山崎マキコは1990年代から活躍している作家であり、その作品の数々も多く文庫化されています。フィクション小説では自身の体験談を織り込んでいたり、人が「厭う」ものを赤裸々に書きだす作家でもあります。ここまで人の暗部を描くのに特化した作家も多くはないでしょう。
山崎マキコは1990年代から活躍している作家です。他にもコンピューター系のライターと小説家を兼任し、一般小説から随筆まで幅広く執筆しています。
自身の体験談や思想などを赤裸々に書くスタイルが、老若男女の読者に支持されている作家でもあり、等身大の女性の視点で書かれる世界は時に生々しく、時に身近に感じることでしょう。
二十代後半、無職・無気力、風呂無し引きこもり、の無の三拍子が揃った椎貝加奈子(しいがいかなこ)は、ある日参加した社会復帰の道程である会合にて自身が「アダルト・チルドレン」なのだと知るのでした。
アダルト・チルドレン:(以下ACと表記します。)とは「Adult children of Dysfunctional Family」、家庭機能が不全である親の下や、問題のある家族の側で育ち、大人になってもその影響から抜け出せない人のことを指します。
けれどもそこで肩を落としたりしないのが彼女の強さです。ACと聞いて「電源アダプタ」を思いついてしまう様子でした。元々の気質なのか、現代社会に傷付いても生きていくことを諦めません。後に、会合で出会った同じ境遇の男と共に、自分でも知らなかった自分と出会うことになります。
- 著者
- 山崎 マキコ
- 出版日
まず注意として、かなり明け透けな性格をした主人公の為、なかなか下品な描写もあります。
ですがこれこそ人間の暗部を突いている作品です。テーマ上「重い」思われがちな作品ではありますが、それだけ「AC」という単語に深く、鋭く、強く注目した作品なのです。
家庭の闇に対し良くない感情を持っている加奈子は、ある日の思い出の「声」だけを記憶しています。そして、徐々に家庭に対する感情を発露させていくさまは、きっと幼いこどもとして泣き叫んでいるような心情でしょう。
子供から大人になることは、ただ体が大きくなることだけではないことを思い知らせてくれます。
引きこもりがち、だけどこのままじゃダメ人間だ、何とかしないと!と、勢いのまま編集プロダクションでバイトを始める大瀬崎亜紀が主人公です。自己評価は「不器用・ネガティブ・ダメダメ人間」など、常に後ろ向きな思考の持ち主でした。
元々自分に自信が無かったので、見込んでくれたシャチョーの為に身を粉にしてでも頑張ろうと必死にもがく亜紀の様子が、繊細に描かれています。
- 著者
- 山崎 マキコ
- 出版日
シャチョーの為になにかしてあげたい、喜ばせたい、頑張りたい、と悪戦苦闘する姿からは、自己犠牲にも近いものを感じます。また、そんなシャチョーへの思いは、いつからか恋心へと変わっていくのですが……。
人間が持つ負への感情や自己嫌悪を凝縮して出来上がったのが、主人公の亜紀と言えるでしょう。そんな亜紀の成長を描いたこの作品の芯は「自己を見つめなおす」ことと「生き方の模索」と言えます。
必要とされることと、自分の居場所を与えてもらえることは、とても嬉しいことです。例えば亜紀は、少々ネガティブで容量もあまり良くないですが、そうでなくとも自分の居場所を失ったり、代わりが生まれてしまったり、ということはありかもしれません。
誰もが持つ「必要とされたい」「認めてほしい」という気持ちを胸にもがく、亜紀の姿を是非見届けてください。
仕事。仕事、仕事! 仕事大好き三田村奈津美は年収が500万を越えたので、3LDKの部屋に一人で住んでいます。二十代後半、今風で言うとアラサーに分類される奈津美は、恋愛音痴でもありました。
モテ期も知らず、母親との間にも不安定な要素がある彼女は、ある日自分の人生に疑問を抱きます。仕事一辺倒だった上に、栄養失調の体調不良で気が弱くなっていたので、仕方のないタイミングです。
そんな奈津美の日々に、新しい風が吹き込んできます。昇進も近い彼女の前に現れたのは3人の男性でした。知り合ううちに奈津美は、恋を実感していくのです。
- 著者
- 山崎 マキコ
- 出版日
- 2007-12-06
人間関係に関して鋭くメスを入れたのが『ためらいもイエス』です。家庭の事情、不倫相手、3人の男性、同じ会社の後輩の女の子といった面々が登場します。
奈津美は「仕事が好きだ」「仕事は自由をくれた」「私の人生に男はいらない」と、作中で断言してしまうほどの仕事人間です。仕事は彼女の人生の指針であり、無くてはならない芯ともなっていたのでしょう。
そんな彼女が新しい道を歩き出したきっかけは、浮いた話の無い彼女を思っての母親からのお見合いの打診でした。知り合った男性はギンポ(スズキ目の食用の魚)に似た、魚のような風貌の神保さん。彼との出会いをきっかけに、彼女は縁のなかった恋や愛の世界に踏み出してきます。
仕事一筋だった女性が、新たな幸せに向かっていく姿の初々しさや切なさに、頷ける女性はきっと多いでしょう。はじめての恋の懐かしさにふれられるかもしれない、そんな本書を読んで、心をあたためてほしいです。
6年間という長い間、実入りのない盆栽師の丁稚として働いていた長瀬繭子と、兄弟子の松本慎一。大学の先輩後輩という関係ながら、この兄弟子は無愛想な性格です。
修行中のある時、お客として訪れた高野という大人の雰囲気漂う男性に見初められてしまいます。とってもお金持ちで爽やかですが、奥さんがいます。そんな彼に愛人になって欲しいと頼まれた繭子は、盆栽か愛人かの選択を迫られるのでした。
- 著者
- 山崎 マキコ
- 出版日
兄弟子である松本の盆栽知識から盆栽師としての道を定め修行をつづけてきた繭子に、薄々勘づいていた現実が襲ってきたのです。現在の己の収入が実質無いことと、愛人になることでの利益、そして世間の目と、自分の思い。比較された貧乏盆栽師(修行中)生活と、裕福な高野の愛人となる生活とは、あまりに対照的です。その全ての要素を天秤の上に乗せられ、繭子は自分に問います。
物語がすすむと高野は繭子に、仕事を辞めて傍に居て欲しいという望みまで打ち明けます。自分の思いに正直な彼に、またしても突き付けられる選択肢。どんな選択をしても責任を取るのは自分自身で、こればかりは誰にも任せられません。
本当に欲しいものを手にするために、自分は何を捨て、何を選ぶのか。この作品は男性にも女性にも読んで欲しい一冊となっています。
上司との不倫関係を解消したことで、本宮つぐみは閑職に左遷されます。キャリアウーマンとして仕事ができただけあって、この事態に彼女は突然人生にストップをかけてしましました。
この作品は、恋に仕事に自分の存在意義に問いかける物語です。つぐみは、自暴自棄になりながら初めて夏休みを取ることにしますが、何故か会社の後輩の桜井と出かけることになります。しかもその後同棲することになるという展開!押しかけ女房ならぬ押しかけ草食男子ですね。
- 著者
- 山崎 マキコ
- 出版日
- 2010-08-04
『ちょっと変わった守護天使』は、30代女性の内面を赤裸々に書いた作品です。
自分らしく生きるには努力が必要かもしれません。社会に弾かれないように気を遣う場面もあるでしょう。しかし、悔しい我慢や苦しい努力もなく、ありのままを肯定してくれる存在がいたら、どうでしょうか。
作中でも、常に頑張ってきたつぐみは、頑張らずにいさせてくれる桜井の側に、感じたことのない居心地のよさを覚えていきます。読み手の心までリラックスさせてくれる内容です。
コミカルに描かれているようで、この作品は深い愛情を擁しています。いまいち会話が噛みあわないながらも、互いを思う誠実さが含まれています。赤裸々に書いてあるだけあって、リアルさも増しているのもさることながら、どこかファンタジックでもあり、疲れた心に癒しをあたえてくれる作品です。
山崎マキコの作品は、同調や共感を得られるものが多く、同時に疲れた時に読んで欲しいものも多いです。異色な作品もありますが、登場する主人公たちの生々しさはリアルにいる、と確信が持てます。ゆえに、共感できるのでしょう。
また、台詞にもユーモアが溢れていて、テンポのいい登場人物たちの会話も見どころです。文体は軽く、すらすらと読めるのも味のひとつですが、合う合わないの極端さも激しい為、一度この5冊の中から一冊読んでみることをおすすめします。