『封神演義』に登場する個性豊かなキャラクターのなかでも、特に印象的な妲己(だっき)。圧倒的に強くて残酷非道なのに、ひたすらキュートな謎多きヒロインの魅力についてご紹介していきます。
本作の(自称)ヒロインである妲己(だっき)は、抜群のプロポーションと美貌を持つ絶世の美女。その色香で殷の紂王(ちゅうおう)を虜にしてしまう仙女です。
妖怪仙人が多く住まう金鰲島の出身で、「誘惑の術(テンプテーション)」によって紂王をたぶらかし、悪政と贅沢の限りを尽くしています。
そんな彼女は、仙人や道士たちの武器である「宝貝(パオペエ)」のなかでも特に強力な力を持つスーパー宝貝・傾世元禳(けいせいげんじょう)を所有する実力者。金鰲三強と呼ばれる道士のうちのひとりでもあり、戦闘能力もずば抜けて高いうえに、陰謀巡らす策略家としても有能……というとにかくハイスペックヒロイン(自称)なのです。
さらに、「こっちよん♡」「あはん♡」など可愛らしく語尾にハートマークを付けてしゃべるのですが、殷の民衆を焼き殺したり、刺し殺したり、果ては人肉を喰らったりといった、自らの享楽のためだけに民衆を犠牲にする残忍さも持ち合わせています。
しかし、なぜか憎めない!というよりむしろ、かわいい!と思ってしまうのが妲己です。
目的のために手段を選ばない性格も、登場するだけで場面が華やかになりる派手さも、不気味さを感じる存在感も、戦闘シーンでほとんど戦わなくても強いことが分かる威圧感も、「妲己」という存在そのものが、本作においていかに重要な存在であるかを物語っています。
また残酷な性格ながら、妹たちに対してはひたすら優しいのも、彼女のチャームポイントのひとつでしょう。
2018年に放送されたアニメ『覇弓 封神計画』では日笠陽子が、1999年のアニメ『仙界伝 封神計画』ではかかずゆみが声優を務めました。また、ミュージカル舞台版では石田安奈が演じています。
妲己の他にも魅力的なキャラクターの多い本作。他のキャラもおさらいしておきたい方は以下の記事もどうぞ。
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広大な世界観に張り巡らせた伏線、先の読めない展開など、厚みのあるストーリーに今まで数多くの読者を虜にし、1996年から2000年まで少年ジャンプで4年もの間掲載された傑作『封神演義』。 その世界観にふさわしく、数多くの登場人物が出てきますが、どのキャラクターも魅力的で人気を博しました。ここではその登場人物を徹底的に紐解き、本作の世界観も考察していきます。スマホアプリで無料で読めるので、気になった方はそちらもどうぞ。
- 著者
- 藤崎 竜
- 出版日
- 2005-07-04
とにかくキュートでセクシーな妲己。
彼女は美しさをキープするために、クレオパトラや楊貴妃も飲んでいた(?)という幻のドブロクを飲んでみたり、お風呂にゆっくりつかってみたりしながら、日々美しさに磨きをかけています。
さらに、自分が周囲の人間を魅了してやまない存在だということを自覚しており、他人を意のままに操る術を身につけているのです。それは、彼女のセリフの随所にちりばめられたメタ発言からも分かります。
上述した幻のドブロクを飲むシーンでは、「少年誌のヒロインたる者こうして美しさに磨きをかけないとねえ~ん♡」と「少年誌のヒロイン」が「かわいく美しいもの」という認識をしています。
また、「ジャンプでわらわの魅力を表現するのは困難極まるってことねん♡」など、自分がいかに魅力的でセクシーな存在であるかを充分に自覚しているのです。
だからこそのメタ発言。そしてこのセリフが読者にとって、彼女を憎めないかわいい存在として位置付けていると言っても過言ではないでしょう。
作中ではさらに、彼女が所有するスーパー宝貝「傾世元禳」を使って完成させた「誘惑の術(テンプテーション)」によって、周囲の人間を虜にしています。
「妲己のために」と身を挺して守ってくれる家臣など、彼女のキュートさに振り回されている殷の民衆がたくさんいるのです。
常に一緒にいる紂王がメロメロになってしまうのも、無理はないですね。
連載当初、読者を戦慄させた「トラウマハンバーグ」は、コミックス4巻に収録されています。
西国を治める姫昌(きしょう)は温厚な性格で、民からの信頼も厚い人物。ある日彼は、紂王から招待された「酒池肉林パーティー」へと赴き、紂王が乱心している原因は妲己にあると見破りました。
しかし、紂王と妲己を諌める発言をしたことで、朝歌(いわゆる都)の城に幽閉されることになってしまうのです。
そんな彼を助け出すために、家宝を献上して許しを得ようと、長男の伯邑考(はくゆうこう)が殷の朝歌へと訪れるところが「トラウマハンバーグ」という悲劇の始まり。
姫家の家宝3品のうち、歌を歌う珍しい猿「白面猿猴(はくめんえんこう)」が、妲己の不穏な空気に触れて興奮し、彼女の体に傷をつけてしまいました。妲己の逆鱗に触れ……。
「わらわを傷つけた罰は『死』のみよん」(『封神演義』4巻より引用)
突如始まる「妲己っ♡喜媚のっ☆昼食ばんざい!!」によって、ハンバーグの作り方が丁寧に説明されます。
「さーて今日はハンバーグをつくるわん♡」
「まずはおいしそうなひき肉を用意します♡」(『封神演義』4巻より引用)
まるでテレビの料理番組のように、手際よくハンバーグをつくる妲己とその妹の喜媚(きび)。
そうして手間ひまかけて作りあげたハンバーグを、幽閉中の姫昌の昼食として出すのです。
……一見すると、妲己が優しい皇后かのような描写となっていますが、ここでハンバーグを見た姫昌がひと言。「伯邑考」とつぶやいて涙を流すのです。
カンのよい読者は理解できていると思いますが、この「昼食ばんざい!!」で作られたハンバーグに使われた「おいしそうなひき肉」とは、伯邑考のもの。
直接的な処刑シーンや人肉が登場するシーンなどは描かれていませんが、それとなく気づくように演出されています。
それにしても妲己、こわい……。敵に回してはいけませんね。
姫昌は息子が調理されていると気づきますが、ここで「食べない」などと言えば自分の支配する国もろとも全滅させられてしまう恐れもあり、間抜けを装って泣きながら食べるのでした。
読者を混乱に陥れた「トラウマハンバーグ」とは、自分の子供の肉で作られた「人肉ハンバーグ」のこと。直接的な場面を盛り込まず、「昼食ばんざい!!」と料理番組のようにコメディテイストにすることが、せめてもの配慮だったのかもしれません。
妲己には、2人の義妹がいます。
見た目はロリータな3姉妹の真ん中・胡喜媚(こきび)と、ショートカットのクールビューティで末妹の王貴人(おうきじん)です。
胡喜媚は自称「悪徳ロリータ」で、妖怪たちからアイドル的人気を誇ります。
語尾に「☆」をつけてしゃべるなど幼さが残りますが、子どもっぽい言動や見た目に反して、かなりの実力者。何にでも変化することができる宝貝「如意羽衣(にょいはごろも)」を使いこなすほか、妲己の傾世元禳をも同時に使うという並外れた芸当をやってのけるほどです。
正体は雉鶏精(ちけいせい)と呼ばれる、時間を行き来できる雉の妖怪仙人であり、かわいいものに興味を引かれて、太公望の霊獣である四不象に好意を寄せるなど少女らしい一面も持っています。
一方末妹の王貴人の正体は、玉石琵琶。序盤で太公望との戦いに敗れて原型を晒されるという屈辱を味わいました。それ以来、彼に対して復讐心と執着心を抱いています。
妖怪仙人にとって、原型を晒されるというのはこのうえない屈辱のため、当然といえば当然ですよね。
3姉妹のなかでは比較的常識的ですが、所有する宝貝「紫綬羽衣(しじゅはごろも)」で毒蛾の鱗粉を撒き散らしたり、民衆の皆殺しも厭わなかったり、「人間なんて繁殖力が強くてゴキブリと一緒」などとのたまったりするなど、やはり姉の妲己と同様に残酷な一面を持ち合わせています。
他に対しては残酷で非道な妲己も、2人の妹にはやさしく、原型を晒された王貴人を人質にして太公望が朝歌へやってきた際には、「もう少しの辛抱よ」「憎らしや太公望」と妹を思いやる様子も描かれていました。
3人の楽しい掛け合いも、本作の見どころのひとつですよ。
金鰲三強のひとりである妲己は、戦えば相当に強いのですが、なかなか戦闘シーンに登場することはありません。どちらかといえば、裏から策略をめぐらせる策謀家です。
そんな彼女が使用する「傾世元禳」は、長い布のような形状をしたスーパー宝貝。
スーパー宝貝とは、世界に7つしかない強大な力をもつ宝貝で、なかでも「傾世元禳」は周囲を誘惑し意のままにすることができるという技を持っています。
また、「傾世元禳」によって防御力も格段にアップしているため、戦地に赴いても彼女はほぼ無傷なのです。
しかし、そもそも妲己が戦地に足を運ぶことはありないので、「傾世元禳」がその力を発揮するシーンもあまり描かれてはいません。見てみたい気もしますね。
さらに、太公望と妲己が初めて出会ったシーンでは、太公望いわく「妲己の身につけているものはすべて宝貝」であり、「一つだけでもとてつもないエネルギーを使う」そう。そんな彼女のことを恐ろしいとも言っています。
もしも妲己が本気を出して戦ったら……最強の敵と成り得たかもしれませんね。
スーパー宝貝については以下の記事をご参照ください。
漫画『封神演義』スーパー宝貝一覧!【ネタバレ注意】
中国古典小説をベースに、より壮大な物語へと進化した藤崎竜の『封神演義』。中でも、仙人たちの武器である「宝貝(パオペエ)」を駆使したバトルシーンは必見。今回は、登場する「宝貝」のうち、特に強大な力を持つ「スーパー宝貝」についてご紹介します!
- 著者
- 藤崎 竜
- 出版日
- 2005-07-04
妲己の名言といえば、物語序盤の「米や麦がないのなら点心を食べればいいじゃない♡」も捨てがたいですが、終盤での
「昔から言うでしょん♡女の心は海より深くって男にはわかんないモノなのよん♡」(『封神演義』22巻より引用)
と王天君に向かって言ったこのセリフも、名言中の名言といえるのではないでしょうか。
「歴史の道標」として、歴史を操っていた黒幕・女禍(じょか)の本体を渡すように要求され、拒んだふりをして地表へ送った妲己。
地表では太公望たちの仲間が待っていて、人質にされた本体を追いかけて地表へやってきた女禍を討つ、という作戦でした。
その真意に気づいた妲己ですが、女禍の味方であるはずの彼女が、なぜ女禍の本体を地表へ送り太公望の味方をするような行動を起こしたのか、王天君に尋ねられた際にこう述べたのです。
全然まったく、真意の説明にはなっていませんが、妲己の真の目的を知った後に読むと感慨深い言葉になっています。
秋の空のようにコロコロと変化する女心は複雑。海のように深く底が見えなくて、覗こうとすればするほど怖くなるんです。
さすが妲己。だてに多くの男性を虜にしてきたわけではありません。
王天君についておさらいしたい方は以下の記事もあわせてご覧ください。
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『封神演義』において、最強の力を持った人物・女媧。
仲間とともに地球にやってきた異星人たちのなかでも、もっとも強い力を持ち、その力で歴史を裏から操ることで、地球をかつて滅びた自分の故郷に似せて作りかえることにしたのです。
しかし、その力を恐れた仲間によって、封印されてしまいました。
封印された状態でも魂魄(いわゆる魂だけの状態)で動けるようになった女禍は、妲己と手を組み、彼女に力を与える代わりに女禍の覚醒を手助けをするように命じます。
物語の根幹である「封神計画」とは、地球を女禍の好きにさせないために、女禍を滅ぼす計画のことだったのです。
人間界の戦争(殷周革命)が終わった後、妲己は女禍がいる「蓬莱島(ほうらいとう)」に移ります。それを追って同じく蓬莱島へ向かった太公望たち。
太公望VS女禍&妲己という最後の戦いのなかで、妲己の真の目的が明らかになりました。
彼女の目的は、女禍の肉体を乗っ取り、なんと地球と融合することだったのです。
人間界と仙人界を征服するという野心にあふれていた昔の妲己は、女禍の仲間が地球と融合したという事実を知り、「なんてちっぽけな夢なの……」と、いつしか自身も地球と融合することを夢見るようになります。
そうして女禍をも欺き、まんまと女禍の肉体を手に入れた妲己は、「太母(マザー)」となってずっと太公望を見守ってゆくと告げ、地球と一体になるのでした。
地球と融合した彼女は最終決戦で女禍を下し、滅びゆく女禍とともに消えようとしていた太公望を抱きとめて、命を救うのです……。
あれ、序盤ではあんなに残酷非道だった妲己が、聖母のように輝いている……まぶしいほどのラストシーンは、きっと感動するはずですよ。
- 著者
- 藤崎 竜
- 出版日
男性キャラクターばかりの『封神演義』において、最初から最後まで登場していた数少ない女性キャラとして、また、常に主人公の太公望の上をゆく存在として君臨していた妲己。叶わないからこそ憧れる、ヒロインそのものですよね。少しでも彼女の魅力が伝わったら、ぜひ『封神演義』を手に取ってみてください。
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