漫画『君と宇宙を歩くために』は「&Sofa」ほかで連載されている、友情をテーマとした作品です。普通の学校に普通に通う、「普通」に馴染めない2人の男子高校生が主人公。知らず知らずに影響し合い、生きづらい現実に立ち向かうのが感動的なお話です。 「マンガ大賞2024」大賞受賞、「このマンガがすごい!2025」オトコ編1位選出など、高い評価を受ける本作について、あらすじや設定などから作品の魅力をご紹介します。

漫画『君と宇宙を歩くために』は2023年6月から、講談社のWeb漫画サイト「&Sofa(アンドソファ)」およびマンガアプリ「コミックDAYS」で連載されている作品です。作者は泥ノ田犬彦(どろのだいぬひこ)。既刊は6巻で、最新第6巻は2026年5月22日発売されました。
短気なせいで“普通”と馴染めないヤンキー風の少年・小林と、人との違いで“普通”には暮らせない変わり者の少年・宇野。本作は偶然が重なって生きづらさを感じる2人が出会い、それぞれが欠けたものを補うようにして、困難を乗り越えながら友情を築いていく物語です。
劇中では明言されませんが、発達障害を真っ正面から捉えた意欲作。日常の言語化しづらい息苦しさを描き出し、どんな人にも大なり小なり当てはまる内容が共感を呼んで、連載開始直後から大きな話題となりました。
本作は国内外を問わず高く評価されており、「マンガ大賞2024」大賞受賞や「このマンガがすごい!2025」オトコ編1位を始めとして、多数の賞に選出されています。
高校生2年生の小林大和は何をやっても長続きせず、家でも学校でもバイト先でも、厄介者として見られていました。どこにも居場所がなく、不良仲間の小田桐朔とつるんでだらだら過ごす日々……。
そんな時、彼のクラスに転校生の宇野啓介がやって来ます。彼はなぜか人一倍声が大きく、あまり融通の利かない風変わりな少年でした。
小林はひょんなことから、宇野が困った時に見るためのノートを持ち歩いていることを知ります。宇野が「テザー(命綱)」と呼ぶノートには、あらかじめ日々のルーチンや行動の指針が書き記されており、人と同じことをするのが難しい彼にとってそれはまさに命綱に等しいものでした。
人との違いで生きづらくても、それにめげずに工夫して乗り越えようとする――。その姿勢に感化された小林は進んで宇野と関わりを持ち、お互いの出来ないことを補い合うかのように新しい学校生活を送るようになります。
漫画『君と宇宙を歩くために』にはさまざまな人物が登場し、各々が重要な役割を果たします。通常時は脇役でも、特定のエピソードでは主役か準主役扱いでフォーカスが当たることも少なくありません。とはいえ、基本的には小林と宇野の2人が中心となって進みます。
小林大和は本作の主人公の1人。金髪ロン毛、常にしかめっ面という典型的なヤンキー風の少年です。自分が勉強を苦手とすることに複雑な思いを抱きつつ、それを認められなくて周囲に反発した結果、「扱いづらい不良」と敬遠されています。
宇野啓介はもう1人の主人公です。小林のクラスに転校してきた、宇宙にまつわるものが大好きな少年。“空気”を読むことを苦手としていて、状況に合わない大きな声で話したり、突発的な出来事に混乱したりすることが多いです。また、スケジュールに敏感で、困った時に見るための自作のノートを常に持ち歩いています。
小林と宇野に関わる大人の1人が、定年間近の男性教師・井ノ上晶です。非常に理知的かつのんびりした性格で、理系教科を担当しており、天文部の顧問でもあります。
小林と宇野2人の先輩に当たるのが、3年生男子の美川昴。常に目の下に隈があって威圧的な言動を繰り返しますが、実は単に口下手なだけです。深く考えがちな性格と思い込みによるすれ違いから、小林と噛み合わないことがしばしば。
宇野さつきは宇野の実の姉。ギャルな見た目に反してしっかりした考えの持ち主で、ありのままの弟を尊重する一方、ずっと一緒に過ごしてきたせいかやや過保護な一面があります。
小田桐朔は小林のヤンキー仲間で親友。小林と違って比較的人当たりは良く、バイトなどはそつなくこなすものの、配慮に欠けるところがあります。
そして小林のバイト先の店員である山田。教育学部出身なため指導が上手く、悩む小林の相談役になることが多いです。もう1人の頼れる大人。バイトの同僚としては、他にも望月と太田がよく登場します。
漫画『君と宇宙を歩くために』はヤンキーの小林と風変わりな宇野、性格から行動まで何から何まで違う2人の男子高校生の友情を描く作品です。
タイトルで宇宙関連の物語に思えますが、舞台は現代の高校であり、主人公は一般人に過ぎません。『君と宇宙を歩くために』の「宇宙」は「生きづらい社会」の比喩表現で、宇野が大切なノートを宇宙飛行士の命綱になぞらえて「テザー」と呼んでいることに由来します。
本作の魅力を一言で表すなら、それは「共感」。
一読すればすぐわかりますが、宇野は発達障害の一種、自閉スペクトラム症候群(ASD)です。また小林も軽度の障害、おそらく知的障害とは診断されない程度の境界知能であることが示唆されています。
主要な登場人物に発達障害があるのが明らかな一方で、作中では彼らの診断名や病院にかかっている様子は明かされません。これはあえて小林と宇野の特性を伏せることで、社会に馴染めない人々が「生きづらさ」とどう向き合うか、という本作のテーマを先入観なしで読者に伝えるために行われています(時代設定が少し前の平成に設定されているのもそのため)。
発達障害と「生きづらさ」に着目した先行作品としては、原作・萩本創八、作画・森田蓮次の『アスペル・カノジョ』があります。こちらにも「生きづらさ」を抱えた2人が登場しますが、男女の恋愛を軸として(表面的には)一方向から向き合うお話。じっとりした質感が持ち味で、こちらはこちらで読み応えがありますが、作品の印象はまったく異なります。
障害の有無に関係なく、息苦しさを感じながら生活している人は少なくありません。作中で描かれる「生きづらさ」も、突き詰めれば誰でも多かれ少なかれ感じていること。本作を読むと「生きづらさ」に共感すると同時に、そのつらさを分かち合い、乗り越えていく友情やそれを見守る視点に感動します。
筆者は初めて漫画『君と宇宙を歩くために』を読んだ時、思わず泣いてしまいました。思い入れ深い作品の結末や、情感たっぷりの感動巨編で感涙することは珍しくないでしょう。しかし本作は、第1話の時点で溢れ出る気持ちが止められなくなりました。
というか、恥ずかしながらほぼ毎話読んで(もちろん読み返しても)泣いています。普通ではないことを受け入れ、誰かに普通であることを強制されることなく、それぞれマイペースで一歩一歩進んでいく。その姿に感動、安堵、希望――そのどれでもあってどれでもない、不思議な共感を抱いて涙が止まらなくなります。
この物語への共感こそが、漫画『君と宇宙を歩くために』が多くの人に支持されている理由です。ともすればネガティブに陥りかねない発達障害をメインにして、時にコミカルな要素を入れつつ、ポジティブな作風を実現しているのが本当に見事としか言いようがありません。
本作には胸を打つ名言が多数出てきます。本当ならその名言の背景と合わせて詳しく解説するところですが、初めて読む方の感動を邪魔しないように、発言者と簡単な状況だけご紹介します。どんな場面でどんな意図が込められた名言なのかは、ぜひ実際に読んで確認してください。
「それを言ってもいーのが友達じゃん」(漫画『君と宇宙を歩くために』第1巻第2話より引用)
発言者は小林。本人は何気ないつもりで言った一言のようですが、言われた側のこれまでのことを思うと込み上げてくるものがあります。
「ひとりで100点出そうとせずに
30 40出しあって 100っぽくしましょうよ」(漫画『君と宇宙を歩くために』第3巻第8話より引用)
発言者は井ノ上先生。完璧を求める相手に対して、不完全でも補い合えばいいとアドバイスするシーンの名言です。言葉の中に、年齢を重ねた深みを感じます。
「当てずっぽうの20点よりも
内容を理解している10点の方がすごいんだよ
だから今日の君はとてもすごい」(漫画『君と宇宙を歩くために』第2巻第5話より引用)
発言者は山田。胸中に思うところのあった彼が、精一杯送ったエールです。
「自分の体と付き合うのって 難しいですよね
ゆっくり自分と仲良くなれたら良いですね」(漫画『君と宇宙を歩くために』第2巻第6話より引用)
発言者は井ノ上先生。これは名言というより前後も含めた名シーンなのですが、自分や他人と向き合うことの大切さが伝わって来ます。
「一体どのくらいの人が
『点だと思っていたものが点ではなかった』と気が付けるのでしょう
そしてそれを笑わずに教えてくれる 友と出会えるのでしょうか」(漫画『君と宇宙を歩くために』第1巻第3話より引用)
「知ると“気がつく”んだ
昨日まで自分と関係なかったことが 今日からちょっと知ってるものになる
今までなんとなくみてきた世界が ちょっとだけ広がっていく」(漫画『君と宇宙を歩くために』第3巻第10話より引用)
少し反則気味ですが、対応するセリフなのでまとめてご紹介します。
前者は井ノ上先生で、後者は小林です。当たり前にあると思っていたもの、あるいは意識していなかったものを改めて認識することで、目の前の景色が広がる――という名言。
ここで取り上げた名言はほんのわずかでしかありません。本当にいいセリフが多いので、実際に読んでみて、自分の心に響くものを探してみてください。
ある日の放課後、素行の悪い先輩に絡まれた小林は、良くも悪くも空気を読まない宇野のおかげで窮地を脱します。それ以来、小林は宇野に興味を持つようになり、そうして関わるうちに彼が持つノートについて知るのでした。
宇野は他人と歩調を合わせるのが難しく、予想外のことでパニックになりがち。彼のノートには何かあった時のために、あらかじめさまざまなことが書かれていました。
感心した宇野は宇野を見習ってメモを取り始めたところ、ちょうど壁にぶち当たっていた新しいバイト先での作業が上手く行くようになります。
- 著者
- 泥ノ田 犬彦
- 出版日
宇野に感化されて、小林がいい意味で変わるのが非常に印象的。あるキャラクターにとっての何気ないことが、他の誰かに影響するという本作を象徴するエピソードです。
自分の弱さを認めた上で、それでも前に進むのはなかなか出来ることではありません。2人の工夫も頑張りも、どちらも身につまされるものがあります。
夏休みを目前に控えて、猛勉強する小林と宇野。期末テストで赤点を取ると補習を受ける必要があるだけでなく、入ったばかりの部活に出席出来なくなるため、2人は必死になっていました。
宇野はこつこつ続けられるタイプなのでまだ大丈夫そうでしたが、問題なのは小林の方です。勉強も1つのことに集中するのも苦手で、やる気はあっても、何がわからないのかがわからない有様。
少しでも試験勉強に向き合うため、小林は宇野とともにフードコートに行くと……そこで偶然、バイト先の山田と出会います。小林は幸運にも教育学部出身だった山田の協力で、試験勉強のとっかかりを得ることが出来ました。
- 著者
- 泥ノ田 犬彦
- 出版日
目標に向かって、周囲の手を借りながらも前に進む小林のエピソード――と見せかけて、実は意外なところに主眼があるエピソードです。
人への影響は一度に一方向へ大きく起きるものではなく、些細なものでもいつでも誰からでも伝わる。名言で少し触れましたが、「点だと思っていたものが点ではなかった」という事例の1つと言えるでしょう。
宇野はスケジュールにこだわる少年でしたが、ある時ひょんなことから帰宅が遅れ、家族への連絡も忘れてしまいます。そして心配した姉さつきと口論になり、ちょっとした姉弟喧嘩に発展してしまいました。
わだかまりが消えず、ぎくしゃくする2人。対処に困ったさつきでしたが、弟が近所の祭りに行きたがっていることに気付くと、気分転換として2人で出かけることにします。
祭りの雰囲気で丸く収まる……とはいきませんでした。予想外の遭遇と悪い出来事が重なって、さつきはさらに宇野を怒らせ、あろうことか祭りの人混みではぐれてしまったのです。
頼れる者がいない中、なんとか自力で解決しようとするものの、考えれば考えるほどドツボにハマるさつき。そんな救ったのが、小林でした。
- 著者
- 泥ノ田 犬彦
- 出版日
ここに来て宇野と小林を見守っていると思われたさつきの本心が明かされます。意外な素顔と合わせてかなり衝撃的。今までよくわからなかった過去が垣間見えるので、彼女の反応にも納得出来ます。
さつきが不安に思うのも当然ですが、読者としては宇野との喧嘩も含めて、なんとか和解して欲しいところ。身近だからこそわからないこともあるという、人間関係の難しさを思い知らされるエピソードです。
漫画『君と宇宙を歩くために』の作者は泥ノ田犬彦です。静岡県出身の漫画家。ペンネームは自分を泥の中でもがく犬になぞらえて付けたらしく、字面からはわかりませんが女性です。
漫画に興味を持つようになったきっけかは、中学生時代に美術教員に紹介された五十嵐大介『海獣の子供』。その後、大学時代に『愛を喰らえ!!』などで知られるルネッサンス吉田と出会い、漫画家を志すようになります。インタビューによると、この他に伊図透や中村明日美子の影響を受けたそうです。
2022年、「アフタヌーン四季賞」秋期コンテストで『東京人魚(トーキョー・マーメイド)』が準入選し、翌年にマンガアプリ「コミックDAYS」で同作が掲載されて商業漫画家デビューしました。そして2023年6月、「&Sofa」で初連載『君と宇宙を歩くために』をスタートして現在に至ります。
泥ノ田犬彦は今のところ2作品しか発表していませんが、繊細な心理描写と印象的な画面作りに特徴があります。『君と宇宙を歩くために』においては、宇野のモデルの知り合いと自信の経験を合わせて、悩みながら生きる等身大の人生を描くよう心がけているそうです。
『東京人魚』と『君と宇宙を歩くために』でだいぶ作風が違いますし、影響を受けたと公言する漫画も多彩。まだまだ引き出しがありそうなので、連載中の『君と宇宙を歩くために』だけでなく、将来発表されるであろう作品にも期待がかかります。
漫画『君と宇宙を歩くために』は現在も連載中です。「&Sofa」以外に講談社の公式マンガアプリ「マガポケ(マガジンポケット)」でも基本無料で読めるので、気になった方はまずそちらから触れることをおすすめします。