2022年の動向に注目すべき小説家はこの3人!

更新:2021.12.13

2021年にスマッシュヒットを記録したことで名前を広く知られることになった小説家を3人ピックアップ!次の新作にも期待がかかります。

ブックカルテ リンク

2022年最注目の小説家①一穂ミチ:『スモールワールズ』で一般文芸書デビュー

あらすじ・概要

BL小説の書き手として活躍していた一穂ミチの、初めての一般文芸書となる短編小説集。直木賞候補作となったことで注目を集めました。

夫婦円満を装う主婦と、家庭に恵まれない少年。「秘密」を抱えて出戻ってきた姉とふたたび暮らす高校生の弟。初孫の誕生に喜ぶ祖母と娘家族。人知れず手紙を交わしつづける男と女。向き合うことができなかった父と子。大切なことを言えないまま別れてしまった先輩と後輩。誰かの悲しみに寄り添いながら、愛おしい喜怒哀楽を描き尽くす連作集。
講談社公式サイトより引用)

著者
一穂 ミチ
出版日

ここが見所

BLはハッピーエンドを描くことで読者が満足、という明確なゴールがある→一般文芸だと自由で、不安に

→短編としていろいろな人物を描くことで、1人は共感できる人物がいるのではないか 普段本を読まない多くの人に読みやすい短編集

たとえば最初の小説「ネオンテトラ」では、夫婦円満を装っているものの妻は不妊と旦那の不倫疑惑に悩んでいます。そんな彼女が出会うのは父親からハラスメントを受けている中学生の少年。コンビニのイートインスペースで夜のひとときの時間を過ごす2人のことを、水槽で飼育するネオンテトラになぞらえています。

こういったヘビーな題材が組み込まれた作品ですが、重苦しくなく読み進められるのは作者・一穂ミチの技といえるでしょう。それぞれの章ごとの意外な結末に驚きを持ってサクサク読めます。さらに、章ごとの人物のつながりもあざとさがなく楽しめるポイント。ぜひ気軽に手に取ってほしい作品です。

一穂ミチは今年、長編『パラソルでパラシュート』も刊行しています。またYouTubeでは、「愛を適量」のPVも公開されています。『スモールワールズ』その他の章の実写化も期待したいところですね。

2022年最注目の小説家②佐藤究:『テスカトリポカ』でクセつよぶりがバレた!

あらすじ・概要

「史上最もヤバい直木賞受賞作」とも言われ、初の山本周五郎章とのダブル受賞でもある作品が『テスカトリポカ』。佐藤究はこれまでにも江戸川乱歩賞を受賞したミステリ『QJKJQ』などで知っている方もいると思います。本作の直木賞受賞会見に小泉八雲Tシャツで臨んだインパクトから、その「クセつよ」ぶりがより多くの人に知られることとなりました。

メキシコで麻薬密売組織の抗争があり、組織を牛耳るカサソラ四兄弟のうち三人は殺された。生き残った三男のバルミロは、追手から逃れて海を渡りインドネシアのジャカルタに潜伏、その地の裏社会で麻薬により身を持ち崩した日本人医師・末永と出会う。バルミロと末永は日本に渡り、川崎でならず者たちを集めて「心臓密売」ビジネスを立ち上げる。一方、麻薬組織から逃れて日本にやってきたメキシコ人の母と日本人の父の間に生まれた少年コシモは公的な教育をほとんど受けないまま育ち、重大事件を起こして少年院へと送られる。やがて、アステカの神々に導かれるように、バルミロとコシモは邂逅する。
佐藤究『テスカトリポカ』特設サイトより引用)

著者
佐藤 究
出版日

ここが見所

~~を得意とする作者の、『Ank:a mirroring ape』に続く3年半ぶりの長編小説。バイオレンス描写に振り切った犯罪小説です。作者によると、当初は映画『ゴジラvsスペースゴジラ』のようなエンタメ路線となるはずだったそう。

「生きたまま心臓が抜かれる」のように痛々しい描写が出てくるため苦手な方はご注意を。そういった暴力の描写も、あえて痛みをともなうように書くという作者の意図が。ただ暴力について書く目的ではなく、それを振りほどいていくために暴力から目を背けずに書いている

500ページを超える長編ですが、読み始めたら途中で止まれなくなるような切迫感が常に味わえるのも魅力。スピード感だけでなく登場人物らのキャラクター背景も細かく設定されており読みごたえは十分。2人の主人公が破滅に向かっていくストーリーではありますが、ほんの少しの希望も感じ取れる作品です。

2022年には短編集の発売も予定しているという佐藤究。長編にチャレンジしづらいという方にも門戸が広がりそうです。

2022年最注目の小説家③新川帆立:『元彼の遺言状』

あらすじ・概要

「このミステリーがすごい!」大賞に選ばれた『元彼の遺言状』。東京大学法学部出身の作者・新川帆立が、弁護士の経歴を活かして著した

本年度の第19回『このミステリーがすごい! 』大賞受賞作は、金に目がない凄腕女性弁護士が活躍する、遺産相続ミステリー! 
「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」という奇妙な遺言状を残して、大手製薬会社の御曹司・森川栄治が亡くなった。学生時代に彼と3か月だけ交際していた弁護士の剣持麗子は、犯人候補に名乗り出た栄治の友人の代理人として、森川家の主催する「犯人選考会」に参加することとなった。数百億円とも言われる財産の分け前を獲得するべく、麗子は自らの依頼人を犯人に仕立て上げようと奔走する。
一方、麗子は元カノの一人としても軽井沢の屋敷を譲り受けることになっていた。ところが、避暑地を訪れて手続きを行なったその晩、くだんの遺書が保管されていた金庫が盗まれ、栄治の顧問弁護士であった町弁が何者かによって殺害されてしまう――。
Amazonより引用)

著者
新川 帆立
出版日

ここが見所

『元彼の遺言状』がデビュー作となった新川帆立。「このミステリーがすごい!」大賞に一度応募した際にはファンタジー寄りの作品を書き、一次選考で落選したそう。その悔しさから、過去の選評を研究してミステリーに振り切った作品を発表したそう。作品に華を添えるだけでなく、「女性が憧れる女性が主人公」という付加価値のある作品を狙ったといいます。

かといって、主人公の剣持麗子は「女性であることを捨てて仕事に打ち込む」というような女性像でもありません。現実の女性に沿った人物像が生き生きと描かれ、女性読者の共感を呼んだ点が評価につながったのでしょう。勝気な性格ではありますが、応援したくなるような部分もあわせ持っています。

肝心のミステリー展開については、ミステリー初心者にもわかりやすいような伏線が張り巡らされています。奇妙な遺言を残した元彼、という刺激的かつポップな設定もしっかりストーリーに個性を与えています。

続編である『倒産続きの彼女』もあります。剣持麗子とは違うキャラクターのニューヒロインも登場しますので、ぜひ一緒に楽しんでみてはいかがでしょうか。これからシリーズ化するのが楽しみですね。

 

 

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る