『生徒会の一存』など、小気味よい会話劇と魅力的なヒロインたち、人間関係を描く生粋のエンターテイナーともいえる葵せきな。その新作であり、2017年夏にアニメ化も決定し、漫画まで出版されているラノベが原作『ゲーマーズ!』の魅力をネタバレありで順番に紹介していきます。
主人公は、ゲームをこよなく愛している高校2年生の雨野景太。その他には、特にこれといって目立った部分がなく、クラスに一人は必ずいるようないたって平凡な男子高生なのです。
第1作で登場するヒロインは、学園1の美少女・天道花憐。彼女はその容姿の美しさだけでなく、成績も優秀、スポーツも出来るという完璧少女です。そんな彼女には、なんとゲーム部の部長という一面があり……!
- 著者
- 葵 せきな
- 出版日
- 2015-03-20
本作の魅力はすれ違いです。ポジティブに作用するすれ違い、ネガティブに作用するすれ違いを使い分け、物語の起伏をコントロールしている点が大きな魅力です。
本作の魅力とも言えるすれ違い、記念すべき二人のファーストコンタクトがこれです。
「雨野君。キミさ、好きなのかな?」
「え!?」
突然の質問に、僕の心臓はまたも跳ね上がる。ま、まさか、こんな何気ない日常の一場面で期せずして高嶺の花への告白タイムが来ようとは夢にも――
「ゲームがさ」
「ですよね! 分かってました! 僕今、ホントは分かっていながら、あえて動揺してみせてたとこあります!」
(『ゲーマーズ! 雨野景太と青春コンティニュー』より引用)
メインヒロインの天道花憐と主人公、雨野景太の会話なのですが、非常にポンコツ臭漂う会話になっています。本編はほぼこのような感じです。
他にも景太と同じぼっちゲーマーでフリーゲーム製作者でもある星ノ守千秋、周囲から鬼畜扱いされる残念リア充の上原祐、祐の恋人で高校デビューを見事遂げたギャルの亜玖璃など魅力的なキャラクターが多数登場します。
その上でめまぐるしく変わる関係性がなによりの魅力であるといえるでしょう。
本作の多角関係はもじゃもじゃわかめ星ノ守千秋、残念リア充の上原祐、高校デビューの亜玖璃、残念完璧超人・天道花憐、ぼっちゲーマー雨野景太で構成されています。
- 著者
- 葵 せきな
- 出版日
- 2015-07-18
読者から見れば恋愛感情のベクトルは明らかなのに、何故か勘違いしてしまい、本来しなくてもいい心配事に悩んでしまう登場人物がコミカルかつシュールで思わず笑ってしまうでしょう。
現状、亜玖璃と祐が恋人関係となっているのですが、ゲームを絡めた付き合いが進展していくうちになぜか浮気を心配する事態が発生します。勘違いがすれ違いを生み、そのすれ違いがまた大きな勘違いを生むピタゴラスイッチ、雪だるま式の物語構造が本作の素晴らしいところです。よく、群像劇で物語が収束していくカタルシスがあります。
一般的にはシリアスな展開でそれをやりますが『ゲーマーズ!』はギャグでその展開をとっているのです。
ちなみに、本巻でもすれ違いが炸裂し、告白から承諾によるカップルが成立しています。友達になってください、と、相手の言うことを否定から入らないように意識した結果、付き合うことになりました。
星ノ守千秋という少女は主人公・雨野景太と似た感性を持ちながら萌えを許容できるか、という一点において激しく対立を繰り返しています。
- 著者
- 葵 せきな
- 出版日
- 2015-11-20
ゲーム製作者でもある千秋は景太のハンドルネームである<ツッチー><ヤマさん>というネット上のフレンドを大事にしています。
同じように主人公である景太も千秋のハンドルネームであるフリーゲーム製作者<のべ>、ソシャゲーのフレンドである<MONO>のことを大事にしています。その仲の良さは事情を知っている祐から付き合ってしまえ、両想いすぎる、などと言われるほどです。
そして、今巻では犬猿の仲だと思っていた千秋と景太が実は親密なところで繋がっていた、という事実を千秋が知ってしまいます。
『ゲーマーズ!』において重要な要素のひとつとして恋愛なのか親愛なのかという区別があります。恋人に抱く感情と、大切な友人に抱く感情はまるで別というわけです。
- 著者
- 葵 せきな
- 出版日
- 2016-03-19
また、雨野景太という少年はゲームが大好きな少年です。周りからも
「だって今日は彼にとって人生で一番楽しみにしているゲームの発売日ですから。それの入手争いをしている今なんて、とてもじゃないけどあのゲーム最優先バカがすぐこっちに来たりは出来ないハズで――」
(『ゲーマーズ!4 亜玖璃と無自覚クリティカル』より引用)
と言われるくらいのゲームバカではあるのですが、その後すぐこっちに来たりしてしまい、しかもオタクの天敵とも言えるギャルの亜玖璃のため、汗だくになってまで駆けつけてきます。必然、本人の性格を知っている周囲の人間は、景太がこうしてゲームをほっぽり出して駆けつけるからには二人の間にはただならない関係があるのではないかと勘違いを引き起こしてしまいます。
ただでさえ、浮気、という事態を懸念する祐と花憐、さらには景太への好意を自覚する千秋を大きな混乱の渦に突き落としていきます。
前巻で提示された雨野景太がゲームをほっぽりだしてまで駆けつける事情、という問題はあっさりと解決されます。しかしながら、景太と亜玖璃の仲の良さは、傍から見れば異常に仲がよく見える……という事実には変わりありません。
- 著者
- 葵 せきな
- 出版日
- 2016-07-20
恋人と大切な友人に対して抱く感情、見せる振る舞いは前巻でもクローズアップされています。そして、この点において、景太と亜玖璃の恋人である祐と花憐の台詞が実に象徴的です。
「――俺達が疑っているのは『浮気』じゃない。敗北だ。そうだろう?」
(『ゲーマーズ!5 ゲーマーズと全滅ゲームオーバー』より引用)
自分たちの恋人は浮気をするような無情な人間ではない、と理解していながら、自分以上に恋人と仲良くしている人がいる、という事実を誰もが恐れているのです。
二人は恋人と友人の境界をはっきりさせようと策謀を巡らせます。彼ら彼女らは恋人としての既成事実(つまりはキスする)を作ろうと遊園地に行くのですが、そこでも異常なほどのすれ違いが起こり、景太と亜玖璃がキスするという衝撃的な展開が、起きてしまうのです。
この物語の主人公、雨野景太は確かに非リア充でぼっちで根暗なゲーマーではありますが、非常に芯のある人物として描かれています。
- 著者
- 葵 せきな
- 出版日
- 2016-11-19
景太はキス事件のけじめとして以下の台詞を花憐にぶちまけます。
「天道花憐さん! 僕は……僕はっ、貴女のことが好きです!」
「貴女の笑顔が好きです! 僕みたいな、なんの取り柄もない駄目男を、鬱屈した日常の中から一瞬で掬い上げてくれたその笑顔に、僕は心底惚れましたっ!」
「貴女の真剣な眼差しが好きです! ゲームや勝負事に取り組む際の、決して手を抜かないその姿勢に僕はいつも憧れ、そして、激しく恋慕しました!」
~中略~
「天道花憐さん! 僕は貴女のことが……貴女のことが、大好きです! 以上!」
(『ゲーマーズ!6 ぼっちゲーマーと告白チェインコンボ』より引用)
これほどまでまっすぐに告白できる主人公に魅力がないはずがありません。
雨野景太というキャラクターはぼっちゲーマーで、かといってゲームで勝つことに力を入れているわけでもなく、楽しむことを大事にしている、いわゆるゆる勢です。負けても平然としている彼ですが、その心の中にはきちんとした芯を持っており、やるときはやる主人公であり、そこが大きな魅力です。
しかし、最後の最後で意を決した千秋が景太に向けて告白するという爆弾が投下されるのですが。
すれ違いと勘違いの積み重ねは、時として大きな変化を生み出してしまいます。ある意味、その集大成とも言えるのが、この7巻です。
- 著者
- 葵 せきな
- 出版日
- 2017-03-18
千秋の告白を、景太は男らしく断るのですが、そのときの会話を中途半端に聞いていた花憐は千秋と景太が付き合いだしたと定番の誤解をしてしまいます。
一方で、お互い気軽に相談しあえる同盟を組んでいた景太と亜玖璃は本当に気の置けない友人としての交流を続けていくのですが、当然、祐からすればその事実は、恋人としての敗北を感じさせかねないものになります。
このような事情から景太と亜玖璃は恋人を不安にさせているという状況を申し訳なく思い、結局相談をしてしまいます。そしてプレゼントするとカップルは永遠に結ばれるというラブベアーという人形をお互いの恋人に渡そうと計画します。
地味に心のえぐられる修学旅行の終局、デスティニーランドでそれを渡そうとした結果、二人は待ち望んでいたはずの関係性をすすめるキスを受け――
別れを告げられるのです。
いかがだったでしょうか?
ネタバレ全開で突っ走った『ゲーマーズ!』振り返りでしたが少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。このすれ違いと勘違いで迷走し続ける彼ら彼女らの青春錯綜コメディー。非常に面白いのでぜひとも読んでみてください!