ラブストーリーは、読み終わると甘い幸せな気分を与えてくれます。その中でも、売野機子作品はどれもメッセージ性が強いものばかり。女性だけでなく、男性にも受け入れられる漫画を多く手がけている彼女の作品をご紹介します。
売野機子は、1985年9月生まれ。デビュー前は会社員をしていたという彼女は、仕事の休み時間を使い、漫画を描くなどして腕を磨いていきます。同人誌などに作品を掲載していました。
運命の出会いは、コミティアに参加しているときに訪れます。彼女の作品が白泉社の楽園の編集長の目にとまったのです。それがきっかけとなり、2009年に漫画家としてデビュー。洗練された画風、ストーリー性の高さは多くの漫画ファンの間で受け入れられ、話題を呼び続けています。
8話の短編漫画が収録されている『同窓生代行―売野機子作品集2』。第1話「同窓生代行」では、売れないモデルのリカという女性が主人公。リカは、同じ事務所のスーパーアイドルの庭野野ばらに好意を持たれています。野ばらには、全身整形しているという秘密がありました。リカは、顔が全く変わってしまった野ばらの替りに、彼女の中学校の時の同窓会に参加をすることになり……。
- 著者
- 売野 機子
- 出版日
- 2011-11-30
自分の特徴や、能力の限界を自分自身で決めてしまうことはありませんか? 自分で思っている姿は、実は勝手に思い込んでいたもので、他の人にとっては全く違って映っている……。人との会話や新しい環境、または非日常に身を置くことで、今まで思っていた自分とは違う一面を発見することもあるのではないでしょうか? こんな自分もあったのだと新しい自分を見つけることは衝撃もあり、嬉しくもあるでしょう。
主人公のリカもそうでした。「先に 結末を読む 悲しい結末だと 分かって読む 物語は 安心して 読めた」というリカのセリフがあります。彼女は不安を感じやすくネガティブ思考である、と自分を捕えていたのではないでしょうか。しかし同窓会で野ばらを演じることにより、自分の別の一面に気づいていくのです。
リカの姿を自分に重ねたとき、読者に新しい気づきを与えてくれるような不思議な漫画です。いつもと違う見方を発見したいときに、読んでみてください。
ギャビーは美しい歌声を持つ10歳の少年。美しい歌声を持つ少年は、その歌声が最高の物となったときに、本物の天使になれると言い伝えられていました。ギャビーも本物の天使になるために、同じく美しい歌声を持つ少年たちが集う合唱団の寄宿学校に入ります。しかしそれは、最高の声を手に入れると同時に「死」という代償を払わなければないことを意味していて……。
- 著者
- 売野 機子
- 出版日
- 2013-03-09
少年たちそれぞれにストーリーがあり、一人ひとりの生き様が丁寧に描かれていきます。寄宿学校という狭い世界の中で、感受性の強い不安定な時期の少年たちが懸命に生きる姿には胸打つものがあるでしょう。純粋で繊細、そして壊れやすい少年期の彼らが、人生の大きなテーマである生や死、愛情等に触れながら成長していく姿を見て、読者は少年たちと一緒に本当の幸せとは何かを考えていくことになります。読後は、少年たちと共に自分の成長も感じられる作品です。
「パーフェクトケーキ」、「リラの消えた森で」「四月生れ」「おれが美しいと思うもののために」など全部で6作品が収録されている短編集『クリスマスプレゼントなんていらない』。ラブコメディーからSFまで、様々な種類の売野作品が満喫できます。何度も読みたいお気に入りの物語が見つかりますよ。
第1話の「パーフェクトケーキ」では、女子高生の苺と同じクラスの桂樹が登場します。彼らは付き合い始めて間もないカップル。そして2人とも5月1日という同じ日が誕生日なのでした。ある日、2人のクラスに名古屋からきた女の子の転校生の中原ももがやって来て、彼女の誕生日も5月1日がということがわかり……。
- 著者
- 売野 機子
- 出版日
- 2016-12-24
すれ違う想いがじれったい、甘酸っぱくなるほどの青春まっただ中での三角関係。付き合い始めという不安定な時期を、より不安定にしてしまうももの存在がもどかしさを感じることでしょう。苺やももの心の揺れに読者は切なくなってしまいますよ。3人がどのような結末を迎えるか、ぜひ読んで確かめてみてください。胸が締め付けられるほどの甘くて切ないラブコメディーを、お楽しみください。
常磐一郎は、人気の占い師を姉に持つイケメン。しかし自分には中身がなく、周囲の人たちも自分の外見だけを見て近寄ってくると不安を感じていました。ある日、ふとしたきっかけで、ハネムーンに出かけている姉の代わりに占いをしなくてはいけなくなった一郎。不器用な生き方しかできなかった一郎は、様々な事情を持つお客さんと出会っていき……。
- 著者
- 売野 機子
- 出版日
- 2011-11-30
占いをしてもらったことがありますか? 人生の岐路に立ったとき、未来が不安になったとき、誰かに背中を押してもらいたいときなど占いを受けてみたいと思うことがありますよね。本作では、一郎の姉が占いのことを「圧倒的な救いよ 肯定よ」と述べていますが、納得できませんか?
作中で一郎は、占いで人を救えないと感じます。しかし「その 無力感こそが 輝きを放って 誰かを救っている」とする本作からは、勇気や気づきを得られることでしょう。あなたのことを優しくそっと後押ししてくれるような作品ですよ。
売野デビュー後初の作品集『薔薇だって書けるよ─売野機子作品集─』。7話が収録されています。
第1話に収録されている「薔薇だって書けるよ」は、幼い時に両親を亡くした16歳の点子と、彼女と結婚した年上の八朔の物語。点子が愛おしく大好きで結婚した八朔は、何もできない点子に「僕がなんでも 教えてやるさ」と生活のあらゆることを一生懸命教えていきます。しかしなかなか上手にできない点子に疲れ果ててしまう八朔。あれほど愛していたのに八朔の心は、点子から離れていき……。
- 著者
- 売野 機子
- 出版日
- 2010-03-26
16歳らしく純粋に八朔を思い続ける点子に対し、どんどん気持ちが離れていってしまう八朔。点子の八朔を思う気持ちが切なく、2人の気持ちのすれ違いがもどかしいラブストーリーです。
他人の気持ちは、自分ではどうしようもできないことがあります。だからこそ両想いになったり、夫婦になるということは奇跡なのでしょう。本作で、お互いの思いは2人で大切に育んでいかなくてはならないのだと改めて気づかされます。この物語を読んだ後には、パートナーのことをより愛おしく感じることでしょう。大切な方がいる人にも、まだ出会っていない人にも、ぜひ読んでいただきたい物語です。
一つひとつの作品が、それぞれメッセージを持ち、意志を持っているように受け取れる売野機子の漫画は、男女を問わず、幅広い年齢の方に受け入れられることでしょう。一度触れたら忘れられない売野の世界を、ぜひ覗いてみてください。