トルーマン・カポーティのおすすめ作品5選!『ティファニーで朝食を』他

更新:2021.12.16

光と闇、作品にも自身にもそんな二面性を持つ作家、トルーマン・カポーティ。「早熟な天才」と評され、数々の名作を生み出しました。1940年代ごろから活躍し、華々しい生活とその後の没落……波乱万丈な人生と、それゆえに深みのある作品を紹介します。

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トルーマン・カポーティとは

トルーマン・ガルシア・カポーティは、1924年から1984年まで生きたアメリカの小説家です。19歳という若さで、栄誉ある賞「オー・ヘンリー賞」を受賞し、その後発表した作品が次々とヒットしたことで人気作家の道を駆け上がりました。

ヒット作品が多いのももちろんですが、作品が映画化されたり、自身も映画に出演したりと世間の話題になることも多く、作品とトルーマン・カポーティ自身が持つ魅力で一躍時の人となります。

数々の有名人と交友関係を持ち、文化人として華々しい社交界に生きる一方で、自身の書いた小説の世界観に捉われて気分を落ち込ませることもありました。また、トルーマン・カポーティは13日には仕事をしない、階段の13段目は踏まない等、よく言えば信心深く、悪く言えば思い込みの激しい性格だったのです。

光と影、その両方を併せ持つ彼だからこそ描くことができた奥深い作品が多数出版されました。独特の世界観を持つ彼の作品は老若男女問わず多くのファンを抱えていましたが、晩年はドラッグやお酒に溺れて執筆活動も進まず、59歳にて死去しました。

トルーマン・カポーティ著『誕生日の子どもたち』のあとがきにて、翻訳者である村上春樹はこう記しています。

「その文章のもつ無類の気品と、現実の彼の人生の救いがたいほどの俗っぽさ。内的な世界をどこまでも追及する誠実な心と、激しい自己顕示欲。均整のとれた作品のスタイルと、致命的なまでの自己破壊衝動。無償の愛を求める心と、その裏側にある激しい裏切りの心。」(『誕生日の子どもたち』より引用)

トルーマン・カポーティは、その精神の不安定さを滲み出させていました。しかし、両極端な面にどちらも針を振り切っているからこそ逆にバランスを取れていたのでしょう。純粋さや慈しみから孤独や切なさまで、人間の持つ明るい面と暗い面を極限まで引き出しているように感じます。

また、トルーマン・カポーティの文章は一節一節が美しく、繊細さに秀でています。特に情景描写に優れ、その場所の景色、空気、気温や雰囲気が鮮明に想像できるような文章が特徴です。それでは、没後も多くの人を魅了するトルーマン・カポーティの作品をご紹介いたします。

自分らしさを貫く女性の強さと美しさ

オードリー・ヘップバーン主演で映画化されたことでも有名になった『ティファニーで朝食を』。例え本書を読んだことが無くとも、ほとんどの人がこのタイトルを知っているのではないでしょうか。そしてこの作品は、あの村上春樹が翻訳しています。トルーマン・カポーティが描く『ティファニーで朝食を』は、語り手である「僕」が同じアパートに住んでいた「ホリー」という女性との過去の回想を語るお話です。

ホリーは美しく魅惑的な女性。男を侍らせてパーティ三昧という派手な生活を送っており一見するとだらしがない生き方ですが、どこか掴みにくい性格で気まぐれ、流れる雲のように自由奔放に生きていました。語り手である「僕」はホリーのことを恋愛や情欲の対象として見ているわけではなく、あくまで客観的に、時には兄のような目線で彼女を見守り、最終的に信頼関係のある友人となる二人は、映画とはまた違った関係性ととれるでしょう。

著者
トルーマン カポーティ
出版日
2008-11-27

映画では、ホリーがティファニーのショーウィンドウの前でパンをかじるシーンが有名ですが、トルーマン・カポーティの本作中にはそのような描写はありません。その代わり、「いつの日か目覚めて、ティファニーで朝ご飯を食べるときにも、この自分のままでいたいの」(『ティファニーで朝食を』より引用)という彼女の台詞が印象的です。また、最終的にお金持ちになりたいと夢見ている彼女ですが、将来そうなったとしても「自分らしさ」は失いたくない、と思う芯の強さも彼女の魅力です。

「映画を見たことあるから本は読まなくていいや」と思うことなかれ。映画と本では結末が違うのです。結末が違えば印象や感想も大いに変わってくることでしょう。語り継がれるトルーマン・カポーティの名作を、一度文章で読んでみることをお勧めします。

ノンフィクションノベルの先駆け

トルーマン・カポーティの『冷血』が出版されるまで、「ノンフィクションノベル」というカテゴリーはなかったと言っても過言ではありません。「ノンフィクションノベル」という言葉自体が、カポーティが造ったと言われています。

1959年11月5日、アメリカのカンザス州で一家4人が惨殺される事件がありました。拘束されたまま銃で撃ち抜かれるという凄惨なこの事件は、平和な村、また平和な家庭を築いていた家族に起こった突然の悲劇でした。

この平和な一家が殺される理由は見つからず、当初この事件は迷宮入りになるのではと言われていました。この事件に興味を持ったトルーマン・カポーティは独自に調査を始め、被害者の関係者、村の住民、捜査関係者へ何度も話を聞きに行きます。

やがて二人組の犯人がメキシコで逮捕されると、わざわざメキシコまで足を伸ばし、犯人にまで取材を強行。有名作家であるトルーマン・カポーティによって本にされれば刑が軽くなるのでは、と考えた犯人も彼の取材に積極的に協力しました。

カポーティは話のほとんどを書き上げますが、彼の中では、加害者たちが生きている限りこの話は完結しないのでした。加害者たちとの交流を続けながら、二人の死刑が執行されるまで出版を待ちます。そして、二人の死刑を自身の目で見届けた後、その部分を書き加えて出版に至ったのです。1965年に死刑が執行され、その年の内に出版に至りました。

著者
トルーマン カポーティ
出版日
2006-06-28

話の冒頭で犯人が分かっているため、ミステリー小説のような犯人探しはありませんが、犯人二人がどのように出会ったのか、なぜ殺したのか、どうやって殺したのか、どのように事件は解決されたのか。多くの謎を一つずつ拾い集めながら事件の全容を知っていく臨場感に包まれたトルーマン・カポーティの作品です。

「事実は小説より奇なり」ということわざがあります。これは「現実の世界で起こることの方が作られた物語よりも面白いものだ」という意味です。ならば現実の出来事をそのまま小説にしてしまえば奥深い作品になるのは当然ではないでしょうか。

凄まじい文才を持つトルーマン・カポーティが描写する事件の概要は、ただ新聞を読んで事件を知るのとは大きな違いをもたらすでしょう。

人間の持つ「イノセント」とは

村上春樹が翻訳する『誕生日の子どもたち』は、トルーマン・カポーティの6つの話が詰め込まれた短編集です。そのうち「感謝祭の客」「クリスマスの思い出」「クリスマス」「おじいさんの思い出」は、カポーティ自身の幼少期を背景に執筆されました。

彼の両親は彼が子供の頃に離婚しており、その後は母親と二人で親類縁者の家を転々としながら暮らしていました。多くの人と関わっていく中では当然いいことも悪いこともあり、それらの話が自伝的に書かれています。

精神疾患を持つ叔母とトルーマン・カポーティの友情を描いた「クリスマスの思い出」、母親との離婚で疎遠になっていた父親との再会と互いの心情を描いた「あるクリスマス」等、全てが実話ではありませんが、作者の歴史が詰め込まれています。

著者
トルーマン カポーティ
出版日
2009-06-10

タイトルにもなっている「誕生日の子どもたち」では、平和な村に引っ越してきたとある少女を軸に物語が展開します。障害を持つ母親と二人きりで暮らす彼女は、その家庭環境のせいか少女とは思えない大人びた考え方をしていました。

彼女が周りの人々を惹きこんでいく様は凄まじく、また、少女とは言え彼女の考え方、生き方には思わず尊敬の念を覚えるほど。最初の一文と最後の一文が衝撃的なことでも知られるトルーマン・カポーティのこの作品、一度読んだら忘れられない話となるでしょう。

この一冊に掲げられているテーマは「イノセンス」です。和訳すると、純粋、無邪気といった意味になります。確かにこの一冊は純粋で、それ故に傷つきやすい少年少女が多く出てきます。大人になると忘れてしまいがちな「イノセンス」を、もう一度思い出させてくれる、トルーマン・カポーティの秀逸な一冊です。

若きカポーティの才能を知る

初期作が詰め込まれた全9話収録の短編集『夜の樹』です。上記で紹介した「誕生日の子どもたち」等も収録されていますが、「若き天才」と呼ばれたトルーマン・カポーティがその時代に書いた傑作が詰め込まれています。

コメディ調に書かれた「僕にだって言いぶんがある」、人の心に暖かい気持ちになれる「感謝祭のお客」等、多彩な作品が集められています。しかし、注目すべきはやはり「ミリアム」でしょう。これは冒頭で述べた、トルーマン・カポーティが「オー・ヘンリー賞」の受賞に至った作品です。

著者
トルーマン カポーティ
出版日
1994-03-01

主人公はミセス・ミラーという老婦人。夫を亡くし、単身アパートに暮らす彼女は、特別仲のいい知人もおらず、毎日自分の食事を作ってインコの世話をするだけの生活をしていました。

ある日ふと思い立って映画を見に行った彼女は、ミリアムという少女に出会います。ミセス・ミラーの本名もミリアムであり、二人は少し話をして別れました。

数日後の夜、ミセス・ミラーの家のベルが鳴り、出てみるとミリアムが居ます。家を教えた覚えも無いのに訪問してきた彼女は半ば無理矢理家に入り、食事をせがみました。

食事を終えた後もケーキや果物も欲しい等、次々と我儘を言う少女に不信感を抱いたミセス・ミラーに出て行くよう言われたミリアムは、ミセス・ミラーのカメオを奪い花瓶を叩き割ってその場を後にしました。

それなのにミセス・ミラーはミリアムが要求していたケーキや果物を無意識に買ってしまったり、ミリアムが後日また現れたと思えば忽然と消えてしまったり……何が起こっているのかわからないまま展開していく物語は、得体の知れない恐怖に包まれていきます。

実際、ミリアムが何者なのかは明かされておらず、今でも読者の間で協議が行われています。トルーマン・カポーティによって描かれた、鬱蒼とした都会の生活と孤独がミステリアスなこの作品、短編ですが読了後の満腹感が凄まじいです。

カポーティの全てが詰め込まれた一冊

トルーマン・カポーティは心温まる話・ダーク色が強い話・自伝・ノンフィクションと、多種多様な話を書いていました。そんな彼の傑作を集めた、全12話の短編集『カポーティ短篇集』です。

「楽園への小道」は、妻を亡くし一人で暮らす老人男性のお話。妻のお墓参りに向かった彼は、墓地でとある未婚女性と出会いました。彼女と話している内に、彼は自分の人生や気持ちを見直します。妻と二人で生活しているときは彼女との生活に息苦しさを感じていましたが、女性と話しているうちにその思い出が妻への感謝へと変わっていき……。心がじんわりと温かくなっていく、トルーマン・カポーティのハートフルストーリーです。

「くららキララ」では、魔女と呼ばれる不思議な女性にカポーティはある願い事をしに行きます。その代償のためにカポーティはある罪を犯してしまいました。結局願いは適いませんでしたが、数十年経った後、その「罪」が彼に襲い掛かります。贖罪し償うためにはずっと秘密にしていた自分の「願い」を吐露しなくてはなりません。カポーティの葛藤と切ない結末は胸を締め付けます。

著者
トルーマン カポーティ
出版日

作者自身が飼っていたカラスの名前がタイトルとなった「ローラ」では、ペット用にと羽を切られた飛べない烏のお話。カポーティはこのカラスをプレゼントとしてもらいますが、彼はカラスが嫌いでした。それでもローラが居なくなったときには必死に探す等、徐々にかわいがるようになっていきます。ローラが飛べない故に迎えた衝撃的な結末には、思わず涙が零れることでしょう。

一部抜粋してご紹介しましたが、他の収録作品も同様に中身の濃い内容になっています。カポーティは単語や文章のテンポ・リズムを大切にしていました。一話読むだけでもそのリズム感に引き込まれますが、更に12話収録という大ボリューム。ノンストップで読めてしまうはずです。

トルーマン・カポーティを知るならこの一冊、と言っても過言ではありません。

人間とは?人生とは?誰もが一度は真剣に考えたことのある永遠の哲学です。人生の機微をこれでもかと詰め込んだカポーティ作品は、あなたに何らかの答えをもたらしてくれるかもしれません。一作読めば彼の世界観に引き込まれること間違いなしです。是非一冊手に取ってみてください。

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