日々多くのSF小説が発売されていますが、やはり名作と呼ばれるものは、時間が経っても色褪せないものです。今回は、いつになっても面白い、そんな名作のSF小説をご紹介します。
2016年に日本SF大賞受賞、特別賞を受賞した作品です。
菱屋修介が友人とゲイパレードを見に行くと、世界にアポカリプティックサウンドが響き、天使が舞い降り、世界は終わりを告げます。
修介は自分の妄想世界である月世界に逃げ込むのですが、そこから繰り広げられるパラレルワールドに、読んでいると翻弄されてしまい、まるでジェットコースターに乗っているかのような気持ちを味わえます。
- 著者
- 牧野 修
- 出版日
- 2015-07-08
ニホン語が存在しない世界や、宇宙を統一しようとする神と言語の力で戦う言語バトルなど、言語に特化したSFと言えるでしょう。
ポップな装丁からは想像もつかないような骨太なSFです。最後の最後に待ち受けるシーンがまた秀逸で、言語SFとしてあるべき結末だと思わざるを得ません。
あなたもジェットコースター言語SFなるものを、楽しんでみませんか?
「スワロウテイル」シリーズの第1作です。ある病気によって男女別に隔離されて生活している感染者たちは、それぞれのパートナーとして、翅をもつ以外は人間と同一の身体構造を持つ人工妖精と呼ばれる人造人間と暮らしています。人と同じようにパートナーを愛し、愛されるためにつくられた存在です。
揚羽は自分もまた人工妖精でありながら、狂ってしまった人工妖精を殺すという仕事を持っています。東京自治区創立二十周年を迎えた頃、不可解な連続殺人事件が起きて……。
- 著者
- 籘真 千歳
- 出版日
- 2010-06-30
表紙のかわいらしい少女の絵とは裏腹に、その内容は重く、人工妖精と人との間にある悲しい愛や、揚羽の背負っている背景など、扱うテーマとしては萌え要素などはありません。
作家本人が、夢は人工知能との結婚と公言している通り、人工知能の幸せとは何かといった、永遠のテーマがしっかりと埋め込まれています。また、独特の造語や“旧日本製”と書いて“シチズン”と読ませるようなルビふりなど、文体にも特徴があるので、SF文体好きにもおすすめです。
星雲賞を受賞した作品です。何度もドラマ化や、映画化もされているので、ご存知の方も多いかもしれません。『家族八景』、『七瀬ふたたび』、『エディプスの恋人』の3部作となっており、ここでは2作目をご紹介します。
人の心を読む能力“テレパス”を持つ火田七瀬が、同じ能力を持つ少年ノリオや、念力を使える黒人ヘンリーと出会います。迫害を恐れて、能力を隠しながら3人で暮らし始めますが、超能力抹殺をたくらむ集団に命を狙われるようになってしまいます。
1作目では通常の人間の中にテレパスである七瀬が入りこむというお話でしたが、2作目では、テレパスやテレキシネスといった超能力者同士のやりとりを存分に楽しむことができます。
また、テレパスがあるがゆえか、年齢以上の知性を発揮する3歳のノリオと七瀬の会話もかわいらしく、非能力者に囲まれた殺伐としたシーンが多いなかで非常に癒されます。
とはいえ、ストーリー全体を通した、非能力者の能力者への排他意識や、抹殺をたくらむ集団の冷酷さは、読んでいてとてもやるせない気持ちでいっぱいになります。
- 著者
- 筒井 康隆
- 出版日
ノリオ、ヘンリー、七瀬をはじめ、超能力を持つ多くの仲間が迎える壮絶な最後は、道徳や倫理とは何かを胸元に突き付けられる思いがします。
自分が超能力者だったら、あるいは身近にテレパスがいたら、自分はどうするか。そんなことを考えさせられる作品です。
言わずと知れたショートショートSFの神様ともいうべき、星新一の作品です。
元旦のお参りで、なんと福の神が自分にとりついてくれることになり、うかれていると予想外の展開になる「福の神」。画期的な発毛剤が開発され、さっそく買ってみると見事に毛が生えたが、その毛がなんと緑色だという「アフターサービス」。一人の女性をめぐって、二人の男が争う「三角関係」。
どの作品も星新一節がこれでもかというくらいに効いた、諷刺と戦慄と夢と笑いに満ちた珠玉のショートショート集となっています。
- 著者
- 星 新一
- 出版日
- 1976-12-02
最初は笑ってしまうような話も、どこか心に刺さるところがあり、人間の持つ弱さや愚かさを改めて考えずにはいられません。1976年に書かれた作品でありながら、現在でも違和感なく読むことができるのは、人間の本質をとらえているからではないでしょうか。
活字嫌いだった人が、星新一で本に目覚める方も多いといいます。今まであまり本を読んだことがない方にも、ぜひ手に取っていただきたい作品です。
『リライト』は、300年後の世界からある1冊の小説を求めてやってきた1人の美少年保彦が、ある原因によってパラドックス―過去を変えてしまう―を引き起こしてしまう話です。
物語は2002年、主人公である美雪がある理由により、10年前の自分を待つことから始まります。しかし、来るはずの自分が来ない……変わるはずのない過去がなぜ変わったのか、物語は衝撃の事実を次々と明らかにしていきます。
- 著者
- 法条 遥
- 出版日
- 2013-07-24
未来人保彦が現れたことによって崩された普通な世界。主人公である美雪のみが知るはずの真実が、実は……。
真実は一体どこへ逃げていってしまったのか、一体私たちはどこまで来てしまったのか。逃げてしまった真実は最後まで行かなければつかめません。ぜひこの作品の衝撃的で悲しすぎる結末にたどり着いてください。
未来だけでなく過去までもが不確かになってしまったこの作品は、未来を見ることは怖い、しかし過去に逃げてばかりでは前には進むことはできない、過去にしばりつけられてはいけないということを教えてくれる1冊です。
26世紀の地球が舞台。謎の増殖型戦闘機械群により、地球、そして人類は絶滅の危機にありました。敵である増殖型戦闘機械を壊滅させるべく立ち上がったのは、人間ではなく、時間戦略知性体という人工知性体。時間を行き来できるこの知性体が、戦いを繰り返し、最後に辿り着いたのは3世紀の日本、邪馬台国で……。
- 著者
- 小川 一水
- 出版日
邪馬台国の卑弥呼と、人工知性体が出会うという設定は、SFファン、歴史ファン、双方が興奮するシチュエーションではないでしょうか。人工知性体でありながら、苦悩もし、恋もする主人公が切なくて健気。
未来を救うために過去に遡りますが、過去が変われば未来も変わり、元の過去とは違う、別の平行世界が生み出されてしまいます。それを知りながらも、人類のため、戦いを続けていく人工知性体。
時間枝の分岐に少し混乱はしてしまうかもしれませんが、270ページという長編にしては短めのページ数の中で、コンパクトでありながら壮大なSF大作が味わえます。
遠い未来、この作品に出てくるような人工知性体が開発されるかもしれない。そして謎の戦闘機が地球を襲うかもしれない。その時、我々人間の立ち位置は一体何であろうか……そのように思いをはせてしまうほど、この作品の主人公は魅力的で、そして切ないのです。
戻るべき過去はもうないというのに、人類のために悲しき戦いを10万年にもおよんで続ける物語。人間ではなく、人工知性体であるからなお、愛おしく感じてしまうのだろうなと思います。
自衛隊が戦国時代にタイムスリップし、現代兵器で合戦に臨みながら、この時代における自分たちの意味や役割を探す物語『戦国自衛隊』。SF小説の金字塔としても知られる作品で、1979年・2005年にそれぞれ映画化され、2006年にもテレビドラマ化されるなど様々なメディアに発展したことで有名です。
近代兵器を装備し、日本海沿岸一帯で大演習をしていた自衛隊。そのうちの主人公である伊庭義明三等陸尉を中心とする一隊が、突如として起きた突風とそれに巻き上げられた渦に呑み込まれ、跡形もなく消えてしまいます。次に目が覚めた時、伊庭たちがいたのはなんと正真正銘の戦国時代。驚きを隠せない彼らですが、間もなく戦国武将の1人である長尾景虎(のちの上杉謙信)と邂逅し、合戦三昧の世の中へ巻き込まれていくのです。
- 著者
- 半村 良
- 出版日
景虎と手を組み、現代の兵器と戦術を駆使して幾多の合戦を潜り抜けながらも、伊庭たちはこの時代のある違いに気づいていきます。それは、自分たちがよく知っている正史と微妙にズレが生じていること。斎藤道三や織田信長が存在していないということ。そんな自分たちがよく知っている戦国時代の違いというものに疑問を抱き、「自分たちの知る歴史とは違うこの世界での自らの役割は何か?」と、考えていくようになるのです。
その疑問に答えを見出せるところまで来た物語の終盤に、伊庭たちをある最大の危機が襲います。そこで伊庭は、自分たちがこの時代に来たことでもたらされた意味というものに気付くのです。
有川浩の「図書館戦争」シリーズ。累計600万部突破のベストセラー小説で、2013年と2015年にそれぞれ1回ずつ実写映画化され、さらにテレビドラマ化やアニメ化されるなど様々なメディアに発展した作品です。
この物語の舞台となる2019年の日本では、公序良俗を乱し、人権を侵害する表現を規制するための「メディア良化法」が制定。同時に発足された「メディア良化委員会」によってあらゆるメディアが監視・検閲されることになり、文字通りの「表現の自由」が脅かされる現状となっていました。さらにこれに反抗・妨害する者には武力による容赦のない弾圧が行われるという超法規的措置に、人々は誰も逆らうことができず、ただただ情報が制限され、自由が侵されるのを見ているしかありませんでした。
しかし、そんな中で、そのメディア良化委員会による独裁と弾圧に立ち向かう者たちがいました。それが、公共図書館と、それに所属する防衛組織「図書隊」です。
- 著者
- 有川 浩
- 出版日
- 2011-04-23
主人公の笠原郁も、メディア良化委員会の行き過ぎた検閲への義憤から来る強い反抗心と、幼少期から大好きな本を守ってくれた図書隊との出会いと憧れをきっかけに、図書隊員に入隊します。しかし、そこで彼女を待っていたのは、鬼教官の堂上篤による過酷な図書隊の訓練。女性であっても一切手を抜かない堂上のスパルタ指導に苦しみながらも、図書隊への憧れと本を守るという情熱をバネにして必死に耐え抜きます。
そして、図書隊へ入隊した郁は、堂上をはじめとした図書隊の仲間たちとともに、様々な困難や出来事と、メディア良化委員会へと直向きに立ち向かっていきます。すべては、大好きな本と、本の自由のために。皆さんも郁と図書隊の仲間たちと一緒に、本と自由を守る戦いへ出かけてみませんか?
重松清による長編小説『流星ワゴン』。2002年に「本の雑誌」年間ベスト1に選ばれた作品で、2015年1月にTBSで実写テレビドラマ化されています。
主人公の永田一雄の家庭は、崩壊寸前といっていいほど酷い有様でした。妻の美代子はテレクラで男と不倫を重ねるあまり離婚を申し出てきて、息子の広樹は中学実験に失敗し、さらにイジメにあって引き籠りとなり、家庭内暴力までする始末。一雄本人も仕事はリストラとなり、地元で入院している父親の忠雄を見舞いに行った時に貰える交通費の余りで何とか食い繋いでいるようでした。しかし、その父親も癌となっており、いつ死ぬかもわからないため、一雄は「死にたい」と漠然と考えるほど絶望感に満たされていました。
父親の見舞い帰りに一人飲んだくれていると、ロータリーに1台のワゴン車が停まっているのを発見します。そのワゴン車には、なんと新聞の記事で見た5年前の交通事故で死亡した橋本義明・健太親子が乗っていたのです。
- 著者
- 重松 清
- 出版日
- 2005-02-15
「たいせつな場所へ連れて行く」そう言われ、導かれるがままに一雄が橋本親子のワゴンに乗り込んだ瞬間、そのワゴンは時間を超えて、タイムマシーンのように一雄を過去の世界へと導いたのです。そこから先は、過去の美代子や広樹との出会いと、ふたりの不倫や受験失敗というそれぞれのつまずきのきっかけを知るなど、今まで気付かず、目にしてこなかった過去の問題と直面していくことになります。そんな中、一雄は家族が抱えていた辛さや苦しみに気づき、自分も戸惑いながらも家族を助けようとするのですが、結果はいずれも失敗に終わります。
しかしそれでも、一雄は時空を超えていく中で、家族や自分自身の問題と向き合っていき、一度は死んでもいいと投げ出した人生を、本気でやり直していこうとします。人間としてもう一度やり直すために生きていこうとする姿には、皆さんも涙を誘われることでしょう。
数々のショートショートを描き続けた星新一作『おのぞみの結末』は、決して「読者」が望んだ結末ではありません。これは「登場人物」が望んだ結末です。
夢の中で起きた続きが現実世界で起きてしまう「現実」、「メロンライスにガムライス」とひたすら呟く、ある事情で大金を抱えた青年を描いた表題作「おのぞみの結末」、その他にも様々な奇妙キテレツな話が全11作盛り込まれた贅沢な1冊です。
- 著者
- 星 新一
- 出版日
- 1976-04-01
『ボッコちゃん』、『きまぐれなロボット』など、1000をも超える膨大な作品を書き続けた作家、星新一の描く物語は、おそらく読書をあまりしたことのない方でも手軽に読めるでしょう。特有の淡々とした文体でとてもユニークなストーリーで、どの作品も何とも言えない不思議な感覚になる結末を用意してくれています。
みなさんもぜひ今回紹介した1冊をまず読んでみて、星新一の不思議な世界にどっぷりつかってみてください。
必ずこの作品を読んだあと、このセリフが頭から離れなくなります。
「メロンライスにガムライス」
『悪の教典』で有名な貴志祐介のもう1冊の代表作『新世界より』は、今から1000年後、「呪力」と呼ばれる超能力を手に入れた若者たちが「社会」という名の渦に巻き込まれる話です。
神栖66町で平和に暮らしていた主人公早季。12歳のときに行われた夏季キャンプで友達4人と一緒に禁忌の場所を訪れたとき、現代の世の中に隠された重大な秘密を知り、今までの暮らしが嘘のように崩れてしまい……。
- 著者
- 貴志 祐介
- 出版日
- 2011-01-14
夏季キャンプに参加した、渡辺早季、朝比奈覚、秋月真理亜、青沼瞬、伊藤守の5人。楽しい思い出になるはずだった彼らの夏は、社会の闇を知った瞬間、いとも簡単に壊れてしまいます。
もし超能力を手にしたとしたら、あなたはどうしますか?この本は人間がそのような力を手にしたときにどのような行動に出るのかが、残酷なほど具体的に描かれています。人間の本性とはなにか、他の動物と何が違うのかが、とても考えさせられる物語です。
一人一人のキャラが個性豊かであり、またそのことが原因で楽しくもなり悲しくもなります。さらに子どもだからこそ感じることもリアルに描かれているので、ふわふわと懐かしさも感じてきます。きれいごとだけではなかなかうまく生きられないことが書かれた1冊です。全てを読み終えたとき、もしかしたら今まで見てきた世界に対する見方が変わるかもしれません。
上中下の3冊からなる『新世界より』。あまり読書をしない人は手を出しにくいとは思いますが、まずは上を読んでみてください。読み進めれば必ず続きが気になって仕方なくなるでしょう。
ある日、中生代の地層から砂時計が発見されます。その砂時計は永遠に砂が流れ続けるという不思議なもの。理論物理学研究所の助手・野々村浩三は、教授とともに砂時計が発見された古墳へと赴きます。
そして砂時計の謎を追う人々が次々に変死したり行方不明になったり、いつしか砂時計の存在を知る人間がいなくなってしまいます。その一方、未来を含む膨大な時空の中で起こる様々な出来事や戦い。果たして野々村の運命は……?
- 著者
- 小松 左京
- 出版日
この作品は物理科学的でありながら、歴史に基づいたエピソードも登場し、小松左京がいかに博学であったかを思い知らされます。
作中にはエネルギー素粒子、軌道エレベーターなどといった超科学的なキーワードが出現。さらに登場人物の関係性が複雑になることから、やや難解に感じる部分もありますが、全銀河とブラックホールを巻き込んだ、何十億年もの時空を超える壮大な戦いに圧倒されます。宇宙における、我々人間のように知性を持った生物の存在意義とは何か?そしてタイトルに込められた「果しなき流れ」の果てには何があるのか考えさせられます。
今なお読み継がれる、SF小説の金字塔。小松左京の頭の中の宇宙を垣間見ることのできる作品です。
マルドゥックシティ―〈天国への階段〉と呼ばれる螺旋状の道路が存在する都市では、階級制度がはっきりと現れ、上流階級の暮らす地域には下流社会で生きる者は行く手段を持ちません。階級によって市民は厳しく区別されるべきだというのがこの社会システムの象徴でもあります。
上流社会に属する男シェルに買われていた少女娼婦のバロットは、彼によって車ごと焼かれてしまいますが、万能兵器のネズミウフコックによって助けられます。その後自分を手にかけようとした男の行方を二人で探すことに。しかし、その男のボディーガードとしてついていたのがネズミのかつての相棒で……。
- 著者
- 冲方 丁
- 出版日
- 2010-10-08
瀕死の状態を助けられたバロットは電子機器や金属を操れる能力を手に入れウフコックと二人でシェルの犯罪を追っていきます。バロットははじめから万能兵器であるウフコックに心を開き、このヒトは自分のことをわかってくれる人だと感じとるのです。
「急に何かを察したようにウフコックが呟いた。その声の調子だけで、こちらがまだ言葉にもしていない気持ちを、ことごとく察知したのがわかった。まるで魔法だった。」
(『マルドゥック・スクランブル』から引用)
自分のことをわかってくれる人を幻滅させるようなことはしたくないと思うようになってきます。物語が進むにつれて二人の関係も変化していくので、注目しながら読むと楽しめるでしょう。
物語の後半では二人と敵の激しい戦いが繰り広げられるのですが、その敵のルックスも個性的で現実には存在しないであろうものを表現するのは難しいはずなのに詳細でわかりやすく書かれているのでイメージができやすいのです。
SFは現実とかけ離れすぎて抵抗がある方もいるかもしれませんが、この物語は自然にその世界観を想像できるので初心者の方も読みやすいのではないでしょうか。
たまには違うジャンルの作品を読んでみようかなと思っている方はぜひ『マルドゥック・スクランブル』を手にとってみてはどうでしょう。
近未来世界を舞台に、転生と死のループに捕らえられた主人公の成長と運命を描いた『AII You Need Is Kill』は、2014年にトム・クルーズを主演とし、ダグ・リーマンを監督とする形でアメリカで実写映画化された作品です。
この物語は、異星人が地球に送り込んだ「ギタイ」と呼ばれる生体兵器に襲撃を受ける地球を舞台としています。異星人が目論む惑星改造の障害となる世界の各国に侵攻してくるギタイに対し、人類は「機動ジャケット」と呼ばれるパワードスーツを投入して対抗しますが、それでも圧倒的不利な状況での戦いを強いられていました。
主人公のキリヤ・ケイジは、ギタイと戦う統合防疫軍に入隊しますが、その初出撃先がトーキョーのはるか南方、コトイウシと呼ばれる島の激戦区でした。しかも、ケイジが所属するのは寄せ集めの部隊で、ギタイに全く太刀打ちできず敗北必至の激戦を繰り広げます。そんな中、ケイジは敵弾に体を貫かれてしまいます……。
- 著者
- 桜坂 洋
- 出版日
- 2004-12-18
そこで、ケイジは命を落としたはずでしたが、次に気がついた時は、出撃の前日に戻っていました。それからまた出撃し、戦死し、そしてまた出撃し、戦死する。そんな転生と死のループを、158回近くと気が遠くなるほどケイジは繰り返すことになります。淡々とした文章で描かれているこの展開は、実感こそ湧きませんが、何度も生き返っては死ぬということ自体は、想像しただけで恐ろしいものです。そんな、恐ろしいけれど目が離せない物語を進めていく中で、ケイジはリタ・ヴラタスキという、圧倒的な戦闘力を持つひとりの少女兵士と出会うことになります。
そして、リタはキリヤのループについての秘密を知っており、彼女ともある1件を経て協力していくことになります。そこからさらに戦いは激化していき、キリヤを惑わすループの謎も徐々に明らかになっていくのです。果たしてキリヤは、ギタイの戦いとループという絶望的な状況から抜け出すことはできるのでしょうか?
SF小説、ショートショートと言えば、星新一を真っ先に思い浮かべる人もいることでしょう。『ようこそ地球さん』は全部で42の作品が収録されている1冊です。どの作品も読みやすく、最後までノンストップで読み進んでしまうでしょう
その中でも「最後の事業」は恐ろしくもあり、意思疎通の難しさを感じる星新一のショートショート作品になっています。これは現代社会を捨てて未来を生きようとする人々のお話です。コールドスリープと呼ばれる冷凍睡眠装置を使って、人間は次々に未来へ向けての眠りに入ります。そんなとき、地球に宇宙人がやってくるのです。
- 著者
- 星 新一
- 出版日
- 1972-06-19
宇宙人である彼らは地球に遭難してしまって、食料が尽きたので、食料を分けてほしいと頼むのです。けれど、言葉が通じない地球人と宇宙人。困った地球人は、冷凍睡眠で眠る頭のいい人たちに直接話してもらおうと、彼らが眠る部屋を指さします。しかし、宇宙人たちは「食料がほしい」と言う言葉に返事をもらえたと思ってしまい……というストーリー。
地球人と宇宙人とまでいかなくとも、言葉が通じない、話が通じないということは、よくあることです。それは母国語を同じとする人間同士でも同じこと。ちょっとしたボタンの掛け違いが、大きな誤解へとつながっていきます。両者の間に生まれた些細なズレが、水面に石を投げ入れたときにできる波紋のように、大きくなっていくのです。
単純なことしか言っていないからこそ、その誤解は大きくなります。お互い悪気はなくやり取りする様が余計に恐怖を覚えてしまうSF小説となっています。
台風や地震、津波など天災はさまざまあります。山本弘が描くこのSF小説の舞台となっている場所は、そんな天災の中にM(モンスター)の災害というのが含まれているのです。しかし、正義のヒーローが現れて、M(モンスター)を撃退するという普通の話ではありません。そしてなんと、人間には、このM(モンスター)を撃退する方法がないのです。
では、ただやられるばかりかというと、そういうわけではありません。天気予報や地震速報のようにM(モンスター)の襲来予報を気象庁が出しているというストーリーになっています。
- 著者
- 山本 弘
- 出版日
- 2010-06-24
このSF小説の主人公は、気象庁の職員・灰田涼です。M(モンスター)を相手にしている仕事だから、正義感に溢れた主人公なのかと思いきや、ドライな性格の持ち主。M(モンスター)を相手にする職場なのも、公務員の人事異動の結果に過ぎないと考えています。けれど、決してやる気がないわけではありません。いざというときは、真摯に職務に向き合い、真面目で実直な姿も見られるのです。
モンスターが出てくるSF小説と聞いて思い浮かぶのが、怪獣やウルトラマンなのではないでしょうか。けれど、この小説はウルトラマンや、一般的な怪獣小説とは違って、誰かが変身して闘うということはありません。ただ、淡々と仕事をこなしていくのです。派手な変身シーンはありませんが、前代未聞のモンスターが登場するSF小説となっています。
この物語は「知る」ことの意味が変わってしまった世界を描いた野崎まどのSF小説です。どんなことが知っているのか、どういう状態が知っていると言えるのか、「知ること」と「生きること」の繋がりから未来を予測する、そんなストーリーになっています。
この世界では、頭の中に脳とネットワークを直接つなぐ「電子葉」と呼ばれる人工の器官を付けることが義務付けられているのです。そして、そのことにより情報社会が発達しているのです。脳に直接情報が送られてくるので、情報はすべて「知っている」状態になっている人々。
主人公は「電子葉」を開発した人物の最後の弟子を自認する、情報庁に勤務する御野・連レル(おの・つれる)という若き官僚。彼は特権階級のクラスに属しているにも関わらず、日々を退廃的に過ごしています。
そんな連レルの師匠であり、行方不明中の道終・常イチ(みちお・じょういち)の居場所を暗号で見つけた連レルは、常イチと再会するべく、居場所へ向かうのですが……。行方をくらましてまで常イチが続けていた研究とは、どんなものなのか。その研究が世界にもたらす結果とは? 連レルが「知る」情報庁の真の姿とは?
- 著者
- 野崎 まど
- 出版日
- 2013-07-24
最初は部屋を埋め尽くすほどだったコンピューター。それがデスクトップとなり、ノートパソコンとなり、今ではスマートフォンでも、苦労することなく情報を得ることが可能となりました。ポケットにも入るサイズのスマートフォン。だんだんと小さくなっていく、情報処理のための機器。最終的に人類が行き着く情報処理は、脳への直結となるのだろうか? そんなことをリアルに感じてしまうSF小説でした。
その中で何を知ることが大切なのか、そのためには、何をすればいいのか、それを探し求める物語です。
高畑京一郎のSF小説『タイム・リープ』。1996年にラジオドラマ化、1997年に映画化された作品です。
主人公の鹿島翔香は、どこにでもいるごく普通の女子高生ですが、ある日、自分が「昨日の記憶」を喪失していることに気づきます。その証拠に彼女の日記には、自分の筆跡で書かれた見覚えのない文章がありました。日記によると、学校でもトップクラスの秀才として名の知れたクラスメート・若松和彦に相談した方がいいとのこと。
翔香の相談を受けた和彦は、半信半疑ながらも彼女の記憶を分析し、時間移動現象を突き止めるのです。
- 著者
- 高畑 京一郎
- 出版日
ライトノベルではありますが、名作SF小説といっていい作品。本作で扱われる「タイムリープ」=「時間跳躍」は意識だけが時間移動をするというもの。これにより、タイムトラベルものにつきものなタイムパラドックスの問題を回避することに成功しているのです。高度なロジック、構成を有するライトノベル史に金字塔です。
翔香と和彦は、このタイムリープが織り成す時間のパズルと格闘し、真実を追い求めていきます。果たして、その時間のパズルが組み上がった時、ふたりを待っている真実にして結末はどんなものなのでしょうか。
筒井康隆によるこのSF小説は、異世界が舞台のお話です。この世界の人たちは集団で転移することもできますし、壁抜けだってすることができるのです。でも、万能な魔法使いというわけではありません。なんでもかんでもできるわけではなく、自分の力で努力することはもちろん重要なこと。魔法も使い方を失敗すると、大変なことになってしまうという、どこか現実味を感じることができる世界です。
このSF小説の主人公はラゴスという男性です。彼は基本的な教育を受けているので、ある程度の知識があります。そしてこの知識こそがラゴスを助けることになるのです。ラゴスは、あるとき奴隷商人に売られてしまいます。奴隷として日々の生活を送るラゴスですが、持っていた知識を駆使して、だんだんとその立場を向上させていくのです。
ラゴスは最終的に奴隷であったことなど、誰も知らなかったかのような立場にまで上り詰めます。そして、その場を抜け出したあとも、やはり知識を駆使することで、どんどんと立場を向上させていく、知識の大切さを感じることができるSF小説です。
- 著者
- 筒井 康隆
- 出版日
- 1994-03-01
「学ぶ」ということが、自分の人生を大きく変えていく。どん底の中でも、知識を活用することで、どこまででも登っていくことができる。主人公の力強さと負けん気、そして知識を正しく活用するという賢さに驚かされます。知識というのは、ただ持っているだけでは意味がありません。それを上手に活用してこそ、本来の意味を成すのです。
この物語に込められたメッセージは重みを感じますが、その内容はとても読みやすく、次の展開が気になって、さくさく読み進められます。人生を考えさせられる、そんなSF小説です。
伊藤計劃による傑作のSF小説です。物語の始まりは、アメリカで起きた暴動事件。この暴動事件がきっかけとなり、世界にはウイルスが蔓延する「大災禍(ザ・メイルストロム)」が起き、これまでの政府が崩壊してしまうという大事件が起こるのです。政府がなくなり、今度は「生府」ができます。世界は、この「生府」のもと高度な医療社会へと生まれ変わるのです。
そして、「生府」は世界のために人々は「健康で幸福でなくてはならない」ということを、強要します。一見すると、とても理想的な社会構造のようにも聞こえますが、やはり強要されると人というのは反抗したくなるもの。この物語の中でも、この基本理念に主人公である霧慧トァンが「生府」に反感を抱き、少女時代に自殺を図るのです。
しかし、自殺は失敗。友人だけを亡くしてしまう結果となります。それからトァンは不法に入手した「不健康な嗜好品」を嗜むようになるのです。ですが、そのことを「生府」に知られてしまい、トァンは日本に強制送還されてしまいます。
- 著者
- 伊藤計劃
- 出版日
- 2014-08-08
強制送還された日本で、トァンは一緒に自殺を図り、失敗した友人の零下堂キアンと再会します。けれど、キアンもまた「ごめんね、ミァハ」という言葉を残し、自殺してしまうのです。実はその自殺は「生府」に反抗する、反抗勢力が起こした「集団自殺」でした。
彼らは「健康・幸福社会を壊すため、1週間以内に誰か1人を殺さなければ、世界中の人間を自殺させる」(『ハーモニー』ハヤカワ文庫より引用)と宣言します。果たして彼らの目的は何なのか。どうすればこの計画を阻止できるのか。キアンの遺した言葉の意味とは? 最後には驚くべき結末が待っている、最後のページまで油断ができないSF小説です。
今回ご紹介した作品は、どれもSF小説の名作として有名な作品ばかりです。発売からどれほど年数が経っても、やはりいい作品というのは色褪せないもの。発売当初に感じたドキドキやワクワクは、いつ読んでも感じることができます。まだ読んだことがない人は是非手に取ってみてくださいね。