ジョン・スタインベックのおすすめ作品4選!『エデンの東』の作者

更新:2021.12.16

ジョン・スタインベックはアメリカの実状を映しだし、そのストレートな表現で一躍有名作家になりました。多くの作品が映画化されるなど、そのストーリーの内容自体もエンターテイメント性に富んだものです。そんなスタインベックのおすすめの代表作をご紹介!

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多くのヒットを生み出したアメリカ人作家、ジョン・スタインベック

ジョン・スタインベックは『エデンの東』や『怒りの葡萄』の作者として知られています。当時テレビのなかった時代に農家などアメリカの貧困社会を忠実に描いたスタインベックは、アメリカ市民にとってその実情を知ることのできる貴重な存在でした。映像化された作品も後世に残したい名作になっているほど、文学史的にも、映画史的にも著名な作家といえます。

そんなジョン・アーンスト・スタインベックが生まれたのは1902年のカリフォルニア州。祖父の代から移民してきたドイツ系の家系でした。少年時代のスタインベックはドストエフスキーの『罪と罰』、ミルトンの『失楽園』、マロリーの『アーサー王の死』などを読み、文学好きの少年だったといわれています。

スタンフォード大学時代に1年間休学して、牧場や公共事業、工場など多くの仕事を経験しています。そんなスタインベックの労働経験が彼の作品に大きく影響することになりました。その後、あちこちで働きながら小説の執筆をしており、1929年に『黄金の杯』で作家デビューを果たしています。

夢を追い求めた労働者たちの物語

世界恐慌時代の出稼ぎ労働者を描いた『ハツカネズミと人間』は自身も季節労働者だったスタインベックの経験を基に描かれた小説です。これにより労働者たちのリアルな実生活を読み取ることができます。2度に渡って映画化もされた名作です。

主人公はジョージとレニーのふたり組。いつも一緒に行動している彼らは、とある農場で雇われます。いつか自分の農場を持ちたいという夢を持つ男たち。そんな彼らに転機が訪れます。片手のないキャンディーという老人がふたりに資金の半分を出すというのです。自分たちの農場を持つという夢に近づいたふたりですが、思いもよらない悲劇が待ち受けているのでした。

著者
ジョン スタインベック
出版日
1994-08-10


本書には必死に働いて生活しようとする個性豊かなキャラクターたちが登場します。主人公のレニーは体が大きく、力持ちだけど、物が覚えられないほど頭が弱いです。口は悪いけれどレニーの面倒をみてくれるジョージは兄貴分的存在。チビで頭の回転が速いというレニーとは正反対な性質を持っています。そんな長所と短所を合わせてふたりで1つのようなコンビはお互いになくてはならない存在です。その他にも元ボクサーの肩書を持つ喧嘩っ早いカーリーとよく男たちを誘惑しようとするその妻など、個性豊かなキャラクターたちが登場します。

本書では世界恐慌という不幸な時代が舞台となっていますが、懸命に生きようとするジョージとレニーの姿がまぶしいです。農場を持つという夢や、そこでウサギを飼うことが決まっているなど、ふたりの夢についてのやり取りが何度も繰り返されます。ジョージもレニーの頭の弱い部分を埋めようと、率先して彼を引っぱっていくのです。そんな無垢な夢と、泥臭い労働階級という実情が織り交ざり合い、感動できる作品となっています。

ノーベル賞作家のアメリカ探しの旅

スタインベックはノーベル賞を受賞した1960年に愛犬のチャーリーを連れ立ってキャンピングカーでアメリカ1周の旅をします。スタインベックが見たアメリカの姿を彼のユーモアを盛りこんで読むことができ、私小説としても楽しく読むことのできる1冊です。

著者
ジョン スタインベック
出版日


旅先でスタインベックはウェイトレスに未亡人に農場経営者まで、様々な人間と出会います。しかし彼は名前を聞かれるたびに偽名を名乗っていたので、誰も話している相手がノーベル賞作家だとは気づきません。そんな彼らとの交流がユーモラスに書かれています。

「人間が旅をするのではなく、旅が人間を連れ出すのだと悟る」

「私の欲望は単純で、運命のシンボルのような大魚と壮絶な戦いで男らしさを証明しようとは望まない。でも、ときどき晩飯のフライになる位の魚が2匹も釣れたらいい」(『チャーリーとの旅―アメリカを求めて』より引用)

上記のようにまたスタインベック語録が読めるのも本書の魅力です。スタインベックの生き様や考え方に触れられることができ、彼の文体のルーツや作品に対する姿勢を知ることがきます。そられを知ることによって、彼の作品の世界観が広がる作品です。

労働者たちの苦悩と怒り

『怒りの葡萄』は世界恐慌に混乱する時代で、必死に生きようとする人間たちの哀愁に満ちた歌のような小説です。西部劇で有名なジョン・フォード監督によって映画化もされています。ジョード家の農場が荒廃してしまい、耕作不可能になってしまう場面が物語のスタートです。カリフォルニアに新天地を求めて移動する家族でしたが、行き着いたカリフォルニアは同じような労働者であふれ、仕事が足りない地獄のような情景でした。

著者
ジョン スタインベック
出版日
2014-12-19


本書は世界恐慌という時代で懸命に生きる人々の物語が書かれているだけではありません。スタインベックによる評論とジュード家の物語を描いた章が交互に配置されており、当時の社会体制の告発が行われています。歴史の教科書でも有名な世界恐慌のアメリカ側のリアルな真実を読み解くことができる作品です。

また主人公のトム・ジョードのキャラクターも当時の社会への批判を現しています。激情的な性格をしているトムは殺人の罪で服役しており、物語の冒頭では仮釈放で家族のもとへと戻ってくる場面がありました。そんな彼がカリフォルニアでみた絶望に憤りを感じ、労働者組織や警備員との対立などに巻きこまれたりと、悲惨で物悲しい当時の状況が興味深く描かれている1冊です。

家族愛に隠れたの嫉妬と罪

ジョン・スタインベックが1952年に発表した『エデンの東』は旧約聖書に書かれているカインとアベルの兄弟をモチーフにした長編小説です。父親に可愛がられていたアダム・トラスクを兄のチャールズは良く思っておらず、いつもちょっかいをかけていました。アダムとキャシーの間にカレブとアロンという双子が生まれます。しかし母親のキャシーは家出してしまったのでした。カレブはキャシーを探し当てますが、母親が娼婦になっていることを知ることになります。

著者
ジョン・スタインベック
出版日
2008-01-24


この物語はカインとアベルがモチーフである通り、兄弟がいがみあっています。カレブは父親の愛情を求めますが、その反抗的な性格から行動が裏目に出ることも。ゆえに父親に気に入られているアロンを疎ましく思っているのです。そんな愛憎劇と人間ドラマにあふれた物語はちょっぴり怖くもあり、人間の暗い一面を映しだしています。

ジェームズ・ディーン主演で映画化もされており、そちらも不朽の名作です。ですが、映画は原作のラス4分の1程度しか語られていません。映画を観たあとで読んでみると、双子の父親世代の話を読むことができるので、新しい発見が必ずある1冊となっています。

世界恐慌という暗い時代を生きたスタインベックだからこそ、力強く生きようとする人々の姿が書かれています。映画にもなった名作から、知られざる一面まで、スタインベックの魅力を知ることのできる本ばかりです。

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