エラリー・クイーンでおさえておきたいおすすめの小説4選!

更新:2021.12.15

後世まで語り継がれる探偵はたくさん生まれてきました。作家エラリー・クイーンもまた、ふたりの探偵を世に生み出し、人気シリーズを多く執筆しています。作中に出てくる謎解きやトリックだけでなく、登場する探偵の魅力も作家の大きな特徴です。

ブックカルテ リンク

素性さえも騙し続けた推理作家エラリー・クイーン

エラリー・クイーンは日本にも熱烈なファンがいるほど人気の推理作家です。その正体はフレデリック・ダネイとマンフレッド・リーのいとこ同士で共作した時に用いていたペンネームでした。まずプロットとトリックをダネイが発案し、議論を重ね合わせて、リーが本文を執筆するというのがふたりの手法です。

また、エラリー・クイーンの名は作中に登場する探偵の名でもあります。彼が活躍する国名シリーズは世界中で人気を博しました。これにより推理小説全盛期であったアメリカで、アガサ・クリスティと並ぶ人気推理作家して今なお語り継がれています。

作家としてのエラリー・クイーンはバーナビー・ロスというペンネームでも別シリーズを発表しています。ダネイとリーのふたりは作家活動にもトリックを使っており、エラリー・クイーンもバーナビー・ロスを覆面作家として活動させ、クイーン=ロスであることを読者たちから隠していました。そしてクイーン=ロスであることが発表されると、ファンだけでなく周囲の人間まで驚かせたという逸話も残っています。
 

個性的な探偵が難事件をズバりと解決

エラリー・クイーンがバーナビー・ロス名義で執筆していたのは、ドルリー・レーンという名の探偵を主人公にした「悲劇」4部作でした。その記念すべき第1作目がここで紹介する『Xの悲劇 』という作品です。

事件は市電の車内で起こります。男がニコチン毒を塗りこんだ針により殺されてしまうのです。犯人がわからずお手上げ状態の警察。そこに犯人についての手がかりを持っているという市電の車掌から連絡があり、落ち合うことになりました。しかし手がかりを持っている車掌も殺されてしまいます。事件はまだ、序章に過ぎなかったのです。

著者
エラリー・クイーン
出版日

本書はエラリー・クイーンではない探偵が登場する記念すべき作品です。このドルリー・レーンという探偵には魅力的な設定が設けられています。それはレーンがシェイクスピア劇の名優だったこと、しかし聾者となったことにより引退したという経歴の持ち主であることです。そのおかげで目を閉じることで感覚をすべて遮断し、完全な沈黙世界に閉じこもって推理に全神経を集中できるという魅力を持っています。常人離れした方法で、探偵ドルリー・レーンは読者を魅了してくれるのです。

作家と探偵、ひとつの名にとっての出発点

探偵エラリー・クイーンが活躍する物語に「国名」シリーズと呼ばれるものがあります。『ローマ帽子の謎』はその記念すべき1作品目であり、作家エラリー・クイーンにとっても処女作である作品です。

内容は公演中の劇場で弁護士が毒殺される事件が発生するというもの。推理作家のエラリー・クイーンは早期に犯人と真相を暴きだしますが、物的証拠がなく、犯人逮捕に至る決め手がありません。そこで犯人にもう一度犯行をさせて、現行犯逮捕するという危ない賭けに出ることになりました。推理だけでなく、興奮たっぷりの物語になっています。
 

著者
エラリー・クイーン
出版日
2012-10-25

エラリー・クイーンの父親がニューヨーク警視であり、親子で活躍するのも本作の魅力のひとつです。息子のクイーンはビブリオフィリアで事件の合間になんとかお目当ての古書を入手したいと奔走しますが、父親に振り回されっぱなしなのが面白いです。

魅力的な町で繰り広げられる奇妙な愛憎劇

エラリー・クイーンが登場するシリーズは複数あり、そのひとつに「ライツヴィル」シリーズというものがあります。これはクイーンの創作である架空の町ライツヴィルを舞台にしたシリーズです。『厄災の町』というお話がその1作目にあたります。

本作は推理作家でもある探偵エラリー・クイーンがたまたまライツヴィルの町に立ち寄るところから始まります。この町が気に入ったクイーンは創作のためにライツヴィルに移り住むことを決意。町の不動産屋に頼みこみ、ボロボロの一軒家を購入します。そこはとあるカップルが結婚のために購入、しかし直前の大喧嘩により夫が失踪、売りに出されてしまい、購入者が心臓発作で死ぬという曰く付きの物件でした。ゆえに町の人間はこの家を「厄災の家」と呼ぶようになりました。
 

著者
エラリイ・クイーン
出版日
2014-12-05

しかしクイーンが移り住んで落ち着いたころ、疾走した夫のジムが帰ってきます。それを喜んだノーラが結婚を申し出てジムが合意。結局ふたりは「厄災の家」に住むことになり、クイーンはその一室を借りることで合意します。やがて妻のノーラは夫が妹に向けて認めた3通の手紙を発見。そこには妻が病気で死んだと未来の日付で書かれていたのです。

この作品に出てくるテーマが愛憎劇のようで面白いです。家に招かれたジムの妹が明らかに性悪女で、彼女の同行も気になります。物語の中ではノーラの妹が毒殺されてしまいますが、毒の入った飲み物は本来ノーラが飲むはずのものでした。一体誰が何の目的でノーラを殺そうとしたのか、または本当のターゲットは妹だったのか、謎が謎を呼ぶミステリー小説です。

苦悩する探偵がみせた決意とは?

華々しいように思われる探偵ですが、エラリー・クイーンは事件に関わることにより何度も苦悩しています。その苦悩が見られる作品のひとつが『九尾の猫』です。

今作の事件は実に難解で、世間を騒がせます。ニューヨークで連続殺人事件が起こりますが、被害者についての共通点は皆無。誰もが次の標的になり得るという状況に市民はパニックを起こすのです。犯人が猫と呼ばれているため、猫殺しが頻発するという事件まで発生してしまう始末。ですが9件目の被害者が発生したことにより事件は急展開を見せます。被害者全員が同じ産婦人科で生まれたことがわかるのです。

著者
エラリイ・クイーン
出版日
2015-08-21

事件の難解さも本作の魅力ではありますが、探偵エラリー・クイーンの苦悩が見られるという点が最大のポイントです。前作での失敗を引きずっていたクイーンですが今回の難事件に協力することをしぶしぶ承諾。しかし本作でも、事件に関わってしまったことによりとある失敗をしてしまいます。「失敗を繰り返すのが人間の本質である」という本作のテーマにより、完全無欠に思われる探偵が身近な人間として感じられる作品になっています。

エラリー・クイーンはふたりの作家の共同ペンネームという特質を持った作家です。そんな作家が世間を騙しながら執筆し続けた多くの物語で、魅力的な探偵が活躍し続けます。推理小説好きなら一読しておきたい作家のひとりです。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る