『封神演義』においてキーパーソンとなるのが、金鰲「十天君」のひとりである王天君です。物語中盤より登場し、圧倒的な存在感で作品を彩る彼の複雑な事情と、見どころや魅力を紹介していきます。ネタバレを含むのでご注意ください。 本作はスマホの無料アプリでも読むことができるので、気になった方はまずはそちらからどうぞ!
妖怪仙人の住む金鰲島のなかでも、優秀な仙人たちの集まり「十天君」。そのなかでもリーダー的存在なのが、王天君です。
体格は小柄で、隈取り化粧のような顔、多数空いたピアスに長い爪など特徴的な外見をしていますが、金鰲島の三強に次ぐ実力の持ち主で、太公望に匹敵するほどの策略家です。
その策謀は、味方であっても捨て駒ように利用したり、他人の心のスキをついて追い詰めたりするような残酷なもの。妲己のそれと通じるものがあります。
ほとんどの妖怪仙人がどちらかといえば短絡的であるのに対し、王天君は狡猾で頭脳派です。さらに毒舌家でもあり、狡猾な性格をしています。
十天君は全員、異空間をつくりだして、その空間そのものを武器として使う「空間宝貝」を所有しています。そのなかでも王天君は唯一自分の好きな場所に空間をつくることができ、自分の血から作った強い酸性雨を降らせることができる「紅水陣(こうすいじん)」の使い手です。
もともとは元始天尊の直弟子で、魂魄を分割できるという特殊な性質をもつ「王奕(おうえき)」という人間でした。しかし金鰲島と崑崙山との不可侵条約が結ばれた際に、金鰲島の教主・通天教主の息子である楊戩(ようぜん)と人質交換されたことが、王天君の運命を変えてしまったと言っても過言ではないでしょう。
妖怪ばかりの金鰲島で妖気に当てられないようにと、独房のような空間に幽閉されたことで、しだいに心を蝕まれていきました。その心の闇を妲己につけこまれ、彼女の命令で動く傀儡となってしまいます。
妲己によって3つに分割された魂魄は、妖怪をベースにした肉体に入れられ、妖怪仙人である「王天君」が誕生したのです。
そしてこの王天君には、実はとんでもない秘密が隠されていたことが終盤になって発覚します。
『封神演義』の登場人物を紹介した<漫画『封神演義』の登場人物を徹底紹介!フジリューだからこんなにも面白い!>の記事もおすすめです。気になる方はぜひご覧ください。
- 著者
- 藤崎 竜
- 出版日
- 2005-07-04
王天君の本当の強さは、作品すべてを読んでみてもはっきりとは描かれていません。
崑崙山VS金鰲島という構図でくり広げられた仙界大戦時にも、自ら戦うことはほとんどなく、「十天君」のリーダーとして指揮をとって裏から対決を操っていたり、寄生宝貝生物の「ダニ」で仙人・道士の力を吸収したりするなど、戦闘員ではなくどちらかといえば参謀のような立ち位置でした。
しかし、他の十天君は自分がつくりだした「空間」のなかでしか万能になれないのに対し、王天君は「紅水陣」という自分だけの空間を自在につくることができる強力な宝貝を所有しているところからも、かなりの実力者といえるのではないでしょうか。
分かりやすい腕っぷしの「強さ」は作中では見られませんが、冷酷な手段で仙人や人間を操り、ときに破滅へと導く彼は、かなり手ごわい相手と言ってよいでしょう。
「魂がそう言っている!」(『封神演義』22巻より引用)
王天君の秘密が明かされる物語の終盤で、彼が太公望に向かって言ったセリフです。
なぜ王天君はこのようなことを言ったのでしょうか。それは、王天君と太公望が、2人で1人だからです。
幼い頃に魂魄を分けられ記憶をなくし、真実は知らないまま異なる境遇で別々に育った2人は、お互いにその事実にまったく気づかずにいましたが、魂が「こいつだ」と呼び合うほどに2人は1人の人間でした。
もう1人の自分を探して、やっと太公望にたどり着いた王天君。
そのときの彼の気持ちはどれほどのものかと想像すると、本作内でもっとも不憫でもっとも純粋なのは、実は王天君なのではないかと思えてきてしまいます。
それまでは邪悪でひねくれ者で、冷酷無比な存在だった王天君が、一気に立場を逆転した名言だといえるでしょう。
また、幼い頃に妲己に心を壊されながらも、自分自身の意思で真実を掴みとったその姿に、励まされた方も多いのではないでしょうか。
- 著者
- 藤崎 竜
- 出版日
- 2005-12-02
妲己によって魂魄を3つに分けられたため、王天君は3人いることになっています。
コミックス13巻で初登場した「王天君1」は、自分とトレードされた楊戩と、その父である金鰲島の教主・通天教主を恨んでいて、その憎しみから仙界大戦にかこつけて2人に殺し合いをさせる計画を実行。しかし自身も戦いに巻き込まれて死んでしまいます。
これにより彼はいなくなったと思われていましたが、2人目の王天君が登場するのです。
「王天君2」は殷周革命という人間同士の争いにおいて、殷の聞仲と、その親友である周の黄飛虎(こうひこ)を、自分の空間である「紅水陣」の中で戦わせました。黄飛虎が死亡すると、親友を失ったことで覚醒した聞仲により、元凶をつくった「王天君2」が命を落とします。
この時点で王天君は2度死んでいるわけですが、実は彼には、2度死ななくてはならない深い理由がありました。
最後に登場した「王天君3」は、太公望が多くの仲間を失った仙界大戦の終結後、殷周の歴史が動く瞬間に立ち会い、そのきっかけをつくることになります。
そしてこの3人目の王天君が、後にすべての真実を告白することになるとは、誰が予想したでしょうか。
漫画『封神演義』の表紙は、基本的には1冊につきひとりの登場人物が描かれています。1巻の表紙は、もちろん主人公の太公望。ここでの彼は逆立ちをしています。
2巻以降の表紙を見ていくと、みなナナメを向いたり座ったりとポーズはさまざまですが、上下の向きは正位置で描かれています。しかし13巻の表紙で、1巻と同じように逆立ちをした人物が現れるのです。
もう分かりますよね、それが王天君です。
崑崙山の仙人で周の軍師でもある太公望と、金鰲島の妖怪仙人「十天君」のリーダーである王天君。仙界大戦では敵同士として対立する2人が、なぜ同じ姿をして表紙に描かれることになったのか、そこに何かが隠されているのではないかと考えた読者も多かったようです。
この表紙の構図には、複雑に絡み合った太公望と王天君の衝撃の事実が隠されていたのでした。
表紙の構図から太公望と王天君との関係を考察しましたが、物語が佳境を迎えようとしている21巻の終盤までその事実は一切明かされません。
もちろん、それまでにも何らかの関係性は示唆されていて、太公望自身も「宿命的な何かを感じていた」というくらいには意識していました。
妲己によって3つに分けられたうち3人目の「王天君」は、女禍との戦いの前に封神されかけた太公望を救い出し、王天君自身の「空間」へと閉じ込めてしまいます。
そこで、王天君によって衝撃の事実が話されるのです。
もともと「王奕」の魂魄を元始天尊が2つに分け、1つは楊戩とトレードされ、もう1つは崑崙山に残されたということ。つまり太公望と王天君は同一人物だったのです。
すべての事実に納得した太公望は、再び王天君と融合し、「王奕」に戻ることになります。
彼らは融合したことによって失われていた記憶を取り戻し、かつて自分が始祖(地球に降り立った異星人で女禍の仲間)のひとり「伏羲(ふっき)」であったことを思い出しました。
伏羲は、「故郷が過ちを犯さなかった場合の世界を見たい」という自分勝手な考えで、何度も歴史をくり返していることを憂い、女禍を滅ぼすための「封神計画」を立てた張本人。女禍が復活した時に彼女を滅ぼすために残った、最後の始祖でした。
外見こそ太公望とほぼ同じですが、太公望の清らかさと王天君の冷徹さを兼ね備え、より策略にも磨きがかかった伏羲と女禍との最終対決が幕を開けます。
女禍の肉体を乗っ取った妲己が地球と融合したことで、再び肉体を手に入れた女禍。「もうこんな星などいらない」と、地球もろとも滅ぼしてしまおうとします。
そんな彼女を止めるべく、太公望と王天君が融合した伏羲は、崑崙山三大仙人のひとりである太上老君から受け取ったスーパー宝貝「太極図」の本来の力を発揮。他の宝貝から力を吸い取り、自分の「戦う力」へと変える方法でパワーアップしました。(スーパー宝貝については<漫画『封神演義』スーパー宝貝一覧!【ネタバレ注意】>で詳しく紹介しています。)
完全オリジナルな肉体を手に入れた女禍と、地球の生命体である「人間」の肉体に入った伏羲の間にあった力の差を補うことに成功し、怒涛の攻防がくり広げられます。
伏羲の攻撃1発1発には、最強宝貝である「雷公鞭」の力に匹敵する強大な力が込められていますが、それでもまだ5分。
女禍という存在はどうやったら倒せるのか見当もつかず、まさに最強のラスボスです。
攻防を続けるうちに、攻撃を見切られてしまった伏羲は、女禍によってついに消されてしまいます……と、そこに、これまで封神(=死)されてしまった仲間たちが集合し、伏羲へ力を分け与えるのです。
復活した伏羲は、「もう止めないか」と女禍に提案をしますが、彼女の「真に私を思うなら、戦え」という言葉に、結着をつける決断をしました。
この戦闘シーンは、これまで自分自身を武器にせず、できるだけ戦闘から遠ざかって策を弄してきた太公望が己の肉体で女禍にぶつかる貴重なシーンで、さらに女禍と伏羲という始祖の絆を垣間見ることができる名シーンです。
戦いのなかで互いの想いを理解し合った2人は、最終的に一緒に消えようとするのですが、そこに地球と融合した妲己がやってきて……。
感動と衝撃のラストシーンは必見です。
王天君の人生は、とても不遇なものだといえるでしょう。しかし、最終的には元のひとりに戻ることができました。知略、情熱、折れない心……彼の魅力は『封神演義』を読んでみるととてもよく分かります。ビジュアル系仙人の王天君に少しでも興味を持ったら、ぜひ手に取ってみてください。