11歳で脳腫瘍を発症した坂野ご夫妻のご息女・春香さん。寛解したものの6年後再発してしまいます。そして、再再発。漫画家を目指し、ひた向きに生きてきた春香さん。そんな彼女と向き合い、支えてきた父と母のそれぞれの視点で描く闘病と介護の記録。春香さんが生きたその証をこの1冊の本にまとめています。
本書『春の香り』は、脳腫瘍という病に侵されてしまった次女・春香さんが病と闘う姿を父と母それぞれの視点で描いた闘病記です。本書を執筆されたのは、坂野ご夫妻。父である坂野貴宏さんは私立の中高一貫校で教師をされており、母である和歌子さんは専業主婦をされています。坂野家はご両親、春香さんと2つ離れた姉の京香さんを入れた4人家族。
本書では、たびたび家族でどう過ごされているかということも描かれていきます。
病とは、もちろん本人が一番大変なことは間違いありません。しかしながら、そんな本人を支えていく家族の存在もまた大きな意味を持っていることに気づかせてくれます。
春香さんはもうこの世にはいません。幼い頃から漫画家を目指し、亡くなる1カ月前まで絵本の執筆をされていました。そんな春香さんのひたむきに夢に向かう姿、学校での生活、家族と一緒に過ごす姿など細かく描かれた本書。
手術や治療の大変さ、再発してからの右半身麻痺や失語症、失われていく視力、精神症状など読み手もどんどんつらくなっていくなか、彼女が最後まで伝えたかった思いは、読了後、深く心に強く刻まれていくことでしょう。
不幸とは幸せだと気づかないこと、
敗北を認め大いに楽しむこと、
どんなところにも美しいものはある。
それこそが運命。 本書より
坂野ご夫妻は、「春香さんの生きた証」を残すため本書を執筆されました。この本を受け取った私たちは、「命とは生きるとは」。そんなことを今一度考えさせられるのではないでしょうか。この記事は、春香さんが懸命に生きたことを綴った『春の香り』について、その魅力と坂野春香さんご本人についてご紹介していきます。
本書『春の香り』は、次女・春香さんが脳腫瘍を発症し、その後の闘病生活を坂野ご夫妻が綴った闘病記です。病気のことはもちろんですが、春香さんがどのように病気と向き合い、学生生活を送ったか、家族とはどう過ごしていたかなど、春香さんの生き様を描いています。
母親の視点、父親の視点のそれぞれで描かれているというのが本書の大きな特徴です。その違いは、母と父の在り方や寄り添い方の違いに通じているようです。その視点の違いを感じることができるのも本書の魅力のひとつです。
まずは、母親の坂野和歌子さんの視点から描かれていきます。春香さんの病の兆候にいち早く気づいていたのが和歌子さんです。それは、日々子どもの健康を願い、誰よりもそばで見守っている存在であるということにほかなりません。
病に侵された娘。しかも11歳という若さ。母としてどれだけ辛く、苦しい思いをされたか。近い存在だからこそ春香さんの日々の姿も心の機微も敏感に感じ取り、彼女の支えであったであろうと感じ取れる手記となっています。
一方、父親である坂野貴宏さんは学校の先生。こちらは母親の和歌子さんとは異なる手法で描かれていきます。あくまで客観的に事実を克明に。日付を入れ日記形式で描かれています。春香さんご本人に確認しながら、彼女の思いも入れていく内容。現実に起こったことをそのまま描くことで、病の進行もより明確になっています。父の願いや思い、春香さんご自身の気持ちを残す上でも貴重な記録です。
本書を通して、悪性脳腫瘍がいかに壮絶なものなのかを知ることもできます。治療による副作用は、本人の人格をも影響を与えてしまいます。「本当は生きたいのに死のうとしてしまう」。こんな状況を乗り越えてきた春香さんとそのご家族。その記録や思いがぜひ多くの人に届いてほしいと思います。
絵本『×くん』は、18歳という若さでこの世を去った坂野春香さんが描いた作品です。彼女が11歳の時に悪性脳腫瘍を発症してしまいます。その6年後に再発。この時、右半身麻痺と失語症の障害を負うことに。さらに1年後に再再発するも、病と向き合い続けた春香さんは、最後まで夢を諦めませんでした。
春香さんの夢は大好きな漫画家になること。どんなに障害を追っても、彼女は描き続けました。利き手を左手に変え、亡くなる1ヶ月前に完成させたのが絵本『×くん』。
間違いにバツをつけることが仕事のxくんは、みんなに自分の存在を否定され、いなくなった方がいいのかと悩みます。そんなとき、ある子どもの言葉をきっかに自分の存在に価値を見出すというお話です。春香さんご本人を×くんに投影して描いたのではないとご両親は語ります。「どんな人にも存在価値はある。自分らしく生きていい」そんな春香さんの思いに触れることのできる作品です。
次女の春香さんが脳腫瘍で亡くなり、その闘病記『春の香り』を自費出版された坂野ご夫妻。「春香さんの生きた証」と書籍をしてまとめました。
その『春の香り』の映画化に乗り出したのは、映画プロデューサー・堀ともこさん。前作『いちばん逢いたいひと』では、急性リンパ性白血病を経験した実の娘をモデルに、白血病を乗り越えた少女とそのドナーになった男の人生を描きました。
映画『春の香り』は坂野春香さんのご実家がある愛知県江南市にて撮影を敢行。2025年3月7日より東海3県先行ロードショーを迎え、3月14日よりイオンシネマ板橋、アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショーとなります。
坂野春香さんの思いは絵本となり、ご両親の手記、映画化へと広がっています。彼女の生きた証は、確実に人々の胸に刻まれていくことでしょう。
<編集者レポート>
映画『春の香り』は、筆者が宣伝のサポートをしている作品です。関係者だから紹介している。その部分も確かにあります。しかしながら、坂野ご夫妻の『春の香り』や春香さんの『×くん』の素晴らしさは本物です。そして、その思いを映画という形にして、ますます広げていこうとしている映画の作り手たちの思いもまた本物です。書籍から映画まで、ぜひすべてコンプリートしてみてはいかがでしょうか。
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