『エルマーのぼうけん』は永遠の名作児童書。シリーズあらすじをご紹介

更新:2021.12.21

エルマー少年が、ひょんなことから子供の竜を助けに行くことに……愉快で心温まる、読み出したら止められない冒険物語シリーズです。この物語の著者、ルース・S・ガネットの、愛と勇気に溢れた自伝を併せて読めば、さらにその魅力が深まるでしょう。

ブックカルテ リンク

猫との出会いが、エルマーのぼうけんのはじまり

冷たい雨の日、エルマーが年をとったびしょぬれの猫に出会い、物語は始まります。エルマーの夢は大人になって飛行機で空を飛ぶこと。これを知った老猫は「どうぶつ島」で囚われている、可哀そうな子供の竜のことを思い出したのでした。

これを聞いたエルマーは、リュックサックに荷物を詰めて旅立ちます。次々と立ちはだかる難題や猛獣たち……。数々の困難を、少年がユニークな知恵と勇気で乗り越えていくハートフルな冒険物語です。
 

著者
ルース・スタイルス・ガネット
出版日
1963-07-15

礼儀正しく、誰にでも親切なエルマー。『エルマーのぼうけん』は、勇気と優しさを秘め、真っ直ぐに進んでいく少年の物語です。エルマーのピュアで強い心が読み手に元気を与えてくれます。このシリーズが長く愛されているのは、こうした主人公の美しい人間性と、奇想天外なストーリーの面白さにあるのではないでしょうか。

この物語の冒険の旅はスリル満点です。なにしろお腹をペコペコに減らした猛獣たちが住む「どうぶつ島」へ、エルマーが乗り込むのですから。数々の危機に9歳の少年エルマーは、ひるまずに挑みます。そして、年をとった猫と相談しておいた、とてもユニークな作戦を繰り出していくのです。

可哀そうな子供の竜を見つけ出して助けるまで、エルマーは決して諦めることなく突き進みます。こうした心の強さは勇気を与えてくれるし、困ったときに、ちょっとユニークな知恵をしぼって切り抜けられたら、どんなに素敵だろうと思わせてくれるのです。

表紙を飾るエルマーと三つ編みのライオンや、しましま模様の子供の竜など、可愛い動物のイラストも魅力的です。そして、本の中に描かれたエルマー ワールドの地図も見どころとなっています。エルマーが実際にどんな道を進んでいるのかが、この地図を見ながら本を読むことでぐっとリアルになるのです。物語の世界が広がってゆくのを楽しめるでしょう。
 

家へと急ぐエルマーと竜。しかし冒険は続く

「どうぶつ島」から無事、竜を助け出したエルマーは、竜の背中に乗って家へ帰ることになりました。ところが、素敵な空の旅を楽しむ二人に、黒い雲が迫ります。エルマーと竜はあっという間にひどい嵐の中へ! 

エルマーの夢だった空の旅は一変して窮地となり、またもや、ハラハラドキドキの大冒険に。さあ、二人は無事にエルマーのお父さんとお母さんがいる家にたどり着けるのでしょうか? そして、激しい嵐の中飛び続けた子供の竜は……!?
 

著者
ルース・スタイルス・ガネット
出版日
1964-08-15

心の優しい子供の竜とエルマーの間には、すぐに友情が芽生えます。


「エルマーくん、きみはぼくをたすけに、はるばるどうぶつ島まできてくれたんだね。かんげきしました。なんと、おれいをいったらいいんだろう」

「なあに、おれいなんか、いわなくていいんだよ」(『エルマーとりゅう』より引用)。

礼儀正しく、清々しいやり取りをするエルマーの世界が小気味好く展開します。

1作目の『エルマーのぼうけん』の続編となるこの物語は、危険なミッションを成功させたエルマーが、子供の竜に家まで送ってもらう、という楽しげなシーンから始まるのです。そのままエルマー家があるポップシコールニャまで、素敵な空の旅に! と思いきや……。

そのまま、めでたしめでたしとはいかないのが、この物語なのです。とんでもないピンチに見舞われるエルマーと子供の竜。そんな極限状態において、泣きべそをかきながらも強い心を失わないエルマー。ピュアで優しい子供の竜とのやり取りが涙を誘います。

この物語では、エルマーと子供の竜が助け合いながら進んでいきます。子供の竜は、優しくて、素直で、正直な性格。思わず頬がほころぶようなシーンも魅力的です。それに対して、勇気と知恵があり、何事にもひるまないエルマーの頼もしいこと! 

窮地に陥り、たとえ怖くて悲しくても、それを超えて冷静な行動力を発揮するエルマーは、どこまでも力強く生きることを教えてくれるかのようです。

その後、思いもよらぬ展開で、エルマーたちは“しりたがりのびょうき”にかかってしまったカナリアの王様を助けることになります。子供の竜も大活躍! そして、カナリアの王様を重い病気から救った二人は……。ハラハラドキドキ、クスクスと楽しめる冒険物語の続編なのです。

竜の家族を助けて!エルマーの救出大作戦

エルマーを家に送り届けた子供の竜は、自分の家族が待つ「そらいろこうげん」へと飛び立ちます。ところが、人間たちが竜の存在に気づき始め、今度は竜の家族に危険が!

命からがらエルマーのところへ戻る子供の竜。竜たちに危険が迫っていることを知ったエルマーは、年をとった猫を交えて相談し、救出大作戦を考えるのでした。さあ、どうやって16匹もの竜を救出するのか、人間の大人対子供と動物の知恵比べが始まります!

著者
ルース・スタイルス・ガネット
出版日
1965-09-30

もしも架空の動物だと信じられている竜が空を飛んでいたら……。人間たちが目の色を変えて、子供の竜や、竜の家族を追い詰めようとする、さらに、ハラハラドキドキする3作目の続編です。

人間に追いかけられたりしながら、やっとの思いでエルマーのところへ助けを求めて戻って来た子供の竜を、年をとった猫がみつけます。このとても賢い名わき役の猫が、今回もとても重要な役割を果たしているのです。

猫は年をとっているので、実際にエルマーたちと一緒に救出劇に参加することはできませんが、皆すっかり硬い友情で結ばれ、絶妙のチームワークを発揮します。それぞれの持ち場で頑張るということの大切さを、考えさせてくれるでしょう。

たくさんの大人たちが16匹の竜の家族を狙って、待ち伏せをする山へ向かう中、エルマーは竜の家族の話を聞きます。色とりどりで、いろんな柄の竜たちの特技や、竜のちょっとした歴史の話などを挿絵と共に楽しめるので、一気に竜の世界観が広がるでしょう。

そして、この3作目の『エルマーと16ぴきのりゅう』では、人間の追跡をかわすために、アクロバティックな飛行をやってのけたり、敵をこっそり偵察したりする、勇気と頑張りを見せる竜の子供の姿も見逃せません。

優しくて、まだちょっと怖がりなところもある子供の竜が、家族のために俄然強くなっていく姿は、1作目の『エルマーのぼうけん』に出て来た様子と比べると、ずいぶん成長しているかのようです。家族を助けたい一心で成長していく子供の竜に、思わずエールを送りたくなりますね。

そして、とうとう竜の家族たちの隠れ家である洞穴へと到着します。エルマーは貯金箱をひっくり返して買っておいた、16個の笛と16種類のラッパと運動会で使うピストルを使って、大人顔負けの救出大作戦に挑むのです。

この3作目で竜たちが登場する挿絵はどれも魅力的です。特に最後のシーンを飾る挿絵は圧巻ですよ!

正義感に燃え、ピュアで自由なルーシー

「エルマー」シリーズの著者、ルース・S・ガネットの生涯を、インタビューによってまとめた一冊です。先進的な雑誌記者夫妻のもとに生まれた愛称ルーシーは、シッターの黒人女性を第二の母と慕い、差別のない世界を願う芯の強い女の子でした。

子供の能力を伸ばすユニークな学校での話づくりの経験や、親の離婚、戦争など、様々な経験の中、ルーシーはいつも前向きに生きます。人生を愛することを教えてくれる、元気を与えてくれる一冊なのです。

著者
前沢 明枝
出版日
2015-11-20

ルース・S・ガネットのピュアで自由な生き方が、子供の頃からのエピソードと共に語られています。人種や貧富の差で差別されている人がいれば助けるガネット家で育ち、幼い頃から真っ直ぐで優しい心を持っていました。

そして、強い自立心も筋金入りです。当時6歳だった兄のマイケルがこっそり遊びに出て行ってしまうと、ルーシーはまだ2歳なのに、自分で替えのオムツを持って後を追いかけたことがあるというのです! 

そんなルーシーが、自由な教育方針の幼稚園や小学校で、イキイキと成長していく様子は、子供を育てる上で、良い参考にもなります。順風満帆なことばかりではない人生の中で、幼いうちから自分の人生を受け容れ、いつも前向きに楽しんで生きるルーシー。まるで迷わず竜を助けに行くエルマーのようです。

年を重ねても少女のようにピュアで、自分のことはとことん自分でする――無邪気で強くて優しいルーシーが、たくさんのことを伝えてくれる本です。
 

よくある日常のシーンから、あっという間にファンタジックな世界へと誘う「エルマー」シリーズは、次々と予期せぬ展開で読者を引きつけます。

動物を尊重し、愛すること、家族の愛情や友情、どんなことにも立ち向かっていく勇気と知恵……。生きることとは、それそのものを楽しむことなのだと、教えてくれる永遠の名作です。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る