彼女の作品は、人間の醜さ、弱さ、羞恥をストレートに表しています。また、そんな重めのテーマですが、スタイリッシュな作画で重すぎないところも魅力的。その美しいイラストは女性を中心に人気があり、原画集が発売されるほど。 しかし、彼女の魅力は『ハッピーマニア』などを代表とする漫画です。今回はそんな安野モヨコの代表作『さくらん』以外のおすすめ漫画をご紹介いたします!
1971年3月26日生まれ、東京都出身の漫画家。高校卒業と同時に、講談社「別冊フレンドジュリエット」にてデビューします。
連載契約となるまでは岡崎京子のアシスタントをしながら漫画家としての生活をスタート。売れない日々が続きます。しかしそんな彼女に、ある時転機が訪れます。
後にドラマ化もされ、世間に安野モヨコの名を轟かせるきっかけとなった作品、『ハッピーマニア』の連載が1995年に始まるのです。そこから彼女は一躍、人気漫画家の仲間入りを果たします。
そんな安野モヨコは、生い立ちを見てみると結構な苦労家。デビュー以降、団地で一緒に暮らす家族の生計を1人で支えてきたのです。2004年に放送されたTBS系のテレビ番組「情熱大陸」に出演した際、彼女はこんなことを言っています。
「漫画を描くことで自分が鍛えられていて、なんか普通の人として生きていけるんだと思う。」
テレビに映る彼女の姿は、1日中部屋に籠って漫画をひたすら描き続ける日々なのにも関わらず、きれいにメイクを施し、ゴージャスな服を身に纏い、足元は10cm以上のピンヒールというものでした。
「自分は美人ではない」というコンプレックスから、彼女は仕事をするときでも、極力オシャレをすることを心がけているようです。そうすることで、元気になり、仕事へのパワーが湧いてくるのだと言います。これは、世の女性たちが共感できる「女性ならではの気持ち」なんじゃないでしょうか。
そんな安野モヨコの描く作品には、彼女自身の美や幸せの他に、満たされないココロを満たすために何かを探し続けている、その心の叫びが包み隠さず描かれています。だからこそ心に響き、読者の記憶に残る作品になっているのではないでしょうか。
双子の姉妹(ただしひとりはオネェ)とモデルのイケメン3人組が同居生活をするというお話です。
かつて「CUTiE」というファッション雑誌に連載されており、ドラマ化もされた安野モヨコの初期の作品です。
- 著者
- 安野 モヨコ
- 出版日
- 1999-09-01
彼女は『美人画報』という作品で、美容やファッション、インテリア、アクセサリーなどについて熱く語っていることからもわかるとおり、おしゃれが大好き。そのセンスはさまざまな作品で、登場人物たちを引き立てています。
そんな安野モヨコのおしゃれ大好き!な気持ちが炸裂しているのが本作です。登場人物はおしゃれ大好きなことはもちろん、女性陣はスタイル抜群、男性陣に関してはモデルなので言わずもがなで、見目麗しく描かれています。
1997年に発売された作品なのでファッションは多少古いところもあるのですが、今でも通用するセンスが光っています。
そしてそのスマートなキャラたちが、動く、動く。それぞれが個性を発揮して生き生きと日々を送っていくのです。
おしゃれも、生きるということもとにかく全力!という勢いが感じられる本作。最近「キラキラ」感が足りないな〜と思ったらこの作品を読んでみてはいかがでしょうか?
講談社「週刊ヤングマガジン」に2000年から2003年まで連載されていた作品です。主人公は、いわゆるスクールカーストの最下位に属する男子高校生・小松正男。
「モテたい」。彼の願いはとにもかくにもそれに尽きます。
- 著者
- 安野 モヨコ
- 出版日
- 2000-04-04
だけど自分には「モテ」の要素などひとつもないことに、正男は気づいているのです。じゃあ、どうしたらモテるのか。「モテ」は生まれ持ったものであって、後天的に身につけることは不可能なのだろうか。正男は毎日そのことばかりを考え続け、失敗と小さな成功を繰り返しながら成長していきます。
そんな彼の周りに存在するキャラクターも、非常に濃いです。モテるためにはメンズエステ!と素敵な勘違いをして、正男が足を踏み入れたメンズエステ店。そこの店長である美人姉妹との出会いが、正男の「モテ道」に大きく影響を与えます。
正男が「オニ姉妹」と心の中で呼ぶ彼女たちは、日々正男を奴隷のように扱い、自分たちの快感やストレス発散のためのオモチャにしています。しかしそのアドバイスは確信をついているものばかり。
「顔だけじゃなく自分に自信あるもん、基本的に。だからあの子はモテるよーになるよ」(『花とみつばち』より引用)
これは正男のクラスメイトの山田という、お世辞にもイケメンとは言えない、正男と同じくスクールカーストの最下位に属する男子生徒を指したオニ姉妹の発言です。山田はブサイクな外見にも関わらず自分に自信を持ち、女性に媚を売ったりするような発言や行動を一切しません。
他にも見た目は冴えないおじさんなのに超モテ男・小橋さんが、正男にモテのヒントを実践して見せて教えてくれます。
「女の人っていうのは......“花”なんです.....だからそっと包むように周りを囲んであげないと」(『花とみつばち』より引用)
こんな素敵な台詞をさらっと言ってしまう小橋さんは、正男と一緒に働く工事現場の世話係であるかすみ(地味ながら美人)と婚約中でありながら、なんとオニ姉妹の妹・キヨコにも手を出すという、超モテ男。ここでも男の「モテ」は決して見た目ではないということが証明されています。小橋さん、恐るべし!
果たして正男は「モテ」という、本当は誰しもが心の底では手に入れたいと願う勲章を掴み取ることができるのか!?全国のモテたい男子、必読です!
1996年から1997年まで『やせなきゃダメ!』というタイトルで連載され、のちの2002年、祥伝社より完結版の読み切り分も合わせて収録、改題されました。
物語の主人公は、少しぽっちゃりしたOL・花沢のこ。太っていることで、学生時代から周りの男たちに罵詈雑言を浴びせられながら生きてきました。彼女にとっての唯一の現実逃避は「食べること」。食べている間は辛い現実を忘れられる。食べていれば、安心できる……。
- 著者
- 安野 モヨコ
- 出版日
- 2002-07-08
「頭の中で声がする
食え!!食って食って食いまくれ!!そしてちからをつけるんだ
食べて力をつけるんだわ大丈夫食べてれば大丈夫」(『脂肪と言う名の服を着て』より引用)
上記は、のこが辛い現実から逃避するために、会社のトイレに籠りながら一心不乱に食べものを口に詰め込むシーンでの言葉です。はっきり言って、その姿は醜い。狂気すら感じられます。彼女は食べることに取り憑かれているのです。
だけどこの時はまだマシです。過食の先に何があるのか?想像できることはただひとつ。それは嘔吐です。
「身体にとても悪いのは知ってるけど1回だけなら……」(『脂肪と言う名の服を着て』より引用)
こう思って、のこは「食べてしまった」という罪悪感から自分の指を口からつっこみ、ついに「嘔吐」という行ために手を出します。みるみる痩せていくのこ。痩せていることで、周りの視線(特に男性からの視線)が変わっていく快感……。
のこの彼氏・斎藤君も、注目すべきキャラクターの1人です。彼はデブ専なのか、太っているのこに対し甘い言葉をかけます。
「そのままでいいよのこは!!言うほどデブじゃないって」(『脂肪と言う名の服を着て』より引用)
日本全国のポッチャリ女子から絶大な支持を得るのではないかというほどの優しい台詞を言っては、のこを愛してくれます。しかし彼には彼の、のこを「愛している」純粋ではない理由があったのです。
狂気じみているけれど同時に他人事だとは思えないのは、今の自分に満足できない、という誰しも感じたことのある気持ちを描いているから。コンプレックスを抱えて生きている全ての女性たちへ贈る、壮絶なダイエットストーリーです。
祥伝社「FEEL YOUNG」にて2013年11月から連載された作品です。安野モヨコが、『働きマン』を休載した2005年から8年ぶりに贈るストーリー漫画。安野ファンからすれば、待望の作品といえるでしょう。
- 著者
- 安野モヨコ
- 出版日
- 2015-10-08
舞台は、20世紀初頭、フランス・パリ。主人公のコレットは、パリの売春宿・メゾン・クローズ(閉じた家)に暮らす娼婦です。コレットは、惚れた男・レオン(いわゆるヒモ男)のために日夜、変態を相手に娼婦として懸命に働く一途な女の子。
コレットは、周りから見たら「男に貢ぐために身体を売っている可哀想な女」であるかもしれません。実際同じ売春宿で働く娼婦から、「バカだ」と罵られたりしています。
でも、彼女は決してバカではありません。コレットは自分がどんなことに「幸せ」を感じる人間であるかを、よくわかっているからです。
「この世の大抵のことは
そういうプレイだって思えばしのげる」(『鼻下長紳士回顧録』より引用)
コレットはレオンへの愛に心と体を震わせながら、一方でとても冷静な目も持ち合わせています。人間の三大欲求と言われる食欲・睡眠欲・性欲。この作品でも安野モヨコは、人間の幸せについて著作を通して追求しているのではないでしょうか。作中で、コレットはこんなことも思っています。
「変態とは、目を閉じて花びんの形を両手で確かめるように、自分の欲望の輪郭をなぞり、その正確な形をつきとめた人達のことである」(『鼻下長紳士回顧録』より引用)
この一文を読むと、変態が羨ましいような気さえしてきてしまいます。自分の本当の欲望に気づいている人は案外、少ないのではないでしょうか。コレットは、レオンに抱き締められて甘い台詞を言われながら、思います。
「ああ……嘘でもいい。灰色の冬の山のような日々に差すひとすじの光は、
例えそれが燐寸の燃えさしでも私の目を眩ませる」(『鼻下長紳士回顧録』より引用)
レオンは、真のジゴロ。女に「見てるだけでもいい」と思わせるような整った容姿をしています。夢のような台詞ばかり言ってはろくに働かず女の金で生活することを、きっとそんなに悪いとも思っていないでしょう。
世の中は、自分のことを普通と思い込んでいる変態と、変態と思い込んでいる普通の人で形成されているんじゃないか。そう思わずにはいられない、自分の本質とは何かを知りたい男女に読んで欲しい物語です。
「モーニング」にて2004年から連載されました。アニメ化、ドラマ化もされた安野モヨコの人気作品です。
働く女性が増えて久しくなった昨今。主人公は、出版社で働く編集者、「ワーカーホリック」の働きマン・松方弘子です。出版社で働く彼女は、いわゆる「キラキラ女子」とは正反対の生活を送っています。
- 著者
- 安野 モヨコ
- 出版日
- 2004-11-22
恋愛よりも、友達よりも、家族よりも、何より仕事優先。付き合って4年になる山城新二とのデートの約束も、面白いスクープがあればキャンセルします。住まいは中目黒のマンションということから、彼女の実入りの良さは一目瞭然です。
でも彼女だって、自分の人生に疑問を抱かないわけではありません。
毎日、家に帰るときにはメイクを落とす余裕すらないほど疲れきっていて、政治家のスキャンダルを追えば、得体の知れない誰かに追い回される。結婚して専業主婦をしている友達からは「自由で楽でいいよね」と言われ、現状は編集長になれる確約もありません。
ただ目の前にあることをひたすらこなし続ける日々……。まさに、現代の働く女性に読んで欲しい作品と言えます。
「仕事とかプライドとか礼儀とか真面目にやることとか常識とかさまざまなこと
それの7割は無意味だ
いや訂正意味などそもそもなくてもいいのだ」(『働きマン』より引用)
これは弘子が仕事をする中で、様々な働き方をするタイプの人間と関わり合いながら、見つけ出したひとつの答えといえるでしょう。仕事をしていると、理不尽なことが多々発生します。
「どうしていつもそんなとこまでやんだよやれてないことがつらくなるよ
ヒロのせいじゃないってわかってても
俺はそこまでできないんだよヒロ見てるとできない自分がダメに見えて仕方がないんだよ」(『働きマン』より引用)
仕事を家に持ち帰り深夜2時過ぎまでパソコンに向かって仕事をする弘子に、恋人の山城新二が放つ言葉です。新二は酔っ払っているけれど、酔っ払っていたからこそ言えた彼の本音であったように思います。
それにしても、辛い。これは男女逆の場合、このような展開にはなってないでしょう。「仕事と私、どっちが大事!?」なんて言う女性は今でも存在するのかもしれませんが、女性が男性に上記のような台詞を言われた方が、自分の本当の気持ちをわかってもらえてないと悲しくなるのではないでしょうか。
実際に、弘子はこの台詞をずっと引きずって深く傷つき、自分の働く意味について考え始めます。高宮さんと2人で飲んでいる席で弘子は、向かいのビルにまだたくさんの明かりがついているのを見ながら、「……みんな働いてるのか……なんのために……」(『働きマン』より引用)と、思わず溢してしまいます。そんな弘子の気持ちを見抜いているかのように、偶然出会った新聞社勤務の高宮さんはこの台詞を言うのです。
「自分のためだよ」(『働きマン』より引用)
まだまだ男性社会であるこの世の中。そんな世の中に対して、働く女性はどう対処していったらいいのか?ヒントを与えてくれる作品であることは間違いないでしょう。
安野モヨコを語るうえで、絶対にはずしてはならない作品です。祥伝社「FEEL YOUNG」にて1995年8月から2001年8月まで連載されており、ドラマ化もされました。
主人公にあだ名をつけるのであれば、「恋の暴走特急」。何と言ってもこの作品の魅力は、主人公。重田加代子、通称シゲカヨにあるといえます。
- 著者
- 安野 モヨコ
- 出版日
書店員のアルバイトとして働く24歳の加代子は、思い悩んでいました。バイト先に置いてある雑誌を開いては「今年こそ素敵な出会いが」という文言に踊らされ、しかし現実は出会った試しなどないという日々。
「ああ、なんで彼氏できないんだろうなんで?みんなどこで出会ってるの?いつになったらあたしは幸せになれるの?」(『ハッピー・マニア』より引用)
上記はアルバイト先の書店に客としてきた高田くんに、嫌なことがあった勢いで自ら電話をかけ部屋に行き、セックスした後に高田くんから堂々セフレ宣言をされた加代子の言葉。
ここでひとつお伝えしたいのは、加代子はいつも「ヤってから考える女」であるということ。そういうことに対する彼女の行動力は、目を見張るものがあります。
「あたしはなんでこんなにも彼が欲しいんだろういつもいつも心が淋しくてだれかにこの淋しさを満たしてほしくて
それは愛でしか満たされないんだって思う」(『ハッピー・マニア』より引用)
デキる美容部員の親友かつ同居人であるフクちゃんにまで見放された加代子は、孤独を感じながら自己分析をします。
加代子は、決してモテないわけではありません。恋に積極的だし、見た目もスレンダーで美人。それ故なのか彼女は出会った男たちをすぐに好きになり(正確に言うと好きだと錯覚し)、身体の関係を持ちます。
大概、その直後だけは「幸せ」を感じていられることができるのです。でもそれは結局、錯覚でしかありません。
「本当はこの世の誰もそんなの誓えない
今……愛してればいいから」(『ハッピー・マニア』より引用)
シビれる名台詞。この台詞があってこそ、この作品を最もおすすめする理由です。これは高橋(書店員時代の加代子の同僚で、東大卒のお坊ちゃま)が加代子にプロポーズしたとき、「永遠の愛など誓う自信がない」と嘆く加代子に対して言った台詞です。
ここに真実あり!ではないでしょうか。結婚式で永遠の愛を誓ったカップルの、一体何割が離婚という結末に至っていることでしょう。もちろん、誓いのとおり永遠に愛し合って人生をまっとうしたカップルがいないとは言いません。そんなことができたら、きっとそれが1番幸せなことです。
物事の本質に気付いたとき、加代子はいつも自分から「錯覚の上に成り立つ幸せ」を投げ捨てます。行動力にも、外見にも恵まれた加代子はなぜ、幾度もの失敗を繰り返し、いつまでたっても「真の幸せ」を掴めないのか?そもそも、幸せとはなんなのか。最終的に、加代子は幸せを手に入れることができるのか?
安野モヨコが描いていきたいものの根幹が、ここにある気がします。
いかがでしたでしょうか?読んでみたいと思える作品はありましたか?人間ってなんなんでしょう。街ですれ違うだけの人、名前も知らないけど顔を知っているからいつも挨拶だけ交わす人、同じ電車に乗り合わせる人、上司、同僚、先輩、後輩、学生時代からの友達、彼氏、彼女、家族、嫌いな人、好きな人、セフレ……。様々な人間関係を持ちながら、人は毎日を生きています。
生き方が多様化した現代で、人とのつながりが希薄になったと囁かれている昨今であるからこそ、自分にとって「本当に大切なものは何か」を見失わずに生きていきたいですね。安野モヨコの作品は、これからも、そういうことに気づかせてくれるヒントを、私たちに与えてくれることでしょう。