今を大切に生きる恋人たち。おすすめ傑作恋愛小説『眠れぬ真珠』
17歳年の離れた男女の恋愛を描いた小説です。主人公は、女性版画家として、充実した生活を送る45歳の咲世子。ただし、妻のいる男と愛人関係にあり、少し荒んだ恋愛をしています。そんな中、いつものように訪れたカフェで、素樹という28歳の青年と出会い、彼の手にどうしようもなく惹かれた咲世子は……。
- 著者
- 石田 衣良
- 出版日
- 2008-11-27
更年期障害に悩み、恋愛にも希望を持っていなかった咲世子が、素樹と関わることで、どんどんと無防備になっていく様子が美しい。そして、考え方や版画作りにおいても、新しい発見が生まれていきます。彼女の心の不純物を取り除いてしまうような、真っ直ぐな青年の眩しさが、読んでいるだけで伝わってくるようです。
また、ふたりの間には年の差以外にもさまざま障害があります。元愛人の恋人から嫌がらせを受けるシーンなどはぞっとするほどの迫力です。女性の感情の描写があまりにも繊細で、巧みであることから、小説の作者が男性だということも忘れるほど。そして、とうとう悩んだ末に、素樹から身を引こうとする咲世子。ふたりはどのような結末を迎えるのでしょうか?
愛してる。だから死んで欲しい。『美しい心臓』
死んでほしいと願ってしまうほどの愛情が描かれている本作。
主人公は、DV夫から逃げ出し、周りも見えなくなってしまうほど人を愛してしまいます。お互いに家庭があるにもかかわらず、心から純愛だと信じ不倫だと気づけない主人公。他の人に奪われるくらいなら死んでほしいとさえ考えてしまいますが、果たしてそれは本当に愛なのでしょうか。はたまた逃げ場として彼に依存してしまった哀れな女性の話なのでしょうか。
出口の見えない不毛な恋愛の中で、彼女が出した答えとは……。
- 著者
- 小手鞠 るい
- 出版日
- 2016-01-28
本作は不倫がテーマです。多くの人が嫌悪感を抱くであろうテーマですが、作者の丁寧な心理描写によって主人公の心のうちが見えてきます。
愛しているから死んでほしい。矛盾しているような想いが痛いくらいに伝わってくる作品です。ゴールの見えない恋愛の中で、彼女は迷い続け1つの答えを出します。
愛している人にただ生きていてほしい、そう思える美しい心臓を彼女が持つまでの軌跡です。
魔女と呼ばれた女の真実とは?純真な毒婦の恋愛小説『真珠夫人』
魔女、妖婦、蜘蛛、孔雀……。男たちからさまざまに表現される、瑠璃子という主人公の女性。純真であった少女を魔女に変えてしまった出来事、そして、瑠璃子を取り巻く人々の苦悩が描かれています。
- 著者
- 菊池 寛
- 出版日
10代の頃の瑠璃子は、恋人との幸せな将来を夢見る、美しく純粋な少女でした。しかし、成金の勝平の策略にはまり、その男の妻になることに。初恋を奪われ、お金で狂わされた人生に絶望した彼女は、世間への復讐を誓います。夫の死後、男たちを自宅のサロンに集わせて、もてあそぶ瑠璃子。その結果、間接的ではあるものの、一人の青年が命を落としてしまいます。渥美信一郎という男に、行いを改めるように警告されますが、瑠璃子は平然とした様子。
「男性は女性を弄んでよいもの、女性は男性を弄んでは悪いもの、そんな間違った男性本位の道徳に、妾は一身を賭しても、反抗したいと思っていますの。」(『真珠夫人』より引用)
何を言われても強気な瑠璃子でしたが、実は彼女にも大きな弱みがありました。初恋の人である直也と、義理の娘の美奈子です。そして、そのことが後に悲劇を生むことに……。600ページ近い長編小説ですが、メリハリのある内容で、最後まで飽きることなく読み進められます。妖美な魔女に秘められた真実に、当惑を禁じ得ない、驚きのラストにも注目です。