珈琲店「タレーラン」を舞台に、聡明な頭脳を持つ女性バリスタ・切間美星が不可解な出来事を解決していく「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズは、このミステリーがすごい!大賞で注目された大人気推理小説です。さあ、あなたにはその謎、挽けますか?
京都の小路の一角にひっそりと店を構える珈琲店「タレーラン」。彼女とケンカ別れをした「アオヤマ」こと青野大和(あおのやまと)は、たまたまタレーランに入店し、探し求めていた理想のコーヒーに出会います。そのコーヒーを入れたのは学生のような容姿を持つ女性バリスタ・切間美星(きりまみほし)でした。
来る途中で財布を落としたことに気づき、後日必ず払いに来るからと携帯番号とメールアドレスを書き残して店を出る青野。一週間後の雨の日、再び来店した彼を待ち受けていたのは、美星の名推理でした。
- 著者
- 岡崎 琢磨
- 出版日
- 2012-08-04
『珈琲店タレーランの事件簿』は、「このミステリーがすごい!」大賞で最終選考に残ったご当地ミステリーです。受賞は叶わなかったものの、内容が高く評価され全面的な改稿の上で「隠し玉」(編集部推薦)として出版。以後シリーズ化されました。
第1巻では主人公の美空と青野が出会い、美空が背負う過去の傷を払拭します。「その謎、たいへんよく挽けました」という決め台詞と、洞察力鋭い美空の名推理が物語のはじめから存分に堪能できるでしょう。
実は、青野もバリスタであったことや、美空に執着する男が青野を襲う場面、またそれを返り討ちにする場面など、様々なところにトリックがちりばめられています。種明かしがされた後、答え合わせをするかのように何度か読み返してしまうかもしれませんね。
また、「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズに欠かせないのは脇を固める登場人物たちです。いつも美空に怒られてばかりいるタレーランマスターの藻川又次(もがわまたじ)、青野の元カノである虎谷真実(とらやまみ)などの個性的な面々が、ストーリーをテンポよく読みやすくしています。
本格的なミステリーが苦手な方でも読みやすい小技の効いた作品です。
美星の妹・美空(みそら)が、学校の夏休みを利用して珈琲店タレーランにやってきました。
姉妹でありりながら、美星とは正反対な性格をしている美空は「ある人に会いに来た」と言います。しかし美星は、そんな美空の様子に違和感を感じ取ったのでした。
1枚の写真が織り成す偶然が美空の嘘を暴き、タレーラン始まって以来の大事件の引き金となります。美星と美空の幼いころの秘密が明かされる物語です。
- 著者
- 岡崎 琢磨
- 出版日
- 2013-04-25
「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズ2巻は、家族に焦点を当てた謎解きが多く登場します。
「第1章 拝啓 未来様」は、美星の心の支えともいえる友人・水山晶子と、その姉、そして姉の元婚約者の話です。晶子の恋心と姉を思いやる優しさ故の事件……晶子の思惑ですが、姉妹で同じ人を好きになる可能性を語るこの物語は、この後の美星、美空、青野の関係に対するトリックともいえるでしょう。
「第5章(She Wanted To Be)WANTED」では、美空の友人・満田凛の、母親との不仲な関係についての話です。彼氏にフラれた満田凛が、自殺を連想させるようなヒントを一人暮らしの自宅に残し行方不明になる事件がおこります。責任を感じた元カレ・村治が美空たちと共に、一度は凛を発見することができました。
しかし、実は凛は自身の失踪が「事件」に見えるようわざと不自然な状況を演出し、そんな自身を、不仲である「母親に見つけて欲しい」というメッセージを込めて行動をおこしたのです。そして、冷めたように見えた凛の母親も、実は必死に凛を探し回っていて……。素直になれない親子の関係には思い当たる節のある方も多いかもしれませんね。
最後に全編に伏線が張り巡らされていた主人公の美星、双子の妹美空とその父親の関係。それは美空の大きな勘違いから誘拐事件というタレーラン始まって以来の大事件へと発展してしまいます。無謀ながらも無事に解決を遂げた誘拐事件は、幼いころから美星の心の奥底にあるつらい記憶を抉るという結果をもたらすのです。
「一杯のコーヒーにも40年の思い出 ―トルコのことわざ」(『珈琲店タレーランの事件簿』2巻より引用)
憶えていないつもりでも体が忘れない記憶、あなたにもありますか?
珈琲店タレーランのバリスタ・切間美星はバリスタの頂点を決める関西バリスタ大会の本選への出場を果たします。友達以上恋人未満の青野や、オーナーである藻川を引き連れて挑んだ大会の競技中、なんと美星は異物混入事件に巻き込まれてしまい……。
犯人が見つからないまま、第2、第3の事件が起こり混沌とする会場。美星は青野と共に犯人捜しに挑みます。
- 著者
- 岡崎 琢磨
- 出版日
- 2014-03-24
「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズ3巻は、一冊で一つの謎を解くシリーズ初の長編ミステリーです。密室の謎を軸に試行錯誤を繰り返しながらも、美星の洞察力、推理力が冴えわたります。
「やっぱり憧れは、中に入ってみるものじゃありません。外からながめて楽しむのが一番です」(『珈琲店タレーランの事件簿』3巻より引用)
事件は美星がバリスタが集う大きな大会に出場したことで起こります。美星にとって「関西バリスタ大会」は憧れの大会であり、大会の第1回王者である千家は教えを請いに行くくらい尊敬していた存在でした。しかし、事件を解決していくうちに千家に対して、辛い疑惑が持ち上がっていくのです。「憧れ」と「現実」のギャップはどの世界にも起こりうることであり、美星の言葉には共感が持てるでしょう。
大会中2日間に渡り、今まで以上に密に協力しあってきた美星と青野。ラストシーンでは美星が積極的に迫ろうとしますが、青野に上手くかわされてしまいます。しかしバリスタの修行のためとはいえ、イタリアに一緒に行く話で盛り上がる二人に、読み手側も甘酸っぱい気持ちになりますよ。
本格ミステリーが味わえる一冊です。
「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズ4巻は、前作までに登場した人々の後日談や珈琲店タレーランの過去を描いたスピンオフ作品です。
タレーランの飼い猫・シャルル目線で描かれた指輪盗難事件を描く「午後三時までの退屈な風景」、『珈琲店タレーランの事件簿』1巻で美星が青野にプレゼントしたダーツに関する後日談を描く「消えたプレゼント・ダーツ」、シャルルが捨てられていた時の話を描く特別書下ろし「リリース/リリーフ」など6編が収録されています。
- 著者
- 岡崎 琢磨
- 出版日
- 2015-02-05
「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズ4巻は、今までに起こった事件のその後について描いてあったり、過去の登場人物が再登場したりしますので、他巻を読んだことのある方にはタレーランの世界観に深みが増す作品となるでしょう。
一方、各ショートストーリーは全く読んだことのない方でも十分楽しむことができます。特にタレーランのマスター藻川の、亡き妻と美星との思い出を描いた「純喫茶タレーランの庭で」は、「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズ1巻以前を描いたはじまりの章ともいえる物語です。全く手に取ったことのない方は、ここから読み始めるのも面白いでしょう。
また理学療法士を目指す伊達涼子を主人公とした「パリェッタの恋」は、タレーランのマスター藻川と美星シーンも少なく、今までとは異なる世界観が広がっています。SNSをめぐる謎解きは美星が行いますが、さほど重要なポイントとはなりません。物語のラストに涼子をめぐる登場人物の関係性がわかると、必ず読み返してみたくなりますよ。
「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズを気軽に味わってみたい方におすすめです。
「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズ5巻は各章ごとの短編ミステリーでありながら、全編を通じて青野の中学時代の初恋相手である、眞子に関するミステリーがちりばめられた作品です。
青野は自らの職場であるロックオン・カフェで、中学時代の初恋相手である眞子と再会します。眞子は彼がバリスタを目指し、美星と出会うきっかけともなった人物でした。しかし、「素敵なお嫁さん」になるのが夢と語っていた眞子は、結婚相手と上手くいっていないようで……。
- 著者
- 岡崎 琢磨
- 出版日
- 2016-11-08
マスター藻川のアップルパイを巡る「このアップルパイはおいしくないね」特別収録。
5巻の眞子をめぐる謎ときには「源氏物語」が深く関わってきます。古典に興味がある方には2重に面白いミステリーと言えるかもしれません。
青野の初恋相手・眞子は物語にのめり込みやすく、陶酔しやすい女性です。好きになった物語に自分の人生を重ね合わせてしまい、物語を元に人生を生きてしまいます。こととき眞子が陶酔したのが古典・源氏物語でした。
ドラマや小説、コミックなどに影響され過ぎてしまうことって、時々あるかと思います。そんな状態を想像すると、源氏物語を深く知らない方でも全く問題なく美星の推理を楽しめますよ。
青野に少なからず好意を寄せる眞子の出現により、物語のラストで美星と青野の関係に今までにない進展が見られるところも見逃せません。
後のストーリーにワクワクする一冊です。
「このミス」大賞シリーズとして人気を博す「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズをご紹介しました。美星は洞察力の鋭い女性バリスタですが、感情的になることも多くもう一人の主人公青野同様、とても共感しやすい主人公です。気負うことなく手軽に短時間で読むことが出来ますので、ぜひ謎解きが好きな方、そして珈琲に興味がある方は手に取ってみてくださいね。