短歌集おすすめ5選!新鋭短歌シリーズを読んでみよう

更新:2017.3.22 作成:2017.3.22

福岡にある書肆侃侃房は、若手歌人の作品を世に送り出すため、「新鋭短歌」シリーズを刊行しています。今回はそんな「新鋭短歌」シリーズから、個性豊かな5人の歌人の作品を紹介します。

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若手歌人を発掘せよ!――「新鋭短歌」シリーズ

「新鋭短歌」シリーズをご存知でしょうか。「いい本を売りたい」という強い意志を持ち、福岡を拠点に幅広い分野の出版を手掛けている書肆侃侃房から出版されているこのシリーズは、若い歌人の歌集をそれぞれ一冊の本にしたシリーズです。

現代短歌の一端を担う若い歌人たちは、その初々しい才能から生まれた作品を同人誌やツイッター、文学フリマなど様々な場所で発表し、草の根的に活動しています。

そんな新時代を担う若手の歌人たちの第一詩集を出版したい、そんな心意気から生まれたのがこの「新鋭短歌」シリーズです。

今回は「新鋭短歌」シリーズの中から、特に5人の新時代を担う歌人の歌集を紹介したいと思います。
 

天と地を見つめ、震災を詠う

『Midnight Sun』は仙台に在住の佐藤涼子の歌集ですが、この短歌で着目すべき点の一つは、なにか対象を見つめている時の「視線」です。

「ドーナツで丸く切りとる夏の空この先ずっと寄り道でいい」(『Midnight Sun』より引用)

東日本大震災などを背景に詠った短歌のなかで、まっすぐな視線が対象を貫きます。
 

著者
佐藤 涼子
出版日
2016-12-09

「震度7母が我が子を抱くように職場の床でパソコン抱く」(『Midnight Sun』より引用)

彼女が経験した東日本大震災に関する短歌には、そのいたましさが詠われ、心の奥底からの叫びには胸が痛くなります。震災で、子供を抱きかかえながら亡くなった親の報道と対をなすように自らの体験を語るこの首には、震災に対するやるせなさがにじみでています。

本作の特徴は、手元や足元などの身近な「地」を見つめる視線と、太陽や雲、三日月など、遠くの「天」を見つめる視線です。

「エンジニアブーツの重さでとどまったこの世に雨の歌口ずさむ」(『Midnight Sun』より引用)

「天」と「地」を交互にみる姿勢からは、変わらない現実やそれでも流れゆく現実を、丁寧に追っていこうという意志が見てとれます。

また、料理も効果的に現われます。ドーナツや生ぬるいビールやコーヒー、牡蠣フライ、白菜、西瓜、カラメル……。どのような場面でどんな料理が出てくるか、ここにも注目です。
 

日常を色彩豊かにする短歌

原田彩加は朝日歌壇賞や全国短歌大会で賞を取っている実力派の歌人。「黄色いボート」に収められた作品は、タイトルからも推察されるように、色彩豊かに、そして印象的に描かれています。

著者
原田 彩加
出版日
2016-12-11

「行列がなくなり水が腐っても撤去されない黄色いボート」(『黄色いボート』より引用)

『黄色いボート』で描かれるモチーフは、日常的な公園や料理の場面、仕事や転職、また恋心など、様々な、けれども身近なものが中心となっています。そこででてくる植物園に咲く花、チューリップやウンベラータ、舞う蝶、エメラルドグリーンの金網や出目金、青い空、ホットミルク、そして黄色いボートなどは、非常に色彩豊か。何気ない日常がカラフルなものになって再認識されます。

「好きだったひとを忘れて新緑の世界ようやく胸に迫りぬ」(『黄色いボート』より引用)

日々の人間関係の中で浮んで来る想いも、取り逃さずに描かれています。カラフルな自然の情景と、人のはかなさや尊さが、ときに対比し、ときに混ざり合い、心に働きかけて来る短歌集です。
 

都会で感じる疎外感

『夜にあやまってくれ』の著者、鈴木春香は慶応義塾大学文学部英米文学専攻卒業の才女で、雑誌「ダ・ヴィンチ」への投稿をきっかけに短歌をはじめました。本作では都会に生きる疎外感が、冷静に見つめられています。

著者
鈴木 晴香
出版日
2016-09-12

「黙ることが答えることになる夜のコインパーキングの地平線」(『夜にあやまってくれ』より引用)

都会を見渡すその目に映るのは、移りゆくものの蠢きと、変わらないものの静けさと沈黙です。

「君の手の甲にほくろがあるでしょうそれは私が飛び込んだ痕」(『夜にあやまってくれ』より引用)

都会を背景としながら、「君」を追い求めるもうまくいかないもどかしさが描かれます。妖しい雰囲気の中、大人の恋の物語が紡ぎ出されています。

〈世界〉との距離を冷静に見つめながらも、心に燃え盛るものを隠し切れていない、胸に灯る静かな炎を感じる短歌がそろっています。
 

かかわりのなかった言葉たちがつながりはじめる

中山俊一は、映画監督として国際平和映像祭(UFPFF)に入選したり、脚本家として水戸短編映画祭でグランプリをとったりと、映画界で活躍をみせていますが、歌集『水銀飛行』でもその才能を存分に発揮しています。

著者
中山 俊一
出版日
2016-09-12

「せいねんとせいねん神経衰弱のカードを伏せるときの微風」(『水銀飛行』より引用)

『水銀飛行』の着目すべき点は、切れることなく連続する言葉のリズムです。またそれらの歌を構成する言葉は、もともと相容れない言葉同士であることが多々あります。水銀/飛行というタイトルや、引用した歌にもそうした部分が現れているでしょう。

「避妊具が正義の面して笑うころ、ぼくはガス欠のパトカー押して」(『水銀飛行』より引用)

ストイックなまでに感情の描写をカットしてあることにより、事実が淡々と進んでいくように感じられます。そうした状況だからこそ、言葉の一つ一つがそれぞれ主張し合い、対立していく中で、世界観が膨らんでいくのです。

繰り返して同じ短歌を読むうちに、新しい世界がむくむくとあらわれ、拡がりつづけてゆきます。
 

若い「青」の世界の秘めた暴力性

最後に紹介するのは、杉谷麻衣の『青を泳ぐ。』です。タイトルにある「青」とは青春の「青」、青二才の「青」、など、若さといった意味があるでしょう。またそこに空などの情景にみられる「青」が重なり、多層的な「青」の世界が広がっています。

著者
杉谷 麻衣
出版日
2016-09-12

「春までの距離をふたりで測るため買ってしまったスニーカーなど」(『青を泳ぐ。』より引用)

『青を泳ぐ。』では、学生生活を彷彿とさせるような風景がたびたび出てくるなど、「若い」感性が描かれているように感じます。若かりし頃に特有の、迷い、悩み、曖昧さ、そして「君」などへの純粋な感情が伝わってくるのです。

「つんと蹴ればラムネの瓶はとじ込めし光をあおくして撒き散らす」(『青を泳ぐ。』より引用)

「空の絵を描けといわれて窓という窓を砕いて額縁にする」(『青を泳ぐ。』より引用)

温かく、弱々しく、せつない短歌に紛れて、静かな暴力性を示す短歌が急に出て来てドキリとします。穏やかに見える風景の内に隠れる鋭さに、きらりと光る危うさが見受けられるのです。

若手の歌人には、抑えきれないパワーがあります。今回紹介した5人はもちろんのこと、紹介できなかった若手歌人たちにも、才能豊かできらびやかなものがあります。ぜひ、あなたの推し歌人を探してみてください!