ただの妹モノだと思ったら大間違い。妹バカな小説家と、彼を取り巻く破天荒な仲間たちの日々はまさにラブコメです。2011年に最も売れたライトノベル『僕は友達が少ない』の作者、平坂読による『妹さえいればいい。』をネタバレしつつ紹介します!
『妹さえいればいい。』は、『僕は友達が少ない』で知られる平坂読によるライトノベルです。
「妹」という存在をこよなく愛するライトノベル作家、羽島伊月を主人公に、伊月のことが大好きな天才売れっ子作家可児那由多、伊月と同期の器用な作家不破春斗、伊月の大学の同級生白川京など個性的なキャラクターが入り乱れる群像劇になっています。
序盤は、ちょいエロ日常ラブコメのようなテイストですが、巻を追うごとに、『バクマン。』『G戦場ヘヴンズドア』のような熱いクリエイターお仕事もののテイストが強くなっていきます。
今回は、そんな『妹さえいればいい。』を少しだけネタバレしてご紹介。未読の方の興をそがないように、魅力をお伝えしていきます。
高校2年生でデビューした羽島伊月は、20歳現在に至るまで妹好きを貫いており、これまでの作品すべてが妹キャラクターをメインヒロインとしています。
そんな妹バカの伊月の周りには個性的で愉快な作家仲間が集っていて……。
- 著者
- 平坂 読
- 出版日
- 2015-03-18
ネタがこれでもかと詰め込まれた『妹さえいればいい。』1巻は、その1ページめから仕掛けが始まっています。主人公だけでなく登場人物すべてが常識や日常からかけ離れ、混沌と狂気の渦巻くさまにひるまずにはいられません。
『妹さえいればいい。』1巻で注目すべきは、伊月の義弟です。生活能力皆無な伊月の世話をかいがいしく焼く義弟の千尋は、土岐に「千尋くんが弟ではなく妹だったなら、伊月もあんな妹キチ●イにはならなかっただろうに」と言わしめるほどの、パーフェクト美少年です。
そんな千尋の隠された正体は、1巻ラストに明らかになります。千尋がただ者ではないことを実際に確認してください。
「ただ『妹』であるというだけで、人はどれだけ妹を愛せるかを試したかったのだ」
(『妹さえいればいい。』2巻より引用)
暖房の故障に耐えかねて沖縄へ行ったかと思いきや、イクラが食べたくなって札幌に出かける……そんな自由な生活を送る作家の伊月。2巻では伊月を含め作家たちが、真剣に作品に向き合って努力し、ときに無力感にさいなまれる姿が描かれています。
- 著者
- 平坂 読
- 出版日
- 2015-07-17
伊月は作家仲間たちとビール片手に集まり、ボードゲームを楽しみます。メンバーは銀髪碧眼美少女の那由多、しっかりものの春斗、そして女子大生の京。
その中でも一番のインパクトは美少女作家の那由多です。伊月の作品が好きすぎて、初対面の伊月に告白まがいのことをして緊張で吐瀉物をぶちまけてしまいます……。
那由多を心配して様子を見に行った女子大生の京が無事に家へ帰ることができたのか――真相は読んでのお楽しみです。
全力で伊月に好意をぶつけ、おまけに肉体もぶつける那由多。そんな那由多を意識し始めた伊月。伊月を好きになりかけていることに気づいた京。そして京に好感をもつ春斗……
3巻では、それぞれの恋愛が本格的に動き出します。
キレッキレのギャグは今回も全力前進、とどまることを知りません。
- 著者
- 平坂 読
- 出版日
- 2015-11-18
「幸せになること――それは義務だ。」
(『妹さえいればいい。』3巻)
伊月は作家として順調に売れ行きを伸ばしていきます。3巻では、それなりのお金を手に入れ、取材やインスピレーションのために遊ぶ彼の、職業作家としてのプレッシャーが描かれます。
作家として成功すれば色んな人からバッシングを受けることになってしまうけれど、後進が作家業に夢を抱けるよう、作家は幸せでいなくてはいけない――そんな思いを胸に刻みながら、伊月は今日も編集者の土岐を唸らせるのです。
また伊月は、那由多に気持ちが向き始めているのに、作家としてのプライドが邪魔をして付き合うことができません。一方で春斗は、京の誕生日会にベルギーのベリー系ビール、リンデマンス・クリークを用意するなど、恋に動き出します。女性受けのするビールをあえてチョイスした彼の恋の進展はいかに。
巻末の番外編「羽島伊月の誕生」も見逃せませんよ。
猛烈アタックの那由多をかわし続けてきた伊月。その理由は、那由多を超えた作家となって、ヒーローとして好きな女の子の前に立ちたいからでした。そんな伊月の作品も、なんとアニメ化が決定し、少しずつ「主人公」へと近づいていきます。
そして新しく、長い黒髪に大きなリボンが特徴的な少女、蚕が登場します。もちろん彼女が普通の少女のはずがなく――。
- 著者
- 平坂 読
- 出版日
- 2016-03-18
4巻の見どころはとにかく女の子でしょう。そのうちの一人が新登場の蚕です。彼女の頭につけられたリボンの正体は、普通は外に出すものではない、とある物体であり、度肝を抜かれます。
そして二人目は千尋。ドS税理士であるアシュリーのもとへアルバイトに行った千尋が、着せ替え人形にされる様子は可愛らしく、萌えとネタを全力で追求した描写は必見です。
5巻で活躍するのは京です。伊月の作品のコミカライズで事件があり、それを文字通り体を張って解決した京。そんな京が、伊月を担当している出版社の編集部でアルバイトをすることになります。
アルバイトに最も重要なのは誠実さであり、京が誠実であることは十分理解できた、と京に語る編集長の神戸。しかし実際の採用基準は顔であり、京は「文句なしの顔採用」でした。
- 著者
- 平坂 読
- 出版日
- 2016-07-20
5巻はまさに京のための一冊と言っていいでしょう。
ライトノベルレーベルの編集部でアルバイトを始めた京はまず、那由多から原稿を回収するために、一肌どころじゃなく脱ぎます。それだけでなく、熱意と気合いで脚本家のやる気も引き出します。
また、伊月の作品のコミカライズ版作者とその親の軋轢を、熱意と誠実さで解決したのも京でした。
そしてそんな真っすぐな京の魅力に抗えない人間が一人。告白をされた京がどんな結論を出すのか、ハラハラドキドキのストーリーです。
京は伊月に、前から好きだった、と告げます。その告白は、抱えてきたものを爆発させるような熱量を持っていました。しかし、伊月の回答は迷いのない、きっぱりとしたものだったのです。
失恋した京が向かった先は、よりによって恋敵、那由多の家でした。泣きながら報告する京に、那由多もまた泣きながら言います。
「ごべんなざい……(中略)……だっでぇ、ぜんばいは、私のだがら……! ぜっだいに、ゆずれないので」
(『妹さえいればいい。』6巻より引用)
京に幸せになってほしいのに、自分のせいで京の幸せを邪魔したことを謝罪する那由多。加速する人間関係に胸が躍ります。
- 著者
- 平坂 読
- 出版日
- 2016-12-20
6巻は二人の失恋者が登場します。一人は伊月に告白した京、もう一人は京に告白した春斗です。この二人の共通点は、失恋した痛みを癒すために、なぜか恋敵のところへと逃げ込むところ。行動パターンを見ればお似合いな二人がうまくいかない……もどかしいです。
一方で6巻では、伊月の主人公化が加速します。アニメ化のオーディションのシーンでは業界の内側が描写されるなど雑学要素も満載です。
それぞれが前に進み始め、さらに那由多に至ってはエンジンフル稼働で前進していくため、乗り遅れないように気をつけてください。
「ちゅーしてください」
(『妹さえいればいい。』7巻)
伊月のため、倒れるほどに無理をした那由多。病院のベッドに横たわる那由多の姿をみた伊月は、彼女を守るため、彼女に告白をします。
『妹さえいればいい。』7巻は最初からクライマックスです。病室で那由多が伊月にファーストキスをねだるシーンは、ギャグとネタであふれた本作において、唯一まっとうで純粋な恋愛シーンと言えるでしょう。
そして回収される伏線。ギャグだけでなくシリアスな展開も多く、目が離せません。
- 著者
- 平坂 読
- 出版日
- 2017-05-18
7巻の見どころは何といっても、小説家の裏事情がリアルに描写されているところでしょう。これまで登場人物たちは、内輪の仲間たちと全力で遊び、美味しいものを食べて飲んでと、自由にしているイメージが強くありました。
しかしここにきて、作家がぶち当たる壁や世間からのバッシングなど、外部の世界との関係性が明確に描かれるようになります。
3巻に登場した、作家にとって幸せになることは義務だという言葉の意味が深みをもって語られ、流れる血を感じさせる文章に作者の叫びを感じます。
涙なくして読めない7巻。読み逃し厳禁です。
伊月の代表作『妹のすべて』はアニメ化にむけて着々と準備をすすめていました。
発表を2週間後に控えた伊月がSNSを見ると、そこには『妹のすべて』アニメ化の文字が……。
- 著者
- 平坂 読
- 出版日
- 2017-09-20
公式発表前に、アニメ化情報が漏れてしまう通称「お漏らし」。8巻で扱われる事件は、『妹さえいればいい。』アニメ化発表の際に実際に起こったことでもあります。
よくあることと言いながら「お漏らし」がどういった影響をおよぼすのかが書かれているところは興味深いです。
8巻のみどころは、蚕が上京し、それに伴い京、那由多とルームシェアをするくだりでしょう。
「白川京……やはり彼女は我が編集部に幸運をもたらす天使だったか……」(『 妹さえいればいい。』8巻より引用)
ほかにも、前巻から勢いを増してイチャイチャを続ける 伊月、那由多のカップルや、シリアスな空気を漂わせ始めた執筆エピソードなど、次巻以降に期待の高まる8巻です。
GF文庫新人賞の優秀賞を受賞した女子高生笠松青葉は、デビュー作を那由多の劣化コピーと評されへこんでいました。
そんななか、千尋と偶然出会った青葉は、伊月に会わせて欲しいと頼み……。
- 著者
- 平坂 読
- 出版日
- 2018-02-20
9巻の見どころは表紙にも登場している女子高生笠松青葉と女子小学生木曽撫子でしょう。
青葉は、へこんでいるところを伊月に洗脳され、「お兄ちゃん」と呼ぶことになってしまいます。
ひょんなことから伊月の家に来ることになった撫子も伊月のことを「おにいちゃん」と呼ぶことになるなど、妹候補が続々と登場してくる巻になっています。
そういった経緯をそばで見守っていたリアル妹がどう出るか……、というのが本巻最大の見どころでしょう。
可愛い女の子がたわむれるラブコメから後半は一気にシリアスに。今後も『妹さえいればいい。』から目が離せません!