恋愛感情や反戦思想を歌った歌人として知られる与謝野晶子ですが、彼女の残したものは歌だけにとどまりません。今回は歌、評論、恋愛と様々な視点から読める5冊をご紹介します。
『与謝野晶子―情熱をうたいあげた歌人(よんでしらべて時代がわかるミネルヴァ日本歴史人物伝)』は、前半は史実をもとにした物語、後半で構成された絵本です。30ページ程度の絵本なのですぐに読み終わりますが、夫の与謝野鉄幹との出会い、『君死にたまふことなかれ』の発表など、晶子の生涯の概要を知ることができます。
- 著者
- 西本 鶏介
- 出版日
与謝野晶子という人物を知りたいときに、まず読んでみるといい絵本です。晶子の人生がダイジェストで描かれていて、子供から大人まで楽しんで読むことができます。
後半では晶子だけでなく、森鴎外、石川啄木、平塚らいてうなど同時代を生きた人物の解説もあり、歴史上の人物と晶子の関わりを見ることができます。歴史の年表や戦争などの歴史的事件も取り上げられているので、いろいろな角度から晶子について知ることができる絵本です。
与謝野晶子入門書として、最初に手にとっていただきたい1冊となっています。
著者の村松由利子は2009年に本作『与謝野晶子』で平塚らいてう賞を受賞しています。
晶子は生涯において歌人としてだけではなく、『源氏物語』をはじめとする古典の現代語訳や童話の執筆、女性の生き方や社会問題の評論など多岐にわたって活躍しました。そんな晶子の業績を分野ごとに見て、まとめた作品となっています。
- 著者
- 松村 由利子
- 出版日
同じ女性である筆者が描き出す与謝野晶子像は、華やかな歌人としての一面だけでなく、11人の子供を育てる強い母親としての印象を受けます。
たくさんの子供を育てながらも、常に新しいテーマ、新しい分野にチャレンジし続けたワーキングマザーとしての晶子。平塚らいてうとともに論じ合った母性護論争。晶子は現実を見つめ、今ほど男女平等ではなかった当時では考えられなかった女性の生き方を追求しました。
時代を超えた晶子の視点は、現代でも鋭く社会の在り方を問いかけています。晶子の真のメッセージを追求した作品です。
与謝野晶子を語るうえで欠かせないのが、夫、与謝野鉄幹の存在です。『君も雛罌粟われも雛罌粟―与謝野鉄幹・晶子夫妻の生涯』にはそんなふたりの出会いから最後までが書かれています。
雑誌『明星』を主宰し時代の寵児といわれていた鉄幹。晶子の歌には鉄幹を思って詠ったものが多くあります。若き日の晶子は鉄幹に憧れ『明星』に歌を投稿し、次第に流行歌人として一世を風靡することになるのです。
- 著者
- 渡辺 淳一
- 出版日
- 1999-01-10
恋多き文人鉄幹の妻の座を勝ち取った晶子ですが、その結婚生活は重なる鉄幹の女性問題、世間からの鉄幹の人格に対する誹謗中傷、生活苦などで波乱に満ちたものでした。
1901年に発表した『みだれ髪』で情熱の歌人としての評価を得た晶子と、『明星』の廃刊で傷心の日々を送る鉄幹の名声はいつしか逆転してしまいます。歌の才能もその成果もすべて逆転した時、夫婦は激しく憎みあい争いますが、それでもふたりは一生を添い遂げるのです。
本書のタイトルは1911年に渡欧した鉄幹を追って、半年後パリで夫と再会した晶子が詠んだ歌
ああ皐月仏蘭西の野は火の色す君も雛罌粟われも雛罌粟
からとられたものです。まるで真紅の絨毯を敷き詰めたかのようなヒナゲシの花のなかで、晶子は鉄幹と平凡に安らいでいる些細な事に幸せを感じたのではないでしょうか。
当時こんなにも情熱的な心を持った夫婦は珍しかったはずです。ともに歌人であるがゆえに共感できること、ぶつかることなど、様々な出来事を乗り越えた夫婦の絆を見ることができる伝記小説です。鉄幹の存在がなければ、晶子はたくさんの歌を詠むことはなかったかもしれません。
『ほととぎす嵯峨へは一里京へ三里水の清滝夜の明けやすき』という歌から始まる『与謝野晶子(コレクション日本歌人選)』は晶子の歌50首を収録した歌集です。1首につき見開き2ページを当てており、口語訳、解説、時代背景などが記されています。
- 著者
- 入江 春行
- 出版日
- 2011-11-11
晶子の処女歌集『みだれ髪』に収載されているものから、あまり知られていない18歳の時に詠んだものまで、晶子の人生を辿っていくことができるでしょう。
毎年のように歌集を出していた晶子の歌は、5万首にも及ぶと言われています。自分の思いを感情のまま自由に歌った晶子の歌を読むと、晶子が人生のその時にどう感じてどう行動したのかが目に浮かぶようです。
年代順に収録されているわけではないので、本をぱらぱらとめくって好きなページから読むのもいいかもしれませんね。
『与謝野晶子評論集』には晶子作品をマスターするには欠かせない27の評論が収載されています。晶子の思想がよく伝わってくる評論集です。
晶子は日露戦争後から評論を書くようになり、婦人問題を中心に政治や教育などの問題にも活動を展開していきました。「歌とはまことの心を歌うもの」としてありのままを表現してきた晶子の評論は、世論に流されない物事の本質を見据えたものとなっています。
- 著者
- 出版日
- 1985-08-16
ヨーロッパ各国をまわり帰国した晶子は、女性も幅広い教育を受け、国や男性に依存することなく経済的に自立すべきという主張をもとに、本書に収載されている「女子の独立自営」や「選挙に対する夫人の希望」などを論じています。
若い女性が恋愛のことを口にするのは恥ずかしいことで、むしろしてはいけないとされていた当時、自由な恋愛感情を歌にしたり、女性の権利を論じた晶子の思想は現在でも見劣りしません。
「産屋物語」のなかでは『源氏物語』について、紫式部の書いた女性はどれも当時の写実と思われ、女の醜い方面も相当に出ていると述べています。しかしまだ女の暗黒面を十分に描き切れていないとも言っており、晶子は『古事記』の女詩人や小野小町、清少納言、和泉式部などの女が主観の激しい細やかな詠嘆を表現する女性を望んでいたのです。
そんな晶子の想いが作品の隅々に反映されて、現代でも多くの人の心を動かしているのではないでしょうか。
与謝野晶子は先見の明を持ち、女性の在り方を説きました。当時では少し早すぎた思想で理解されないこともあったかもしれません。しかし晶子の思想は今日の社会に結びついています。歌人であり、評論家であり、母親であり、1人の女性である晶子の作品からは時がたっても熱い情熱が感じられる作品ばかりです。