ジョナサン・スウィフトの名言で読むおすすめ本3選!『ガリバー旅行記』など

更新:2021.11.8

子供の頃に『ガリバー旅行記』を読んだ方も多いのではないでしょうか。その作者、ジョナサン・スウィフトは、実は人間嫌いの諷刺作家として有名な人物です。愚かな人間たちを完膚なきまで批判するその作品は、時を経て読んでも過激で辛辣。そんな彼のおすすめ本を、ブラックな名言とともにご紹介します。

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暗い人生を、言葉の力で戦い抜いたジョナサン・スウィフト

ジョナサン・スウィフトは1667年に、アイルランドのダブリンに生まれました。両親ともにイングランドの名士の家系でしたが家族愛には恵まれず、父は病死、母は姉を連れて家を出てしまいます。

その後叔父のもとで育てられた彼は、大学を卒業すると名誉革命後の混乱が続くダブリンを離れ、イングランドに渡ります。そこで出会ったのが、大物政治家の准男爵ウィリアム・テンプルでした。スウィフトは彼の秘書として働きながら、政界について学び、蔵書を読み漁り、文筆の才を磨き、後の活動の礎を築いていくのです。

1699年にテンプルが死去すると、ダブリンに戻ったスウィフトは聖職者の職を得るとともに、ロンドンで政治パンフレットを発表。以降、聖職者として、文人として、精力的な活動を展開していくことになります。

生涯独身を貫き、晩年は若い頃から悩まされていためまいの発作で廃人同然だったといいます。そんな私生活を送りながらも、宗教的・政治的混乱が続く世界を、言葉の力で戦い抜いたスウィフト。彼の作品のもつパワーは、時を経ても衰えていません。

ジョナサン・スウィフトの人間嫌いが爆発した『ガリバー旅行記』

幼いころ、ガリバーの不思議な冒険に胸躍らせたことがある方も多いのではないでしょうか。しかしそのほとんどは、子供向けに編集されたものなのです。

1726年、スウィフトが59歳のときに出版された原作は、およそ子供にはふさわしくない、彼の人間嫌いの性格が爆発した、悪意に満ち満ちた作品なのでした。

著者
ジョナサン・スウィフト
出版日
2011-03-25

身長15センチ以下の小人たちの国、リリパット国の皇帝とガリバーの対話を通して、人間が自分たちでは決して直視しない生来の愚かさを、炙りだすように描いています。

「人間の男女の結びつきも動物と何らかわるところのない、肉欲につき動かされた結果にすぎない(中略)悲嘆に満ちた人間の一生を思えば、この世に生まれてくることには何のありがたみもないし、両親のほうとしても、そのときは色恋にうつつを抜かしていただけなのだ。」(『ガリバー旅行記』より引用)

そして、両親の性欲のせいで生まれた子供たちをほったらかして貧しい家庭を増やす人間の国家とは違い、リリパットの国では、国家が身分に応じて子供の教育や職業訓練をしていることが語られます。

政治や社会制度だけではありません。スウィフトの人間に対する悪意は、その外見にも及びます。巨人の国ブロブディンナグで農場主に捕えられ、彼よりも体の大きな赤ん坊におもちゃのような扱いをうけるガリバーは、授乳の場面に立ち会います。

「正直なところ、このとき見せられた巨大な乳房ほどぞっとするものは、ほかになにも思いつかない。(中略)乳首も乳房全体も、湿疹やらにきびやらそばかすやらが入り交じって、いまにも吐き気をもよおしそうな色合いだ。」(『ガリバー旅行記』より引用)

このような調子で、全編にわたって人間の存在の矮小や蒙昧さが描かれた『ガリバー旅行記』。そのクライマックスは、フウイヌム国で馬に支配される、人間そっくりのヤフーとの出会いでしょう。

「心身ともに病んで腐った、いかにも醜悪な図体のくせに、いっぱしの人物を気取って傲慢にかまえているやつを見ると、たちまち怒りが沸点に達してしまう。」(『ガリバー旅行記』より引用)

子供の頃に読んだ方も、「大人のための暗黒おとぎ話」としてぜひ再読してみてください。

諷刺精神が堪能できる一冊

当時のアイルランドで嵐のように吹き荒れていた宗教界の論争を描いた「桶物語」と、近代と古代の学問の優劣論争を題材にした「書物戦争」を収めた、若きスウィフトの溌剌たる諷刺精神が堪能できる一冊です。

「自分は諷刺なんて出来ないし、それどころか万事において現状に満足している」と、「桶物語」の緒言(しょげん)で惚けてみせるスウィフト。しかし本編がはじまると、豹変したように、愚かな人間たちを叩きのめすような不気味な嘲笑を響きわたらせるのです。

著者
ジョナサン スウィフト
出版日
1968-01-16

当時の宗教界の寓話として描かれた、ピータァ、マァチン、ジャックの3人兄弟を主人公とする「桶物語」では、カトリックプロテスタントの教えが愚弄されます。

幕間のように挿入された「批評について」の章では、作品の欠陥や誤謬をかき集めることに汲々とする批評家たちが、「作家の欠点の発見者収集家」と一蹴されます。

とりわけ痛烈なのが、帝国や哲学や宗教を生んだのはすべて「狂気」であるとし、一般に偉大な人物と崇められている大王、哲学者、宗教家らを、すべて正常な悟性と常識を失った「狂人」と断言する、「狂気の起源と効用について」の章です。この章には、人口に膾炙したスウィフトの有名な言葉もあります。

「幸福とはうまく欺されている状態の不断の所有である」(『桶物語・書物戦争』より引用)

人間の浅はかさを逆説的に表現した、稀代の諷刺家スウィフトならではの言葉ではないでしょうか。

ジョナサン・スウィフトが考えた驚くべき貧困解決法とは?

サブタイトルに「スウィフト諷刺論集」と銘打たれた本書には、彼の政治パンフレットの中で最も痛烈な作品、「慎ましき提案」が収められています。

当時のアイルランドは、イングランドの抑圧的な政策によって、深刻な貧困に陥っていました。大多数の農民や小作人、肉体労働者たちが、金も仕事もなく乞食同然の暮らしを送り、彼らの妻や子供たちもボロボロの服を着て路地や通りで物乞いをしていたのです。

そんな状況を見かねたスウィフトは、国に対してある解決策を提案したのですが……。

著者
ジョナサン スウィフト
出版日
2015-01-09

それは、「貧しい家庭の子供たちは、1歳になったら地主ら資産家階級に『食用』として提供すべし」という、およそ「慎ましさ」とは正反対の、大胆で陰惨きわまりない解決法だったのです。

「12万人の子供たちのうち、2万人は子孫のために残す。(中略)そして残る10万人については、1歳になったならば、王国を通じて、身分も財産もある人々に売られていくということにする。母親たちには、特に最後のひと月はたっぷりと乳を飲ませ、丸々と太らせて食卓に提供できるよう常に留意させる。」(『召使心得 他四篇』より引用)

「大事に育てられた一歳になる健康な幼児は、たいへんおいしく、滋養にも優れ、実に結構な健康食品であり、シチューにしても炙っても焼いても煮てもよいそうである。」(『召使心得 他四篇』より引用)

スウィフトによると、1年間にかかる子供ひとりの養育費が2シリング、よく肥えた幼児ならひとり10シリングで売れるため、貧しい家庭でも子供を産み続ければ毎年8シリングの収入が入り、なおかつ国全体にお金が流通し、国家の財政も増えるという算段でした。

最後には、貧しい人間たちを救い、なおかつ国益にも貢献する方法はこれ以外にない、文句ある奴はいないだろうと啖呵まで切る始末。あまりにもお粗末な自国の政治に対して奮った、諷刺家スウィフト一世一代の強烈な一撃です。その舌鋒の鋭さを、ぜひご覧ください。

いわゆる人生訓や座右の銘になるような前向きな名言はありませんが、人間の虚飾をはぎとり、真実をえぐり出すスウィフトの言葉の力強さを感じてみてください。

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