『グラップラー刃牙』などで有名な板垣恵介が土下座を極めた男を描いた最狂のギャグ漫画があることをご存知でしょうか?今回は知られざる迷作『謝男(シャーマン)』の名シーンをご紹介!ネタバレを含みますのでご注意ください。
- 著者
- 板垣 恵介
- 出版日
- 2012-11-28
『グラップラー刃牙』などで有名な板桓恵介が超常現象のような土下座を魅せる男を描いた『謝男(シャーマン)』。ひとことで言うとその世界観はカオスです。
いつでもどこでも土下座することを厭わない拝一穴(おがみいっけつ)という男。彼はある時は金八先生のように情熱的に、ある時はパンツの股間部分を謎の液体で濡らして変態的に学生たちを正しい?道へと導きます。
何を考えているか全く理解不能な宇宙人のような男ですが、拝は彼なりの美学に沿って行動をしているようなのです。そのよくわからない芯の通り具合に読者は引き込まれていくのです。
ぜひ作品で底なし沼のように読者を引き込むカオスな板桓恵介の作品世界に入り込んでみてください。
- 著者
- 板垣恵介
- 出版日
- 2013-03-29
本作の始まりはある学校の体育館に異常にカラスが集まるという迫力のシーンから始まります。専門家が分析する超常現象の原因は、その体育館上空が何か「気持ちいい」ということにカラスが気づいたから、という超曖昧なもの。
しかもそれを解説する専門家は目がイっています。まともな奴がいないです。
その日、その学校の体育館では拝の着任式が行われていました。彼はおもむろに体育館のステージ上で靴を脱ぎ、苗字と名前を言いながらこう続けます。
「ご覧の通り若輩であり未熟者 生徒のみなさん どうか
わたしを援助(たす)けてください」
そして流れるような美麗な所作で土下座。
全校生徒はいつも上から目線で話してくる教師、さらに言うと大の大人が土下座をしていることに驚愕し、昂奮。体育館は有名歌手のコンサートのような盛り上がりを見せます。すでにカオスです。
その後土下座から立ち上がった拝は生徒たちにこう言いました。
「残るは祈願だ」
謎すぎる言葉です。着任式で祈願をする教師など聞いたことありませんが、堂々と宣言する姿にはこっちが間違っているかのような気迫があります。
そして拝は後ろの国旗に向かい、何の変哲もない座礼をするのです。期待していただけに波乱のない展開に失笑がもれます。
しかしその時!なんと体育館の中にいる生徒だけが全員前のめりに倒れていたのです。在校生3年のさくらはその時のことをこう語ります。
「…………あの時の あれは… きっと…
拝先生の”後押し”だったのじゃないかと……
だって……あんな心強い……あんなに気持ちのイイことって…初めてだもの……」
そして1話完!
何かよくわからないものが目の前を超スピードで通り過ぎていったような茫然自失感があります。しかも何だか生徒のエロい言葉で終わりました。
まったく意味が分からないけれどなんだかくせになる。1話からそれを伝えてくるのが『謝男』なのです。
伝説の着任式を経て、初めての授業。生徒達は拝にあからさまな好奇の視線を寄せます。生徒に土下座する教師、これは「つけ込める」と。
しかし意外にも生徒の嘲笑にびくともしない拝。そんな彼に負けず劣らず表情を変えずに強気に彼に逆らうのがはさくらという女生徒。彼女は学生ながらも世界で活躍する日本人デザイナーです。
着任式で「祈願」と称して生徒たちの後押しをした拝ですが、彼より稼いでいるであろうさくらは自分に「後押し」する必要はないのではないかと問います。それに拝はこう答えるのです。
「君にもしものことがあれば………
君とセックスするチャンスを 永遠に失う」
柔らかな笑顔でそう告げる拝。そんな顔して教壇に立ってますが言っていることは完全に変質者です。
それに対して驚きながらも「年収一千万にも満たない一教師と私が?」と言うさくら。しかし拝はそれを聞いて一喝します。
「オマエはコールガールかッッ
思い上がるんじゃないッッ
セックスの対象は君だけではないッ
ここにいる女子全員に対してだッッ」
完全にイカレています。女子は避難すべきでしょう。
しかも拝はこの後正視に耐えないある男性特有の生理現象を教室の教壇上で行うのですが、それに至る経緯についても意味不明。カオスにつぐカオスな展開なのです。
ちなみに今回、拝は土下座しません。トレードマークを封印した彼ですが、実は更なる妙技を隠し持っていたのです……。
拝が恐ろしいのは経済界のお偉いどころまで輩出しているところ。作中の日本の将来が心配です……。
そのファンのひとりがおむつ業界最大手の代表取締役・園。彼は自分が成功した理由を「過去を塗り替えたから」だと語ります。
実は園は小学生時代におもらしをしてしまい、それ以来あだ名が「尿ボーイ」になってしまったという過去を持っていました。
そして彼の危機は中学時代に再び訪れます。授業中に押し寄せる尿意と戦う園。しかしすでに括約筋は限界寸前。
そしてくるべくしてくるべきものがくるであろうタイミングで……決壊。
周囲は彼から距離をとり、面白そうにからかいます。それまでもいじめの対象だった園はこれからは更にどんな地獄になるのだろうかと恐怖を感じていました。
そんな非常事態時の時に授業をしていたのが当時教育実習中だった拝。彼は「失禁かァ」と動揺せずに言い、こう続けます。
「奇遇だな 俺もなんだ」
そう言って教壇から一歩出て、尿でベシャベシャになったズボンを見せます。「言い出せなかった」と微笑む拝ですが、彼にそんな繊細さがあるとは思えません。しかしそれに対して素直に驚く小学生たち。
「大人も漏らすのかよッッ」
「もう何が正しいのかワカンねェッッ」
いや、もらさないのが正しいかと思いますが……。しかし拝の失禁を見たら誰もがそんな空気に飲まれてしまうのでしょう。
その後拝の失禁のおかげでその後注目を浴びずに済んだ園は夕方に公園で拝に「わざとですよね」と言ってお礼を告げます。
しかし自分がなぜいじめられているかに気づいておらず、失禁がなくても再びいじめられる可能性がある園。そんな彼に拝は初めてまともな先生っぽい台詞を言って少年の「過去を塗り替え」ます。
言葉のチョイスはやはりちょっと頭おかしいのですが、その姿はまるで金八先生のよう。果たして拝はどうやって園少年の「過去を塗り替えた」のでしょうか?
- 著者
- 板垣 恵介
- 出版日
- 2013-09-28
ツッコミ不在、そもそも何が正しいのか、ボケなのかも分からない奇妙な世界観が魅力的な『謝男』。あなたも一度読めばきっと引き込まれてしまうはずです。ぜひ作品で板垣恵介の新たなる伝説の雰囲気を味わってみてください!