荒井良二のおすすめ絵本6選!カラフルで元気の出る絵が魅力

更新:2021.12.19

荒井良二の作品は豊かな色彩の絵本が多く、私たちにメッセージを送っている内容のものも多数あります。今回は、何気なく暮らしている毎日を改めて見直すとともに、明日への力をくれるストーリーの絵本を選びました。

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表現豊かな絵本作家、荒井良二とは

荒井良二は1956年山形県生まれで、日本大学藝術学部美術学科を卒業しています。1990年に自身初の絵本を発表。さらに、世界的な絵本の新人賞「キーツ賞」に『ユックリとジョジョニ』を出展しています。

その後たくさんの絵本を出版し、作画や、挿絵を手がけ、小学館児童出版文化賞など多数の賞を受賞しています。絵本作家としての活動のほか、作詞、作曲そしてギター演奏などの音楽活動をする一面も。

絵本は単独作品はもちろん共著もたくさん出版されており、同じ東北出身の作家とコラボした作品もたくさんあります。2011年に起きた東日本大震災後は被災地に何度も足を運び、現地で暮らす人たちの気持ち、自分にできることを綴った絵本も作成しました。今回は、数多く出版されている絵本の中でも、特におすすめの5冊を紹介いたします。

荒井良二が震災後に手がけた絵本『あさになったのでまどをあけますよ』

朝起きてカーテンを開けるとどんな風景が見えますか?晴れていますか、曇っていますか、風は強いですか?

『あさになったのでまどをあけますよ』は、東日本大震災後に出版された絵本であり、東北出身である荒井良二が「自分にできること」を探して、この本を作成しました。一体、彼はこの絵本をどんな気持ちで描き、どんなことを伝えたかったのでしょう。

著者
荒井 良二
出版日
2011-12-02

毎朝、カーテンを開けると天気は様々でも、いつも見慣れた変わらない景色が目の前に広がっているのではないでしょうか。

当たり前だと思っていることが一瞬で崩された東日本大震災は、当たり前のことなど一つもないと教えてくれたような気がします。家族がいること、いつもと変わらぬ暮らしができること。それは、普段気がつかないだけで、とても大切なひと時なのです。

『あさになったのでまどをあけますよ』には、山や街など、様々な場所で暮らす人々の生活が描かれています。忙しい街の中に住む人は、自然豊かな人から見ると騒々しい暮らしに見えるけれど、そこに暮らしてみると、その場所ならではの良さも見えているかもしれません。

それぞれの場所に住む人がその場所に愛着を持つこと。そしていつもと変わらぬ暮らしができることのありがたさを感じさせてくれる絵本です。あなたは自分の住んでいる街が好きですか?

あなたの願いは何ですか『はっぴぃさん』

『はっぴいさん』の厚い表紙をめくるとそこにはツルツルで銀色のページにイタズラ書きのような絵が描かれていてビックリします。しかし、その絵をよく見てみるとイタズラ描きではないことに気がつきます。なんと、絵の中には戦車がいっぱい!遠くの山には太陽が昇るところでしょうか。それとも沈むところでしょうか。

表紙の幸せそうな黄色から予想もつかない表紙裏の絵に驚かされる『はっぴいさん』ですが、どんな物語なのでしょう。

この物語はアメリカであった9.11の同時多発テロがあった時に、荒井良二が戦争と平和について考えて描いた作品。戦争をする国、戦争のない国どちらにも共通するのは何かを願う人たちが必ずいるということ。この「願う」ことに焦点を当てて描かれたのがこの絵本です。

著者
荒井 良二
出版日

山の上にある大きな石には時々「はっぴぃさん」がきて、願い事を聞いてくれるのだそう。いつものろのろな男の人といつもあわてる女の子が、別々にその石を目指して出かけました。女の子はバスに乗り、石があるという山のふもとで降りますが、あわてる性格のため、川を渡るときに靴を川の中へ落としてしまいます。そこには、川がきれいだったからと腹ばいになって眺めていたのろのろの男の子がいました。

2人は同じ山をそれぞれ別々に目指し、途中で抜きつ抜かれつしながら、お互いに相手はどこへ行くのだろうと思っています。

読んでいると「同じ方向に歩いているから、会話をすればいいのに」と思うのですが、それだけ2人は「はっぴぃさん」がやってくる石を目指して一生懸命なのかもしれません。

山の頂上で大きな石を見つけた2人は同時に声をあげました。そして男の子はのろのろを直したいと願い、女の子はあわてる性格を直したいと願います。やっと2人は会話をはじめ、何を願いに来たのかを話し始めるのです。

黙っていてはわからないことも話をすれば変わることもある。そして自分が欠点だと思っていた性格も自分以外の人から見たら全然欠点ではなく長所に見えることも。これらの事はつい忘れがちになっているけれど、『はっぴぃさん』を読むことで再確認できるのではないでしょうか。

いつも変わらずそこにある『きょうはそらにまるいつき』

私たちをいつも静かに照らしてくれるお月様。真っ暗な夜道も月のあるだけでほっとしますね。毎日あくせく過ごしていると、空を見上げる時間も少なくなっているのではないでしょうか。本作では、小さな赤ちゃんはベビーカーに乗ったり、お母さんに抱かれたりしているので自然と空を眺めています。

『きょうはそらにまるいつき』は、大きくなるにつれ見上げなくなってしまった空に、小さい頃と変わらずお月様が顔を出しています。

著者
荒井 良二
出版日
2016-09-09

バレエの練習が終わりバスの車窓から、丸い月を眺めている女の子。遠い遠い山で遊んだくまの上にも、丸い月は浮かんでいます。新しい靴を買って帰る男の子も、バスの車窓から同じ丸い月を見ていました。彼は、新しい靴が嬉しいのか両手で大切そうに靴の箱を持っています。

そして物語は、人間の住む街の中の様子と自然の中で暮らす動物たちの姿を織り交ぜながら進んで行きます。公園に集まる猫たちは、猫会議でも始めそうな雰囲気。それぞれの場面の絵から想像も膨らむ絵本です。

後半では、ベッドに寝ている赤ちゃんが窓ごしに丸い月を見ていますが、月の周りには丸い花が咲き、馬や虎たちが月からこちらへやってくる様子が明るいタッチで描かれています。そして赤ちゃんは自然と笑顔になるのです。

人それぞれにライフスタイルの違いはあっても、変わらないのは丸い月。最近、月を見ていないなぁと思ったら、ぜひ空を見上げて、子どもと一緒にお月さまを見てみてはいかがでしょうか。

好きな相手への気持ちがあふれている『ぼくのキュートナ』

『ぼくのキュートナ』はぼくからキュートナに宛てた15通の手紙を織り交ぜた絵本です。

荒井良二の描く挿絵が子供が描いたような可愛らしい女の子なので、主人公の「ぼく」は絵が上手くなく、恋愛も遠慮がちで大好きな女の子をちょっと距離を置いてみている男の子を連想させます。

大好きなぼくのキュートナは、メガネをかけていたり、壊れた時計をしていたり、ちょっと変わった女の子かもしれません。でも皆と一緒ではない個性的な人って魅力的だったりしますよね。

著者
荒井 良二
出版日
2001-02-27

物語の文章も手書きのような文字で罫線にちょっと斜めで書かれていたり、思いついたことをそのまま書き記した雰囲気が出ています。

手紙と手紙の間のページには、手紙に書ききれなかったキュートナへの想い。ぼくがふと気がついたキュートナらしさが2、3行で綴られています。

男性から好きな女性へ贈ってもいいですし、女性もこんな風に思っていてくれるのかなと何度も読み返してみたくなるストーリーでしょう。

キュートナはぼくにとってもちょっとわがままな女の子だけど、それも可愛く見えてしまうのがきっと恋なのですね。

今度はゾウバスに乗って、たいようオルガンのひく世界を旅しましょう!『たいようのオルガン』

黄色くて赤くてひげのあるたいようが、赤いオルガンをひいています。黄色くて赤いたいようには、白いせんのわが広がって、まるで火の玉ライオンのようです。白いゾウバスは、たいようオルガンの世界をはしります。

「でこぼこみち、いぬいる、うさぎいる、きゃべつある、いわある、いけもある、こうえんある、たわーもある、でんしゃある、ひこうきいる、とりのびのび、みつばちいそがしい、すいかもある、いかいる、こんぶもある、おおきないしもある」 
(『たいようのオルガン』より引用)

えんぴつで書いてある文字が、すてきです。

著者
荒井 良二
出版日

たいようオルガンの日没は、黄色とオレンジと赤とピンクと薄紫のひかりが、とびはねます。圧巻は、たいようオルガンとつきオルガンがかがやく、そらとうみです。ひかりのなかをゾウバスがはしります。

たいようオルガンの世界を見ているだけのはずなのに、頭の中には音が鳴り、ひかりの暖かさや、雨やしぶきの冷たさや、風のそよぎを感じます。本を閉じると、そこには本があるだけです。本を開いて、走っているゾウバスを見ると、たいようオルガンの世界に、ザワザワする世界に包まれてしまいます。

荒井良二が伝える、変わらない毎日を感謝すること『空の絵本』

『空の絵本』は福島県出身の随筆作家、長田弘の詩に荒井良二が挿絵を描いた絵本です。

「あっ 雨」中表紙にはタイトルとともにこの言葉が書かれています。次のページでは空が暗くなり雨が降り始め、「だん だだん だんだん 雨はつよくなり」と降り出した雨がだんだん強く降る様子を感じることができるでしょう。

さらに風も強くなり、空を真っ赤に染める稲光も……

緊張感あふれる空模様の様子、そしてひとしきり荒れ狂うと再び静かな空に戻っていきます。

著者
["長田 弘", "荒井 良二"]
出版日
2011-10-12

『空の絵本』は、東日本大震災から約半年後に出版されました。

「運命 みたいに たたきつけ 葉のいろがながれていって 風のいろがうすまいて」(『空の絵本』より引用)

この言葉は、太平洋側に住む東北の人達が大切にしてきた今までの暮らし全てが流されてしまった気持ちを投影しているようです。

当たり前に過ごしている日々は、当たり前ではなく毎日がミラクルであるということ。また災害が起こっても空は変わらずに自分たちの上にあること。毎日の暮らしはいつ壊れてもおかしくないから、どれだけ丁寧に生きるのかと考えさせてくれる物語です。

今回紹介した荒井良二のおすすめ絵本はいかがだったでしょうか。変わらない毎日を過ごせることは当たり前ではないことを感じる作品をはじめ、『ぼくのキュートナ』のように甘酸っぱい恋愛を描いた絵本も。荒井良二の手がけた作品はストーリーはもちろん、絵を見ながらページをめくっても充分に楽しめます。まだ読んだことのない方はこの機会にぜひ手に取ってみてください。

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