『美味しんぼ』の厳選エピソード&料理ランキングベスト10!

更新:2021.11.8

日本人の多くが知る漫画作品『美味しんぼ』。グルメ漫画の金字塔として知られているこの作品の登場時、そして魅力的なエピソードを10位から1位までランキング形式でご紹介します。グルメと人情と感動が合わさった本作の魅力、とくとご賞味あれ。

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漫画『美味しんぼ』の厳選エピソード&料理ランキングベスト10!

著者
雁屋 哲
出版日

1983年より続く、長期連載グルメ漫画です。 和食、洋食、中華といった一般的な料理はもちろん、エスニックや庶民食、伝統料理など、取り上げるテーマは多岐にわたり、まさしくグルメ漫画の金字塔として第一線を走り続けた作品です。ドラマ化・アニメ化までされています。

グルメ全般における広範な知識もさることながら、「カキにはワインは合わない」「カツオにはマヨネーズが美味い」といったグルメの新常識に驚かされた読者も多いことでしょう。

しかし、グルメ漫画でありながら本作の真の魅力は、作中展開される人間ドラマにあります。

登場するキャラクターたちは、それぞれ悩みを抱えています。乗り越えられそうにない問題に直面したり、周囲の諍いに悩んだり、あるいは恋に悩んだり……。そんな彼らに、山岡士郎と栗田ゆう子は、料理を通し、解決する術を伝えるのです。

人間とは何かを、人生とは何かを教えてくれる。それが『美味しんぼ』の隠された魅力といえるでしょう。

漫画『美味しんぼ』のあらすじ

漫画『美味しんぼ』のあらすじ
『美味しんぼ』15巻

東京・銀座にある東西新聞社は、同社創立100周年記念事業として、「究極のメニュー」づくりに取り組むことを決定しました。その担当記者に選ばれたのが、文化部の記者の栗田ゆう子と、同じく文化部記者で、グータラ社員として有名な山岡士郎。

やる気なしの窓際社員だと思われた山岡ですが、その味覚は天才的で、社主含め東西新聞社社員は彼の実力を認めることになります。

一方、東西新聞社のライバル社・帝都新聞社は、東西新聞社に対抗すべく「至高のメニュー」を策定することに。 その担当として選ばれたのは、類まれなる芸術家であり、「美食倶楽部」を主宰する山岡の実の父親・海原雄山でした。

深い因縁を持つ親子は、奇しくも料理対決を繰り広げることになります。果たして、二人の確執は、料理対決にどんな影響を与えるのでしょうか。

ではまずは名エピソードのランキングを紹介する前に、そんな本作の登場人物たちをご紹介したいと思います。

『美味しんぼ』登場人物:ダメダメな主人公?山岡士郎

『美味しんぼ』登場人物:ダメダメな主人公?山岡士郎
出典:『美味しんぼ』1巻

東西新聞社で記者を務め、グータラすぎる性格ながらも、食のことになると並々ならぬ意欲と才能を見せるのが主人公の山岡。その特徴から、究極のメニューづくりを任されることになったことから物語は始まります。

同じく食に関して意欲と才能のある陶芸家の父・海原雄山とは決裂しており、実家を出てからは母親の姓を名乗っています。

彼の究極のメニューづくりの相棒であり、結婚までいたる仲となる栗田がモテモテで超可愛いのに比べ、山岡はダメ人間。

勤労意欲もなく、無神経な言動をするわ、それでいて偉そうにするわというなかなかのアクの強さです。

しかしそれだけに止まらず、毒っ気もまた彼の特徴。相手の身分に関係なく自分の気に入らないことに噛みつき、その場を荒らしまくるというアウトローぶりで読者を楽しませてくれます。

それゆえに海原とぶつかる時も火花がバチバチ。ドロドロの家族劇を見せるのです。

おそらく多くの人が持っているイメージであろう、お調子者な性格には、徐々に変化していきます。最終的には角が取れるのですが、初期の山岡もまたオツなものなので、ぜひそちらもご覧ください。

『美味しんぼ』登場人物:みんなのアイドル!栗田ゆう子

『美味しんぼ』登場人物:みんなのアイドル!栗田ゆう子
出典:『美味しんぼ』11巻

山岡と同じく東西新聞社の新人記者で、こちらも彼と同じく味覚の鋭さが買われて究極のメニューづくりに携わることになったのが栗田。アニメ作品ではナレーション役となっており、彼女目線でストーリーが進んでいきます。

栗田もまた、なかなかに変化が楽しい人物です。当初はTHE新人という雰囲気の可愛らしい少女然としていましたが、山岡に振り回されることで彼の人柄や仕事の進め方が分かってきて、結婚してからは特に頼もしくなっていきます。

山岡と栗田の馴れ初めは、ライバル新聞社が至高のメニューを始めたこと。究極のメニューづくりに割く時間が多くなり、山岡と徐々に距離を縮まっていったのでした。

そして意識しだしたところで、両者に恋敵が現れたことでその気持ちをお互い自覚。山岡が告白して付き合い始めることになります。

そんな彼女は頭が良く面倒見もいいのでモテるのですが、なぜか山岡に惚れてしまいます。ヤキモチ焼きな一面も見せます。それは結婚直前まで続き、いくつになっても可愛い栗田さん……、と読者を萌えさせてくれます。

それでいて山岡を「あんなこといつまでも気にかけてるようじゃ、去勢された牛ね」と辛辣な表現で評したり、自分に好意を持っている男性を手玉にとって操ったりもするパンチの効いた面もあります。

そんなふたりが結婚するきっかけになったプロポーズの会話はそれまでの展開を知らない読者でもキュンキュンしてしまうもの。知人が結婚したことをきっかけに山岡が「次は俺の番なんだが……」と咳払いをすると、何と栗田は「荒川夫人と三谷夫人が、いろいろ教えてくれたわ 上手な断り方を……」と笑顔で返すのです。

そんな……と愕然としたあなた。最後には祝福ムード満点になること間違いなしなので、このぜひ作品でプロポーズの結末をご覧ください。

そして結婚し、子供が生まれてからは、そんなにリアルにしなくても……と読者を戸惑わせるようなお母さんスタイルになっていきます。重量感が増し、読者としては山岡と栗田の幸せを喜んでいいのか、みんなのアイドル・栗田さんがいなくなったことを悲しめばいいのか複雑なところです。

『美味しんぼ』登場人物:風格ある美食家・海原雄山

『美味しんぼ』登場人物:風格ある美食家・海原雄山
出典:『美味しんぼ』18巻

実在の陶芸家、書家の北大路魯山人をモデルにしたと言われるのが、山岡の父である海原。一切の妥協を許さないストイックで激しい性格から、よく山岡とぶつかります。

山岡が幼かった頃は、彼のために食器をつくったり、彼自ら台所に立って料理を振舞ったりする優しい面もありましたが、それ以上に厳しい面が目立っていました。

それは山岡に対してだけではなく、妻・とし子に食事を作り直させたり、心臓疾患を患っているにも関わらずお茶を入れさせたりするという、傍若無人ぶり。それが山岡から見た彼のイメージです。

そしてとし子が亡くなり、山岡は彼女が死んだのは海原のせいだと考えていましたが、冷徹に見えていたのは海原の一面。実は海原は彼女の体調を気遣って出産をやめさせようとしたり、甲斐甲斐しく看病したりしており、主治医は彼の思いやりがとし子の命を永らえさせたとしているほどなのでした。

お互いに我の強いふたりはなかなか分かり合えなかったものの、栗田との結婚がきっかけとなって和解が進みます。

ゆう子の両親が山岡と海原の和解を結婚の条件に出したことから、形だけでも海原と和解することを決意した山岡。結婚直前になって主治医から事実を明かされてもなかなか納得しない彼でしたが、披露宴で海原からのメッセージが送られ、少しずつ歩み寄り……。

本作最大のテーマである、食の対決と、それに関わる親子の和解。45巻あたりからじっくりと深められる仲は、ずっと追いかけてきた読者からすると感慨深いものがあります。

10位:二人らしいプロポーズ【43巻】

著者
雁屋 哲
出版日
1994-02-01

究極のメニューの監修によって親密な仲となり、結果として結婚した山岡とゆう子でしたが、当初は恋仲に発展するような関係ではありませんでした。それまで、山岡とゆう子にはそれぞれアタックしてくる異性がおり、二人ともそれを知っているため、互いを意識しながらも交際に発展することはなかったのです。

そんな状況を続いたある日、山岡がサルモネラ菌にあたって入院することに。ゆう子が山岡を献身的に看病する姿を見たライバルたちは、身を引くことを決意しました。

決心した山岡は、ついにゆう子へプロポーズします。しかし、ちょっとした言葉のあやで断られたと思いこんだ山岡は、フテて逃げだす始末。 それを追いかけ、誤解を解こうとするゆう子。「じゃあ結婚してくれるってえのかよ!」と自暴自棄になって叫ぶ山岡に対し、ゆう子は「受けるわよ!」と答えました。

こうして、なんとも喧嘩腰の二人らしいプロポーズによって恋は成就。喜んだ山岡はゆう子の元へ駆け寄りますが、見事に道路の淵に足をかけて転んでしまうというオチもあります。ようやく山岡とゆう子が結婚へと踏み切った、本作の中でも重要なエピソードとなります。

加えて、サルモネラ菌の怖さについて学べるのもこのエピソードの特徴です。

日本では普段から、卵を生のまま食べることが多くありますが、海外では馴染みのない文化です。少し食べ方を誤ると、危険な状態に陥る、と山岡は身をもって教えてくれたのでしょう(そして、食べ過ぎが良くないことも)。

「生卵が危険だなんて!」「すきやきが食べられなくなるわ!」と大げさに嘆くのも本作らしさ。山岡たちがやっていたように、日本の鶏卵農家の方々に感謝しなければなりません。

9位:女らしさの活きる味【4巻】

著者
雁屋 哲
出版日
1985-11-01

山岡とゆう子は、市場で女の寿司職人・夏子に出会います。彼女は父親の跡を継いだ寿司店で、男になめられまいと、男まさりな喋り方と態度で仲買を威圧していました。

そんな夏子に興味を持った二人は取材にかこつけ、彼女の店「寿司とも」を訪ねます。いなせでカッコいい!と彼女をベタ褒めするゆう子でしたが、「女だからってバカにしている証拠だ」と反感を買ってしまいました。

しかし、そのとき訪れていた歌舞伎役者の女形の客に「ここのお寿司はごめんだ」と言われてしまいます。 なぜならここの寿司からは「男の粗暴さしか感じられない」とのこと。寿司屋としての自分を否定されたかのような言葉に、夏子は衝撃を受けました。

落ち込む夏子を、山岡はフレンチに誘いだします。そのお店のシェフは女性でしたが、夏子とは違い、女性らしい気遣いと溢れ、自信に溢れていました。その姿を見た夏子は、ようやく女性の職人の目指すべき道に気づき、振る舞いや店の雰囲気を改めるのです。

まるで舞踊のような仕草で寿司を握る姿に、かつて彼女を批判した歌舞伎役者も大絶賛。

夏子の華麗なる転身も見どころですが、男性社会のなかで働く現代女性の心に刺さるエピソードです。仕事のなかで、女らしさを大事にすることも必要なのかもしれません。

8位:一年に一度の美食【45巻】

著者
雁屋 哲
出版日
1994-04-01

究極のグルメの完成を間近にしていた頃、山岡は思い悩んでいました。ゆう子が事情を聞くと、彼は寿司屋で同席した老人に感動したのだと言います。大病をした老人は小食になり、年に一度、コハダの新子を食べるためだけに、寿司屋を訪れるのだそうです。

それを聞いた山岡は、あの老人のような謙虚な心こそが食に対するあり方であり、「究極のメニュー」は浅薄なグルメごっこだと語りました。

それに呆れたゆう子は海原雄山、岡星らに協力を仰ぎ、徳島まで寿司を食べにいくことに。二人が訪れたのは、実在する店「青柳」。そこのボウゼ(イボダイ)の寿司を、海原雄山が食べにいくようにとアドバイスをくれたのです。

ボウゼは、とても小さく、仕込みに大変な時間がかかります。その料理にかける情熱を伝えるのも「究極のメニュー」の仕事で、浅薄なグルメごっこではない、とゆう子は伝えました。山岡の苦悩も理解が出来ますが、それを説き伏せるゆう子とボウゼの寿司の説得力に納得させられるエピソードです。

料理というのは食べる側だけでなく、提供する側にとっては勝負の世界でもあります。普段何気なく口にするお寿司一つ一つにも、職人さんの工夫や苦労が詰まっているのです。

見どころは、ゆう子が海原雄山に土産を渡すシーン。ボウゼを持ってきたゆう子に対し、「余計なことを」と海原雄山は言います。「では持って帰ります」とゆう子が言うと、「チヨ、冷蔵庫に仕舞っておけ」と海原雄山はすかさずチヨに指示し、きちんと土産を受け取る、というシーンです。

素直になれない海原雄山のツンデレさが全開ですね。これ以降、ゆう子は雄山を言い負かすのが得意になってきます。

7位:愛のための我慢【9巻】

著者
雁屋 哲
出版日
1987-02-01

東京のデパートの経営者たちの会合。その会員のなかに、せっかく用意された美味しい料理にまったく手をつけない様子の稲森社長がいました。山岡とゆう子が事情を聞くと、病気になり外に出歩けなくなった奥様のために、外食を禁じていたというのです。

そんな社長のために、料理を用意することなった山岡とゆう子。二人が作ったのは、大きな陶器のなかにたくさんの具材を入れて作ったスープでした。

その名は、仏跳牆(ファッチューチョン)。「そのあまりの美味さに、僧侶が垣根を越えてくるほど」という名前の由来がある料理です。 仏跳牆のなかには、フカヒレ、干しアワビ、貝柱、数種類の漢方、さらにハクビシン(!)などを入れています。

そうして出来たスープは、滋養強壮に最適。すっかり食が細くなった奥様も召し上がれますと稲森社長に山岡は紹介します。稲森社長は今までの非礼を詫び、他の社長と和解。山岡へ感謝の意を示すのでした。

このエピソードの最大の見どころは、やはり仏跳牆でしょう。たくさんの具材を煮込んでつくる仏跳牆は、まさしく中華料理らしい料理。一度飲んでみたい!と思わせる一品です。

また、この仏跳牆は、結婚披露宴での究極のメニューにも登場します。

6位:トンカツのちょうどよさ【11巻】

著者
雁屋 哲
出版日
1987-07-01

東西新聞社に、スーパーマーケットチェーンのオーナーという中年男性・里井の投書が届きます。なんでも、とあるトンカツ屋「トンカツ大王」を探しているとのこと。理由を聴けば、そこの主人は、人生の恩人だというのです。

里井は学生だった頃、貰ったばかりのアルバイトの給料を盗まれてしまったことがありました。そこを、トンカツ大王の主人に助けられ、タダでトンカツをごちそうになります。

良い食べっぷりをする若き里井に、「トンカツをいつでも食えるくらいになれ。それが、偉過ぎもしない、貧乏過ぎもしない、ちょうどいいってことなんだ」と、親父さんは諭すのです。

本作屈指の名言として知られていることの言葉。自分の現状に満足しているのか、していないのか、悩んでいる人にとって大きなエールとなるでしょう。

その後、里井は出世。山岡らによってトンカツ屋の主と再会することになったのですが、主人はとある事情からお店を無くしていました。 事情を聞いた里井は、山岡らと大将夫妻をとあるお店に招待します。そして、そこの厨房でまたトンカツを作ってほしいと大将にお願いしました。

さっそく、大将はトンカツを披露します。トンカツ大王のトンカツは、サツマイモをたっぷり与えた種子島の黒豚を使ったこだわりの一品。肉だけてなく油にこだわりがあり、ラードを作るために黒豚の脂身が必須というほどです。

そうして出来上がったロースカツ定食。脂身の甘さが広がる極上の味に山岡たちは絶賛します。 しかし、店がなければ仕方がないと落ち込む大将。そこで、里井は店に出るようにと促します。

その店の名は、トンカツ大王。里井が、恩人の大将夫婦のために、新しいトンカツ大王を用意していたのでした。 里井は「もらってくれますね」と涙ぐんで、大将と抱き合うのでした。

本作きっての名エピソードと呼ばれるこの話は、この1シーンだけをテレビ番組で紹介されたことがあるほど。多くの読者の心に残ったエピソードでしょう。

5位:作りたての愛情【42巻】

著者
雁屋 哲
出版日
1993-10-01

今回の究極対至高の対決のテーマは「朝食」になりました。

ちょうどその頃の山岡は、ゆう子が複数の男性にアプローチをかけられているのを見て、ゆう子への恋愛感情を自覚したところ。しかし、自身の両親の関係を悪く思っていた山岡は、結婚そのものに懐疑的でした。山岡はゆう子との関係に思い悩み、二日酔いになってしまう始末。メニューどころではありません。

そこで、美食倶楽部の仲居であり、海原家に長年仕えてきたチヨが暗躍します。海原雄山の妻がかつて作った朝食のレシピを、ゆう子に教えるのです。彼女の手で再現された母の味にすっかり体調を戻した山岡。そして彼女は山岡に変わり、朝食のメニュー作りを担当すると宣言します。

対決当日。海原雄山は、和食を提案。新鮮な水、卵、ご飯におみおつけ、魚の焼いたもの、といった和の定番を披露。対するゆう子は洋食を用意します。紅茶かコーヒー、マーマレードにパン、サラダといったこちらも標準的な朝食でした。

しかし、ゆう子の用意した朝食の、バターの圧倒的な美味さが審査員を驚愕させます。 一見なんの工夫もないバター。その美味さの秘密はただ「作りたて」ということだけでした。

忙しい朝に、時間をかけなければ作れない手作りのバターを出すなど、家族への無償の愛がなければ、到底為できません。 対戦相手の海原も、「妻の作ってくれたものを思いだしたよ」と穏やかな顔を浮かべました。

朝ごはんの重要さを教えてくれるエピソード。家庭で食べる食事のなかでも、母親の愛情をよく感じられるのが、朝食というものなのかもしれませんね。作りたてのバターを塗って食べるパンの様子は、誰もが食欲をそそられた場面でしょう。

そして、このエピソードを機に、山岡とゆう子の距離はまた近づくことになります。

4位:本当に美味しいちらし寿司は?【64巻】

著者
雁屋 哲
出版日
1997-12-01

ある日、山岡夫妻の住むアパートの大家さんが大騒ぎしていました。なんでも、孫が小遣いを盗んだというのです。孫の少年に事情を聞けば、サッカー仲間の少年とその妹のためにお金が必要だったと言います。その兄妹は、急に両親が失踪し、食べるものさえなくなってしまったのでした。

事情を聞いた山岡夫妻は、兄妹を信頼できる大家さんに預けます。

数日後、兄妹の母親がようやく戻ってきました。母親は、海外赴任している夫と連絡が取れなくなり、生活に困り逃げ出してしまったと告白。一時は自殺さえ考えたと苦悩を明かしたのです。それを聞いた兄妹は、そんな母親を許すことが出来ないと怒ります。しかし山岡は、兄妹たちが本当は母を許したいことを感じ取っていました。

そんな兄妹に、山岡夫妻はお世話になっている大家さんにお礼の「ちらし寿司」を作ろうと提案します。 山岡夫妻が用意したのは、まきえび、アワビ、アナゴといった豪華な具材をふんだんに使ったちらし寿司です。

同じく、母親もちらし寿司を持ってきます。使う具材はカンピョウ、シイタケ、レンコンといった、一般的で素朴なもでした。

しかし、兄妹たちはお母さんのちらし寿司のほうが好きだと言い、そして自分たちの胸の内を打ち明けます。時を同じくして、消息が途絶えた父親も仕事を取りつけ帰国。家族は和解し、大団円を迎えました。

「グルメ漫画」というと、万人を感動させるグルメを追及する物語を連想しがちですが、本作は金をかけた豪華な料理よりも、愛情のこもった料理を尊ぶ傾向にあります。このちらし寿司の話は、家族の絆と食事がよく表現された、心に残るエピソードです。

3位:おもてなし対決【31巻】

著者
雁屋 哲
出版日

究極対至高対決、今回のテーマは、双方の新聞社が懇意にしている団社長の意見によって、「鍋料理」での対決となりました。しかし、鍋というのは、出身地によって好みが大きく分かれるもの。鍋料理に究極を求めるのは難しい、と山岡とゆう子は頭を悩ませます。

そこに現れたのが知人の京極。彼は、茶人・丿貫(へちかん)のもとへ連れだし、二人にもてなしの心を伝えます。それを「誰もが気取らず楽しく食べることこそ、究極の鍋料理」と捉えた山岡側は、高価な具材ばかりを集めた鍋ではなく、複数の出汁の鍋を用意し、そこに好きな具をお好みで投入する、「よろず鍋」を披露しました。

それに対し、至高側は五大鍋を用意。アワビのシャブシャブ、松葉カニの鍋などを披露します。

結果としては、至高側の圧勝。その理由は「山岡たちが媚びているから」とのことでした。

丿貫は「私は海原さんの鍋の方が好きだな、ずっと素直じゃよ」と答えます。 「あんなに高級な素材ばかりを使った鍋が!」と驚愕する山岡とゆう子。それに対し丿貫は「それは市場の都合でしょう。仏の目にはみな同じ」という名言を残し、あらためて海原雄山を支持するのでした。

もてなしを受ける側にとっては、値段なんて関係ない。自分に出来ることを最大限に発揮してもてなすことが、真のもてなし。その心を勘違いした究極側と、最初から理解していた至高側の格の違いがあらためて浮き彫りになるエピソードです。

さらに、この話で栗田ゆう子の名言「シャッキリポン」が登場します。本作はユーモラスな比喩表現が多いですが、ゆう子は飛びぬけてこういった発言が多いですね。

料理、名言ともども満足度の高いエピソードが、こちらの「鍋対決」でした。

2位:和解の最終回【102巻】

著者
雁屋 哲
出版日
2008-06-30

究極対至高の最後の対決は、朝食・昼食・晩餐で「いかに対決する側を喜ばせるか」というのがテーマとなりました。山岡はいまだに海原雄山を憎み、海原は山岡を相手にしません。しかし、ゆう子や周囲の長年の努力によって、親子の確執は薄らいでおり、あとは本人たちが和解するだけでした。

対決の前、ゆう子は海原にお弁当を送ります。それは、死んだ彼の妻の作ったものと同じレシピのお弁当でした。

そのお返しとして、海原は山岡夫妻にコーヒーを送ります。それは二人が今まで飲んだこともないような、最上のコーヒーでした。そんなコーヒーを渡すことで、海原は山岡に「子は父親を乗り越えていくものだ」と試練を課すのです。

究極対至高対決の日。海原雄山の出した至高のメニューは、妻との思い出が残る料理ばかりです。このように、妻の作った料理を提示することで、自分は妻の協力がなければ美食倶楽部をつくることもできなかった、自らの弱さをさらけ出したのでした。

一方、山岡は家族で食べやすい料理を提示します。それは、海原には作り得なかった、家族の団らんを表す料理でした。山岡は自分の料理のなかに、家族の団らんを求めていたのです。

最後に山岡は、海原が贈ってきたコーヒーよりさらに美味いものを作り、父を越えたことを示します。結果として、両者の対決はまたも延期。しかし、それに不満を言う者はいませんでした。

対決が終わったその日の夜、海原が用意したワインを、山岡の母親の写真の前で、親子二人は静かに飲み交わします。二人の男は究極と至高最後の料理を経て、互いの弱さを認め合い、以降、憎しみ合う心は薄れていくのです。

本作のストーリーの軸となる、山岡と海原の関係、その二人の和解が描かれているこのエピソードです。長年のファンも、この瞬間を待ちわびていたことでしょう。

以降、究極と至高の対決の担当者となるのは良三と飛沢で、「全国味めぐり」へとテーマを変化。ゆえに、この102巻が、実質上の最終巻とする声もあります。

最後の究極対至高のメニューはいずれも豪華すぎず親近感を持て、さらに「食べてみたい」と思うものばかり。本作の集大成と呼ぶべき料理ばかりです。

なかでもコーヒーは、熾烈な争いを終え、ほっと一息つかせる一服の意味合いを持っているのではないでしょうか。

1位:夫婦の真価【47巻】

著者
雁屋 哲
出版日
1994-10-01

本作で一番の名エピソードに選びたいのがこちらの話。102巻とも悩みましたが、こちらの方が賑やかどんちゃん騒ぎで『美味しんぼ』らしいと言えます。

山岡夫妻とカメラマンの金城夫妻、この二組の披露宴で、究極のメニューと至高のメニューをお披露目することが決定しました。

まず、海原雄山側が至高のメニューを提示。鯛、鯨、と豪華な料理が続いたあとで提供されたのは、なんの変哲もない家庭料理ばかりでした。ごはん、味噌汁、イワシの煮つけ、鶏の肝の煮たもの、漬物……。しかしそれは、素朴ながら、最高の素材と手間をかけて作られた料理だったのです。

さらに海原雄山は、これをかつて作ってくれた亡き妻との思い出を語ります。

やりたくもない仕事を生活のためにしていた時代。苦悩していた海に妻は、「やりたくないならやらなくていい。またあの小さな家に戻ればいいではありませんか」と語ったというのです。

海原が芸術家として大成したのは、かけがえのない夫婦の絆があったから。

結婚式の日に、これほどまで強い励ましのメッセージはないでしょう。

一方で山岡は、懐石料理を提示します。400年の歴史を持つ懐石料理こそが、究極のメニューのスタートラインであると提示しました。次いで「ここまで究極のメニューが成長できたのは至高のおかげ」と、ライバルである至高側(海原側)に感謝の意を示すのです。

山岡と海原、二人の確執が完全にほぐれた訳ではありませんが、確かに意志が通ったのを、周囲の人間は感じ取りました。

結果的に、究極・至高のメニューとも勝敗は決まらず仕舞いですが、一つの大きな決着がついたことで、会場は一気に祝宴ムードに。用意された極上の料理を食べつくし、どんちゃん騒ぎという賑やかな結末になりました。

本作らしさと魅力が集まった、作中No.1の場面です。中松警部の「美味そうな料理ばかりを出す罪で逮捕するー!」などのセリフからも、この話の良さが伝わってきますね。

長く憎み合っていた二人の和解のキッカケをつくり、究極と至高、両者の料理の根底を洗いだしたこの回こそが、『美味しんぼ』の究極であり至高のエピソードなのではないでしょうか。


おすすめのグルメ漫画を紹介した<グルメ漫画まとめ!再現したり、チャレンジしたりしたい7冊>の記事もおすすめです。気になる方はぜひご覧ください。

いかがでしたでしょうか。『美味しんぼ』らしいグルメエピソードもさることながら、グルメのあまり関わらないエピソードもまた魅力が溢れています。漫画はもちろん、アニメで観るもよし、ドラマで観るもよし。日本一のグルメ漫画は、いつ読んでも面白いですよ。

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