多数の大ヒット小説を手掛けた作家、五木寛之。小説家としてはもちろん、エッセイストとしても魅力的な作品をたっぷり世の中に送り出しています。また作詞家としての活動も豊富で、多方面に実力を発揮しています。そんな五木寛之の作品をご紹介しましょう。
数々の有名な作品を手掛ける五木寛之は1932年生まれ。早稲田大学を中退した後、創芸プロ社でラジオのニュース番組を作っていました。その後業界紙の編集長を務めるなど、いくつかの仕事を経て、知人の紹介でCMソングの作詞を担当します。何度も受賞をするなど、大きな成功を収めました。
その後五木は、テレビやラジオの構成作家として活動します。クラウンレコードの創立時には、専属の作詞家として所属をし、数々の童謡や教育ソングを手がけました。
小説家デビューを飾ったのは、1966年発表の『さらばモスクワ愚連隊』です。同作は小説現代新人賞であると同時に、直木賞の候補作にもなりました。一時は休筆したものの『風の王国』で復活を果たし、『雨の日には車をみがいて』や『親鸞』などの大ヒット作を生み出し続けました。
さらにエッセイストとしても活躍し、『風に吹かれて』や『大河の一滴』などで多数の注目を集めます。そんな彼の作品のなかから、特にチェックしておきたい10冊を厳選して紹介していきましょう。
実在した僧侶、親鸞をモデルに、その生涯をより魅力的に描いた五木寛之の大ヒット小説です。幼少期の親鸞が、思いがけないでき事から世俗の底辺とも呼べる人々と出会うところで物語が始まります。
やがて登場する極悪非道の黒面法師や、呪術を操る謎の陰陽師なども登場し、手に汗握る展開へと突入していきます。 本作は親鸞の伝記ではなく、あくまでモデルとして取り扱ったフィクション作品のため、歴史的な事実に様々なテイストが加わり、より魅力的な盛りあがりになっていると言えるでしょう。
仏教とサスペンスが融合した、新しい世界観を堪能することができます。
- 著者
- 五木 寛之
- 出版日
- 2011-10-14
本作は、毎日出版文化賞特別賞を受賞しています。五木は、これまで2度の長期休筆期間を取っていますが、この期間に浄土真宗に興味を持っており、蓮如をはじめとして親鸞や関連文化への知識を深めました。本作にはそれが大きく反映されています。
親鸞の人生を丁寧に追っているため、歴史的な勉強をするのにも、非常に適している一冊です。比叡山での修行や、六角堂での百日参籠など、浄土真宗をはじめとした仏教文化に興味がある人には、ワクワクする描写が目白押しです。
かつて実在していた山岳の流浪民、サンカの伝説をモチーフにした伝記小説です。仁徳天皇陵である二上山を舞台に、歩くことで修業を積む異形の遍路たちの物語となっています。
主人公の速水卓は、台風で両親と妹を亡くしてしまいました。悲しみに暮れる卓の前に、突如姿を現した謎の集団。彼らは味方なのでしょうか、それとも敵なのでしょうか?
歴史の闇に葬られた一族を詳細に描写しながら、日本史の暗部にスポットライトを当て、次々に引き起こされる謎に迫っていくストーリーです。
- 著者
- 五木 寛之
- 出版日
- 1987-04-28
日本の民族史に詳しければ興味を持つ人も多い、サンカの一族の生き様を描いた作品です。山の中で出会う、短い法被をまとった特異な人々との出会いのシーンは、非常に鮮烈で胸に迫るものがあるでしょう。緑深い山中を跳ぶように走り回る民族の、ロマンに触れることが出来る一作です。
卓は古代から連綿と繋がれてきた一族と出会い、そのことで自分の出自を知るきっかけを掴みます。定住することなく生きていく人々との日々の中で得られる、成長や変化を感じられるヒューマンストーリーでもあります。
表題作は、精神宇宙のサスペンスドラマとして、かつてない存在感を放った一作です。新聞社の外信記者の主人公が、退社してソ連に行き、未発表の小説を極秘に入手してほしいと依頼されることから展開される壮大なストーリーとなっています。
ひとつの作品を巡り、様々な思惑が渦巻くのがポイント。 このほか「赤い広場の女」「バルカンの星の下に」「弔のバラード」「天使の墓場」の4作が収録されており、そのどれもが、短編ながら非常に深い世界観を内包した仕上がりです。
- 著者
- 五木 寛之
- 出版日
- 2006-12-01
本作は、直木賞を受賞した五木寛之の代表作のひとつです。書き手の政治的な意識や、社会的な意見が色濃く反映されていて、収録されたどの作品も、独自の世界観と主張をはらんだ衝撃的な作品となっています。
静かな東西戦争や、対戦後20年を経てもまだ戦争の苦しみを引きずっている人々、スパイや反社会主義者など、政治的な話題が非常に多く登場します。激動の時代だからこそ、自らの信念を持って、懸命に生き抜く人々の人間ドラマを味わうことができるでしょう。
主人公のジュンは、ジャズ・ミュージシャンを目指す20歳の少年。高校を卒業したあと、進学を諦めて新宿のジャズ喫茶でトランペット演奏のバイトをし、お金を貯めてヨーロッパにやって来ました。ジャズと女と酒、そして自分探しの旅に進んでいく青春長編小説です。
有名なサックス奏者と出会いや、初体験の相手となる麻紀との関係、不思議な日本人ケンとの友情など、ジュンを取り巻く様々な人々やでき事が、彼を変えていきます。彼の旅路の果てには、一体何が待ち受けているのでしょうか?
- 著者
- 五木 寛之
- 出版日
- 2008-05-09
本作は全8章から構成されており、新宿でアルバイトをしながら貯金をするところからスタートして、ヨーロッパのあちこちを旅していく様子を追ったロード小説でもあります。モスクワ、パリ、マドリッドなど、1960年代の景色が鮮やかに感じられる景色の中、青々しい20歳のジュンが、がむしゃらに走り回っていきます。
若者の成長と冒険を、丹念かつ洗練されたスタイルで描き切った本作は、発売当初から多くの読者の共感を呼びました。当時彼と同じ年代だった若者はもちろん、かつて同様の青春時代を過ごした層からも、高い支持を得たのです。あなたもきっと、物語の世界にどっぷりつかることができます。
本作は、全9作の短編を収録した作品集です。1作目である「たそがれ色のシムカ」の主人公は、放送作家の卵の青年。物語の舞台はビートルズが東京にやって来た昭和の時代で、彼は1台のおんぼろ車シムカ1000を手に入れた一方で、ひとりの女友達を失ってしまうのでした。
タイトルにもある通り、本作に収録された短編はどれも車が登場しています。アルファ・ロメオやボルボ122S、BMW2000CSやポルシェ911Sなど、車にちなんだラブストーリーが展開されていきます。恋愛小説好きはもちろん、車好きも楽しめる魅力的な作品集だといえるでしょう。
- 著者
- 五木 寛之
- 出版日
- 1998-05-20
本作は短編集ですが、収録されたどの作品も昭和40年代から50年代を舞台にして描かれています。この時期に多感な青春時代を過ごした人にとっては、まさに自らを作中に感じながら読み進めることができる一冊かもしれません。
オイルショックやスーパーカーブームなど、様々な車関連のムーブメントが巻き起こっていた時代を背景にして、恋物語が進んでいきます。都会的でスタイリッシュ、おしゃれでどこか切ない雰囲気を味わえます。
全4章から構成された、五木寛之のロマン長編です。主人公は染乃という女性で、わずか5歳のときに金沢の花街に売られ、芸妓として生きてきました。やがて日露戦争が間近となったころ、捕虜として収容されていたロシア士官のイワーノフ少尉と、運命的な恋に落ちます。1度は結婚をしますが、彼が母国に戻っている間に売られてしまい、2人は離れ離れになってしまいました。
金沢や東京、ウラジオストクやペトログラードなど、次々に舞台を変えながら、悲劇的な別れをくり返す2人。戦争や革命が頻発した当時の日本とロシアの狭間で、彼らの愛の行く末は、一体どうなってしまうのでしょうか?
- 著者
- 五木 寛之
- 出版日
- 2010-08-25
本作は連載当時から世間で大きく話題になっており、テレビドラマ化や演劇化など、メディアミックスも行われた一作です。五木の知名度にも、大きく貢献した作品だといえます。
時代背景ゆえの厳しい蔑視に堪え、お互いへの愛を貫こうとする染乃とイワーノフですが、過酷な運命は、彼らの縁をどんどん引き離してしまうのです。2人の愛を結び付けるため、染乃の幼馴染や、手助けをしてくれる優しい中国人など、魅力的な登場人物もたくさん登場します。サスペンスとしてもラブストーリーとしても楽しめる、深みのある一冊です。
日露戦争が終わったあと、ロシア将軍のステッセルから日本の乃木将軍に贈られた、1台のピアノ。このピアノが抱える謎を追って、パリから大連、旅順、金沢、旭川、浜松などを駆け巡っていくストーリーとなっています。
ステッセルと乃木将軍は、当時は勝者と敗者という関係でありながら、それを超えた特別な関係で結ばれていたのでしょうか?ソ連時代のロシアを深く知る五木寛之が、リアリティに富んだ描写力で、数奇なヒューマンドラマを書き上げています。
- 著者
- 五木 寛之
- 出版日
- 1996-10-10
本作は、実際に存在していたロシア将軍、アナートリイ・ステッセリのピアノの冒険を五木がアレンジし、小説として発表したものです。彼のデビュー以来、初めての書下ろし作品でした。
実際のステッセルのピアノは、1991年から丸2年をかけ、旧金沢学院大学に保存されていたものを復元したという背景があります。美しく生まれ変わったピアノがたどってきた数奇な運命は、作中でも細やかに綴られています。
そして、ピアノはもちろんのこと、見どころはやはりそれを取り巻く数々の登場人物の生き様でしょう。魅力的な楽器を通し、多くの人々の想いを感じ取れる作品に仕上がっています。
「私はこれまでに二度、自殺を考えたことがある。最初は中学二年のときで、二度目は作家としてはたらきはじめたあとのことだった」(『大河の一滴』から引用)
という書き出しの作品です。自殺をはじめとして、人生に降りかかる絶望や、辛いでき事について多く取り上げられているのですが、マイナス思考も時に必要なのだということを優しく説いています。
無理に上を向くのではなく、これから先の危機を避けるためにも、暗い考えそのものを丸ごと否定することはなくエッセイは進行します。仏教の教えをベースに展開されているものの、宗教意識を抜きにしても堪能することができるでしょう。
- 著者
- 五木 寛之
- 出版日
- 1999-03-01
1998年の発行以来、ロングセラーで愛されている五木の代表的なエッセイ集です。2001年には映画化も果たし、著名人のファンもいる魅力的な一冊だといえます。
本作では、人生とはそもそもが苦しみと絶望が続いて訪れるものであり、人間は大きな流れのなかの、大河の一滴でしかないということが描かれていて、一見非情にも思える筆致かもしれませんが、下を向いているとき、勇気づけられるような力強い言葉たちが散りばめられています。
日常に疲れ、生きている意味を見失ってしまったとき、ぜひ手にとってみてください。
本作は全7章から構成されており、タイトルの通り、覚悟を決めるための様々なセンテンスが綴られた作品となっています。長く続くであろうこの厳しい時代において、国家や絆に頼らず、自らの人生に向き合うために、人がどうするべきなのかが丁寧に説明されています。
冒頭は命の実感が薄らいでいる現代について語った「第一章 時代を見すえる」からスタート。生まれながらに抱えた苦痛や日本人に必要な心性などを説き、「最終章 人間の覚悟」では、生きていることの価値について書かれています。
- 著者
- 五木 寛之
- 出版日
- 2008-11-01
人生や老い、国家との関係について、宗教や政治に偏らずフラットな視点から見つめて説明している一冊です。五木の人生についてもかいつまんで語られており、その波瀾万丈な人生から学んだ、生きたメッセージを受け取ることができます。
日々の生活に寄り添っている様々なものとの付き合い方が分かり、生きるための指針となってくれる一冊です。彼の作品を手にとったことがある人はもちろん、最初の一冊にするのにもぴったりの、読み応えのある仕上がりとなっています。
混迷を極めた現代において、どこに向かって生きていけば良いのか分からなくなっている人におすすめの作品です。タイトルにもなっている「他力」にエネルギーを得た五木が、生きにくい時代を突き進むための100のヒントを紹介しています。
「他力」とは、いわゆる他者に頼り切って甘えてしまうことではなく、真の自力の確信のことです。それは、どんなに自分自身の実力による結果だと考えていても、その背後には、誰か他人の影響が絶対にあるからで、それを自覚し、矛盾しながらでも生きていくためのハウツーが提示されています。
- 著者
- 五木 寛之
- 出版日
- 2000-11-06
彼の人生にとって、法然や親鸞、蓮如は、なくてはならない非常に重要な人物でした。小説やエッセイなど様々な作品に、その影響が深く反映されています。本作も例外ではなく、浄土真宗の教えをもとに、資本主義や合理主義、科学主義に警鐘を鳴らしているのです。
五木の代表作である『大河の一滴』にもみられるように、ネガティブな気持ちを決して否定することなく、あくまで自然体で、時に脱力したり迷っていたりしても、やがて前進するチャンスが訪れるということを教えてくれます。
刊行時から累計600万部を誇る大人気エッセイです。のちにシリーズ化し、1〜5巻まで発売しています。2016年には文庫『新版 生きるヒント1 自分を発見するための12のレッスン』が発売。世代を越えて今もなお読み継がれています。
『生きるヒント』は1章〜12章の構成です。シンプルで分かりやすい言葉で綴る本作ですが、何気ない日常生活の気付きを深く掘り下げています。五木寛之の想いが詰まった心に残るエッセイです。
- 著者
- 五木 寛之
- 出版日
ポジティブな気持ちを、無理矢理すすめるわけでもない。かといって、そのポジティブな気持ちを批判する訳でもない。この本はだた優しく「あるがままを見つめているだけ」なのかも知れません。
12章ごとにどこから読んでも楽しめる『生きるヒント』は、普段読書をしない人にも楽しめます。励まされているわけでもないのに、読み終わると心がスッとします。
五木寛之は『生きるヒント』の執筆以前から、鬱に悩まされていたと綴っています。『生きるヒント』では自分自身をしっかりと見つめることについて、重きを置いていました。『人間の関係』は『生きるヒント』のその先を描いています。
五木寛之が体験した戦争との関係。弟や家族との関係。格差社会との人間の関係。それらの関係は五木を生かせるための動機であり、理由であったのかもしれません。「人間」を考えるよりも「人間の関係」に注目することの大切さを、本作では促しています。
- 著者
- 五木 寛之
- 出版日
- 2009-04-05
「彼は言います。人に大きな恩をあたえることは、じつに危険なことである、と。それは、恩返しをしないで恩知らずと言われることを恐れるあまり、恩を受けた人は恩人がこの世にいなくなることを望むようになるからだ」(『人間の関係』から引用)
五木寛之は自分をかなりのひねくれ者だと述べています。言い換えれば、物事を裏側から見ようとすることに長けた作家と言えるでしょう。
あの時ああすればよかったという後悔や、私はダメだと思う気持ちは、1人であれば生まれないものなのかもしれません。憧れる対象の物や人との関係が悩みを作り、時には優越感に浸る動機にもなります。それは確かに、”人間”ではなく”人間の関係”にあるといえそうです。
「自分の顔に眉があり、鼻があり、口があるように、人には不安というものがある。不安を排除しようと思えば思うほど、不安は大きくなってくるはずです。」(『不安の力』から引用)
不景気や失業、政治の不信感は人々を不安にさせます。現在では不安になったり、悩みを抱えると「こころの病気」とされ、心療内科に通う人も珍しくありません。
不安を悪だとして取り除くことがあっていいのか、という五木寛之の主張は妙に納得してしまいます。不安を身近な友達として生きてゆく知恵がいっぱいの本作です。
- 著者
- 五木 寛之
- 出版日
- 2005-07-15
「今夜どこに寝るか、はたして夕飯にありつけるのか。そうした目の前の困難と闘って生きている限り、不安は問題ではありません。」(『不安の力』から引用)
戦後の引き揚げで、食べるものに苦労した五木寛之ならではの言葉でしょう。戦中戦後を生きた人々にとって、不安というのは贅沢病なのかもしれません。ですが、五木寛之は戦争のない現在を”こころの戦争”だと表現します。
見える戦争と違い、こころの戦争は軽視されがちです。実際に戦争で死ぬ人々を嘆くことはできても、自殺で死ぬ人々に対してはどこか冷たい反応です。人身事故で亡くなる人に、批判の眼差しを向ける日本の社会でいいのか。と考えさせられてしまいます。
『不安の力』は人の暗い部分に目を向けます。読み進めるうちに、不安こそが「生きるエネルギーの源」なのだということに気付かされてゆくのです。
五木寛之は直木賞を受賞した同時期に本作を執筆しています。刊行から2017年現在にかけて約400万部に達し、空前のベストセラーとなりました。
五木寛之にとって初のエッセイとなる本作。『生きるヒント』『人間の関係』『不安の力』のような、生き方のハウツー本ではありません。『風に吹かれて』はエッセイらしく自分の想いを綴る書き方が特徴です。
ミニスカートを初めて見た時の記憶や、血を売りにいく描写からは、若かりし頃の五木寛之の姿が垣間見えます。戦中や戦後の東京などの思い出もユーモアを交えて詳しく書かれています。
- 著者
- 五木 寛之
- 出版日
「私はやはり基地を失ったジェット機でありたいと思う。港を待たぬヨット、故郷を失った根なし草でありたいと感じる」(『風に吹かれて』から引用)
五木寛之は、朝鮮半島からの引き揚者という生い立ちがあります。五木にとって内地は祖国ではなく、かといって植民地が祖国と言える状況ではありませんでした。
歴史の混乱の中で失った故郷を想う言葉からは、植民地こそ故郷だと訴える強さを感じます。また、戻ってこない悲しみを乗り越えようとする言葉でもあります。
戦争はしてはいけない……。そのように、戦後はずっと戦争の悲しみや苦しみについて語られていた時代です。戦争よりはマシだ、という言葉にも聞こえ、若者にとって戦争は遠い記憶のように映ってしまうのも事実です。作中、五木寛之は戦後という時代を詳しく、そして冷静に書き綴っています。
「人生に目的はあるのか。私は、ないと思う。何十年も考え続けてきた末に、そう思うようになった。」(『人生の目的』から引用)
1999年に書かれた本作。五木寛之が執筆したものの中では比較的新しい作品です。
作中、仏教について語るシーンも多いことから『親鸞』の前哨戦ともいえる作品です。五木寛之自身が悩み苦しみながら書いているような暗さが『人生の目的』にはあります。
- 著者
- 五木 寛之
- 出版日
人生に目的がなくなったとき、もちろん人は不安になります。けれどもそれ以上に哀しいことは、「人生に目的がなくなった」時ではなく、そもそも「人生に目的などない」と分かった時なのかもしれません。
五木寛之が仏教について語ることを、ある人は「つまらなくなった」と思うかもしれません。ですが、五木はそもそも人生に目的がないと知り、それでもあると信じ続けていたのではないでしょうか。「この世に人生の目的はないのだ」と訴える五木にとって、仏教の教えを信じることが”人生の目的”になりえたとしても不思議ではありません。
自分を信じ、努力すれば道が開けるという人々の言葉を、五木はこう批判します。
「努力をした、のではない。努力できたのだ。自分を信じた、のではない。自分を信じられただけなのだ。」(『人生の目的』から引用)
成功のレールを踏み外した人達が、世の中にはどれほどいるのでしょうか。そしてその中から自殺した人はどれくらいいるのでしょうか。大学受験や就職活動、4年後には恋人と結婚する……。小さな人生の目的が大きな人生の目的になってしまう現代。その時代に生きる私達が読むべき作品なのです。
いかがでしたか?五木寛之の作品は、小説もエッセイも、どれも独自の魅力を持った素晴らしいものばかりです。ぜひ手にとってみてください。