2018年実写映画化!普段は地味で控えめなのに、あのコを思うと大胆不適、そんな男子高校生・鈴木頼が大好きな幼馴染み・雫のために、幼い頃にした約束の舞台を目指す物語、『あのコの、トリコ。』の魅力をネタバレ込みで全巻紹介します!
2014年から連載し、2018年に『Sho-Comi』の50周年企画の一環として実写映画化が決定、また、物語の続編を描いた第5巻が発売されています。
「アイドル」と「俳優」と「メガネ男子」が織りなす三角関係を描いた作品です。
- 著者
- 白石 ユキ
- 出版日
- 2017-07-26
この作品を魅力的にしているのは、何と行っても鈴木頼(すずきより)というキャラクターでしょう。
内気な内面と、普段の地味な姿からは考えられない大胆な行動、後に発揮される天才的な演技力。男目線の作品も多く描く白石ユキの代表作と言えるように、物語が進むにつれて成長し、どんどん魅力が増していく頼の様子を追えば追うほど、この作品のトリコになっていきます。
1巻で特筆すべきは、主人公・頼の魅力が凝縮されていることです。最初の地味な登場シーンから、途中で大胆かつクールな姿を見せた後、魅力の詰まった満面の笑みを浮かべる。そんな鈴木頼の振り幅を表す一連の流れに、読者は一気に引き込まれます。
幼い頃「スターになる」と約束した頼と、東條昴(とうじょうすばる)、立花雫(たちばなしずく)の三人。物語はその約束から10年後、二人と離れていた頼が二人と同じ高校に転校してくるところから始まります。
すでに芸能界入りを果たして有名にもなっていた昴と雫。一人だけ約束を守れなかった自分に後ろめたさを感じていた頼は、二人には会いたくないと思っていました。しかし、学校の廊下でさっそく雫と再会してしまいます。
一目で頼に気づいた雫に対し、冷たい態度で距離を置こうとする頼ですが、「約束を破ったバツ」として、1日雫のマネージャーを担わされます。しぶしぶそれを引き受けた頼でしたが、撮影を前に不安を抱く雫に励ましの言葉をかけるなど、本当は変わらない優しさを持っていて、今でも雫のことを大切に思っていました。
そして雫のためならば、勝手や理不尽なことを言う雫の共演相手に抗議したり、最終的にいなくなった共演役の代役を買って出て、その役を見事に演じきったりと、あっという間にその魅力を露わにしていきます。
特に「雫の笑顔のためなら、何だってやるんだ」と覚悟を決めた頼の姿は、読者を釘付けにするでしょう。そして雫から、「昔よりずっとかっこよくなったよ」と笑顔で伝えられた時の、恥ずかしそうな満面の笑顔。演技のクールさと、素直な笑顔のギャップに、頼の魅力が詰まっていると言っても過言ではありません。
- 著者
- 白石 ユキ
- 出版日
- 2014-01-24
2話以降は、幼馴染み三人のかけ合いが始まります。頼も昴も、雫に恋をするライバル同士なのですが、それ以上に三人がお互いのことを思い、助け合う姿は、読者に安心感を与えてくれるでしょう。
特に昴はライバルでありながらも、頼の演技力の高さを子どもの頃から知っていて、頼を舞台に戻そうとしています。その一見チャラく見える姿に隠された気遣いと優しさを持った、頼とはまた違う魅力のキャラクターです。
もちろん、物語が進むにつれて、頼の新たな魅力も見ることができます。1巻の最後には頼は完全に雫への気持ちを自覚し、さらに舞台では絶対的な演技力を見せて観客を魅了するのです。その上で普段は相変わらずピュアで、雫にドキドキしっぱなしなものだから、そのギャップにキュンキュンする読者は少なくないでしょう。
1巻は、昴が頼に「雫は譲らない」と囁くように宣言し、頼、雫、昴の三角関係を改めて読者に感じさせながら終わります。
新たな登場人物・女優の山田華(やまだはな)。彼女は出会っていきなり頼にキスをするなど、興味本意で頼に接触するのですが、撮影で会うたびに頼への気持ちが膨らみ、いつしか本気で頼に惹かれていきます。それでも頼が目で追うのは雫だけです。頼の行動一つ一つが、頼から雫への愛情の深さと、安定感を感じさせてくれるでしょう。
そして、1巻では頼と雫のことを思って行動していた昴ですが、2巻では頼に負けじと雫にアプローチをかけていきます。しかし昴は、雫が頼に惹かれていることも薄々分かっている様子です。最終的に自分の気持ちよりも好きな子の幸せを願い、自ら身を引いていくのですが、その姿は爽やかで、一切の未練を感じさせません。きっぱりとした昴の態度に、男らしさを感じられることでしょう。
- 著者
- 白石 ユキ
- 出版日
- 2014-04-25
2巻最後、昴と雫の結婚式シーンの撮影中に頼が飛び出して行き、雫の手を取って連れ去ります。連れ出した先で頼に想いを告白され、絞り出すように「私も好きだ、コノヤロー」と言う雫の幸せそうな姿。
実は、雫への告白は昴が先行していて、巻末のおまけで昴が雫から告白の返答をもらう前の様子を見ることができます。その時の様子と、本編で結ばれる二人の姿を優しく見守る様子からは、普段のチャラさからは考えられない昴の気遣いと優しさ、自分の思いが届かないとわかっている表情に切なさを感じずにはいられません。
結ばれた頼と雫を描くこの巻は、とにかく甘い雰囲気で溢れています。せっかく恋人同士になれた二人なのに、中々一緒にいられず……もどかしい描写に思わず読者の方が照れてしまうかもしれません。
しかし、二人の関係を知っている事務所にはスキャンダル厳禁と釘を指されます。その上、共演した映画のヒットから二人ともますます有名になり、学校でも周りが放っておいてくれません。やっと二人きりになれた!と思っても仕事の電話がかかってくるなど大忙しです。それでも一緒にいる時はお互いドキドキしていて、初々しいカップルの様子が伝わります。
物語は変わらず頼の目線で語られるので、周りから見たら実力演技派俳優であるはずの頼が、普通の高校生のように修学旅行に期待したり、自宅に来た雫にドキドキしたりしている姿からは、相変わらずのクールさとピュアさのギャップを感じます。頼が雫を押し倒すシーンもありますが、基本的に描写が爽やかな上、二人の照れも伝わり、読者はニヤニヤせずにはいられないでしょう。
- 著者
- 白石 ユキ
- 出版日
- 2014-07-25
昴の気遣いも相変わらずです。雫のことで頭が一杯で、腑抜けた演技をする頼に渇を入れるシーンなどもあり、頼と雫が付き合っても、三人の関係が変わっていないことを印象づけてくれます。
また、新しい登場人物として雫の憧れの人という霧嶋怜(きりしまれい)という人気俳優が現れます。昔からの知り合いのため仲のよい雫と怜。そんな二人の姿にやきもちを焼いてしまった頼は、雫に冷たく当たってしまいます。
もしかしてまた新しい三角関係になってしまうのかな?と思うかもしれませんが、その後に開かれた怜の主催のショーに変装して乱入し、ショーに出場していた雫に誕生日プレゼントとして指輪を渡したり、隠れてキスしたりと、全く他の介入を感じさせません。
頼の雫への愛情と、二人の関係がさらに深まったことを感じさせてくれる巻です。
頼の魅力と演技力が増していき、更に目が離せない4巻。物語はクライマックスに向けて加速していきます。
頼と怜が、主演ドラマの視聴率を競うことになるのですが、頼たちが主演を務めるのは深夜ドラマ、それに対して怜が主演を務めるのは月9ドラマと、土台の時点で勝負にならない状況。しかし頼は持ち前の演技力と、この作品にかける本気の気持ちで視聴率をぶち上げます。
その頼のクールさと、初めて見せる泥くさい姿は魅力たっぷりなのですが、ドラマ成功の後、雫とついに一つになる、という時のテンパりようとのギャップがまたたまりません。
- 著者
- 白石 ユキ
- 出版日
- 2014-12-26
その後、高い演技力に目をつけられ、海外から頼にオファーが来ます。最初は雫との時間を大事にすると言って断ろうとしていましたが、雫に発破をかけられます。それに後押しされた頼は「夢が叶ったら結婚しよう」と想いを告げ、海外に羽ばたいていくのでした。
日本とは違う、言葉の伝わらない環境の中でも、今までの経験と出会った人、それに最愛の人を思い描き、それを演技に乗せる頼の姿が、周りを魅了しました。頼の海外での挑戦が、成功を収めたことが読み取れます。
数年後、タキシード姿の頼と、花嫁姿の雫、変わらないお互いの魅力に加え、二人が夫婦として結ばれた幸福溢れる姿を描き、連載は一旦区切りを迎えます。全体を通してテンポもよく、頼の魅力と雫への愛情の深さから、安心感を持って読むことができるでしょう。
4巻までの物語の3年後を描いた5巻です。頼と雫のその後や、高校時代の創立祭で頼がシンデレラを演じた話に加え、『Sho-comi』の増刊に載った白石ユキの読みきり2話が収められています。
1話目は、雫目線の物語です。今までは頼目線での心情が多かったので、雫目線のお話が非常に新鮮な上、久しぶりに会う頼の魅力に赤面する雫の内面の心情が多く描かれて、また違う角度で楽しめます。
仕事中はクールさや色気のある姿を見せて、男性としても役者としても成長したことを感じさせる頼ですが、プライベートに戻ったとたん、「一緒の時間が作れなくって寂しかった」としゅんとした顔も見せるので、その変わらないギャップがたまりません。その姿に雫はドキドキして、思わず自分からキスをするのですが、その時の雫と読者の心情は一緒でしょう。「その振り幅反則!」
- 著者
- 白石 ユキ
- 出版日
- 2017-07-26
この巻では二人が夫婦になった後の姿も見ることが出来ますが、相変わらず明るく頑張り屋な雫に、そんな雫にいつまでも優しくあり、理解する頼。夫婦になってもお互いにドキドキしてる様子も見せて、本当に幸せそうです。二人の間に子どももできていて、仲の良い三人家族の様子にほっこりするでしょう。
また、頼がシンデレラを演じる高校生の頃の話も必見です。「小鳥さんが歌をうたっているわ」と言う頼の登場シーンから、今までとは別の世界観を感じることでしょう。雫の部屋でドキドキしながら演技の練習をしつつも、全く集中出来ず途中まではただいちゃいちゃしているだけなのですが、最終的には雫の様子を参考に演技を完成させます。そのあまりの頼の可愛さは、王子役の昴が思わずキスをしてしまうほどです。
5巻に収録された他2話は、本編とは別の話ですが、こちらも白石ユキらしい魅力的な男の子が描かれた作品となっています。
連載から間を置いて、実写映画・続編が決まったように、長く愛される『あのコの、トリコ。』 いかがだったでしょう?頼の目線で描かれる心情や表情、雫との様子を見たら、思わず胸がキュンとなるはずです。ぜひ一度作品を手に取ってみてください。