ショッキングなタイトルに比べ、真面目な内容である『中年童貞』。誰もが見覚えのあるような性格の歪みを煮詰めすぎた人物たちが登場します。ありえないだろと思いつつも少し共感するところもある、そんな彼らのリアルをご紹介します。
- 著者
- ["桜壱バーゲン", "中村淳彦"]
- 出版日
- 2016-09-28
目を引くタイトルではあるものの、いたって真面目なストーリーの本作。中村淳彦のルポを漫画化した作品です。中村が出会ったちょっと特殊な「中年童貞」たちに見た特徴、彼らを取り巻く現実をリアルに描いています。
例えば中村は介護施設を運営していた経験から、介護職の現場がともすれば「中年童貞」の受け皿になっていると語ります。真面目に働く人も多いなか、人手不足のせいで問題を抱えた人々の受け皿になってしまっている面もあると言うのです。
そして同時にそこにやってくるのは職を選べない、問題のある人が多いそう。その人物たちに多く見られたのが「中年童貞」だったのです。
もちろん、女性と接する機会がなかっただけで普通の人の方が多いでしょうが、中村が出会ったのは問題を抱えたまま大人になったタチが悪い男ばかり。介護現場など、それぞれの現実、現場で問題を起こしていきます。
ここまでやる人が本当にいるのかというケースばかりですが、そこには自分もいくところまでいけばこのようになってしまうのだろうかと考えさせられるものもあるのです。
今回はそんな問題ありまくりな中村が出会った「中年童貞」たちをご紹介します。
本作の表紙にもなっているのは、倉庫の仕分け作業の契約社員だった坂口。不況のあおりで契約解除となり、ハローワークで介護職を紹介されたことをきっかけに現在の老人ホームにやってきました。
坂口の最大の短所はプライドの高さ。これは介護施設という社会的評価が高い職場で働いている中年童貞に共通する性格だそうで、彼はその特徴を煮詰めたような人物です。
ハローワークの紹介でヘルパー2級を取得したことで、坂口のプライドの高さに拍車がかかります。彼は介護者のその日の予定を記録する介護経過表を2行書くのに1時間かかるという仕事のできなさにも関わらず、口答えだけは一人前で同僚たちを困らせるのです。そして全く悪びれず、むしろ周囲が悪いと思い込んでいます。
何度も退職勧告をされても固辞し続ける坂口。居場所のない彼は新人のパートを見つけては愚痴をこぼす相手にして、作品出版当時も同じ場所で働き続けていたそうです。
仕事ができなくて人柄もいいところなし。そのせいで彼女はおろか友人すらできなく、職場でもひとりぼっちの坂口の姿には見ていてイライラしつつ悲しくもなってきます。
自業自得とはいえ、つい同情してしまうような残念さがある坂口。中年童貞というのもひとつのきっかけかもしれませんが、そうでなかったとしても彼の性格は変わっていないような気がします。漫画で見るくらいがちょうどいい人物です。
本作で偏差値と貞操観念について調べたところ、偏差値が高いほど童貞・処女率が高くなるという結果が出たそうです。青春の時間を勉強に費やしたということで仕方ないところもあるかもしれませんが、今回の主人公・山下はかなりのぼっち遍歴を持っています。
趣味は特になく、休日に宗教活動をしているという彼。幼い頃からいじめにあい、彼女どころか同性の友達すらおらずに大学に入学します。しかしそこで山下は初めて山村という女性に恋するのです。妄想の中で彼女とラブラブな彼は、山村も喜ぶと思って告白しますが「無理!!」と言われて振られてしまいます。
山下じゃなくてもトラウマになりそうな振られ方ですが、彼はそれから精神状態をおかしくしてしまい、眠れない日々を過ごすようになります。そしてリストカットに逃げるようになるのです。
大学のカウンセリングも受けたものの全く改善されない山下の精神状態。そしてある日山村と男と歩いてるところを見た彼はその男が彼氏だと思い込み、発作的に持っていたカミソリで首を、手首を深く切りつけるのです。
そして精神病棟に閉じ込められることになる山下。それから現実の恋が恐ろしくなった彼は妄想が加速し、意中の相手との妄想日記を大量に綴るようになります。そして嬉しそうにこのままでいいと語るのです。
ここまでいかないにしても女性と関係を持ったことのない人物には妄想で満足するという傾向があるのではないでしょうか。それがよりぼっちを加速させているのかもしれません。
それにしても多少想像できる余地があった坂口に比べ、山下は完全に想像の範疇を超えた人物です。人と関わらないことを突き詰めるとここまで行くのかと思うような、やばすぎるケースです。
アニオタの聖地・秋葉原は童貞をこじらせた中年男の天国ってご存知でしたか?渋谷や新宿の100倍、童貞が歩いている率が高いとか。
「現実の女の子に相手にされないから二次元が好き」というのが童貞オタクたちの本音のようです。
ここにも童貞をこじらせた中年男がひとり。シェアハウスで生活をしているアニオタの本山(32歳)です。シェアハウスと聞くと、「イケイケの男女が一つ屋根の下で暮らすあれでしょ?」と思うところですが、ここは秋葉原。住んでいるのはオタクのみです。
1.5畳の個室が12部屋ほど並んでいます。漫画喫茶とさほど変わらない様子です。ここに暮らす本山は、日雇いの派遣で週に3、4回働いて、月収は10万ほど。高校を中退し、仕事はどれも続いたことがありません。
友達もおらず、人付き合いが苦手な自分を変えたいと思って、大阪から東京に出てきましたが、結局あまり変化はありませんでした。
そんな彼は「自分だけを見てくれる処女の女の子がいい」という厄介なこだわりがあります。誰かのお下がりは嫌なのだそう。この「処女願望」は、アニオタに多いようです。
処女がいいとなると、必然的に幼い女の子に目を向けることになります。これがロリコン好き・幼女好きにつながるのでしょう。アニメでロリっ娘が多いのも納得です。
セックス云々の前に、先ほど紹介した山下同様、まず人付き合いに対する苦手意識を克服することが課題としてみられます。
地方の国公立大学を卒業し、システムエンジニアとして働く36歳男性、松野。彼は幼少期や学生時代に女性から傷つけられた経験があり、そのことで女性恐怖症になっていました。
その結果、男で童貞を喪失することになります。彼が後天性の性同一性障害となり、女性との関係を絶ったのは、自分がこれ以上傷つきたくなかったから。ただ一方で、本当は女性に受け入れてほしいという願望もありました。
過去のトラウマは簡単に解消できるものではないのでしょう。それほど、本人にとって辛い出来事だったのです。女性と関係をもつことを諦め、男性に逃げるようになった彼は、そのあと解決策を見いだすことができるのでしょうか?
- 著者
- ["桜壱バーゲン", "中村淳彦"]
- 出版日
- 2016-09-28
この他にもガチのネトウヨ(サイトやSNSなどで右翼的・保守的な発言をする人)や、見ていて辛すぎる転落人生を送るAV男優の話などさまざまな中年童貞が登場します。
人の心の闇、そしてリアルな社会のはじっこを描いた本作。この機会に、中年道程の壮絶な世界を覗いてみてはいかがでしょうか?