かつて最強の不良だった男・龍二。そんな彼がピストルに打たれ、35歳で亡くなるところから物語が始まります。そして彼の魂は、自殺を図った息子・憂作の体に乗り移ってしまい……。主人公の第二の人生が幕開けする本作の魅力をご紹介します。ネタバレを含みますので、ご注意ください。
- 著者
- 東条 仁
- 出版日
若い頃から負け知らずで、喧嘩に明け暮れていたチンピラの龍二。しかし、ある日喧嘩の途中で銃に撃たれてしまいます。
病院で目をさました彼ですが、鏡に映った自分の顔は別人。しかも、その人物は、自分がかつて捨てた女・涼子の子供である憂作だったのです。
若い頃の彼は、彼女のヒモ同然で、妊娠させたことがわかると新しい女を作り、ふたりを捨てました。そんな負い目もあったうえ、父親がチンピラということで憂作がいじめられていたと知った彼は、ふたりのために生きていくことを決意します。
衝撃の入れ替わり展開から始まる本作は、なぜ彼が憂作に転生したのかということがテーマ。しかしファンタジー、ミステリーというよりも、ひとりの男の心の成長を描いたものとなっているのが特徴です。
今まで散々やんちゃをしてきた彼が、憂作としての人生を生き抜くなかで変化が起こります。今までどれだけ周囲に、特に家族に迷惑をかけてきたのかを省みるようになったのです。悩み、苦しみ、そして最後に出す彼の「生まれ変わった意味とは?」という答えは、まさに感動必至です。
ヤンキー漫画で重要なのは、スピード感。本作では喧嘩シーンの迫力、そして次々と起こる事件と、暴走バイクのごときスピードで引き込まれます。
ナイフを持つ相手に対して素手で戦い、手が血まみれになってもまったく動じない龍二。倍返しだと言わんばかりの迫力で、その男をボコボコにしていきます。
また喧嘩シーンの他にさまざまな事件が起こるところも、リズムよくストーリーを楽しめる理由のひとつ。
物語は龍二が殺されるところからスタート。憂作のいじめっ子たちを叩きのめしたかと思うと、今度は幼馴染との三角関係が始まり、パワーインフレといえるほどの敵たちと戦うことになるなど、引っ切りなしに事件が起こります。さらに、心の闇を実体化した、もうひとりの憂作が登場して!?
息もつかせぬ展開ですが、ヤンキー漫画の重要なところをしっかりと抑えているので、飽きずに読むことができる作品となっています。
ある日、涼子がおしゃれをして家を出ていくところを見た龍二は、これは男とデートだなと想像し、彼女のあとをつけていきます。
もともとは自分が新しい女をつくって別れたのだから、彼女にとやかく言えない。でも気になる。そもそも別れて16年経つのだから、新しい男がいても不思議ではない。いや涼子はそんなカルい女じゃない……と、ひとり悶々とする龍二。
そんな彼が見た彼女の待ち合わせ相手は、人妻専門の裏ビデオの男優・コマケンでした。この男はかつて龍二の女に手を出したことから、半殺しにされた人物でした。
龍二が死んでいることを知らない彼女はコマケンに騙され、ホテルへと連れ込まれます。彼に押さえつけられ、服を破られる涼子。そこへ、間一髪で龍二が助けに入りました。
何とかコマケンを倒した彼は、涼子に向かって「そんなに忘れられねーのかよ…あのろくでなしの事が」と聞きます。それに対して、初恋の人でずっと尽くそうと思っていた相手なのだ、と涙ながらに告白する涼子。龍二は彼女にこう諭します。
「奴はおふくろが思ってるような男じゃねぇ
あんな奴の事を思い続けたまま残りの人生をすごすなんてバカらしいぜ(中略)
早く自分の人生を見つけ出して幸せになってくれ
奴もきっとそれをねがってる」(『CUFFS傷だらけの地図』より引用)
それまでずっと彼女に新しい男ができたのだと心配し、妬いていた彼ですが、その言葉はやはり自分を忘れて前を向いて生きてほしいという優しいものでした。
自分の辛い気持ちをグッと抑えて愛する人のために動く。男らしいですね。
転生したとはいえ、息子からの借り物の人生。自らの欲望ではなく、初めて周囲のためを思って彼が行動した瞬間でした。
本作は第一章、第二章、最終章に分かれています。第一章は龍二の過去にまつわる人物たちとの戦いが描かれた、日常系の物語。そして第二章からは敵の強さがインフレ気味になり、少し日常からはかけ離れた喧嘩シーンが多くなります。
最終章は、第二章から始まったシリアスな展開に拍車がかかり、隆二は「なぜ憂作として生まれ変わったのか」ということに悩むようになります。
涼子を幸せにするため、誰かを救うため、自分自身を変えるため……。さまざまな予想をしましたが、憂作の体の中で、彼の心の闇を見た龍二は、ある答えにたどりつくのです。
果たして、彼が憂作としての人生をを経て見つけた「生まれ変わった意味」とは何なのでしょうか?それまでの苦しみが報われる感動のシーンを、ぜひ作品でお確かめください。
- 著者
- 東条 仁
- 出版日
息子に転生したチンピラという設定からは想像もつかない、壮大な展開と結末を迎える本作。全32巻と長編の作品ですが、怒涛の展開に飽きずに読むことができるはず。
ぜひ作品本編で、予想外な変化を見せる名作ヤンキー漫画をご覧ください。