1920年代真っただ中のアメリカは第一次世界大戦という衰退と、その後の高度成長期という繁栄を経験しました。そんな時代に現れた天才作家フィッツジェラルドは、まさにその時代を象徴する作家といえます。
フランシス・スコット・フィッツジェラルドは若くして『グレート・ギャッツビー』を書きあげ、作家としての名声を手にしました。そしてアーネスト・ヘミングウェイと並び1920年代を代表するロストジェネレーション(第一次世界大戦を経験し、それまでの価値観に絶望した世代)作家のひとりと呼ばれています。
1896年にミネソタ州で生まれたフィッツジェラルドはアイルランド系の家系で育ちました。プリンストン大学に入学しますが、時代は第一次世界大戦に突入すると大学を中退し入隊します。そこで、世界が疲弊しきった戦争の過酷さと愚かさを体験し、いままでの価値観がすべて崩れ去るのでした。
戦争が終わると、アメリカは経済成長期に突入します。民衆はジャズ音楽に夢中になり、この時の栄華は「ジャズ・エイジ」と呼ばれるようになります。その反面で、人々は繁栄がいつまで続くかわからない不安を抱いていました。そんな時代において繁栄と転落を描いたフィッツジェラルドの作風は、時代にマッチしており、多くの共感を得られていました。
フィッツジェラルドの言わずと知れた代表作。第一次大戦頃の1920年代を代表するロストジェネレーション文学の最高傑作です。「華麗なるギャッツビー」と訳されることも。華やかな人生が破滅する様を描いたストーリーとなっています。
証券会社に勤めるニックが、ある島に別荘を買うことで物語が始まります。別荘の隣は毎夜毎夜とどんちゃん騒ぎのパーティーが行われていたのです。ある日そのパーティーに招待されたニックは、主催者の一代で財を成したギャッツビーと出会います。華やかに思われたギャッツビーの生活ですが、その裏では失恋した女性を取り戻すという一途な計画が込められているのでした。
- 著者
- F.スコット フィッツジェラルド
- 出版日
- 2009-09-08
書かれた時代も物語も第一次世界大戦が終わり、経済成長中の1920年代が背景となっています。その中にあって誰もが羨む華やかしい生活をしていたギャッツビー氏。ですが、失恋した女性に対する一途な思いが狂気へと変わり、破滅に追い込む物悲しさがそこにはあります。いつかバブルが終わってしまうのではないか、というアメリカの不安を存分に反映した作品です。
村上春樹によって翻訳された本作は、フィッツジェラルドという人間の魅力ががたくさんつまった短編集です。4編の短編と1編のエッセイで構成されており、役者である村上春樹のフィッツジェラルドに対するエッセイも載せられています。
表題にもなっているエッセイ「マイ・ロスト・シティー」に書かれている通り、フィッツジェラルドの元に突然、富と栄光がやってきました。「自分が全てを手にした人間であり、もうこれ以上幸せになれっこないんだってことが」(『マイ・ロスト・シティー』より抜粋)という一文の通り、瞬く間にすべてを手にしてしまった男は、その栄華がからいつか転落してしまわないかと強い不安感に襲われることになります。
- 著者
- フランシス・スコット フィッツジェラルド
- 出版日
その他にも「悲しみの孔雀」や「アルコールの中で」など栄華と陥落をテーマにしたロストジェネレーション文学らしい作品が名を連ねています。
題名にロストの文字が入っている本作。手に入れたものはやがてなくしてしまう。そんな切なさや悲しさが込められた作品ばかりです。なにかをロストした人にはおすすめといえるでしょう。
突然手に入れた栄光がいつか終わってしまうのではないかという不安を小説に書いて来たフィッツジェラルド。『夜はやさし』はその終わりを迎えてしまった男の物語です。好景気が崩壊し、大きな傷から立ち直ったばかりのアメリカ。その時代背景にマッチした作品になっています。
若手女優のローズマリーが訪れたフランスのリヴィエラで精神科医のディック・ダイバーと夫人のニコルに出会う物語です。だんだんとその夫妻に惹かれていくローズマリーでしたが、妻のニコルが精神疾患に病んでいるという事実を知ってしまいます。そしてディックの元に訪れた破滅は、ゆっくりと終わりへと向かっていくのでした。
- 著者
- フィツジェラルド
- 出版日
- 2008-06-25
繁栄も破滅もエネルギーに満ち溢れていた『グレート・ギャッツビー』に対して、本書『夜はやさし』のストーリーは緩慢に進んでいきます。まるでバスタブにぷかぷかと浮かび、天井に映る破滅を無気力に眺めている感覚に陥るでしょう。その破滅が、恐ろしくもあり最後には心地よく感じてしまう不思議な作品です。
当時のアメリカ社会を描きながら、登場人物たちの繁栄と破滅を描いてきたフィッツジェラルドですが、本作ではファンタジーを描いており、同作のタイトルを表題とした短編集に掲載されています。2008年にはデヴィッド・フィンチャー監督とブラッド・ピット主演のタッグにより実写映画化されました。
老人として生まれ、日に日に若返って行くベンジャミン・バトン。心は見た目相応で、言動も見た目相応。そんな彼が年を取るごとに若くなりながら人々と交流していく様子を描いたファンタジー作品です。
- 著者
- フィツジェラルド
- 出版日
- 2009-01-24
これまでにも人が破滅へと向かって行く数奇な人生を描いてきたフィッツジェラルド。ですが『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』では老人から若返っていくという特異な設定により、その人生には独特な異様さがでています。心も体も若返り最後にはあかちゃんに衰退してしまう男と周りとの交流を切なく描いた、ひと味違う作品です。
著者が20代の頃に書いた作品をまとめた短編集です。フィッツジェラルドのファンであることを公言している村上春樹が翻訳しています。
表題作である『冬の夢』はひとりの女を一途に愛した男の物語です。しかしデクスターの愛したジュディーは浮気者でデスクターを悩ませます。やがて訪れる別れ。別の女性との結婚生活を送っていたデクスターはやがて、ジュディーの近況を耳にし、落胆するのでした。
- 著者
- スコット・フィッツジェラルド
- 出版日
- 2009-11-25
本書には『グレート・ギャッツビー』以前に書かれた作品が載せられています。あの名作がいかにして生まれたかは、本書を読むと見えてくるかもしれません。
また本書は短編集のため、前述した『マイ・ロスト・シティー』と合わせて、長い文章が苦手な人にはおすすめの作品です。栄光と挫折がつまっているこの短編集は、あたかも長編を読んだかのような読後感に浸れますよ。
激動の時代を生きたフィッツジェラルドの書く小説は、まさにその時代そのものです。時にはエネルギッシュに時にはゆったりと描かれた波乱に満ちた人生の縮図を通して、その激動の時代を垣間見ることができます。