『異世界ありがとう』は「次にくるマンガ大賞2022」にて「U -NEXT特別賞」という賞を獲った注目作品。 チートに頼らず、戦闘から衣食住まで全て自分達で考えていくところが今までの「異世界転生もの」とは違って新鮮です。「俺TUEEEE」じゃないシビアな異世界転生ものを読みたい人におすすめな作品となっています。
アラサー男性のシイナとチバの二人は、高校の同窓会で出会います。学生時はほとんど接点のなかった二人でしたが漫画、アニメ、ゲームなど趣味で意気投合。
二人は同窓会の二次会を抜け出して別の店で飲み直していました。ところがシイナは店に突っ込んできた車に轢かれ、チバは突然の心臓発作で死んでしまいます。
その後、二人は目を覚ますと全く見覚えのない世界に移動しており、シイナはツインテール童顔の少女、チバはナイスボディのエルフのような女性の姿になっていました。
すぐに二人は異世界転生したのだと悟ります。
しかし、異世界転生ならではのチート能力もなく、神様からの導きもないので何をすればいいのか全くわかりません。
ノーヒントの中、二人は手探りで元の世界へ戻ろうと冒険をしていきます。
「異世界転生もの」の作品はチート能力を使って、現実世界では実現できない願望を叶えていくところが見どころですが、『異世界ありがとう』は敵や新しい環境にビクビクしながら生き抜いていくユニークな設定が見どころです。
また、子供の頃に触れたファンタジー小説やRPGのワクワク感が蘇ってくるような世界観も魅力となっています。
- 著者
- ["荒井 小豆", "ジアナズ"]
- 出版日
『異世界ありがとう』はストーリーの中で、よく読んだ漫画やゲームのパロディ、そして「異世界転生作品のあるある」がギャグとして登場します。
どのネタも呼吸困難を起こしそうになるほど面白いので、いくつか具体的なシーンを紹介していきます。
冒険する上で大切なのは自分のステータスを確認することではないでしょうか。
よくある異世界転生の作品ではステータスについて教えてもらったり、自然と見れるようになったりしている設定が多いですが、『異世界ありがとう』の場合は一味違います。
「ステータスオープン!」と叫ぶと、ステータス画面が表示されるのですが、画面が自分の頭の真上に現れるため、一人では確認することができません。
他の人に画面をみてもらわないと、自分のステータスを確認することができないバグのような設定に笑ってしまいます。
RPGやファンタジー作品で「選ばれし勇者が岩に突き刺さった伝説の剣を引き抜く」という演出を面白くパロディ化しているシーンです。
シイナが釣りをしていると空からドラゴンが降りてきて、大量のウンチをして去っていきました。
ウンチをよくみると、剣の柄のようなものが埋もれているのを発見。シイナは「剣が埋まっているのかもしれない」と思い、ウンチを登り始めます。
ウンチの中にある剣を、少女が頑張って引き抜くギャップに思わず笑ってしまうこと間違いなし。
全身ウンチまみれになりながらも、剣を手に入れることができた嬉しそうなシイナの表情にも注目です。
さらにシイナが引き抜いた剣のフレーバーテキストにもクスッと笑えるオチが書かれています。
シイナとチバはお互い全く別の人生を歩んでいましたが、異世界転生を通してどんどん友情を深めていきます。
お互いそれぞれの立場からの想いが丁寧に描かれており、共感できるところが多いのも『異世界ありがとう』の面白いところです。
例えば、チバは魔法やサバイバル知識でシイナを助けていきます。一方のシイナは何もできないことに対して、「自分はチバのお荷物になっているのではないか」と悩んでいました。
シイナは少しでも役に立とうと奮起しますが、中々上手くいきません。耐えきれなくなったシイナは、チバに想いを打ち明けます。
するとチバはシイナに対して、「一緒に異世界へ飛んでくれてありがとう」と伝えたのです。
実はチバもシイナのポジティブさによって、精神面で助けられていました。
チバは現実世界に色々と残してきたことを心配したり、異世界のわからないことだらけで不安になったりなど、ネガティブになっていました。
一方のシイナは異世界の生活を楽しもうと前向きな姿勢で行動していきます。
シイナの振る舞いによって、チバも厳しい環境に立ち向かうことができていたのです。
未知の環境に放り投げられた中でお互いに助け合いながらどんどん強くなっていく二人の絆をみると、改めて「友人がいるっていいことだな」、と感じさせてくれるようなシーンが描かれています。
今後の二人の友情の変化についても注目してみてください。
『異世界ありがとう』のもう一つの魅力として、チート能力が全くないシビアな設定によって、いろんな危険が降りかかる緊張感を味わえることです。
こちらもいくつかおすすめシーンを紹介します。
スライムといえば冒険で一番最初に出てくるいわゆる「ザコモンスター代表格」というイメージを持っていると思います。
しかし、チバとシイナはスライムとの戦いにも大苦戦。
スライムを舐めてかかったのが重なり、なんとスライムからの体当たりを受けてしまい、二人は逃走してしまうのです。
弱いスライムにも勝てない情けなさを感じつつも、「サガシリーズだと、スライムはザコじゃないぞ。」と励ますシーンにはシビアさを感じます。
さらに、二人は凶暴なモンスターとしてよく登場する「オーク」に襲われます。力の差は歴然で、まともに戦えば全滅してしまいます。
パニックになりながらもオークと睨み合うシイナと、冷静に頭をフル回転させて状況を分析しているチバの心情がとてもリアルに表現されていて、二人と同じ危機感を味わっている感覚になります。
このピンチをどう切り抜けたのか、作品をチェックしてみてください。
二人は街を探しに旅に出ます。順調に旅を進め、町に着いたらやりたいことを想像しながら話していると、突然後ろから矢が飛んできてチバに刺さってしまいます。
倒れたチバにシイナが驚いていると、今度は馬に乗った集団がシイナに近寄ってきます。
その集団はシイナを棍棒で殴り、気絶させました。
そして、その集団は二人を連れてどこかに行ってしまいました。シイナとチバが歩いていた道には、二人の荷物がポツンと残ったままで...。
チートや異世界の知識が全くないだけでも厳しい状況なのに、さらに理不尽な出来事が発生してしまいました。
急に展開が変わり、「この後一体どうなるの?」と思ってしまうような緊張感の連続を味わえるのも、『異世界ありがとう』の面白いポイントとなっています。
シイナとチバはなぜ異世界転生をしてしまったのでしょうか。他にも転生した人がいるのでしょうか。
全く手がかりがないまま二人が手探りで冒険を進めていく姿に、思わず応援したくなってしまいます。
先が読めない展開が用意されているので、常にワクワクしながら読み進めることができるでしょう。