漫画『夏目友人帳』最新23巻までの見所をキャラから紹介!【ネタバレ注意】

更新:2021.11.8

幽霊や妖怪は漫画界で人気が高く、数多くの作品があります。そのなかでも特に温かく柔らかな雰囲気を持っているのが『夏目友人帳』。今回はホラーやバトル要素がありながらも、ふわりと優しい本作の魅力をご紹介!最新23巻のネタバレありなのでご注意を。

ブックカルテ リンク

優しい妖怪漫画『夏目友人帳』の魅力ネタバレ紹介!温かくて泣ける!

著者
緑川 ゆき
出版日
2005-10-05

本作は1話で1つの妖の物語が完結する、連作方式がとられています。話が進むに従って、4~5話と長く続くものもありますが、短く話がまとまっているうえに、登場する妖怪や人物も変わってくるため、毎回新鮮な気持ちでページをめくることができるでしょう。

妖怪たちは日本に存在している、一反木綿やぬりかべ、のっぺらぼうといったメジャーな妖怪ではなく、作者である緑川ゆきのオリジナル。子どもの頃に聞いた怪談話や空想から着想を得ており、夏目が見たという妖怪の特徴を元に、似顔絵を描いている感覚で創作しているそうです。

そんな妖怪たちと夏目の交流は、時に命の危険が迫ることもありますが、穏やかで優しい時間を過ごすこともあります。夏目はあまり恵まれた人生を送ってきているわけではなく、最初は人と距離を置きがちな少年でした。妖怪たちと関わるうちに、自分の力や他者との関わりについて考え、成長していくのです。

森や田畑、自然豊かな土地で育まれる物語は、どこか時間がゆったりと流れているように感じられます。登場する妖怪や人間たちはピュアで、周囲の環境とも見事にマッチ。柔らかな空間をより一層心地よいものに変えてくれます。

妖怪が登場するため、背筋が寒くなるようなホラー展開や、ちょっとしたバトルも。そこで頼りになるのが夏目の用心棒である斑です。斑は作中でも随一のギャップを持ったキャラクターで、強力な妖怪なのに、普段は丸々とした猫「ニャンコ先生」になってしまうのです。

『夏目友人帳』あらすじ

著者
緑川 ゆき
出版日
2006-08-05

山や田んぼがあり、自然豊かで長閑な田舎町。本作の主人公、高校生の夏目貴志は、親戚の家を転々とした後、父方の遠縁にあたる藤原夫妻に引き取られました。彼は小さい頃から不思議なものを見ることができる力を持っており、そのせいで孤独な少年時代を過ごしてきました。

ある日、妖怪たちに襲われた夏目は、逃げ回る最中に逃げ込んだ祠で、妖怪「斑(まだら)」の封印を解いてしまいます。斑は夏目の事をレイコと呼び、何かを知っている様子を見せます。

レイコとは夏目の祖母のことで、彼同様妖の姿を見ることができる、風変わりな人だったと伝わっていました。斑の言葉に従い、レイコの遺品を改めた夏目は、「友人帳」と書かれた和綴じの帳面を発見するのです。

それは生前、レイコが勝負を仕掛けて打ち負かし、契約した妖怪たちの名前が記されたものでした。多くの妖怪を従えることができる友人帳のウワサは広がっており、持っていると妖怪に襲われることは避けられません。夏目が死んだら友人帳を譲り渡すことを条件に、斑は彼の用心棒となります。

可愛くて強い!【ニャンコ先生】

夏目が死んだら友人帳を譲り受ける、という契約を交わして彼の用心棒となった斑は、普段は丸々とした猫の姿をしていますが、本来はキツネのような外見的特徴を持った巨大な白い獣です。夏目を背に乗せて自在に飛行することもでき、その力は作中に登場する妖怪たちの中でも、トップクラス。ほとんどの妖怪は斑にかなうことはなく、人間の祓い屋もほぼ太刀打ちすることはできません。

人間に化けることも可能で、時折夏目やレイコの姿で登場することもあります。夏目によって祠の結界が破られたとき、なぜか招き猫を依代にしていた斑の封印が解かれてしまい、再びこの世に姿を現すこととなりました。 

著者
緑川 ゆき
出版日
2007-02-05

夏目と契約を交わしてからは、妖怪の姿ではなく丸々と太った猫の姿でいます。 作中でも、主に夏目からデブネコ、ブタネコなどと呼ばれることが多いですが、長い間封印されていた影響で、身体が依代の姿に慣れてしまって、猫の姿を取るようになりました。

普段は「ニャンコ先生」と呼ばれ、ファンからも大人気のマスコットキャラクターのような存在です。サイズはドッジボールで使用するボール2個分ほど、体毛はつるつるでフカフカしているらしく、背中と頭頂部に2色の模様があるほかは、白い毛でおおわれています。

食事は猫用ではなく人間のものを食べており、饅頭などの甘味のほか、エビやイカ、酒とつまみなど、まるっとしたお腹はまさにオッサンと称して差し支えないほどの貫禄です。こっそり冷凍庫のエビを13尾食べるなど、旺盛な食欲も見せています。

性格は強大な力ゆえか、少々俺様気質で気まぐれ、基本的に陽気ですが気は短く、下級妖怪に対しては高圧的です。レイコとは契約を交わしているわけではなく、友人帳に斑の名前はありません。彼女のことを懐かしむような様子も見せていますが、その関係は友情なのか、それ以外のものなのか、はっきりと描写されてはいません。

しかし、夏目に対しては用心棒と言うよりも、保護者のような立ち位置でいることもあり、レイコや夏目の成長を見守る、年長者のような役割も担っています。とはいえ、普段は可愛い猫。ブサカワイイともいえる表情と、丸いフォルムに味があり、クセになってしまう可愛らしさを持ったキャラクターです。

強い妖力を持った謎も隠された少年【夏目貴志】

主人公の夏目は、両親を亡くしており、近しい身内に恵まれなかった天涯孤独な身の上です。強大な妖力は祖母のレイコ譲りであると推測され、妖怪たちからは容姿が似ていると指摘されることもありました。妖が見えるために、周囲からは奇妙ととられる言動が多く、そのため嘘つきと言われ、虐げられて育ちました。

そんな環境からか、周りの人間と深くかかわることをせず、常に笑顔を張り付けて、人当たりは良いものの、1歩距離を置きがちです。逆に、人間関係を円滑にするために自身を偽ることもあるなど、とにかく必要以上に周囲に気を遣う、心優しい性格をしています。

妖力を持っている以外は、ごく普通の高校生である夏目ですが、とにかく謎が多いキャラクターでもあります。母親は夏目が生まれた時に死亡、父親も幼い頃に亡くしました。穏やかそうな夫婦の写真が作中に登場しはしたものの、情報はあまりありません。

著者
緑川 ゆき
出版日
2007-08-04

祖母のレイコが夏目に関わる最重要キャラクターです。レイコは妖怪たちからも美しかったと称賛される美貌の持ち主でしたが、同時にめっぽう強かった、と言われるほど強力な妖力を持っていました。とにかく人間嫌いで、関わるのは妖ばかり、風変わりな人だと認識されていましたが、未婚で子どもを産んだらしく、一部では男関係にだらしのない娘、と言われています。

人間嫌いの彼女がなぜ子どもを産むことになったのか、その経緯も明かされていませんが、作中に夫になるらしい人物を語ったセリフが登場します。隣町からくる、レイコになにかと話しかけてくる人物らしいですが、詳細は不明。彼女や夏目の出生にかかわる話題は、あまり語られていません。

そんなレイコの力を受け継いだ夏目は、強力な妖力の持ち主。慣れない術式を成功させたり、パンチ1つで妖怪を撃退することもあり、作中でもその力の強さを随所に感じることができます。逆に身体的にはかなりの虚弱体質で、妖怪たちに名前を返すときに力を使いすぎて、寝込んでしまうこともあるのです。全体的に色素が薄く、細身な体格のため、どこかはかなげな印象も受けます。

藤原夫妻の下で普通の高校生らしい生活を送った結果、徐々に人との関わり方を密にしはじめた姿は微笑ましく、不器用な性格が感じられます。しかし、ニャンコ先生との言い合いには遠慮がなく、年相応の少年らしさを見せました。

いざという時の行動力は抜群で、その結果として事件に巻き込まれることも少なくありません。彼は妖怪たちを討伐できるほどの力を持ちながら、彼らと関わり、寄り添う立場をとっています。一方で、夏目とは真逆の立場にあり、妖怪たちから恐れられる人間も存在します。

冷静な合理主義者【的場静司】

夏目は強力な妖力を持ち、友人帳に関わる妖たちと、時に戦いつつも名前を返し、個々の妖怪たちと向き合ってきました。レイコはその能力を、勝負に使用しており、結果として多くの妖怪の名が刻まれた、友人帳が誕生しています。

作中には妖怪たちの姿を見ることができる人々が登場しますが、夏目のように強力な力を持っている者たちが、「祓い屋」として活躍しています。そのなかでも一番大きな組織である「的場一門」の当主、的場静司の力は随一。強力な妖怪の斑ですら警戒する人物です。

黒髪に和装、番傘と右目にある謎の文様が入った眼帯がトレードマークの的場は、ミステリアスなキャラクター。右目の眼帯は彼の先祖が、仕事を手伝ったら右目を喰わせるという約束を守らなかったため、以来子孫は右目に眼帯をつけることが習慣づけられた、という事情があります。

著者
緑川 ゆき
出版日
2009-01-05

的場一門は、一族を妖の手から守る組織としてはじまり、現在は個人事業主が集まる、互助組織的な役割をもって運営されています。その当主である的場は、当然ながら強大な力の持ち主で、高校生の頃から祓い屋として活動してきました。

口調は穏やかですが、性格は傲岸不遜でかなりの合理主義者。人間も妖も、使えるか否かで判断しています。夏目は彼に友人帳の存在を知られてはならないと、警戒心をあらわにしました。

レイコの存在は祓い屋業界でも有名らしく、夏目の警戒心をよそに、的場は夏目に興味津々な様子を見せます。強大な妖力に加え、力のある妖怪、斑の協力を得ているところから、利用価値を見出しているらしく、的場一門に勧誘するのです。

彼にも謎が多いですが、夏目とは対照的な人物として存在が際立っています。祓い屋と高校生、普通であれば接点のない2人をつなげたのは、とある人物でした。

人気俳優だけど祓い屋?年上の友人【名取周一】

夏目と的場が出会うきっかけを作ったのは、人気俳優であり、祓い屋でもある名取周一です。名取はとある妖怪の事件を追っているところで夏目と遭遇、自身と似たような境遇である彼に興味を示した名取は積極的に交流をして、年上の友達というようなポジションにいます。

名取家は的場一門同様、祓い屋の中では大手の一族だったようですが、能力者が生まれずに衰退し、廃業に追い込まれました。妖怪の報復を恐れていた両親が能力者である名取に対して辛く当たったため、家族との間には確執を抱えた状態です。

そんな境遇なせいか、妖怪を憎むべき存在だと認識しています。落ちぶれた一門と言われていましたが、彼の活躍により名声を復活、祓いの技術はほぼ独学で習得したという、努力家の一面も。眼鏡をかけた柔和そうな2枚目として描かれ、ニャンコ先生いわく「新手の妖気」のようにも見えるきらきらオーラを発しています。

著者
緑川ゆき
出版日
2013-01-04

名取の身体には常人には見えないヤモリの形をした痣があります。痣は一カ所に固定されているわけではなく全身を動き回るのですが、唯一左足にだけは出現したことがありません。健康上の被害はありませんが、彼自身は気味悪がっており、恐怖心を抱いています。

痣の正体は明かされてはいませんが、ヤモリは家を守ると言われている生き物。宿主である名取を守っているのではという考察がなされています。そうなるといずれは左足を失う可能性が出てくるため、読者としては五体満足でいてくれることを願わずにはいられません。

祓い屋であり、妖怪を憎んでいるわりには、彼が使役した妖怪から慕われるという善人である名取は、夏目同様周りに心を開かずに生きてきました。しかし、夏目と関わるうちにその考え方が少しずつ変化してきており、ニャンコ先生姿の斑とは口喧嘩をするなど、大人げない一面も見せています。

夏目は名取を信頼しており、友人帳の存在を明かしています。しかし名取は友人帳を利用しようとはせず、燃やしてしまえばいい、と一蹴していました。過剰な興味を示さなかったのは、友人帳を大切にしている夏目に対する気遣いともとれるため、大人らしい気遣いのできる人物であることを窺わせます。

しかし的場に対しては劣等感のようなものを抱いており、的場が彼を使えると判断しているのにも関わらず、彼は的場を避けているような姿も見られました。

ミニ先生が可愛い!名取と的場の過去も【21巻ネタバレ注意】

妖怪たちとともに、少しずつ人間たちの関係も交わっていく本作ですが、21巻でも夏目は妖怪たちとの事件に奔走しています。

著者
緑川ゆき
出版日
2016-10-05

深く眠っている隠し沼を探し、岩鉄様という妖怪の眠りを覚ます、「石起こし」と呼ばれる役割についた妖怪の物語。謎の地図が登場したり探し物がメインとなるため、冒険譚のような内容になっています。
 

夏目の友人、北本が父親と通っていたという、古本屋で遭遇する妖との物語は、ちょっと切ない雰囲気も。夏目が作った、焼き物のミニニャンコ先生が突然動きだして巻き起こる騒動を描いた回では、本物よりも品がある、という小さいニャンコ先生が大活躍します。その愛らしさにキュンとなったあとは、切ない物語の終幕に少しほろりとしてしまうでしょう。

特別編として、高校生の時の名取が登場する物語も収録。的場との関係や、使い魔となる瓜姫との出会いも描かれており、謎の多い名取の過去を知ることができる1編となっています。

友人帳の始まりが明らかに!?【22巻ネタバレ注意】

1年に1冊ペースで発売されている本作ですが、今回もそれを納得させるだけのクオリティ。緑川ゆきの力には感服です。

22巻も定宿を大切にしている妖の話や、西村と夏目のほっこりする話など、それぞれ丁寧に作り込まれたお話が並んでいます。しかし最大の見所は友人帳の始まりのエピソードが明らかになったことではないでしょうか。

著者
緑川ゆき
出版日
2017-09-05

ある日、中級たちから名前を返して欲しがっている妖がいると聞いて四方谷に向かった夏目たち。実は彼こそが夏目友人帳に名前を書かれた初めての妖でした。妖はレイコの過去のことを話し始めます。

ある日、妖が数多く住み着いた危険な場所で、そうとは知らずに読書をしていた人間の少女・蒼子。彼女は引っ越してきたばかりで友達がおらず、静かな場所で本を読んでいたのでした。

その場をたまたま通ったレイコが彼女にサッサと帰るよう忠告しました。冷たく見えるものの、どこかレイコに親近感を感じた蒼子は、それから毎日森にやってきて彼女に話しかけます。

そして名前を教えてくれないレイコに、蒼子はさまざまな勝負を持ちかけ、名を明かすことを賭けます。しかしいつも勝負はレイコの勝ち。なかなか蒼子は名前を聞き出すことができませんでした。

そんななか、学校でようやく友達ができた蒼子はある噂をレイコに話します。それはさまざまな不思議なお話で、そのうちのひとつに変わっていることで有名な夏目レイコという少女の噂がありました。

蒼子はレイコを心配してその噂を教えたのですが、優しさが裏目に出てしまうのです。しかもその日、蒼子は勝負に勝ち、レイコはやっと名前を名乗ります。

「夏目レイコよ」

表情をこわばらせたようにも見える蒼子。小雨が降り出し、レイコは初めて会った日のように再び蒼子にこう言います。

「帰りなさい」

そしてそれ以来、姿を表さない蒼子。来る日も来る日も彼女を待つレイコ。

その様子を見ていた妖はレイコを思って涙し、そんな妖をレイコは秘密の花畑に連れて行きます。本当は、それは蒼子に見せたかった景色でした。

その花畑でレイコが何の気無しに持ちかけた勝負こそが、夏目友人帳の始まりだったのです。

泣けます……。いつ読んでもレイコさんの話は切ないものが多く、よしよししてあげたくなってしまいます。ううう……。

実はこのお話にはあと少し続きがあるのですが、それはぜひ作品でご確認ください。より切なく、そしてほっこりしてしまう結びに、『夏目友人帳』の真骨頂が感じられます。

それぞれの生い立ちと現在【最新23巻ネタバレ注意】

23巻は大きく分けて5話のエピソードが収録され、2つの内容に分かれます。1つは「テンジョウさん」という、妖怪ではなく都市伝説にまつわるエピソード。2つめは「約束の残る家」という、的場と名取が登場するエピソードです。今回は人気キャラでもある2人が登場する後半のエピソードを少しご紹介しましょう。

著者
緑川ゆき
出版日
2018-09-05

ある日、名取に誘われて夏目がやってきたのは、旧依島邸。名取は、以前かかしの妖の時に登場した依島から数冊の本を取ってきてほしいと頼まれてやってきたのです。

彼についてきて、そこで駄賃がわりの枇杷の実を取るために高いところに登った夏目は、ひとつ隣の家に掲げられた布が誰かの手によって切られるのを目撃します。

それを返そうと隣の家に行くと、そこには的場がおり……。

ひょんなことから彼らの異形の者との約束の儀式を手伝うことになった名取と夏目。もちろん簡単にことが運びそうもありません。

作者はあとがきで、名取と的場、正反対で相容れない2人の「祓い屋」としてのジレンマを描くことの難しさや楽しさを語っています。確かに2人の距離感は付かず離れず、それでいてどこか緊張感の漂う複雑なものです。それぞれの生い立ちやキャラクターゆえのもので、読んでいるこちらまで何だかそわそわしてしまう、独特の空気感があります。

果たしてこの儀式は無事終わるのでしょうか?名取と的場、そして夏目の関わり合いにも注目したいエピソードです。

妖怪や人間との関わりの中で、季節が移ろうように少しずつ変化していく夏目の姿が魅力の本作は、人間が暮らす様々な環境への愛が溢れています。優しさと温かさに溢れた物語にぜひ触れてみてください。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る