オシャレな女の子たちのバイブルとなる作品を生み出し続けている、西村しのぶ。『サード・ガール』をはじめ、『RUSH』『ライン』『砂とアイリス』まで、おすすめの漫画5選をご紹介します。
西村しのぶは1963年5月25日生まれの兵庫県出身。大学在学中に劇画村塾(小池一夫主宰)に入塾し、翌年(1984年)『COMIC劇画村塾』掲載の「D-アウト」でデビュー。設定を引き継ぐかたちで『サード・ガール』の連載がスタートしました。
「必要な米代だけ稼ぐ」と公言していて、非常に寡作な漫画家です。女性コミック誌での人気が高く、コアなファン層を獲得していて、西村作品はバイブルと仰がれています。
ファッショナブルで垢ぬけた画風、ライトなタッチで描いた恋愛と独自の美学を織り込んだ独特のストーリー展開、洗練された都市をイメージした舞台設定が特徴的です。作品の多くは関西圏を舞台にしながら、関西弁は使われていないところもこだわりが見えます。
各作品や、あるいはあとがきからも、西村しのぶの小粋な哲学が感じられます。服や靴、バッグだけでなく、石けんや食事にまで及ぶ内容が語られます。
また『サード・ガール』をはじめ、多くの作品にモテる男女が登場し、彼らの考え方や行動が描かれているので、恋愛の参考になるかもしれません。
続巻の刊行ペースは開きがちでシリーズも未完が多数あり、読者としては残念ですが、あたたかく見守っていきたいところです。
聖K女学院に通う夜梨子(よりこ)は、K大学工学部電子工学科に通う涼(りょう)と出会います。その涼には同学部の超絶美女・美也(みや)という彼女が。ところが、夜梨子は、「美也さんが好きな涼さんがカッコいい!」と彼女公認の存在(自称・愛人)に。一方で夜梨子は、友人たのこの紹介で、たのこの彼氏の友だち・大沢と交際を始めます。
- 著者
- 西村 しのぶ
- 出版日
舞台は震災前の古き良き時代の神戸で、バブリーな残り香を感じることもできます。『サードガール』完全版8巻刊行によって、一応の決着がついたと見ることもできますが、物語は完結していないと見る読者もいて、西村作品の未完の1作とも言えるでしょう。
ヒロインのひとり・夜梨子は、年上の「彼氏」(のような、兄のような)涼とプラトニックな関係を続けます。名前をつけることができない夜梨子と涼の関係は、彼氏彼女ではない「何か」なのです。
もうひとりのヒロイン美也は、できあいの「誰かの彼氏やパートナー」ではなく、「自分が育てた男」を愛します。このあたりの微妙なニュアンス、伝わりますか?実に微妙な女ごころなんです。
作中の人物の言動やファッションがとにかくスタイリッシュ。中扉をはじめ、カラーページでも、砂糖菓子でできたような甘いファッションに身を包んだ夜梨子やたのこを見ることができます。洗練された美しさを表現する美也の恋愛やファッションの哲学が作画に表れていて、見ているだけでも参考になるでしょう。
本作のヒロインである夜梨子と美也は、西村しのぶの作品世界の軸になるキャラクターの原型のように見えます。どことなく影のある美しい美也が、かつて妻子のある歯科医師と交際していたことも、別作品『RUSH』のユリの行動と重なるところがあります。美也も自分のなかに特有の倫理観や価値観を持っていて、それにもとづいて行動するんですね。
モテる男やモテる女を描く西村しのぶの原点といえる『サード・ガール』でも、美也や大沢など魅力的なモテる人たちが登場するので、恋愛指南として学ぶところも多いかもしれません。
寡作な漫画家なだけに刊行ペースもゆっくりで、完結する作品も少ないのですが、本作はかなりの時間をあけて8巻が発行されました。読者のあいだでは、タイトルである『サード・ガール』の意味をめぐって解釈がなされていますが、作者が完全版のあとがきで触れている内容も参考にしてみてくださいね。
高校入学を迎えた百合とアキミツはいとこ同士。両親を亡くしたアキミツは、百合の家で育ちました。8年が経ち、アキミツはすっかり百合になついていて……。百合とアキミツとゆかいな仲間たちを、西村流の恋愛観と美学で描いた、軽妙なタッチの物語です。
- 著者
- 西村 しのぶ
- 出版日
美女とハンサムが山盛りの恋愛図鑑。いい女もいい男もわさわさ登場するのに、美男美女が傲慢さを微塵も持ち合わせていないところや、気軽に恋愛を楽しんでいる様子は、西村しのぶ作品特有のものです。ドロドロの修羅場になりそうな場面でも軽快に描かれるのは、西村マジックと言えるでしょう。
また本作では、百合の父親への思いも描かれています。いわば、ファーザーコンプレックス。離婚して家を出て行った父親に、百合は心の奥に慕情を残しているんです。
粋な女とダメな男という西村しのぶが描く典型的な男女を堪能してください。
遺跡発掘現場に豆乳を飲みながら、カブ(二輪車)で乗り付けた長瀬(ながせ)。彼女はなによりも発掘現場での土作業が大好物なのです。梶谷(かじたに)先生の推薦で入った漆の研究所で働きながら、お声がかかると現場に駆けつける長瀬の美しい立ち姿を、梶谷は「アイリス」とたとえます。西村しのぶ初の発掘&恋愛ものです。
- 著者
- 西村 しのぶ
- 出版日
- 2013-04-25
梶谷の妻で、東南アジア圏の水上集落をウォッチしているサラが、ふだんは乱雑な部屋に埋もれていながらも、装うと思いがけないほどの麗人に変身するギャップが見ものです。サラは、長瀬の数年後の姿ともいえるのかもしれません。
「現場にいるとごきげんだから美人に見えるんだよ」「背景があと押ししてくれる 実力以上に映えるだろ?」と研究室の青山がサラのことを話している時に、それを聞いている梶谷は砂場を背景にした長瀬を思い出しているのが印象的です。
でも、「ごきげんだから美人に見える」というのは、新しい見方で参考になりますね。サラという魅力的な妻がいながら、長瀬に惹かれていく梶谷の内面も描いています。
前述した『RUSH』にも、百合が住吉を「いつでも機嫌がいい大人」と表現する場面があって、もしかしたら「ごきげん」でいることがチャーミングに見えて、モテるポイントかもしれません。
西村作品では珍しく作品のペースがはやいほうなので、今後の刊行も期待できます。また、アパレルやファッションに関わらない女性がヒロインという点も特徴です。
砂にまみれても、へこたれずに真冬の屋外作業場にカブで通う長瀬は、何かに夢中になる女性という西村作品のヒロイン像そのもので、そこに梶谷も惹かれていくのではないでしょうか。
西村しのぶの新境地・発掘&恋愛ものの『砂とアイリス』を読んでみませんか?
パジャマのまま食卓でキーボードを叩く小説家のキリエと、安心感と包容力が抜群な彼氏マキちゃんの、ほんわか癒し系なストーリーです。
- 著者
- 西村 しのぶ
- 出版日
- 2005-02-10
「ふたりあわせて『バカ二乗』とまで言われるけど 『仲良し』ってそういうものよ 失礼ね」(『一緒に遭難したいひと』より引用)
キリエとマキちゃんは、こんなバカップルぶりです。でも、ほんわかあったかぬくぬく系の、かわいいカップル。「こういうのいいな」「こんなふうになりたいな」と思わせてくれるふたりです。
出会った頃のふたりの物語がストーリーの前半に描かれますが、マキちゃんが本当に「かわいいひと」なんです。その「かわいい」加減は、まじめさに裏打ちされたもので、愛すべき人柄として描かれます。自称貧民生活をしていたキリエは、そんなマキちゃんに心を打たれるところがあったのでしょう。
キリエの同居人の絵衣子は「男前」。女性らしさや優雅さでは最高ランクに位置づけながら、粋で大人でカッコいいの三拍子がそろっていて、女も惚れてしまいそうな美女です。絵衣子のように、こういった女性が憧れる女性像をさらりと描くことができるのも、西村しのぶの強みだと言えます。
マキちゃんの「なるべく陽がのぼったら起きて陽が地球の反対にまわったら横になって休んで…… 女の人は特に ね」「いつかは赤ちゃん生むことも考えて生活していてください よろしくお願いします」というセリフ。女性のからだを心から心配してくれるやさしさが沁みます。
ダメ男が多い西村しのぶ作品ですが、マキちゃんはそのなかで「しっかりした安定した男」ナンバー1です。安心感と包容力が断トツなので、男を見る目を養いたい方にも一読をおすすめします。
アパレル販売ショップを経営するリツコ。経営は上々、近くのカフェで「彼氏がほしい」と嘆かなければ、美しい女性。店に置く帽子とアクセサリーを発注した相手がカフェの店員・邦彦でした。邦彦は揃いのピアスをプレゼントして、リツコのハートをがっちり掴むことになります。
- 著者
- 西村 しのぶ
- 出版日
- 1998-08-05
西村作品に登場する背の高い美女のひとり・リツコ。離婚を経験しているけれども、広いマンションにひとり暮らし、自分の好きな服(もちろん、黒い服)を置き、売り上げを出し、てきぱきと部下に指示を出し、そのうえ、手作りのアクセサリーを作ってくれる年下のイケメンを彼氏にしてしまいます。
物語はリツコと邦彦のラブラブな交際を中心に展開していきます。邦彦はもちろんハンサムですが、年下でスーツも借り物で、先輩の家に居候していて住所不定というありさま。でも、心がきれいで、女性が喜ぶプレゼントをすることができるんです。
邦彦が元カノの美有にリツコのことを聞かれた時、「正直なひと」と答えるシーンがあります。さらに「確かにあなたのほうがずっときれいだけど ずるい」「これからもますます磨きをかけて ますますずるくて美しい女に」と告げる邦彦。彼女ができた途端に近づいてくる美有の心の歪みに対して、リツコの素直さや包容力が彼には魅力だったようです。
邦彦は年下の彼氏として、年上のリツコから「可愛がられる」一方で、適切にリツコを「可愛がる」こともできる、恋愛能力が高い人として描かれています。恋愛バイブルと呼ばれる西村作品だけあって、勉強になることが盛りだくさんです。メモの用意をして読むことをおすすめします。
個性的な恋愛哲学と独自のライフスタイル美学をもつ西村しのぶの作品から、おすすめを5作品紹介しました。美しくてモテる女の子や女性が描かれ、バイブルとも呼ばれる作品たちを読んでみませんか?