大人の恋愛を描く森瑤子。彼女の描く大人の女性の主観が数多くの女性から憧れる存在として愛されてきました。ドラマ化された作品も多いので、作品は読んでいないけれど好きだという方もいるかもしれません。そんな中からおすすめの作品をご紹介します。
森瑤子は1940年生まれ、1980年代を代表する女性作家です。「大人の女性」というアイコンで多くの女性から憧れのまなざしを受けた彼女の描く作品には、男性との関係に心を痛める女性や、男性の浅はかさを知りながら軽く受け流す女性など、大変ストレートな人としての感情とそれを制御するしたたかさを兼ね備えた女性像が描かれてきました。
魅力的な登場人物は小説としてでなくドラマ化されて愛されたものも多くあり、特に今回の記事でご紹介する作品はテレビドラマを通じてご存知の方も多いかと思う作品です。森瑤子自身、枯渇する何かを求めて世界旅行に出向いたり執筆に打ち込んだり、余生は与輪島に移り住んだりと激動の人生を送りました。彼女の生き様自体に憧れるコアなファンは、今もなおその数を増やしています。
スコットランドに生まれ育った女性・リタは、運命の人と決めた男性がいましたが、青春の想い出も空しく彼は戦争でその命を失ってしまいます。悲しみに暮れるリタの元に現れたのは、ウイスキーの美味しさを日本で伝えたいと志す人情厚い日本人の竹鶴政孝でした。竹鶴はリタにひとめぼれし、やがて2人は結婚した上で日本に移り住むことになります。
しかし、移り住んだ先の日本でリタは考え方、文化の違いや養女との不仲、そして母国への断ち切れない想いなどを抱え、決して緩やかではない道を生きていくのでした。一方、政孝の願いであった日本国内でのウイスキー普及はやがて軌道に乗り、彼の夢が夫婦関係の礎を築いていきます。
- 著者
- 森 瑤子
- 出版日
- 2014-06-20
NHK朝の連続テレビドラマにて「マッサン」というタイトルで一躍人気を博したリタと竹鶴の生涯を描いた本作。日本は当時戦争という側面では大いなる渦を巻き起こした存在でしたし、国籍の違いを強く意識させられる側面も多くあったリタは幸せと言うにはあまりに困難の多い結婚生活を過ごしました。
森本人も実は英国人と結婚しており、当時は珍しかった国際結婚の中、子育てした経験を持っていますので、実話でありながら似た境遇を経た竹鶴とリタの関係性を強く描きたいと願ったのでしょう。人間味あふれる国際結婚の諸々を物語を通じて感じられる一冊です。
ヨーコは長く続けた結婚生活や夫に満ち足りぬものを感じ、夫の友人たちと不倫を始めます。ヨーコが選ぶ相手はアメリカ出身のデイヴィットやレイン。あるいは昔、恋愛関係にあった男です。
彼らはヨーコが良心の呵責なく情事に浸り、彼らの体を貪るように体を重ね合わせることを時に不思議がりながらも、彼女を受け入れます。ヨーコは何かが足りないまま、男の肌や関係性に対してそれを探していくのです。そこに愛情があるかどうかはもはやどうでもよくて、彼女が最も欲しがっていたのは家族や家庭という自分を束縛する鎖からの解放なのでした。結婚して初めてわかる一人でいる時間の幸福、大切さ。ヨーコは意外な方法で求めたものを得ることになります。
- 著者
- 森 瑶子
- 出版日
本作はフィクションとして発売されていますが、主人公の名前が森瑤子本人と同様であることや翻訳も行う素性、英国人男性との交わりや元交際相手の条件の一致など様々な点からほとんど私小説なのではないかと目されています。
森の代名詞である「大人の女性」というアイコンを確立した作品でもあり、森の代表作でもあります。ヨーコは単なる身勝手な女ではなく、全ての女性が抱える闇や寂しさに対して真摯に向き合った結果が生んだ存在であり、そこには少なからずその行動を作った原因があるのです。男女の関係の妙を詰め込んだような作品となっています。
麻衣はある日夫から不倫を告白されます。それは今までの夫婦関係を全て崩すものであり、彼に対する信頼そのものを更地に戻す一言でした。麻衣は激しく嫉妬し、一方でそれによる関係の変化を望むのかどうかという天秤のもと葛藤するのです。
一方夫も、愛する存在への秘密という重みに耐えきれずに懺悔にも近い告白を妻に残したものの、それによって自分の良心の呵責が解決されるわけでもなく、さらに心を痛めていきます。夫婦とは一体何なのか?他の女を愛する旦那を見つめる激しく燃え滾る妻の目線が、その答えを探します。
- 著者
- 森 瑤子
- 出版日
森瑤子は夫婦を描いた作品を数多く残していますが、その中でも特に感情の深みとすごみを感じさせる作品が「嫉妬」です。他3篇もそれぞれ夫婦関係のトラブルを描いていて、そのどの登場人物もパートナーである相手に対して諦めてはいません。むしろ諦めきれるほど軽い気持ちで愛し合ったわけではないという信念すら伝わるのです。
ただただ感情に焦点を当てているからこそ、小説というスタイルでは受け取ることのなかった自分の内側にうごめくものが文字として浮き立ってきて、何やら可視化してくれるような一冊。夫婦関係に何かしらの事情を抱えている方が読むと、様々なメッセージを感じることのできる本でしょう。
星良雅也は証券マンをしながらミュージカル作家としても活動しています。彼は執筆活動を行う際には八ヶ岳に高速リニアモーターカーで東京から移動しており、描いている作品もヨロン島を舞台とした天の川伝説を元に描きます。
彼が描く作品のモチーフは、実は昌世という女性が繰り返し見ている夢の内容でした。美しい島には愛にまつわる記憶、伝説が隠されており、それを手繰り寄せるように作家活動を続ける雅也を基軸に、恋愛物語は現実と重なっていくのです。
作品に登場するのは、年に一度の逢瀬で満足できなくて、天の川から追放された恋人同士のミカドとメサイ。二人はヨロンで巡り合う運命の仲なのです。登場人物と同じくして、雅也と昌世はミュージカル作品に導かれるように惹かれあっていきます。
- 著者
- 森 瑶子
- 出版日
当時描かれた2003年の世界が『アイランド』の舞台です。移り住むほど森が愛した与論島の美しさを遺憾無く伝える、作中に描かれたリゾート地・ヨロン島は、与論島そのものを題材としつつも近未来の設定を混ぜた独特の世界となって読者を魅了します。
さらに、古代からの伝説と近未来の世界が交錯していく展開も美しく、その設定は既に2003年を過ぎてしまった現代にはまだお目見えしていないテクノロジーもあり、夢を感じて読むことができます。SFラブストーリーとなっており、現在人気のジャンルの元祖ともいえる一冊でしょう。
大手広告代理店に勤めている大金持ちの大西。完璧でどこかキザな性格の彼は、料理に対してここぞとばかりのポリシーがあります。それは「食事はセクシーであるべき」「官能的であるべき」というもの。
彼の料理道には徹底したこだわりがあり、そこらのお店で食べるよりもずっと官能的で胸がきゅんとしてしまうようなレシピを独自に作っています。そんな彼の手料理を出すのは、素晴らしい自宅でこれまた美しい女性に対して、と決められています。今夜も大西の家には美女がやってくることに……。
オイルサーディン丼、レモンのパスタ……魅力的なレシピはどれもメイン料理ばかり。ではデザートは?それはその日の女性次第、という展開です。
- 著者
- 森 瑶子
- 出版日
大西の徹底したキャラクターが話題となり、テレビドラマも人気を博した本作。食事をしている時間で女性を品定めし、ベッドで戯れる相手として合格ならば「デザートはきみ」という決め台詞を繰り出す大西は、正直現代にいたら相当のスペックを保持していても背筋が凍るキャラクターだと思いますが、大変コミカルで面白おかしく読めます。
出てくるレシピも独自性があり、実際作るファンも続出。実際大変美味ということで、小説からヒントを得てレシピ皆伝する読者もいるそうです。そんな恋愛料理小説という新境地を、食いしん坊な方はきっと楽しめることでしょう。
森瑤子の描く恋愛小説は、現実的であれ感情的であれ、男女の関係を達観したような森自身の魅力がにじみ出ています。軽やかに楽しめるものからどろどろと悩み多きものまで、森瑤子ならではの感覚を感じたい方は、テレビドラマも良いですがぜひ原作を読んでみてください。