不思議な雰囲気を醸し出しているのが特徴の蒼月海里作品。日常と非日常の狭間が舞台となる作品も多く、読者を優しく包み込みながらも幻想的な世界へ誘います。今回は、そんな蒼月海里シリーズ作品を4つご紹介します。
蒼月海里は宮城県仙台市生まれ、千葉県育ちの小説家です。日本大学理工学部を卒業しています。東京都内の書店で書店員として働く傍ら、執筆活動を行っています。2014年、角川ホラー文庫より刊行された『幽落町おばけ駄菓子屋』で作家デビューしました。
ファンタジー要素が盛り込まれた不思議な雰囲気の漂う作風が特徴です。作中には、魅力的なキャラクターたちも多く登場します。蒼月海里の作品は、読者を優しく包み込み、あたたかな気持ちにしてくれる後味の良い小説ばかりです。
1冊に収録されている物語それぞれが、短編として組み立てられているため、ちょっとした時間の合間に読み進めやすいのではないでしょうか。もちろん、シリーズ全部を一気に読む楽しみ方もあります。
大学卒業後、入社した会社が倒産してしまった名取司。仕事がなくなってしまった名取は、ある日、珈琲の香りに誘われて、とある場所に迷い込みます。そこは、自称魔法使いの亜門が営む古書店でした。本や人との縁を無くした者の前だけに現れるらしい、不思議な古書店。
ひょんなことからそこで働くこととなった司は、訪れる客たちが無くしてしまった縁を取り戻すために亜門と様々な謎ときに挑みます。人と関わることで少しずつ変化していく司とミステリアスな亜門の連作短編集です。
- 著者
- 蒼月 海里
- 出版日
古書店が舞台ということもあり、媒介役となる作品も登場します。さらに、ここでは珈琲を飲むことができるため、読みながら一緒に珈琲と甘いスイーツを用意しておくと、より作品に入り込めそうですね。
非日常的なファンタジーの雰囲気もありつつ、うんちくも随所に散りばめられることで、現実味を感じさせてくれます。本好きにはたまらないこの世界観を、ぜひ作品で味わってみてください。
大学生となり、一人暮らしのアパートを探していた御城彼方は、有楽町に住まいを探していたはずなのに、何故か妖怪や幽霊がさまよう不思議な街の物件を紹介されます。その物件があるのは、その名も「幽落町」。地図には載っていないその場所は、実はあの世とこの世の境界に存在したのです。
不思議な物件に住むことに決めた彼方は、駄菓子屋も営む大家さんに頼まれ、死者の悩みを解決するために奔走することとなります。人情味あふれる不思議な街で繰り広げられる物語が始まります。
- 著者
- 蒼月 海里
- 出版日
- 2014-08-23
角川ホラー文庫から刊行されているものの、ホラー要素は少なめです。ハラハラ、ドキドキを感じることはあまりないものの、ほっこりと優しい気持ちになれるお話が詰め込まれています。癒されながらも、シリーズを通して、彼方が幽落町に連れてこられた理由や大家さんの正体などが徐々に明かされ、目が離せなくなっていきます。
また、お人好しなために面倒ごとに巻き込まれていく彼方も、少しずつ成長していくのです。この作品を読み、時に切なく、時にあたたかな気持ちになりながら、あの世とこの世の狭間の世界を楽しんでみてください。
高校生の来栖倫太郎は、ある日訪れた水族館の展示通路で謎の扉と遭遇します。好奇心にかられて扉を開けてみると、そこは海底二万里という潜水艦のようなカフェでした。そこには、倫太郎が小学生の時に兄のように慕い、突然失踪してしまった大空と似た容姿の人物がいます。
海底二万里は、宝物を失くした人が訪れるカフェなのでした。倫太郎はその常連になり、店主である深海に巻き込まれる形でカフェに訪れる悩める人々の宝物を一緒に探すことになります。実は、倫太郎自身も心に抱えているものがあり、人々の宝物を探しながら自身とも向き合っていくのです。
- 著者
- 蒼月 海里
- 出版日
- 2016-01-23
突然いなくなった大空と、彼にそっくりな深海は関係があるのか。カフェに訪れる人々の宝物探しとは別の、大きな謎も気になりますよね。
著者が、心が少しでもあたたかくなればという想いを込めたというように、読んでいて心地の良い物語です。モチーフとなった作品もあるようで、その作品も思い描きながら読み進めても面白いかもしれません。
また、水族館の中にあるカフェであるため、所々に深海生物に関するうんちくも絡められています。本作を読んだ後で水族館に行けば、今までとはまた違った見方で楽しむことができるでしょう。
ネットゲームばかりして生活する大学生・葛城一葉。妹の二葉に自立を促され、家を追い出されます。そんな経緯で一人暮らしを始めることとなった一葉の新しい居住地は、二葉が手配した賃貸アパートでした。しかし、賃貸アパートの住所に行ったもののそこにあったのは、平屋建ての雑貨店。一葉の部屋は、地下2階に用意されていたのです。
大家は自称悪魔と名乗る怪しい人物。隣人は、イケメンアンドロイドと女装男子。そして、アパートは、人の業によってどんどん地下に深くなっていく異次元地底アパートでした。個性あふれるアパートを舞台に個性あふれるキャラクターたちが繰り広げるコメディストーリーです。
- 著者
- 蒼月 海里
- 出版日
- 2016-07-05
他の蒼月海里作品とは異なり、コメディ色の強い作品に仕上がっています。
主人公であるネトゲ依存症気味の一葉の個性が際立っていますが、他のアパートの住民たちのキャラクターも負けていないほど強烈です。そのため、キャラクター同士の掛け合いに軽快さと面白さがいい具合に反映されているのではないでしょうか。
自称悪魔の大家が作る「アンモナイトパン」は一度食べてみたくなるかもしれません。他にも大家にまつわる謎も登場し、作品にアクセントを与えています。
不思議な地下のアパートで繰り広げられるドタバタコメディをぜひお楽しみください。
これを機会に、蒼月海里の作り出す不思議な世界に飛び込んでみませんか。気軽に楽しむことができるのもおすすめポイントです。シリーズ作品が多いですが、気になったものから手に取ってみてください。