ガブリエル・ガルシア=マルケスはラテンアメリカ文学ブームを引き起こしたノーベル賞作家です。シンプルながら力強い文体と、不思議な描写で数々の文豪に影響を与えてきました。ラテンアメリカの情熱が詰まったガルシア=マルケスの作品を多く残しています。
ガブリエル・ガルシア=マルケスは日本にラテンアメリカ文学ブームを巻き起こしたばかりでなく、筒井康隆など日本の文筆家たちにも影響を与えました。また一度書いた小説と同じ手法や文体を使うのを避け、新しいことにチャレンジすることで有名です。独特な世界観で構成される『百年の孤独』に関して続編の依頼が出ていたのですが、それを断ったという有名な話もあります。
1928年にコロンビアで生を受けたガブリエル・ガルシア=マルケスは高校生の時から小説の執筆に挑戦しています。大学時代には他の作家志望の人たちと同様に法学科で学び、そこで交友を深めました。その大学時代にジェイムズ・ジョイスやフランツ・カフカ、フォークナーなどを読み、ガルシア=マルケスの作風の土台を作っています。またローマで映画評論を書きながら映画監督としての知識を学んだことも作品に影響しています。
ガブリエル・ガルシア=マルケスの名を世に知らしめ、ノーベル賞受賞にひと役かった要な作品です。現実世界と幻想的世界を織り交ぜた手法はまさにフランツ・カフカから影響を受けた作品と言えます。
ホセ・アルカディオ・ブエンディアとウルスラ・イグアランが自分たちの生まれ育ったコミュニティを抜け出して創設した蜃気楼の町マコンドで一族が繁栄して衰退するまでの百年間を描いた物語です。コミュニティで流行っていた近親婚の影響により奇形児が生まれる事件が続出したことで、ウルスラは近親婚を家訓で禁止します。その後、何世代にも渡って繁栄していくマコンドでしたが、家訓が破られてしまったため、マコンドは衰退の道を歩むことになります。
- 著者
- ガブリエル ガルシア=マルケス
- 出版日
ガルシア=マルケスによる本書の魅力はなんといっても、小説の舞台となっている百年間で、何世代にも渡る人物たちが物語を紡ぐことです。この手法により幾多のエピソードが連なり、その連続が一冊の小説という物語を紡いでいます。百年に渡る一族の栄光と危機をまるで神にもなった気分で見守る楽しさがあります。
幻想的な世界に巻き起こる幻想的なできごとも魅力的です。チョコレートの力で空中浮遊する神父、信じられないほどの美貌で男を魅了して天へと飛んでゆくレメディオス、死神の予言が的中させる死など。不思議で魅了されてしまうエピソードがいっぱい詰まったガルシア=マルケスの作品です。
『百年の孤独』ではマジックリアリズムという手法で現実のような世界でおこる不思議なできごとを体験できました。『エレンディラ』はガルシア=マルケスがそのマジックリアリズムの手法を用いて書いた大人のための童話です。
本作は短編集であり「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」では叔母の家に住むエレンディラが不注意で家を燃やしてしまったため、財産を取り戻すために砂漠を旅しながら叔母から男に身を売ることを強要される話です。
- 著者
- ガブリエル ガルシア=マルケス
- 出版日
- 1988-12-01
「この世でいちばん美しい水死人」では漂流物として流れてきた水死体に関する話です。その水死体を子供たちが見つけ、おもちゃにして遊ぶ様子が書かれています。
物語はどれも現実世界のできごとを描いていますが、怒るできごとはどこが現実離れをしています。不思議な感覚が味わえるガルシア=マルケスの短編がつまった1冊です。
激動の時代に秘められた恋の物語です。ガルシア=マルケスは数十年に及ぶ一途な恋愛を描きながら、老いという現実的なテーマを持った傑作です。
夫を亡くしたフェルミーナのもとにフロレンティーノ・アリーサがやってきて、彼女に「今度もまた永遠の愛を誓いたい」と告げるところから物語は始まります。そしてふたりは空想の中で1897年にまで時代が遡ります。そこで綴られるフェルミーナとフロレンティーノの初恋。しかしフェルミーナの父親は娘を名家に嫁がせたいとふたりの仲を引き裂いてしまいます。そしてコレラ撲滅に尽力するウルビーノ博士と結婚し共に年老いていくのでした。
- 著者
- ガブリエル・ガルシア=マルケス
- 出版日
- 2006-10-28
ガルシア=マルケスの本書では恋人と引き裂かれてしまった男の一途な恋が描かれています。戦争と疫病という激動の時代を生きる恋人たちの力強い生き様が描かれているのが本書の魅力です。ですがそれと同時に老いていくごとに些細なことで喧嘩になる夫婦の現実も描かれていて面白いです。
ガルシア=マルケスにしては現実的なお話ですが、不思議な描写が随所に見られるのは実にマルケスらしいです。1リットルのコロンを飲んで強い香りのする吐しゃ物を吐きだしたり、薔薇の花びらを食べながら手紙を読むなど、日常とはかけ離れた不思議も見られる作品です。
ガルシア=マルケスが放つ文体のインパクトを存分に味わうことができます。マルケスに多大な影響を受けている筒井康隆が凄いと太鼓判を押す作品です。
カリブのある国で独裁者が死亡し、その独裁政治が終わりを告げます。そこに駆けつけた群衆が見たのは驚くほど年老いた男の死体でした。そしてその男が自身の独裁政治で行った悪行の数々が時間を遡りながら語られ始めるのです。
- 著者
- ガブリエル ガルシア=マルケス
- 出版日
- 2011-04-20
ガルシア=マルケスの本作の魅力はなんといってもインパクトのある文体です。段落も鉤括弧もない文体は人称も視点もめまぐるしく変わり、とにかくパワフルです。映画の知識を深めたマルケスらしいイメージの描写がとめどなくあふれ出てくるような文章は、段落無しという読みにくさを打ち消すほど、情景が容易に想像できます。
またテーマが独裁政治ということもあり、書かれている内容は残酷で冷たいものばかりです。それをガルシア=マルケスの巧みな描写力で、幻想的で不思議な物語に仕立てあげています。
ガルシア=マルケスが川端康成の『眠れる美女』から着想を得て書かれたことで有名です。影響を受けた側も与えた側もノーベル賞作家ということで話題になりましたが、その称号にふさわしい情緒あふれる作品となっています。
語り手である老人を主人公とした物語。90歳の誕生日を迎える老人は、その当日に処女と熱い一晩を過ごそうと目標を決めます。平凡な生活をしているかに見えていた老人ですが、娼婦街で名をはせていた裏の顔があったのです。そして顔なじみだった売春宿の女主人から紹介されたのは14歳の少女でした。
- 著者
- ガブリエル・ガルシア=マルケス
- 出版日
- 2006-09-28
あらすじだけみれば老人と少女の禁断の恋を描いているように思えますが、この少女が眠り薬を飲まされて眠ったままの状態にあることから、少し毛色が変わってきます。これまで娼婦しか女を知らなかった老人が、この眠っている少女に本気で恋をします。その揺れ動く心を多くの物を見てきた老人の物哀しい文体によって書かれているので、非常に美しい作品となっています。
物語の舞台は南米コロンビアにある河のそばの小さな町。そこで起こった一件の殺人事件をめぐる短篇小説です。
この土地に住む一人のアラブ系の男、サンティアゴ・ナサールが、その土地に住む兄弟に、ある理由で殺されてしまう話なのですが、大半は、その殺人事件の起きるきっかけになった、四人姉妹の末っ子で一番の美人であるアンヘラ・ビカリオのいとこの“わたし”の視点で物語は進行していきます。
起こるべくして起こった殺人なのです。非常に残念なのですが、ある意味では町の者全員がグルです。そして起きること起きることが全て殺人事件に都合の良いかたちで、殺人事件の方向へ向かって起きてしまいます。そして、何が真実で何が真実でないのかがわかりません。
語り手である“わたし”と町の人々の証言によって事件の全容が徐々にあきらかになっていくのですが、何となく全てがうそくさいのです。
見かたによっては、アンヘラ・ビカリオのたった一言の証言の上に成り立っているだけのファンタジーに過ぎないのです。そして、そのファンタジーを町の者全員が共有しているのです。
しかし、それにしてもサンティアゴ・ナサールは本当に殺されなければならなかったのか?
おそらく”仕方なかった“のでしょう。
読了すると、彼はそういう運命だったのだ、としか言えなくなります。
- 著者
- G. ガルシア=マルケス
- 出版日
- 1997-11-28
殺人事件自体の筋は通っていて、納得もできる。確かにそうだ。なるほど合点がいくぞ。と、頭ではストーリーの流れを理解することはできます。ですが、その物語を支えている土台が、アンヘラ・ビカリオの一言だけなのです。
後半になるにつれ、次々に新しい人物が登場し、すばやく展開が変わっていきます。そのめまぐるしさに置いて行かれないように目と頭と集中力で懸命についていっていると、ある瞬間に、“フッ”とまるで酔いの中に浸っているような感覚になります。そのまどろみに引き込む手法こそが、ガルシア=マルケスの作品の魅力である、“魔術的リアリズム”の特徴なのです。作者はこの手法の完成度を高め、1982年にノーベル文学賞を受賞しました。
訳者である野谷文昭のあとがきによると、ガルシア=マルケスはこの作品を自分の最高作と呼んでいるそうです。この作品は短篇なので一気に読み終えることができます。
読んだ後には、なんとも言えない、煙に巻かれたような、狐につままれたような感じがする、悲劇とも喜劇とも呼ぶことのできる物語です。ぜひあなたもラテンアメリカ文学巨匠ガルシア=マルケスの自信作を読んでみて、物語の舞台の町人たちと同じこの現実と幻想の入り交じった心地を共有してみてはいかがですか?
それにしても、女の純潔に対する男の執念は恐ろしいです。
幻想的な町、独裁者の行為、老人と少女の恋など、ガブリエル・ガルシア=マルケスは人々の行為を時には情熱的に時には情緒的に書いてきました。現実と虚構が絡み合う迷路に読者を迷い込ませ、そこから出たくないと思わせてくれる作家です。