大人のなってからも、少女のようなときめきの心は忘れたくないものです。しかし、大人になってから共感し、ときめくことができる作品はそう多くありません。そこで、大人の女性におすすめの少女漫画を5作品ご紹介いたします。
漫画は現実にない世界が魅力。現代を舞台にしていても、予想外の事が次々と起こります。しかし、そこから逸脱しすぎると、漫画世界でも浮いてしまうもの。リアルな感情を織り交ぜ、現実的な着地点を探すのが、少女漫画の魅力でもあります。
宝くじを高額当選した両親が、医者を目指すことになった。『微糖ロリポップ』は、そんな現実にはなさそうな出来事から物語は始まります。勉強のために実家へ行ってしまった両親とは、別居することになった主人公の後藤円。両親が昔恩を売ったという、麻木家の離れに居候することになりました。
- 著者
- 池谷 理香子
- 出版日
- 2007-04-13
麻木家には、中学2年生になる一人息子の知世がおり、母の留美子に近づくなとクギを刺された円。しかし、離れには知世の漫画やDVDが隠されており、2人は半同棲状態になってしまいます。そんな時、前から裏がある、と思っていた同級生の小野が、留美子の愛人だと知った円は、警戒しながらも目で追ってしまい、気になって仕方がありません。
円と知世と小野、微妙な三角関係で物語が進んでいきます。円がさっぱりとした気質なせいか、ドロドロ感はなし。デレからヤンデレまで、若さゆえに恋心に振り回される知世の成長ぶりと一途さに胸キュン、小野の謎めいた魅力と大らかさに、ときめきつつもどこか安心してしまいます。
恋の段階を踏んでいる時の、円の年相応な反応もかわいらしく、甘酸っぱい成分も多め。作中では設定以上に現実では有り得なさそうなことが起こるため、恋以外の物語の展開も楽しめる要素が満載です。円のファッションや髪型も注目ポイント。可愛くておしゃれな、大人の女子にも楽しい作品です。
お金に余裕があるならば、通いたいところと言えばエステサロン。プロの手により脂肪を燃やし、身体も心もリフレッシュする、なんていう体験は、1度ならず何度もしたいものです。『BOYSエステ』は、そんなエステサロンを舞台にした作品ですが、「ボーイズエステ」はイケメン男子エステティシャンばかりがいるお店だったのです。
物語は、若い男女がラブホテルの一室にいるところから始まります。16歳の小岩井静香は、初めての彼氏との初エッチにドキドキ。しかし、彼氏からはできないと言われ、その場はうやむやになってしまいます。後日静香の三段腹に萎えた、と言っているのを聞いてしまった静香は、ショックで不登校に。
- 著者
- 真崎 総子
- 出版日
- 2004-06-11
母親が学校に連絡したことで、理事長の息子である敷島七里にエステ研修の被験者に誘われた静香は、痩せてキレイになることを決意します。一方、包茎手術費用を貯めたい赤城響は、マッサージの腕前を見込まれ、エステティシャンの研修生に。そこで静香と知りあうことになります。
静香と響の恋愛模様が描かれますが、舞台はイケメンだらけのエステサロン。そのシステムや、禁止事項もそれらしくて笑いを誘います。例えばお客さんとの恋愛禁止。研修施設の壁にも「勃起厳禁」と貼ってあるなど、女性のお客さんばかりを迎えはしますが、中身は男子校のノリ。エステティシャンたちの軽妙な会話が楽しみになってしまいます。
静香が惚れっぽく、妄想癖のある性格のせいか、恋愛模様はラブコメ風味。コメディ展開と恋模様を、楽しみながら読み進めることができます。イケメンばかりなので、好みの男性キャラを探すのもお楽しみのひとつ。こんなエステサロンがあれば行ってみたい、と思わせてくれる癒しの1冊です。
若い頃は勢いで何とかなっていたあれこれが、上手くいかなくなってくるのがアラサーという年齢。特に体力の衰えを意識すると、気力を奮い立たせるのに苦労する、という方もいるのではないでしょうか。一度折れてしまうと、立ち上がるまでに時間がかかる。そんな年齢でもあるのです。
『Bread & Butter』は、とある事件をきっかけに、12年間務めた小学校教員を、半ば解雇のような形で退職した、34歳の深田柚季が主人公。先輩教師や生徒たちに失望されたままになってしまった柚季は、心に虚無感を抱えています。婚活をしてはみたものの、気乗りせず結婚相談所の人に怒られる始末。
- 著者
- 芦原 妃名子
- 出版日
- 2014-03-25
そんな柚季に運命的な出会いが待っていました。古びた小さな文房具店に、学校の給食とは比べ物にならないほどの美味しいパンがありました。文房具店兼パン屋の店主、原洋一と親しくなった柚季は、洋一との食事風景を想像し、その楽しそうな空気についうっかりプロポーズ。断られると思っていたところ、まさかの了承を得たことで、出会って2日目の婚約関係が成立してしまいます。
事件により、自信を失った柚季と、人気漫画家だった過去や、元カノとの生活を振り切ることができない洋一。少しずつ距離を縮めることによって、結婚をはじめとした人間関係を、深く考えていくようになります。始まりは勢いでしたが、静かに歩み寄り、関係性を考えていく距離感が絶妙。情熱的ではありませんが、これぞ大人の恋愛という落ち着きが魅力です。
柚季の日常は、パン屋の仕事を覚えたり、洋一と関わったりと、スローペース。徐々に生きる力を取り戻していく姿に、勇気づけられます。出会って2日という、傷ついた者同士の婚約生活、胸を締めつけられるような痛みを感じることもありますが、それ以上に一息つける安心感のある、そんな作品です。
生まれてくるとき、誰も家族を選ぶことはできません。人間が成長するまでに、本来の性格以上に影響を及ぼすのが、家庭環境。そのため、生きにくさを抱えたまま、大人として日々を過ごしている人も少なくありません。
『私がいてもいなくても』は、そんな家族との関係が原因で、生きにくさを抱えている安部晶子の物語。晶子の母親は兄を溺愛し、妹の晶子はほったらかし。家庭に居場所が無く、自分は居ても居なくてもいいのではないか、という漠然とした不安を抱えていました。
- 著者
- いくえみ 綾
- 出版日
- 2010-03-18
フリーターとして働いていた晶子でしたが、売れっ子漫画家となった中学の同級生、神田川真希と再会し、彼女のアシスタントになることに。真希の寡黙な恋人、日山に自身の不安や傷ついた心を慰めてもらっているうちに、惹かれていきます。
同級生の恋人に惹かれる、という恋物語に視線が行きがちですが、本作は1人の女性の成長物語、という要素が強め。長年囚われてきた家族の呪縛から脱却していくことになります。その過程で特別なことは起こらず、日常のちょっとした会話や人間関係をきっかけに吹っ切れていく姿がとてもリアル。自身の心の枷が外れたような、心地よい気分を味わうことができます。
タイトルの『私がいてもいなくても』は、ネガティブにも、ポジティブにも考えられる、不思議な言葉。読後には、言葉の印象が変わっていることでしょう。自分と、何でもない日常を大切にしたくなる、そんな気付きに満ちた作品です。
短編集の魅力は、1冊で複数の物語を楽しめるところ。1話完結のすっきり感と、もう少し読んでいたかったという作品と出会った時の、余韻がたまりません。
ガラスのような繊細さと、エロティックさが混在した作風が人気のジョージ朝倉の短編集『水蜜桃の夜』には、血の繋がらない兄妹の想いを描いた表題作「水蜜桃の夜」、失踪した恋人との思い出語りがメインの「失踪日和」、夏の描写が秀逸な、幼馴染の淡い恋模様を描いた「赤いソーダ水」他にも、少女漫画色の強い「カラフル・フレーバー」、突き抜けた爽快感が魅力の「愛の暴走」の5編が収録されています。
- 著者
- ジョージ 朝倉
- 出版日
- 2002-05-10
ジョージ朝倉作品の特徴と言えば、そのスタイリッシュな絵柄と、トゲがありながらも繊細なストーリー。その特徴が強く表れているのが、「水蜜桃の夜」です。義兄のナツに恋をしてしまった沙羅の、禁断の恋を描いていますが、恋に対する痛々しいほどのひたむきさに、心が締めつけられたような気分に。夏の濃厚な空気を思い出し、息苦しささえ感じてしまいます。
夏を題材にした作品が多いせいか、熱気を孕んだ空気が重苦しく、耳鳴りとともに静寂を感じられるような、夏独特の静謐さが作品全体に漂っています。しかし、切ない恋物語ではなく、ジョージ朝倉の作風らしからぬ、明るさと笑いに満ちた作品も収録されているところがポイント。様々な物語を楽しむことができます。
作者の引きだしの広さに驚けるのが、短編集の魅力のひとつ。切ない恋物語から、笑って泣ける青春ストーリーまで、ジョージ朝倉の持つ世界の広がりを感じることができる、作品ばかりです。
少女漫画と一口に言っても、作風は様々。娯楽に特化したものや、共感できるものなど、バラエティに富んでいます。気分に応じて読む作品を変えるもよし。大人女子が楽しめる作品ばかりです。