高橋三千綱のおすすめ作品5選!「九月の空」で芥川賞受賞、病と闘う作家

更新:2017.8.2

高橋三千綱は芥川賞受賞作『九月の空』をはじめとして、等身大の男性像を描いてきた小説家です。成人病との闘病、ゴルフを始めとしたスポーツに生きる男たちの生き様の取材、そして放浪の旅と、経験豊かな作家から生み出される珠玉の5冊をご紹介します。

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「九月の空」で芥川賞を受賞した作家、高橋三千綱

高橋三千綱とは、「九月の空」で芥川賞を受賞した小説家です。父の借金や大学中退など苦しい局面もありながら、幼少期からラジオドラマなどの子役、新聞記者、小説執筆など数々の職を経験してきました。作風は自身の経験に基づくストーリーを展開するフィクションが多く、特にゴルフ、闘病生活、男女関係などを綴ったものが目立ちます。

新聞記者として活動していた時の経験から根付いた様々なスポーツに対するジャーナリスト的な切り口が作風ににじみ出ており、ゴルフ以外のスポーツに関わる著作も数多く残しています。また、自身が大の酒飲みであり自由な生き様をしていながらも、人からは憎まれないというキャラクターだからか、昭和~平成にかけて男性たちが憧れる等身大の“モテ”を描く作品が多いのも特徴です。

高橋三千綱の芥川賞受賞作!青春小説の金字塔

主人公・小林勇は剣道部に所属する高校一年生。家族には年ごろの勇を男として意識しない姉、金に無頓着な父とそれを許しながら支える母がおり、勇は家族の姿を観察することで「男と女」という関係について考えます。

そんな一面もある彼ですが、剣道においては試合に向き合う瞬間の集中力が非常に好きで、剣道部の朝練や合宿には熱心に参加するのでした。そんな折、勇は友人から痴漢退治をすることを持ちかけられます。それは、クラスメイトの女子を着飾って男をおびき寄せ、寄ってきたその男を叩くというものでした。囮となったクラスメイトの女子・松山は、普段は教室で見せたことがないほど妖艶で、勇は松山を「女」と感じるようになったのです。

著者
高橋 三千綱
出版日

部活動、恋愛、異性関係、他人からの目……様々な思春期ならではの甘酸っぱいエピソードが詰まった青春小説です。本作は、表題作「九月の空」の他、「五月の傾斜」、「二月の行方」という、主人公の高校一年間を描いた作品が連なった連作短編集となっています。

高橋三千綱は新聞記者としての職を辞し、小説執筆活動に専念してから4年で本作を発表しており、芥川賞受賞を果たしました。彼の瑞々しい感性と、実にリアルなストーリー展開が魅力です。「九月の空」は多くの人の胸に響くような「青春」を描き切った傑作として、映画化された作品もヒットしました。以後高橋三千綱の作品は映画化やコミック化など、様々なメディアにシナリオを提供することとなっていきます。

高橋三千綱の人柄を知る、闘病自伝小説

道太郎は大の酒飲み。糖尿病を宣告されましたが気にせず、ドクターストップも無視してお酒を飲み続けました。たび重なる入院にも関わらず、やめなかった悪習慣がたたり、やがて肝硬変を患います。周囲の妻や娘、友人たちはそんな道太郎を諫めながらも優しく看病します。娘は道太郎の命のために臓器移植まで申し出るほど、父を慕っていました。

さらに食道がんや胃がんを患うことで闘病生活は重くなっていきますが、道太郎本人はというとあっけらかんとしたものです。お酒だって、依存してやめられなかったわけではなく自分の意志で飲んでいただけ。道太郎は自分で決めた楽しい人生というものに対してブレがなく、その代わりに負うこととなる死へのリスクや制限される命に対して何らこだわりがありません。

著者
高橋 三千綱
出版日
2016-01-27

闘病生活を送る多くの方におくりたい闘病自伝的小説です。高橋三千綱自身が生きてきた「人たらし」な性格が存分に楽しめるでしょう。病気と向き合い一生懸命に生きる姿に感動する、というタイプの小説ではありません。この本の素晴らしいところは、そもそも病気に対してネガティブな印象などかけらも感じずに人はいられるのだ、と教えてくれることです。通常なら参ってしまうような大病の嵐にも道太郎は動じず、日々を楽しみます。

彼の周囲には彼を愛する人が当たり前のように寄り添います。それは現代に生きる人にとっては不自然なことのように思えるかもしれませんが、道太郎(=高橋自身)は、自分の人生や命に対する自己責任はしっかりと担っているのです。どうしようもない酒飲み男とくくってしまえばそれまでですが、人に命を頼らず歩いているということがどれほど魅力的なことかを改めて感じさせてくれる一冊です。

酒とともに巡る世界の情景を描いたエッセイ的小説

主人公・楠三十郎は、作家を中心軸として映画監督や脚本執筆などもマルチに行う三十代男性……と言えば聞こえは良いですが、自分で「誠実な酔っ払い」と豪語するほどの酒飲みで、最近は執筆活動にも全く身が入っていませんでした。彼の人生には酒と文章、そしてときどきの旅が付きもの。回想するのは学生時代に赴いたサンフランシスコ、あるいは借金から逃げるために行ったニューヨークです。南極へ記事執筆のための取材旅行では道程で船が座礁するというトラブルに巻き込まれます。

いつだって人生は上手くいかない、と身に沁みながらも自分の人生の意味を求めてさまよう楠。その道程では美しい女性との出会いや束の間の時間と別れ、そこでしか味わえない経験などが入り交じります。楠はそれらを、時に「筆が赴くままに」という表現を当てたくなるようなエネルギーをぶつける筆致で描いていきます。

著者
高橋 三千綱
出版日
2013-02-26

高橋三千綱の面影を色濃く映す主人公が世界の各所を彷徨いながら思い描くことを連ねる形のエッセイ的小説です。経験談に基づいたシーンを淡々と描写していくので、ストーリーに起伏があるものというよりは風景を楽しむ一冊と言えるでしょう。

高橋三千綱は作品内で貧困に苦しんだ自分自身の苦渋や社会に対して感じる理不尽さなどを滲み出させており、高橋の内側で渦巻く鬱屈したものを吐き出すかのような言葉が印象的です。父が救わなかった犬、自らが救うひん死の猫といった動物の命を通じた人間性が描かれており、高橋が動物に対して抱いていたであろう愛情も感じることができます。

犬への愛情と観察眼を楽しむファンタジー小説

ブル太郎は幸せな家庭で飼われているブルドッグ。ブル太郎は愛玩犬とは言いがたいふてぶてしさを放っており、家のルールも自分の存在で変えてしまいます。例えば、お気に入りの昼寝ゾーンから家に入るための最短ルートである部分を隔てた網戸は、自分が通りやすいように破りました。また、散歩の時間は飼い主が設定しているのではなく、自分の歩きたい気分によって変えています。さらに、我が飼い主である、といった意識に縛られているこの家の主・父親に対しては鼻を鳴らして無視を決め込みます。

そんなブル太郎の元に、ある日オオタカの幼鳥が傷つき降り立ちます。一匹と一羽の心の対話が始まるのでした。

著者
高橋三千綱
出版日
2014-07-02

ブルドッグに対する愛情がひときわ感じられる一冊です。高橋の中で犬猫に対する感情は強くあるのだろうなということは先ほど紹介した『猫はときどき旅に出る』からも感じられるのですが、本作はまさにその感情を基軸として描かれたような作品。

ブルドッグは犬の中でも特にデリケートな精神を持っており、好みもひときわ強く、飼うのは難しいと言われている犬種です。そんなブルドッグが一羽のオオタカとの出会いによって変わっていく様子は、人間ドラマよりも胸を打つものがあります。

ゴルフに生きる男たちを描いた短編集

ゴルファーの竹山は、スコアがなかなか伸びないことに悩んでいました。彼が経済的にも余裕がなくなりつつある場面を支えているのは、妻。妻は竹山のことを思い、自らが重荷になるならばと離婚さえ考えます。様々な場面で助け舟を出す妻に対して竹山は「こざかしい」と感じて苛立ちを募らせていました。

竹山に越えられない壁を与えているのは、他でもない自分自身のちんけなプライドです。自分の思わしくない状況を妻に見られることによってプライドが傷つくため、無駄なプレッシャーを感じていたのでした。しかし、自分自身はそれに気が付けず、妻のせいにしてしまいます。

竹山が最期の試合に臨む時、そんな姿を見てとった妻の行動とは……。

著者
高橋 三千綱
出版日

ゴルフに向かい合う男たちの姿を描いた短編集です。妻との関係性、息子との距離、老人の人生観など、全てがゴルフを通じてその人の生き様を浮かび上がらせる内容となっています。

もう後がないという局面に立たされた10人のゴルファーたちが立ち向かう葛藤や、そこから見出せる答えが実に人情味を感じる内容で、ゴルフ好きの男性は涙を流すことを間違いなしという珠玉の短編集です。本作は漫画化もされており、原作内で特に人気の4編を厳選して一冊の漫画として発売されています。

登場する人物の年齢層や立ち位置がそれぞれ違うところも本作の魅力です。必ずあなたの胸を打つ設定がこの中にはあることでしょう。

高橋三千綱は自身の経験や愛着のあるものに対してエネルギーを持ちながらも冷静に書き表せる力のある小説家です。幅広い分野に目線を送った彼らしい作品で、等身大の男性たちの葛藤や彷徨をお楽しみください。