海外のSF作家の中でも、現実世界の既存の政治・性・宗教などの概念に影響を与え、奇想天外な構想を世に生み出した、多作なハインラインの作品の中から5選の紹介をお届けします。
ロバート・アンスン・ハインライン(1907年~1988年)は、アメリカのSF作家です。1939年に「アスタウンディング誌」にて発表した『生命線』がデビュー作となりました。代表作に『夏への扉』や『異星の客』などがあり、特に日本では『夏への扉』の人気の高く、SFファンのオールタイム・ベスト投票では、たびたび1位を獲得しています。
その後も作品を発表し続けるうちに、レトロ・ヒューゴー賞を受賞、ヒューゴー賞(長編小説部門)を最多の4回受賞するなど、世界的にも高い評価を得ている作家です。
SFはいつかSNF(サイエンス・ノン・フィクション)になるとも言われる所以を体現した作家とも言われており、現実でウォーターベッドが開発された際、すでにハインラインがその作品の中で言及していたため、現実の方の開発者は特許がとれなかった、という逸話まであります。
アメリカSFといえばペーパーバックだったという時代に、1940年代から自分の作品を「サタデー・イブニング・ポスト」などの一般紙に載せ、SFの大衆化に貢献したことでも有名です。SF黄金時代の一翼を担った経緯を持ち、世界SF界のビッグスリーとも呼ばれ、「ミスターSF」「SF界の長老」などの異名を付けられました。
また、ハインラインの手がけた作品の中には「未来史」に触れたものが数多くあり、『愛に時間を』『デリラと宇宙野郎たち』『地球の緑の丘』『動乱2100』などが有名な作品です。長い年月を宇宙船内で生きる種族が出てくる『メトセラの子ら』や、性的にタブー視されそうな『悪徳なんかこわくない』など、まだまだ語りつきません。
それほど多作で、奇抜な発想の持主です。こちらも興味を持たれたら読んでみられることをおすすめします。
流刑地であり、また資源豊かな植民地でもあるとされる月。その月は地球から一方的に資源を搾取され続けていました。このままではあと7年で資源枯渇となり、その後は食料危機、共食いが待っています……。
それを阻止すべく立ち上がるのがコンピュータ技術者マニーと、知性を持つ巨大コンピューターのマイク。一隻の宇宙船も、一発のミサイルも持たぬ彼らが徐々に仲間を増やし、強大な地球にどのように立ち向かっていくのでしょうか。
植民地の独立の舞台をSFに置き換えた作品で、実に政治的な内容です。
- 著者
- ロバート・A. ハインライン
- 出版日
- 2010-03-15
本書は「月世界の革命前」「月世界での革命と地球での外交」「月世界と地球の武力衝突」の3部で構成されています。
現実では宇宙開発が盛んな時代に書かれた作品とはいえ、アメリカがアポロ計画において歴史上初めて人類を月面に到達させたのが、1969年の7月。つまりそれよりも以前にハインラインは、この『月は無慈悲な夜の女王』という空想科学小説を書いたのでした。
第二次世界大戦を経験したハインラインの、リアリティ溢れる描写には、一読の価値があります。現実には存在していない月世界の植民地が革命を起こし、地球の支配から独立していく様が現実味を帯びて描かれており、ハインラインの空想の広がりを感じさせてくれる作品です。
火星に到着したチャンピオン号は火星で一人の青年マイクを発見します。マイクの両親は第1次火星探検隊のメンバーであり、火星で早くに亡くなってしまったため、マイクは火星人によって育てられました。
彼は特殊な人間として地球に連れて帰られ、友人や恋人を得たのち、独自の宗教を開きますが、地球とは大きく異なる思想、モラルや常識、既存のドグマに反した考えは地球の人類に受け入れられず、迫害を受けた末に死んでしまいまうのです。
- 著者
- R.A.ハインライン
- 出版日
この作品は、一見ストーリー仕立てのSF小説ですが、既存の政治や宗教・聖典を題材にしているなど、内容は「精神世界」と言えます。その描写は、現実世界に影響を及ぼす程リアリティを持った緻密なもので、アメリカ社会で作中の宗教が現実のものになったり、ヒッピーの経典とあがめられたり、読者の思想にまで強い影響を与えました。
また、「ハインラインはこの作品に、百本の短編、あるいは一ダースの長編を書けるくらいの、素材とテーマを注ぎこんでしまっている」(本書「訳者あとがき」から引用)とあるように、力のこもった作品であることも窺えます。
この本が、現実世界をどう捉え、現実世界にどう影響しているのか、独自の視点で調べてみるのも面白いでしょう。固いイメージを払拭して、むしろ頭をやわらかくして読む、頭の体操にもってこいかもしれません。自分のモラルや常識をみつめ直す小説として、ゆっくり腰をすえて読んでみたい作品です。
一杯の酒につられ素性の知らない男に話しかけられ、失業中の俳優ロレンゾが引き受けた仕事は、たまたま彼が太陽系の大政治家ボンフォートと瓜二つであったことから替え玉になりすますことでした。
初めは権力を振るうことを強制されていましたが、やがてついに彼は人格と官職を引き継いで、本物になりきってしまいます。
- 著者
- ロバート・A. ハインライン
- 出版日
物語は軽快なテンポで進んでいきます。はじめは独りよがりで自信過剰な面もあるロレンゾですが、替え玉となる政治家の影響を受けて人間的にどんどん成長していく様や、売れない役者だからこそ気づけたこと、持っている力で切り進んでいく様は見どころです。
あまりSF的ではなく、単純なストーリーで多少説教くさい部分が否めないところもありますが、アメリカ的ユーモアが香る作品で娯楽の要素の強い作品として、本作は楽しめます。
最後には大きな決断を迫られるのですが、あなたならどうしますか?読み終わった後に是非考えてみてください。
サバイバル・テストで恒星間ゲートを利用して未知の惑星へ送り込まれたロッドたち。事故でゲートが消失して帰れなくなったため、未知の世界と得体の知れない生物たちの中で、生存のための長い闘いが始まります。
- 著者
- ロバート・A.ハインライン
- 出版日
テスト条件
(a)あらゆる惑星・あらゆる気候・あらゆる地形が予想される
(b)ルールはなし いかなる武器・装備も持参可
(c)チーム編成は自由
ただしチームの者が一緒にゲートをくぐることは許されない
(d)テスト期間は四十八時間以上、十日間以下
諸君全員の幸運と長命を祈る!
「ちぇっ、こんなのは”条件”になってない。条件はいっさいなし、いかなる制限もないってことだ!」(『ルナ・ゲートの彼方』から引用)
少しばかりバトルロワイヤルのような雰囲気がありますが、恋愛などの人間関係のもつれや集団の中の政治、文明の利器がほとんど無い、言わば原始的な状状況下で、いかに人間らしい暮らしを維持していくのでしょうか。ロッドたちの選択や成長に注目です。
”SF版十五少年漂流記”の異名をもつ作品で「こんなのあり?衝撃の結末に茫然自失。だまされたと思って読んでください」という大森望の推薦が有名です。最後に待ち受ける、「現実は甘くない」そんなオチをあなたは悲壮を感じて読了するのか、それとも希望を感じるのか、確かめてみませんか?
1970年代のロサンゼルスでは、人工冬眠による片道の未来旅行が流行っていました。技術者の主人公ダンは、親友と彼女に裏切られ、昏睡状態のまま冷凍睡眠で30年後の世界に送られてしまいます。自分の記憶と30年後の事実に違いに困惑してしますが、タイムマシンの存在を知り、過去に戻るための1/2の賭けに挑戦するのです。
- 著者
- ロバート・A. ハインライン
- 出版日
- 2010-01-30
どん底まで突き落とされたダンが逆転していく様は、なんとも爽快で読んでいるうちにすっきりします。とにかく考えて考えて、状況を打開できるように行動していくダンには勇気をもらえることでしょう。また、何度騙されても人を信じ、最後は失ったもの以上のものを得てしまう、という王道ストーリーではありますが、心奪われてしまいます。
猫のピートが良いスパイスとなっており、猫好きにはたまらないポイントでしょう。タイトルの『夏への扉』は、ピートが苦手な冬に、明るく楽しい夏への扉があるときっとどこかにある、と信じてやまないことから付けられました。
ダンだけでなく、ピートの描写にも注目して読んで下さい。きっとあなたも猫が飼いたくなるのでは?
いかがでしたでしょうか?ハインラインの奇想天外な発想による多岐にわたる作品群の中の代表的な5作品のご紹介でした。読んでみたら目からウロコがとれるかもしれません。ぜひご一読をおすすめします。