「ボカロ小説」とは、ボーカロイドの歌う楽曲の世界観を基にして描かれた小説作品です。ボーカロイドたちが登場キャラクターに扮し、様々な青春劇や恋愛ストーリーを紡ぎます。今回は数あるボカロ小説の中から、おすすめの5作品を紹介します。
Junkyが制作した鏡音リンのオリジナル楽曲の世界観から生まれた恋愛小説で、片想いなのに素直になれない少女が描かれています。双子と間違われるほどいつも一緒にいて、とても仲の良い幼馴染のリンとレン。ところがリンは、ある事件をきっかけにレンのことを避けるようになっていました。
やがて高校に進学したリンは、先輩のルカに誘われてレンと共に生徒会に入ることになります。2人を取り巻くメンバーたちは、とても個性的で優しい人たちでした。学園生活を送る中で、生徒会長のメイコや先輩のカイトとルカの助けもあって、リンとレンは次第に今までのような仲の良さを取り戻していきます。
- 著者
- ココロ直
- 出版日
- 2014-05-24
夏休みを目前に控えたある日、メイコは文化祭でライブをやろうと提案します。生徒会メンバーたちはさっそく練習を開始しました。そして、リンのレンに対する想いも、少しずつ動き出していくのです。
リンとレン、2人の異なる視点から描かれる物語は、好きなのになかなか一歩が踏み出せないリンが可愛く、曲の世界観が深く表現されています。文章は比較的あっさりとしているので、すらすらと読み進められるでしょう。素直になれないリンを思わず応援したくなってしまうかも知れません。
そんな甘酸っぱい関係のリンとレンですが、2人を見守る生徒会メンバーの姿も非常に微笑ましく感じます。
ニコニコ動画内「歌ってみた」のカテゴリで圧倒的な人気を誇るhalyosyが制作した楽曲を基にした小説です。「もし、ボーカロイドたちが学園生活をしていたら」という構想から生まれました。
「桜ノ雨」は現在では卒業式の定番ソングにもなっており、多くの中学校・高校で歌われています。本作は、ある高校の合唱部を舞台にした青春小説です。
初音ミクをはじめ、各ボーカロイドをモデルにしたキャラクターたちが登場、さながらオールスターといった雰囲気のある本作。音浜高校合唱部の1年を四季折々に描き、それぞれの季節ごとに視点となるキャラクターが交代していきます。彼らが合唱にかける思いを胸に抱き、卒業に向かっていく様子を綴る物語です。
- 著者
- halyosy
- 出版日
- 2012-02-21
春の主人公は鈴(リン)。彼女が音浜高校に入学し合唱部で活動、そして音楽祭に至るまでの物語です。夏では、合唱部の合宿の様子を描かれ、蓮(レン)の視点でストーリーが進行します。彼は鈴の幼馴染で、実は恋人でもあるのです。
そして秋とエピローグの主人公を務めるのは未来(ミク)。彼女は先輩のハルに想いを寄せており、彼から貰った第2ボタンをお守りにしています。それぞれの思いが交錯し、1年間の青春を彩っていきます。
「桜ノ雨」は、作中ではハルが作詞作曲を手がけた楽曲という設定。ハルは実際の楽曲制作者である森春義がモデルとされ、彼自身の「こうなりたい」という理想を詰め込んだオリジナルキャラクターです。
ボーカロイドを知らなくても楽しく読むことができ、恋愛と部活を中心に展開する物語はまさに青春そのもの。彼らの成長とやがて訪れる旅立ちの時は、爽やかな読後感を運んできます。ぜひ自分の青春時代を思い返しながら読んでほしい一冊です。
桜丘高校に通う主人公・夏樹は幼馴染の優に片想いをしていました。ある日勇気を出して告白することにしたのですが、どうしても素直になれず咄嗟に「予行練習」ということにしてしまいます。伝えられない気持ちをごまかしているうちに、同じ美術部の美桜やあかりたちとも想いがこじれ始め……。
また、同じく幼馴染の春輝と蒼太も様々な思いを抱えて日々を過ごしていました。
懸命に自分を探す少年少女の溢れるストーリーで、すれ違いながらも目標に向け進んでいく高校生たちが描かれる全力の青春物語です。本作は、honeyworksの代表作に「ヤキモチの答え」「初恋の絵本」という他の楽曲を交えて小説化がされています。honeyworksは「胸キュンロックの名手」といわれており、その名の通り、ほんのりと甘酸っぱい物語となっています。
- 著者
- 藤谷 燈子
- 出版日
- 2014-01-31
ティーンズ向けのレーベルから発行されていることもあり、文章もライトで非常に読みやすい内容になっています。冒頭のピンナップには漫画も掲載されており、それだけで十分世界感に入り込むことができるでしょう。
優に告白したものの、予行練習だと告げてしまった夏樹と、予行練習ならば本命がいるのでは、と気になって仕方がない優の気持ちのすれ違いがもどかしく、ハラハラドキドキしながら思わず見守りたくなってしまいます。
作中、優・春輝・蒼太の3人は映画製作に、夏樹とあかり・美桜の3人は美術コンクールに向けてそれぞれ努力しています。本番まではあと少し。彼らは、自分たちの目標に向かって歩を進めることができるのでしょうか。
少女漫画の王道的展開で、気軽に読み進めることができる作品です。ラストまでに何度も胸キュンすること間違いなし!
田舎に住む女子高生の田倉花音は、東京からきた転校生の青木創に一目惚れしてしまいます。しかし上手く話すことができず、いつも素っ気ない態度をとってしまう花音。
ところが創から夏祭りに誘われ、そこで2人はメールアドレスを交換します。それからは、メールを通じていろいろな話をするようになっていきます。
ある日創から届いた花音宛てのメールには「花音のこと、好きだよ」の文字が……。こうして急速に距離を縮めていく花音と創。
時は過ぎ、2人は揃って東京の大学に進学、ルームシェアを始め、とても幸せな日々を送っていました。
- 著者
- 木爾 チレン
- 出版日
- 2015-06-25
ところが、2人は忙しい日々の中でだんだんとすれ違い始めます。やがて創に留学の話が持ち上がりました。とうとう耐えられなくなった花音は、創に「もう、友達に戻ろ?」と最後のメールを送り……。
本作は2009年にDixie Flattineによって投稿された、ボーカロイド・巡音ルカのオリジナル楽曲を元にしています。原曲は大人っぽい雰囲気のR&Bナンバーで、後日譚となる「アンサー」という楽曲も発表されました。
本当はまだお互いを好きなのに、別れることを選択した花音と創。幸せだった2人のキラキラと輝く思い出の日々は、読者の目にもとても眩しく映ります。切ない恋愛ものが好きな人にもおすすめです。
自分には音楽しかない……そう思い込んで引きこもっていたバンドマンの悠。彼のファンでその楽曲を愛してくれる奏の存在によって悠は少しずつ変わっていきますが、そんな日常を奏から送られてきたメールが一瞬で壊してしまいます。自暴自棄になっていた悠のもとに、ジャックという不思議な少女が現れて……。
恋愛小説かと思っていたら、謎の少女の登場で一気に方向転換、物語はミステリーめいた展開を見せ始める本作。突如現れたジャックの正体とは?原曲の要素を巧みに取り込んで、独自の設定を織り交ぜながら厚みのあるストーリーに仕上がっています。
- 著者
- 164:原作 柄本 和昭:作 鳥越 タクミ:絵
- 出版日
- 2013-09-30
本作の原作となる楽曲は、2011年にニコニコ動画に投稿された164の作品です。内容は同氏の別の楽曲「青」とも繋がっており、それがストーリーに奥行きを与えているのです。作者はバンド経験者で、本作には付録としてオリジナル楽曲3曲を収録したCDも付属しています。
胸に襲ってくる不安、そしてそれに負けず自分を見直すこと。悠は自分の殻を破り、自分を支えてくれた奏のために成長できるのでしょうか。ラストには驚きの真相も用意されています。そして、少しホロリとしてしまうかも知れません。切ないけれど強さを感じさせる、そんな作品です。
ボカロ小説は比較的ライトで読みやすい作品が多く、男女とも幅広い年齢層に愛されています。ぜひ原曲を聞いて世界観に浸りながら読んでみてください。