、以前とは何やら違う様子。なんと、ヒースクリフが亡くなっていたのでした。
彼は復讐を諦めたのか。それとも何かが起こったのか。長い物語の主役格であるはずの彼の死は、意外にもあっさりと描かれています。彼の死後、丘ではある人物が目撃されます。それはいったい誰だったのでしょうか。
気になった方は、ぜひ本作を手に取ってみてください。
『嵐が丘』は復讐の物語でもありますが、最後まで愛を貫き通した恋愛ストーリーでもあります。国も時代も乗り越えて人々を魅了し続ける、ヒースクリフとキャサリンを中心とした物語。ぜひ、じっくりと堪能してみてはいかがでしょうか。