『ロミオとジュリエット』『ハムレット』などを執筆し、世界最高の劇作家。日本でもたくさんの作品が上演されています。彼の人生について、おすすめの本とともに紹介します。
ウィリアム・シェイクスピアは、1564年にイギリスの田舎町ストラトフォード=アポン=エイヴォンで生まれました。父親のジョン・ウィリアムは手袋職人と皮なめし屋を本職としつつ財を築き、のちに町長にまでなった成功者です。
幼い頃は裕福な家庭で何不自由なく育ち、6歳の頃から14歳の頃まで地元のグラマースクールに通い、古典文学の素養を身につけたといわれています。
21歳を境に彼は故郷の記録から姿を消し、28歳のときロンドンで詩人として現れました。この間7年、どこでどう生きたのかは分かっていません。この期間は「シェイクスピアの失われた年月」と呼ばれています。
やがて名を上げた彼は、30歳のときには宮内大臣一座(のちの国王一座)の主要メンバーになります。この頃から精力的に作品を発表するようになり、数々の名作を残しはじめました。
彼の作品はいくつかのジャンルに分類されることが多いです。初期は『ヘンリー六世』や『リチャード三世』などの「歴史劇」がメイン、さらに『夏の夜の夢』や『十二夜』などの「喜劇」、30代後半になると一転「悲劇」に重心を置くようになり、4大悲劇と呼ばれる『オセロー』『リア王』『ハムレット』『マクベス』を完成させました。社会情勢や演劇界の流行、父親の死去などの私生活の変化が影響し、作風が変化していったと言われています。
わずか20年ほどのあいだに後世に残る傑作を書き、47歳のときに引退を表明、晩年は故郷で悠々自適に暮らし、1616年、53歳で世を去りました。
1:シェイクスピアの名前のスペルは80パターンもあると記録されている。
洗礼記録にShakespere、結婚許可書にはShaxpere、結婚契約書にはShagspere、遺書にはShakespereなど、当時は名前の綴り方がいいかげんだったのですね。ちなみに現代のスタンダードなスペルはShakespeareです。
2:シェイクスピアの本当の誕生日は誰も知らない
伝統的には、1564年4月23日とされています。しかし実際記録が残っているのは、1564年4月26日に洗礼を受けたということだけです。洗礼は誕生後数日で受けさせるのが当時の習慣だったので、4月26日の少し前に誕生したのは確かなのですが、正確な日付は分かりません。彼の命日が1616年4月23日なので、誕生日も日付を合わせ4月23日と考えるのが一般的になったのです。
3:できちゃった結婚をした
1582年、シェイクスピアは18歳で8歳年上の女性、アン・ハサウェイと結婚しています。この若さ、そして花嫁が8歳年上というのは当時では異例でした。実は結婚当時、アンは妊娠4ヶ月だったのです。いわゆるできちゃった結婚だったのですね。
1583年長女が誕生、1585年には男の子と女の子の双子が生まれました。20歳の若さで三人のこどもの父親となったのです。
4:オックスフォード英語辞典に、英語に約3000語を導入したと称されている
シェィクスピアは名詞や形容詞を動詞にしたり、2つの単語をくっつけて1つにしたりして、大量の新しい単語やイディオムを作り出しました。そこには今も使われているものがたくさんあります。例えばbloody(血まみれの)、assassination(暗殺)、Fair play(フェアプレー)などです。
5:37の演劇と154もの詩を作曲していただけでなく、俳優でもあった
シェイクスピアは劇作家、詩人として有名ですが、役者としても活動しました。1598年に上演されたベン・ジョンソンの新作『気質くらべ』の出演者表筆頭に彼の名前があります。彼自身の作品である『ハムレット』の亡霊を演じたという伝説もありますが、これに根拠はありません。
さて、彼の演技はうまかったのでしょうか。「非常に上手に演じた」と書かれている記録と、「役者としてより詩人としての方がはるかに優れていた」と書かれている記録があり、真実は闇の中です。
6:イングランド王ジェームズ一世と密接な交流があった
1603年、エリザベス1世が亡くなり、スコットランド出身のジェームズ1世が即位したとき、シェイクスピアの劇団は国王の劇団である国王一座となりました。国王は特に『ヴェニスの商人』を気に入って何度も観ています。
彼も新しい国王を意識して、スコットランドものや魔女の登場する作品を書きました。その代表が四大悲劇の1つ、『マクベス』です。
7:当時の多くの劇作家とは違って、シェイクスピアはお金持ちであった
以外にも、お金を増やすことに関しても才能がありました。想像力、プロデューサー的技量、根気強い頑張りでお金持ちになったのです。劇団の上演の収益のみならず、劇場の共同所有者として賃貸料の配当を受けていました。
また、故郷で二番目に大きな家屋敷を購入し、そこに家族を住まわせます。敷地には庭が2つ、納屋が2つあったそうです。さらに土地や不動産に投資をしたり、農産物を売買したりと、左団扇で暮らすストラトフォードの有力者の一人となりました。
8:シェイクスピアは最も優れた作家として一般に知られているが、彼の生きた時代ではその印象はなかった
シェイクスピアは活躍した当時から有名で、人気がありました。しかし、いわゆる流行作家という受け取られ方だったようです。事実、劇に対する評価は、彼の死の直後から急速に消え失せていき、その後100年ほどたって改めて見直されるようになっています。
同時代人の作家ベン・ジョンソンは「シェイクスピアがすべての時代を通じて最高の作家である」といいました。しかし、そんなベン・ジョンソンは王室から最高の詩人に与えられる称号である桂冠詩人に選ばれていますが、シェイクスピアは選ばれていません。
「なぜシェイクスピアが矛盾した表現を好むかと言えば、人間は矛盾した存在だという認識があるからだろう。(中略)人間は理屈を超えた存在であり、矛盾のなかにこそ人生の危うさやおもしろさがつまっているのだ」(『シェイクスピア-人生劇場の達人』から引用)
彼の人物像を追う前半部と、作品世界を考察する後半部に分かれ、彼の人生と作品を分かりやすく解説しています。
- 著者
- 河合 祥一郎
- 出版日
- 2016-06-21
プラトン哲学をはじめ、さまざまな哲学とシェイクスピア作品との関係は読み応えがあります。実際のセリフがたくさん引用されていて、作品に触れるとともにその時代背景を知ることもできる一冊です。
読みやすい入門書という枠にとどまらず、そこから一歩も二歩も踏み込んだ知見が得られるでしょう。
本書は、シェイクスピアの没後400年にあたる2016年に出版された一冊です。
「ああ、すばらしい新世界、こんな人たちがいっぱいいて!」「残忍で、不実で、好色で、冷酷な悪党め!」「賢くはなかったが、あまりに深く愛しすぎた」「戦場はしんがりに、宴には真っ先に」(『シェイクスピア 人生の名言』から引用)
- 著者
- 佐久間 康夫
- 出版日
- 2016-01-26
喜怒哀楽の4つの章に分かれ、シェイクスピア作品に登場する名せりふが紹介されています。キャラクターや相関関係も解説されているので、作品になじみのない方でも無理なく楽しめるでしょう。
作品に興味があるけれど、何から読めばいいか迷っている方、まずはこの本で、お気に入りのセリフを見つけるのもよいのではないでしょうか。
大学も出ていない田舎育ちの若者が、最高の大劇作家となったのはなぜなのか。謎に包まれた作家の人生を、彼の作品と、限られた手掛かり、そして徹底的な時代的、文化的考察から、立体的に想像(創造)していきます。
- 著者
- スティーヴン グリーンブラット
- 出版日
少年時代に経験したであろうイベント、父の栄光と没落、結婚、家族、宗教、都会と田舎、劇団運営、そして作品のモデルになったはずの近くにいた人々……。彼の人生をとりまく出来事や人々が立体的に描かれ、まるでシェイクスピアの隣で、彼ともに彼の時代を生きているような気分にさせてくれます。
偉大な作家であり、地に足をつけた一人の人間でもあった彼を、より深く知りたい方におすすめです。
演劇批評家でロンドン在住の筆者による、シェイクスピアの生涯を追った一冊です。
「従来、断片的に引用されている多くの文献を出来る限りオリジナルにあたって、文章の全体を読み直すよう努めた。」(『シェイクスピアの生涯』から引用)
- 著者
- 結城 雅秀
- 出版日
極力主観を排除した形でシェイクスピアの一生が描かれています。事実ベースで学べる入門書的な一冊です。また、劇作家としての一面だけではない素顔や、最も新しい発見などについても記載されています。
写真もたくさん載っているので、現在のロンドンをより身近に感じながら、当時の風景に思いをはせることがでるでしょう。
「『ロミオとジュリエット』は始まる前に終る」(『シェイクスピアのたくらみ』から引用)
作品を一つずつ取り上げながら、そこにちりばめられている作家のたくらみを解説していきます。
- 著者
- 喜志 哲雄
- 出版日
- 2008-02-20
シェイクスピアの作品には観客をひきこむための、たくさんの仕掛けがされています。たとえば『ロミオとジュリエット』では、観客は冒頭、まだ何も始まっていない段階で、恋に落ちた二人の若者が死を迎えるという結末を知らされるのです。そこに隠された思惑とは……?
「シェイクスピア劇はおもしろい!でも、なんでおもしろいの?」という疑問に答えてくれる一冊です。
謎が多すぎて、実在しない説や複数いる説すらささやかれるシェイクスピアですが、彼は存在し、自由にしたたかに生きました。ぜひ本を通して彼の生き方に触れてみてください。