都内のゲーム会社で働くひとりの男の生き様を描いた『東京トイボックス』。彼の熱い働き方に励まされるお仕事漫画です。今回は本作の見所をご紹介します!ネタバレを含みますのでご注意ください。
- 著者
- うめ
- 出版日
- 2007-09-22
秋葉原にあるとあるゲーム会社。そこで夜通しゲームの修正点について考えている男が主人公の天川です。一夜明け、朝からハイテンションで「電脳戦士モバイラー」というアニメキャラの決めポーズで仕事の仕様変更をスタッフに伝える彼ですが、全く相手にされません。
それもそのはず、今まで何度も変更してきたせいで会社をつぶしたことがあり、しかも今は割高なパチスロの動画の納期が迫っており、それでみんな手一杯なのです。
「オレを信じてくれとは言わん!!しかし!!俺はお前らを信じている!!」
天川が熱い咆哮をあげますが、スタッフは無視。あげくゴミを投げつける者も。熱いけれどちょっと困った人物、それが天川なのです。
一方同じ都内でも、大手町のIT総合企業でスタイリッシュに働くのが月山。彼女は役職にはまだついていないものの、上司より実力があると噂されるほど優秀な人物です。
しかしその噂に機嫌を損ねた上司の嫌がらせで、彼女は潰れそうなゲーム会社に出向することになります。
その出向先のゲーム会社こそがが、じゃんけんで天川が社長に据えられたゲーム会社「スタジオG3」だったのです。感情型な天川に対して理性的な月山。油と水のように交わることのないふたりの波乱の日々が幕を開けます……。
- 著者
- うめ
- 出版日
- 2007-09-22
「スタジオG3」の経営の立て直しを任命された月山はさっそく現状分析を始めます。
実はこの会社、ゲーム会社とは言うもののほとんどが他社からの下請けばかり。パチスロのムービービデオ、テレビのCG制作で食いつないでいる状況だったのです。しかも現在受注している仕事の大半が納期を過ぎている状況となっています。
そんな時にも関わらず、ゲームセンターで遊んでいた天川。彼に蹴りをいれて会社に連れ戻した月山は、スケジュールについて提案し始めます。
そんな現在抱えてる案件のひとつで、天川が今最も力をいれているのが「電脳戦士モバイラー」の仕事です。しかしこれもすでに納期を過ぎており、それにも関わらず天川は「一度できたのにできてない」と言います。
どういうことかと問い詰める月山に、天川は真面目な表情でこう語るのです。
「魂が違ったんです……」
フリーズする月山。しかしその後努めて冷静にこう言います。
「納品しましょう」
しかし天川も結構強情。彼女に食い下がろうとするのですが…。
「魂が……」
「んなもん犬にでも食わしとけ!!」
デスクに座らされ、肩を落とす天川。月山の完封勝利かと思いきや、彼女が翌日会社に行くとなぜかみんなしかばねのように疲れているのです。その中でひとりだけらんらんとした表情の天川。なんと新しい修正を思いついたというのです。
「納期を守らせるのはあんたの仕事だ
だがオレの仕事はおもしろいゲームをつくること
おもしろいゲームをつくることなんだよ!!」
納期内に、という言葉が意識から抜け落ちている天川はヒートアップモード。楽しそうに修正を加え、納期より1ヶ月も遅れたその商品はストーリーの改ざん、新必殺技、新キャラが勝手に追加されており、当初のモバイラーとは全くの別物になっていました。
本社に返り咲くどころかクビを覚悟する月山。果たしてこの仕事はどうなってしまうのでしょうか?
いつも通り喧嘩が絶えない天川と月山ですが、ふたりについに決定的な亀裂が入る出来事が起こってしまいます。ことの発端はゲーム会社MMGから持ちかけられた「サムライ☆キッチン」という戦国アクションゲームの制作について。
実はこれはG3が唯一オリジナルで手がけたゲームで、今海外版を作らないかという話が持ち上がっているのです。天川もスタッフも大喜びするような、大きくてやりがいのある仕事なのですが、実はこの話を持ちかけてきたのが以前天川が勤めていた大手ゲーム会社ソリダスだったのです。
実は天川はかつて上司で、現在はソリダスで局長を務める仙水にプライドを打ち砕かれた経験があったのでした。上の指示で開発中のゲーム制作が凍結になってしまい、その訳を仙水に聞きにいった当時の天川は決定的なことを言われてしまいます。
「必要なのはお前じゃなくて『ソード4』という看板なんだよ
僕の言うことを聞いていればずっと勇者でいられたのにね」
今まで自分こそが物語の主人公だと思ってきた天川にとっては致命的な言葉でした。そしてそのトラウマを思い出した彼は、商談中になんとトイレに引きこもってしまうのです。
トラウマがあるとは聞いていたものの、さすがにこの大人気ない行動には怒り心頭の月山。天川のいるトイレの扉の前に立ち、こう言います。
「とっとと働けよ天川太陽!!
魂だの熱さだのハッタリはもうたくさんです
結局逃げてるだけじゃないですか
そんなヤツが他人を楽しませるコンテンツを作れるわけない!!
……お願いします 受けてください」(中略あり)
しかしそれでも踏ん切りがつかず、なかなか出てこない天川。ついに月山はしびれを切らします。
「……天川さん もう社長やめてください
あたしがやります
携帯コンテンツだってまだまだいけます(中略)
G3がゲーム会社であり続ける必要はどこにもないんです
どうもおつかれさまでした」
そして天川に背を向け、その場を去ろうとする月山。しかし会社のことを持ち出され、やっと決心がついた天川は扉を開けて商談のテーブルに戻り、取引先とスタッフに頭を下げるのです。
「須田さん みんな 海外版……お願いします」
やっと話がまとまり、喜ぶスタッフ達、安心する月山。そして腹を括った天川は取引先の社員にこう言い残すのです。
「……それから須田さん 仙水さんによろしくお伝えください」
そう言った彼の顔に迷いはなく、ついにG3きっての大仕事が進められていくのです。
果たして天川はこの先どんな熱いドラマを見せてくれるのでしょうか?
- 著者
- うめ
- 出版日
- 2007-03-24
頼り甲斐がなく、実は弱気な天川ですが、ゲームを作ることにかける情熱は人一倍強く、見ているこちらまで熱くなってきます。大人になってよかったと思えるようなまっすぐな仕事漫画が『東京トイボックス』なのです。
ぜひ作品でその温度感の高さを味わってみてください。明日からも頑張ろうと思えるような元気をもらえること間違いなしです。