30代におすすめの恋愛小説6選!文庫で読めるビターなストーリー

更新:2021.12.16

人が人を好きになる。そんなシンプルなことが、大人になるにつれ、どんどん複雑になっていきます。駆け引きをしたり、相手の地位を気にしたり、ときには裏切ることも……。傷つきながらも、大切な恋に向き合う大人たちの、苦くて甘い恋愛小説を紹介します。

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夫婦それぞれに恋人ができたなら?純愛不倫恋愛小説『A2Z』

「たった二十六文字で、関係のすべてを描ける言語がある。それを思うと気が楽になる。」
(『A2Z』より引用)

タイトルの『A2Z』は、アルファベットのAからZを表しています。主人公は35歳の女性編集者、夏美。夫である一浩も同業者で、二人はライバル関係にあります。ある日、夫に恋人がいることを告白され、傷つく夏美。しかし、ほどなくして夏美にも恋人ができます。彼は、会社のそばの郵便局に勤める、成生という年下の男の子で……。
著者
山田 詠美
出版日
2003-01-15

ダブル不倫という設定だけを見ると、ドロドロとした人間関係を想像しますが、この小説にはどこか爽やかさすら感じられます。登場人物がそれぞれ魅力的で、みんな一癖あるけれど、どこか憎めない人たちばかり。浮気というずるいことをしながら、相手のことを想ったり、真剣に悩んだりする夏美たち。最後には、ついに決断を迫られるときを迎えます。

いくつになっても恋愛は人を自分勝手にさせる。だけど、大人だからこそ、発見できる喜びもある。夫婦とは、そして恋愛とは何であるのか、考えさせられる作品です。主要人物たちが編集者や小説家であることから、自然と小説や文字に関する話題が多く、本が好きな人にとっては二重に楽しめる内容となっています。

また、人気作『ぼくは勉強ができない』の主人公の母親「時田さん」が登場することも、山田詠美ファンの方には注目のポイントです。

逃れることのできない中毒。くせになるおすすめ恋愛小説『恋愛中毒』

主人公は離婚歴のある女性水無月。同じ会社に勤める男性社員からは「地味なおばさん」と思われています。物語は、水無月が男性社員に、過去の出来事を打ち明けるところから始まります。

「私は好きな人の手を強く握りすぎる。相手が痛がっていることにすら気がつかない。」(『恋愛中毒』より引用)
著者
山本 文緒
出版日

夫と離婚した水無月は、もう恋愛はしないと心に決めていました。しかし、バイト先に来ていた有名作家の創路と出会い、彼のファンであった水無月は、奥さんがいると知りながら恋に落ちてしまいます。彼女の他にも愛人がいる創路に対し、健気に尽くすことで、大きな信頼を得る水無月。順調に進んでいるように思われたのですが、彼の娘が登場することで、徐々に歯車が狂っていきます。

創路に対し、強い執着心を見せ始める水無月。これはどこか普通ではないぞと、読者が感じた時にはもう、泥沼にはまっています。徐々に明らかになる、その違和感の正体に、惹きつけられるとともに、恐ろしさを覚えることでしょう。誰もが陥る危険性のある、『恋愛中毒』を巧みに描いた、最後まで目の離せない作品です。

ハンバーガー屋で見つけた本物の恋?海外名作恋愛小説『ぼくの美しい人だから』

今回紹介する中では、唯一の海外小説です。美男子で潔癖症のエリート会社員マックスと、ずぼらで決して美人ではないハンバーガーショップ店員のノーラ。世界の違うふたりが、ひょんなことから恋に落ちます。しかし、27歳のマックスに対し、ノーラは何と14歳も年上の女性です。どんどん彼女に惹かれていくマックスですが、どうしても知り合いに紹介することができなくて……。
著者
グレン サヴァン
出版日

勢いから始まった二人の恋が、徐々に純愛へと変わっていく様子が、生き生きと描かれています。小説の中のノーラは、第三者から見るとどうにも美しいとは言い難い人物ですが、マックスにとってはかけがえのない存在。翻訳にあたって、原題の『ホワイト・パレス』から変更された、『ぼくの美しい人だから』という日本語版のタイトルも素敵ですね。

終盤では、マックスの上司に自分の存在を隠されたことをきっかけに、離れていってしまうノーラ。彼女を追いかけてニューヨークまで来たマックスの決断とは……。二人の鼓動が伝わってくるような、躍動感のあるラストとなっています。

今を大切に生きる恋人たち。おすすめ傑作恋愛小説『眠れぬ真珠』

17歳年の離れた男女の恋愛を描いた小説です。主人公は、女性版画家として、充実した生活を送る45歳の咲世子。ただし、妻のいる男と愛人関係にあり、少し荒んだ恋愛をしています。そんな中、いつものように訪れたカフェで、素樹という28歳の青年と出会い、彼の手にどうしようもなく惹かれた咲世子は……。
著者
石田 衣良
出版日
2008-11-27

更年期障害に悩み、恋愛にも希望を持っていなかった咲世子が、素樹と関わることで、どんどんと無防備になっていく様子が美しい。そして、考え方や版画作りにおいても、新しい発見が生まれていきます。彼女の心の不純物を取り除いてしまうような、真っ直ぐな青年の眩しさが、読んでいるだけで伝わってくるようです。

また、ふたりの間には年の差以外にもさまざま障害があります。元愛人の恋人から嫌がらせを受けるシーンなどはぞっとするほどの迫力です。女性の感情の描写があまりにも繊細で、巧みであることから、小説の作者が男性だということも忘れるほど。そして、とうとう悩んだ末に、素樹から身を引こうとする咲世子。ふたりはどのような結末を迎えるのでしょうか?

愛してる。だから死んで欲しい。『美しい心臓』

死んでほしいと願ってしまうほどの愛情が描かれている本作。

主人公は、DV夫から逃げ出し、周りも見えなくなってしまうほど人を愛してしまいます。お互いに家庭があるにもかかわらず、心から純愛だと信じ不倫だと気づけない主人公。他の人に奪われるくらいなら死んでほしいとさえ考えてしまいますが、果たしてそれは本当に愛なのでしょうか。はたまた逃げ場として彼に依存してしまった哀れな女性の話なのでしょうか。

出口の見えない不毛な恋愛の中で、彼女が出した答えとは……。

著者
小手鞠 るい
出版日
2016-01-28

本作は不倫がテーマです。多くの人が嫌悪感を抱くであろうテーマですが、作者の丁寧な心理描写によって主人公の心のうちが見えてきます。

愛しているから死んでほしい。矛盾しているような想いが痛いくらいに伝わってくる作品です。ゴールの見えない恋愛の中で、彼女は迷い続け1つの答えを出します。

愛している人にただ生きていてほしい、そう思える美しい心臓を彼女が持つまでの軌跡です。

魔女と呼ばれた女の真実とは?純真な毒婦の恋愛小説『真珠夫人』

魔女、妖婦、蜘蛛、孔雀……。男たちからさまざまに表現される、瑠璃子という主人公の女性。純真であった少女を魔女に変えてしまった出来事、そして、瑠璃子を取り巻く人々の苦悩が描かれています。
著者
菊池 寛
出版日

10代の頃の瑠璃子は、恋人との幸せな将来を夢見る、美しく純粋な少女でした。しかし、成金の勝平の策略にはまり、その男の妻になることに。初恋を奪われ、お金で狂わされた人生に絶望した彼女は、世間への復讐を誓います。夫の死後、男たちを自宅のサロンに集わせて、もてあそぶ瑠璃子。その結果、間接的ではあるものの、一人の青年が命を落としてしまいます。渥美信一郎という男に、行いを改めるように警告されますが、瑠璃子は平然とした様子。

「男性は女性を弄んでよいもの、女性は男性を弄んでは悪いもの、そんな間違った男性本位の道徳に、妾は一身を賭しても、反抗したいと思っていますの。」(『真珠夫人』より引用)

何を言われても強気な瑠璃子でしたが、実は彼女にも大きな弱みがありました。初恋の人である直也と、義理の娘の美奈子です。そして、そのことが後に悲劇を生むことに……。600ページ近い長編小説ですが、メリハリのある内容で、最後まで飽きることなく読み進められます。妖美な魔女に秘められた真実に、当惑を禁じ得ない、驚きのラストにも注目です。
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