自分で字が読めるようになってくる時期は、お友達との関わりも深くなり様々な感情が生まれてくる時期でもあります。そんな時に心打たれる名作をひとりで読めた、というのはお子さんにとっての喜びであり、自信に繋がる体験となるでしょう。
『いやいやえん』は、ちゅーりっぷほいくえんに通うしげるの腕白騒動記、とでもいうようなお話です。
しげるは幼稚園の約束をまったく守らない男の子。ものおきで反省してきなさい、と言われてやっと約束を破ったことに気づくレベル。船のごっこあそびでは、「きみはすぐあばれるからだめ」とお友達から言われてしまいます。机を重ねて登るという危険な遊びを注意されると、お友達のまねしただけと口答えして一日中その子の真似続けるという態度。
- 著者
- 中川 李枝子
- 出版日
- 1962-12-25
約束は破りたくて破ったわけではないのです……思い出せないだけなのです。船遊びではちゃっかり仲間になり、「みんなで記念撮影」なんて最後を盛り上げる提案も。撮影ごっこも仕切れるなどカリスマ性も?お友達の真似ばかりしてたら、帰る方向が違い、永遠に自宅に帰れない羽目に……。
しげるなりの理由やがんばりがあるのです。
狼に出会った時はしげるがあまりにも汚いので、難を逃れるなんていう笑えるエピソードまで。
大人にとっては問題児かもしれませんが、今をたくましく生きている姿はなんだか憎めません。
自分の意見を言いたい!自由に実験したり冒険したい!いちいち手足顔を洗うなんてめんどくさい!しげるの勇気にバンザイ!と読みながらしげるの勇気?を羨ましく思うお子さんは多いのではないでしょうか?
ここまで自由なしげるですが、だからと言って全て自由がいいのかというと、そうではないところもこのお話の面白いところです。
いやだいやだばかりのしげるは「いやいやえん」に連れて行かれます。
「なきたけりゃ、おなき、けんかしたけりゃ、けんかをするし、ゆびをなめていたけりゃ、なめていいんだよ。」(『いやいやえん』より引用)
と園のおばあさん。いやなことな何もしなくていいの?なんて素敵!自由奔放な天国!かと思いきや、全員が自由奔放なので、いやいやえんの秩序はめちゃめちゃです。しかも赤がいやだ、というしげるには、おやつのりんごも、消防車を赤で塗りたくても赤のクレヨンもありません。お友達とけんかをしても誰も止めてくれないし、重症なら救急車がくるだけ!なのです。
しげるは一日でギブアップ。お母さんの背中で、明日はちゅーりっぷほいくえんがいい、なんてはじめての弱音!
子供時代独特のはちゃめちゃな時間が思う存分描かれています。子供たちは共感したり羨ましがったりしながら、大人は懐かしく思い出しながら読み返すことができる、代々受け継がれている本が自宅にある、なんていう方も珍しくない名作です。
『ふたりはともだち』は、がまくんとかえるくんの日常の風景があたたかい友情物語として描かれています。
春になってもがまくんは冬眠から覚めないどころか、ふとんをあたまからすっぽりかぶってまだベッドの中!かえるくんは、春がどんなに楽しいか、どんなに一緒に楽しみたいかを熱弁します。草むらを飛び跳ねよう、森を駆け抜けよう、川で泳ごう!
でも、がまくんの心には届きません。かえるくんはベッド横のカレンダーがまだ11月のままなことに気が付き、4月まで全部破り捨てます。かえるくんはがまくんに春を逃してほしくないのです!かえるくんがどれだけがまくんを大切に思っているか、そのために一生懸命アイデアを出して頑張っている姿が伝わってきて、がまくんにはこんなにも素敵な親友がいていいなあ、と羨ましくなっちゃいます。
- 著者
- アーノルド・ローベル
- 出版日
- 1972-11-10
かえるくんが病気の時には、がまくんがお話を聞かせてあげようとします。でもすぐに思いつかなくて、逆立ちをしたり、頭に水をかけたり、壁にドシンドシンと頭をうちつけたり、とがまくんなりに奮闘……、も虚しく、どれだけがんばっても全くお話は浮かんできません。
そんなこんなで今度はがまくんの具合のほうが……。
そこでかえるくんは、がまくんにベッドをかしてあげ、自分がお話をしてあげるのです。どんなお話かって?それは、がまくんがお話を作ろうと奮闘してくれている姿、のお話!かえるくん、ほんとうにがまくんのことが大好きでとっても大切なんだね、とうるっとしちゃいます。ここまで優しい心の交流ができるふたりの関係、やっぱり羨ましい!
相手を思いやるとはどういうことが、が押しつけがましくなく伝わってくる名作。心のやわらかな時期にぜひ読んで欲しい物語です。
また、がまくんが、「僕は一度もお手紙をもらったことがない、くれるひともいない」と落ち込んでいた時には、かえるくんはこっそりお手紙をかいてカタツムリに配達をお願いします。がまくんは「今日もなにもこない」と言い続けますが、かえるくんは、「僕がお手紙かいたから大丈夫」、と安心させ、二人で玄関に並び、「しあわせなきもちで」お手紙を待ちます。
かえるくんはそのお手紙になんて書いたのでしょうか?がまくんの後ろ向きな決めつけを、未来への希望へと変えてしまうかえるくんの心あたたまる名文。ぜひどんな文章だったのか実際に手にとって読んでみてください。
低学年の時期は、お友達とお手紙のやりとりも楽しくなってくる時期です。お手紙をもらえるまでのドキドキとお手紙を読んだ時のよろこびを、がまくんと一緒になって感じることができるオススメのお話です。大人にとっても子供時代ならではの純粋な友情に心洗われる一冊。ぜひご家族の蔵書にいかがでしょうか?
『エルマーのぼうけん』は、エルマーが空から落ちてきた竜を助けにいくお話です。
年老いたのらねこを拾ってきたエルマー。しかしかあさんはねこが大嫌い。ねこは追い出され、かあさんの態度にがっかりするエルマー。ねこと一緒に公園に逃げ、そこでねこが若かったころの冒険談を聞きます。
どうぶつ島というところには恐ろしい動物がたくさんいる。そこで泣きたくなるほどかなしい動物を見た。空から落ちてきたこどものりゅうで、荷物を運ぶ訓練をさせられ夜遅くまで働かされていた……エルマーはかわいそうなりゅうを助ようと決意するのです!
- 著者
- ルース・スタイルス・ガネット
- 出版日
- 1963-07-15
エルマーは運良く船に潜り込みます。無事島も見つけ、背中のリュックと身ひとつで探検です。
たべものがなくなってしまうと、頭の上からみかんが……ここはみかん島!
行く手をさえぎられたと思ったら、眠っているくじら!背中を伝って無事動物島へ!
たくさんのトラに囲まれた時、チューインガムを投げて興味をそらす!
さいに突かれそうになると、歯ブラシを渡し、角のケアをオススメ!
襲いかかってくるライオンにはブラシ。さて、ライオンには何をオススメしたでしょう?この後ライオンがブラシにハマったことがわかる一目瞭然の挿絵はかわいくて笑えて必見です!
この後もまだまだたくさんの動物に出会い、機転を効かせてピンチを乗り越えます。エルマーはりゅうを助けることができたのでしょうか?奇想天外などうぶつ島での冒険はあまりにも面白く、はやくもっと続きが読みたい!と思わせる魅力がたっぷり。自分で本を読み始めた頃のお子さんでも十分ひとりで読み切れる名作です!
『エルマーとりゅう』『エルマーと16ぴきのりゅう』と続きもあり、セットでプレゼントしても喜ばれること請け合いのシリーズ、ぜひ一度は手にとってみてくださいね。
『ちいさいモモちゃん』は、モモちゃんが生まれてから3歳までの日常のあたたかな出来事がモモちゃんの心の成長とともに丹念に描かれている名作です。
おむつを卒業してパンツになった時、30枚ものパンツを干しながらママが歌うおむつの歌。
ママがお洗濯中に、この家の子にして、とやってきた黒猫。黒猫のクーと名付けたのですが、モモちゃんが尻尾をひっぱって「プー」と言ったからプーに改名。尻尾をひっぱられても引っ掻かなかったプーはその後ずっとモモちゃんの一番の理解者です。
- 著者
- 松谷 みよ子
- 出版日
- 1980-11-10
ママがお仕事を始めてあかちゃんのうちにいくモモちゃん。プープーといいながら号泣です。プーが何かわからなくて困る先生。慌てて野原を駆け抜け園へ飛び込むプー。プーはすっかりモモちゃんのママ代わり。
にんじんが嫌いというモモちゃん。悲しむ人参。兎の穴に落ちたモモちゃんと川に流れた人参を助けるプー。プーはモモちゃんをいつも守って大活躍です。
ママの帰りが遅くて怒ったモモちゃん。ひとりで電車に乗って雲の国へ。ママに怒っている子供たちの国です。雲のしたでかなしそうにモモちゃんの名前を呼んでいるママとプー。初めての負の感情にとまどい怒りで行動してしまうモモちゃん。切ないママの気持ち。誰もが一度は通る試練でしょうか。
ママがおばあちゃんになってしまわないか心配なモモちゃん。ママがおばあちゃんになりませんように、私は素敵なお嫁さんになれますように、とかみさまにお願いします。神様もこまってしまいそうな可愛いエピソード。
3歳になり、あかちゃんのうちを卒業したモモちゃん。ママのお仕事が遅くなり寒い冬あかちゃんのうちで待つことになるのですが…おおきいおねえさんだ、という自尊心が芽生えてきたモモちゃんがとった行動と、モモちゃんの気持ちにはっとさせられます。
ママやプーとのやりとり、モモちゃんの成長段階それぞれの気持ち、状況がとてもやさしいそして美しい日本語で表現されているので、読み聞かせでも、一人で読むのでも、どちらでも十分楽しめるオススメの名作です。
『こまったさんのスパゲッティ』は、こまったこまった、が口癖のお花屋さんがスパゲッティを作るお話です。
こまったさんは、駅前の小さなお花屋さんのおくさんです。今日は雨。ちょうどいいや、寝ていよう、なんていうだんなさま。こまったこまった、を真似する九官鳥のノム。
いったい何をしようかしら?すると九官鳥のノムが「スパゲッティ、スパゲッティ」。なるほどいいアイデアね!とこまったさん。「ねている人にはあげませんよ」なんていいながらもちゃんと二人分のスパゲッティを作りはじめます。
- 著者
- 寺村 輝夫
- 出版日
- 1982-07-20
ひきにく、たまねぎ、セロリ、パセリ、ミートソースができるわ!とこまったさん。水中メガネをかけて玉ねぎを切ったり、お湯を沸かしてトマトの皮むき。本格的です!
そして歌います。
「オイルは たっぷり トクトク 入れて
たまねぎ いためて あまみを 出して
セロリや パセリの かおりを たてて
ひきにく 入れたら ゆっくり にこむ」(『こまったさんのスパゲッティ』より引用)
こまったさんは煮込んでいる間、雑誌に手を伸ばします。アフリカの大草原と動物たち。
パスタを湯がきはじめるのですが、パスタがどんどん消えていきます!と突然、お湯がふきこぼれ大洪水に。こまったさんも流され、たどり着いたのはアフリカ!動物たちは「コックさんが来た!」と大歓迎!
こまったさんは、アフリカのレストランでどんな体験をしたでしょうか?ぜひ読んでみてくださいね。
とにかく、お料理の手順がとてもわかり易くて、おいしそうな香りがしてくる!この通りにすれば私でも作れそう!とワクワクできるお話です。挿絵もとても素敵で、色鉛筆で細かく丁寧に書き込んであるカラフルなアフリカや大きな木のレストランを眺めているとその場にいるかのように感じられ臨場感たっぷり。読み終わったら、「ママー!一緒にスパゲッティ作ろう!」なんてことになりそうな一冊、お見逃しなく!
てつたくんは5歳。みつやくんは3歳。2人はいつも一緒に遊ぶとても仲の良い兄弟です。
ある日、2人は手作りの地図とお母さんに作ってもらったお弁当を持って森に探検に出かけます。手にはピストル、どんなに強い動物が現れてもへっちゃらです。
森の奥で2人が見たものはとても大きなシマシマのたまご。草や葉っぱで隠して、「ひみつです」と書いた紙を置いて、紐を取りに戻る2人。さてこのたまごは何なのでしょうか?
- 著者
- わたなべ しげお
- 出版日
- 1971-12-01
巨大なたまごから産まれたに違いない不思議な赤と黄色のシマシマ怪獣へなそうると、仲良し兄弟てつたくんとみつやくんの交流を描いた1冊です。
3歳のみつやくんはまだ言葉を上手に発音することが出来ません。たまごは「たがも」、どうぶつは「どうつぶ」になってしまいます。また、へなそうるもあまり上手に言葉が喋れません。しっかり者のてつたくんでさえ、文字を書かせるとちょっと怪しいものです。この3人の会話は噛み合っているような嚙み合っていないような不思議な雰囲気で、とてもワクワクしますよ。
この本の中にはこのような小さい子供特有の言葉遊びがたくさんでてきます。黙読をしているとわかりずらい文章が、音読をすることにより面白い文章に変化しますので、ぜひお子さんと声に出しながらみつやくんやへなそうるのセリフを読んでみて下さいね。
そして、突然現れ最後まで明かされていないへなそうるの正体、あなたは何だと思いますか?
なんでも一人でやりたい、という気持ちが大きくなってくる時期。冒険だったり、お料理だったり、自分もできる、と背中を後押ししてくれそうです。複雑な感情も育ってくる時期。自分の気持とどう向き合うか、お友達とどう心を伝えあうか、今までより少し深く感じて考える助けになるような名作ばかりです。全てひらがなで読み仮名がふってあるので、読み聞かせしなくても読めるものを選んでみました。さりげなく目につく所に置いてみてあげてください。