漫画『喰いしん坊!』はただの大食いじゃない熱さがある【ネタバレ注意】

更新:2021.11.24

登場人物の食べっぷりがスポーツ漫画やバトル漫画のような迫力とスピード感がある料理漫画『喰いしん坊!』。複雑なストーリーではなく、気楽に読めてでもハラハラするという魅力のある作品です。

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『喰いしん坊!』はただの無軌道な大食い漫画じゃない!

著者
土山 しげる
出版日
2005-03-18

満太郎は食べ歩きが趣味のグルメなサラリーマン。ある日、人だかりになっている定食屋で30分でカツ丼10杯を食べると1万円がもらえるという大食いをしているところを見かけます。

腹ペコの満太郎も挑戦してみますが結果は惨敗。その様子を見ていたカウボーイ姿の男・錠二は彼を尻目に明日この時間にここに来ると言って去っていきます。

翌日様子が気になって見にいった満太郎の目に映ったのは残り30秒で見事10杯を完食仕切りった錠二の姿でした。そして何やら大食いに関して詳しい彼に目をつけられた満太郎は、大食いの道へと踏み込むことになります。

大食いというと一時期絶大な人気があったものの、学生の死亡事故で収束したイメージがあるかと思います。ブームが過熱した当時の大食いは見ていてあまり気持ちのいいものではなかったという方も多いのではないでしょうか。

しかし本作はただ早くたくさん食べればいい訳ではないとしているだけに、不快感はありません。また、スポーツ漫画のようなスピード感と迫力があり、見ていて爽やかさすら感じることもあるほどなのです。

『喰いしん坊』あらすじ

大食いを競技として考えたとしたら……?

一時期テレビ番組でよく見ることも多かったであろう大食いを、組織、会社ぐるみで競技としてバトルするというぶっ飛んだ設定のストーリーが『喰いしん坊!』です。

主人公は普通のサラリーマンでしたが、その大食いの才能を見出され、その熱い戰いに巻き込まれていきます……。

著者
土山 しげる
出版日
2005-06-09

食べるシーンの迫力がすごい!

錠二がカツ丼の大食い勝負に勝ったところに、「先輩の仇を取りに来たぜーーーっ!!」と意気込んで入って来た超巨漢の大学生。これ以上損したくない店主が今日はこれで終いだと言いますが、彼はそれに腹を立てて暴れようとします。

そんな様子を見かねて錠二が10分で何杯食えるかの勝負をその大学生と誰かでしたらどうだと聞くのです。それは勝った方には今自分が手に入れた1万円を渡すが、負けた方はふたり分の代金を払うというものでした。

そしてその勝負に満太郎が挑むことになります。
本作の魅力は何と言っても食べるシーンの迫力の大きさ、そしてスピード感。その様子はつい手に汗握ってしまうような力強さがあります。 

出典:『喰いしん坊!』1巻

そしてそのスリル満点の食事シーンをくぐり抜け、完食した時の表情もまた格別です。

出典:『喰いしん坊!』1巻

どんどん展開していく試合の様子に、見事なフィナーレを飾る完食の表情。ここまでの流れが見事で、完成度の高い見せ場となっています。大食いというゲーム感覚のスリルで読者を引き込みながらも、最後に食の楽しさを感じさせるのです。

肌で感じられるこの展開の妙は『喰いしん坊!』ならではのものではないでしょうか。

食べ方に策あり!

大学生と満太郎の勝負で、錠二は横から満太郎に都度作戦を言います。一度にたくさん口にいれてはいけない、一定の量を定期的に食べ続けること、苦しくなったら最小限の水で流し込むこと……。

開始早々1杯分の差をつけられる満太郎ですが、徐々に相手のペースが落ちてきます。そこでタイミングを見計らった錠二が満太郎にラストスパートの合図を出すのです。

そして結果は見事満太郎の勝利。その場は巨漢の大学生に勝ったサラリーマンの勇姿に湧きあがります。

大食いとはただ食べるだけではなくある程度の準備と計画的な食べ方が重要になってきます。しかも基本的なルールはもちろん、食べ物それぞれにもコツがあるのです。

その戦略的な様子は見ていてなるほどと感心させられるもの。スピード感の裏にあるそんな駆け引きも作品に引き込まれる理由なのです。

大食いの美学とは?

ある日、満太郎は社長命令で肉マンの大食い対決をすることになります。その相手・横川は大阪出身でたこ焼き100個を5分で食べたという腕前です。

勝負の前に錠二から聞き出した方法で地道に食べる満太郎を横目に、横川は肉まん2個が入った蒸し器を5個もテーブルに並べ、中の餡と外側の皮を別々に分けます。そして餡をかきこんだ後、生地をひとつの更にすべて移し、ポットのお湯をかけてすすり込むのです。

そして一気に10個完食。満太郎はそんな食べ方して美味いのか、俺はその時々で味付けを変えて楽しんで食事していると反論しますが、圧倒的な差をつけられて焦ってしまいます。

もうダメかと思われたその時、座敷にひとりの老人が入ってきて喝を入れるのです。その男は大商社の会長・丹下。彼は横川にこう言います。

「この様に旨い肉マンを……
皮と餡に分け 且つあのような食し方をするとは!!
食材に対する許し難い冒涜!!」

それに対して満太郎には笑顔を向け、こう言うのです。

「あんたは肉マンそのものを崩さず 実に旨そうに食っておったな
食べた肉マンの数では大きく差があるが わしはあんたが勝ちと認める!!」

見た目や味を気にしないで大食いをするというのは見ていて不快感があるもの。本作ではただたくさん食べられればいいという訳ではないということをしっかりと表現しています。

こんな食の美学を崩さないところが万人におすすめしたい理由なのです。

『喰いしん坊!』を読もう!

著者
土山 しげる
出版日
2005-09-09


肌で感じられるスピード感、その裏で張り巡らされるの攻略法、そんな仕掛けで読者を引き込み、大食いなのに不快感を感じさせない稀有な作品が『喰いしん坊!』です。

スポーツ漫画やバトル漫画が好きという方にもおすすめしたいスリル満点のグルメ漫画である本作。ぜひその魅力を作品本編で味わってみてください!

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